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第十一章
474 かえりたいもんね〜
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慣れてきたとはいえ、少しいつもよりもコウルリーヤとして過ごす時間が長かったため、それでもコウヤは丸一日、幼児の姿で過ごすことになった。
「テントの解体終わりました!」
「テーブルと椅子の収納終わりました!」
様々な報告が、司令部として残されているテントへと寄越される。そのテントは、屋根だけあるもので、周りもよく見える。寧ろ、遠くからでも姿が見たいという要望に応えたものだ。
幸い、とても天気が良く、柔らかく気持ちの良いそよ風が吹いている。
そこには、小さくなったコウヤが書類の作成をしながら待機していた。書類が飛ばされないよう、外で作業するためにと用意されたケースや、ゼストラークやドラム組、ドワーフ達が今朝方作った様々な形のペーパーウェイトが並んでいる。
もちろん、小さくなったコウヤを一人で置いておくわけにはいかず、コウヤを囲むように、書類の整理をしながらニールとブランナ、ビジェが護衛を兼ねて働いていた。
報告を聞き、書類から顔を上げたコウヤは、笑顔で次の指示を出す。
「ありがとうございます。テントもつくえといすも、かくギルドのしてんにふりわけるので、馬車に……えっと……ニール」
「はい」
「そっちにしわけのわりふりをかいた……」
「こちらですね」
さすがは、宰相の補佐官にまでなった男だ。ニールは書類の束からそれを抜き出し、コウヤに差し出す。
コウヤは、小さな手で受け取って頷いた。
「うんっ。このとおりにわりふるので、くにごとにわけているばしゃへおねがいします!」
「「っ、分かりました!!」」
割り振り数の書かれた書類をコウヤから手渡され、感動気味にその書類を、報告に来た二人が一緒に受け取った。
そして、二人で書類を持ち合ったまま、ニコニコとご機嫌な様子のまま、馬車置き場へと向かって行った。
「あのひとたちも、なかよしだねえ」
そんな様子になることは多く、コウヤは少し不思議に思いながらも、微笑ましく見送る。
「いいことですね」
「とてもいいことです」
「いいこと」
ニールとブランナ、ビジェは、今のコウヤの影響だという余計な事は言わず、笑顔で同意しておく。
三人の関係も自然で良好だった。まるで、長年一緒に働いていたように息もぴったりだ。
そして、コウヤの仕事の邪魔をせず、今のコウヤの姿に過剰に反応もしない。これが、今回コウヤが三人を側に置く理由だった。
ベニ達や、ミラルファ達などは、コウヤをずっと抱っこして過ごす気でいた。それでは、仕事が進まないし、コウヤも落ち着かない。
コウヤも小さくなることは慣れたもので、仕事も問題なく出来るようになっている。よって、邪魔されずに仕事がしたかったのだ。
小さくなっても仕事中毒な所は変わらないコウヤだ。
離されたベニやミラルファ達はと言うと、輸送部で駆け回り、飛び回っていた。全ては、円滑に仕事を処理し、小さなコウヤに喜んでもらうため。
そして、何よりも、今日一日で全部終わらせるためだ。
そこに、アルキスが確認の書類を持って駆け込んでくる。
「確認頼む」
「はい。はやいですね。うん。このくにのはしゅっぱつで。つみこみしだいおねがいします!」
「おうっ」
この後、馬車をマンタに載せ、その国に運んで行くのだ。近い所は、空飛ぶ馬車に荷物入りのコンテナを連結して、神官達が運んでいく。
チェックした書類を返し、コウヤはニールがすかさず持ってきた確認の書類にチェックを入れる。
その様子を見ていたアルキスが、感心しながら小さく呟く。
「なんかもう……やっぱ、コウヤに国を任せたら良い気がしてきた……」
「ん?」
「いや。なんでもねえ。よしっ、積み込みだ!」
アルキスは元気に出て行った。それを見送ってから、コウヤはビジェに声をかける。
「ビジェ。これをほうそうぶにもっていって。ぼうけんしゃにれんらくをおねがいしてきて。そのくににいきたいひともいいからって」
「わかった」
しばらくして積み込みをしている国の冒険者へと放送がかかった。荷物と一緒に乗って行ってもらうのだ。そうすると、現地での荷物の運び出しも手伝ってくれることになっている。
そこから、次々と馬車の準備が整ったとの連絡が入る。少し待機してもらう必要も出てきた。
「このかんじだと、よていより、かなりはやくおわりそうだねえ」
「ミラルファ様やベニ様が指揮を取っておられますし、タリス様も居りますから、かなりスムーズに進んでいる様です」
「よかったっ。きょうはおうちにかえりたいもんね~」
数日とはいえ、内容の濃い遠征だった。お陰で、冒険者達も、拠点が懐かしいらしい。常宿で今日は休めると喜んでいた。
それに、映像の発信もあり、戻ればきっと英雄扱いだ。それも楽しみだろう。
迷宮化の原因ともなった精霊達へと会いに行く必要もあるが、今はエリスリリアが向かっており、彼らが落ち着いた頃を予定している。よって、今日はコウヤも帰る事ができるのだ。
コウヤもルンルンと鼻歌を歌いながら書類を処理していく。だが、ニールはそんなコウヤに申し訳なさそうに告げた。
「コウヤ様は本日より、王城での滞在となりますが……」
「へ? な、なんで?」
顔を上げ、首を傾げるコウヤ。小さな手指でペンを握る様は、お絵かきでもしているようで可愛らしい。
それにニヤけそうになるのを堪え、ニールは少し上体を屈めて続ける。
「お披露目の準備が滞っておりますので、侍従候補の者たちも待っておりますよ」
「……わすれてた……」
コウヤは、すっかりお披露目のことを忘れていたのだ。
神教国は、今は封印状態で、かつての神子達が見張っているし、お披露目は予定通り行われるらしい。
そうして、夕方には全ての撤収作業が完了し、星が見える頃には、空飛ぶ馬車に乗り、ミラルファやアルキス達と、王城へと向かったのだ。
何はともあれ、迷宮化の問題は、これをもって終了した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、来週20日になります。
よろしくお願いします◎
「テントの解体終わりました!」
「テーブルと椅子の収納終わりました!」
様々な報告が、司令部として残されているテントへと寄越される。そのテントは、屋根だけあるもので、周りもよく見える。寧ろ、遠くからでも姿が見たいという要望に応えたものだ。
幸い、とても天気が良く、柔らかく気持ちの良いそよ風が吹いている。
そこには、小さくなったコウヤが書類の作成をしながら待機していた。書類が飛ばされないよう、外で作業するためにと用意されたケースや、ゼストラークやドラム組、ドワーフ達が今朝方作った様々な形のペーパーウェイトが並んでいる。
もちろん、小さくなったコウヤを一人で置いておくわけにはいかず、コウヤを囲むように、書類の整理をしながらニールとブランナ、ビジェが護衛を兼ねて働いていた。
報告を聞き、書類から顔を上げたコウヤは、笑顔で次の指示を出す。
「ありがとうございます。テントもつくえといすも、かくギルドのしてんにふりわけるので、馬車に……えっと……ニール」
「はい」
「そっちにしわけのわりふりをかいた……」
「こちらですね」
さすがは、宰相の補佐官にまでなった男だ。ニールは書類の束からそれを抜き出し、コウヤに差し出す。
コウヤは、小さな手で受け取って頷いた。
「うんっ。このとおりにわりふるので、くにごとにわけているばしゃへおねがいします!」
「「っ、分かりました!!」」
割り振り数の書かれた書類をコウヤから手渡され、感動気味にその書類を、報告に来た二人が一緒に受け取った。
そして、二人で書類を持ち合ったまま、ニコニコとご機嫌な様子のまま、馬車置き場へと向かって行った。
「あのひとたちも、なかよしだねえ」
そんな様子になることは多く、コウヤは少し不思議に思いながらも、微笑ましく見送る。
「いいことですね」
「とてもいいことです」
「いいこと」
ニールとブランナ、ビジェは、今のコウヤの影響だという余計な事は言わず、笑顔で同意しておく。
三人の関係も自然で良好だった。まるで、長年一緒に働いていたように息もぴったりだ。
そして、コウヤの仕事の邪魔をせず、今のコウヤの姿に過剰に反応もしない。これが、今回コウヤが三人を側に置く理由だった。
ベニ達や、ミラルファ達などは、コウヤをずっと抱っこして過ごす気でいた。それでは、仕事が進まないし、コウヤも落ち着かない。
コウヤも小さくなることは慣れたもので、仕事も問題なく出来るようになっている。よって、邪魔されずに仕事がしたかったのだ。
小さくなっても仕事中毒な所は変わらないコウヤだ。
離されたベニやミラルファ達はと言うと、輸送部で駆け回り、飛び回っていた。全ては、円滑に仕事を処理し、小さなコウヤに喜んでもらうため。
そして、何よりも、今日一日で全部終わらせるためだ。
そこに、アルキスが確認の書類を持って駆け込んでくる。
「確認頼む」
「はい。はやいですね。うん。このくにのはしゅっぱつで。つみこみしだいおねがいします!」
「おうっ」
この後、馬車をマンタに載せ、その国に運んで行くのだ。近い所は、空飛ぶ馬車に荷物入りのコンテナを連結して、神官達が運んでいく。
チェックした書類を返し、コウヤはニールがすかさず持ってきた確認の書類にチェックを入れる。
その様子を見ていたアルキスが、感心しながら小さく呟く。
「なんかもう……やっぱ、コウヤに国を任せたら良い気がしてきた……」
「ん?」
「いや。なんでもねえ。よしっ、積み込みだ!」
アルキスは元気に出て行った。それを見送ってから、コウヤはビジェに声をかける。
「ビジェ。これをほうそうぶにもっていって。ぼうけんしゃにれんらくをおねがいしてきて。そのくににいきたいひともいいからって」
「わかった」
しばらくして積み込みをしている国の冒険者へと放送がかかった。荷物と一緒に乗って行ってもらうのだ。そうすると、現地での荷物の運び出しも手伝ってくれることになっている。
そこから、次々と馬車の準備が整ったとの連絡が入る。少し待機してもらう必要も出てきた。
「このかんじだと、よていより、かなりはやくおわりそうだねえ」
「ミラルファ様やベニ様が指揮を取っておられますし、タリス様も居りますから、かなりスムーズに進んでいる様です」
「よかったっ。きょうはおうちにかえりたいもんね~」
数日とはいえ、内容の濃い遠征だった。お陰で、冒険者達も、拠点が懐かしいらしい。常宿で今日は休めると喜んでいた。
それに、映像の発信もあり、戻ればきっと英雄扱いだ。それも楽しみだろう。
迷宮化の原因ともなった精霊達へと会いに行く必要もあるが、今はエリスリリアが向かっており、彼らが落ち着いた頃を予定している。よって、今日はコウヤも帰る事ができるのだ。
コウヤもルンルンと鼻歌を歌いながら書類を処理していく。だが、ニールはそんなコウヤに申し訳なさそうに告げた。
「コウヤ様は本日より、王城での滞在となりますが……」
「へ? な、なんで?」
顔を上げ、首を傾げるコウヤ。小さな手指でペンを握る様は、お絵かきでもしているようで可愛らしい。
それにニヤけそうになるのを堪え、ニールは少し上体を屈めて続ける。
「お披露目の準備が滞っておりますので、侍従候補の者たちも待っておりますよ」
「……わすれてた……」
コウヤは、すっかりお披露目のことを忘れていたのだ。
神教国は、今は封印状態で、かつての神子達が見張っているし、お披露目は予定通り行われるらしい。
そうして、夕方には全ての撤収作業が完了し、星が見える頃には、空飛ぶ馬車に乗り、ミラルファやアルキス達と、王城へと向かったのだ。
何はともあれ、迷宮化の問題は、これをもって終了した。
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読んでくださりありがとうございます◎
次回、来週20日になります。
よろしくお願いします◎
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