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第十一章
465 ……初心……
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コウヤの作り出した『暗視スキル習得コーナー』には、暗視スキルを持たない冒険者達が詰めかけた。
そこには、外壁に沿って長いトンネルが作られている。それはまるで、防災訓練の時の、煙の中を行く体験をするために作られた長いテントのよう。
テントの色は黒で、中が全く見えない。そして、距離が長い。八十メートルはあるだろう。これが、いつの間にか出来ていたのだ。
コウヤが集まって来た冒険者達に説明する。
「はいは~い。順番にお願いしますね。因みに、中では身体強化や魔法が使えません。レベルも抑えられるようになってます。何が出て来ても、何が起きても、進んでくださいね。あっ、目を閉じちゃダメですよ?」
この説明を聞いた時点で、冒険者達は、予想すべきだった。
「ついつい手が出たりすると思いますけど、害はないですから安心してください。反撃しちゃっても問題ないですけどねっ」
段々と不安になってくるのは、一割くらい。他は本当にスキルが取れるならとワクワク、ソワソワしているため、半分くらい聴こえていない。
「しっかり目を凝らしたら、壁に矢印書いてありますから。そっちに進んでください。とにかく進む! これだけです! では、行ってみましょう! 一人ずつ、ある程度間隔を空けますから、指示に従ってください」
そうして、一人ずつ、神官がタイミングを測り、入るように指示してくれる。
十人は入っただろうか。だが、一人も反対側から出てこないのを、そろそろ気にし始める者が出てくる。
「なあ、出口ってあそこだよな?」
「おお……」
「誰も出て来てないよな?」
「だな……」
ざわざわと話す声や、宴会場に残った者たちの声で聞こえなかったが、それは、入った者が中々出て来ないのを心配する者が出始めたため、少しばかり静かになったのがきっかけだった。
『っ、うわぁぁぁっ』
『きゃぁぁぁっ』
『来ないでっ』
『く、来るなぁぁぁぁっ』
くぐもった叫び声や悲鳴が微かに聴こえてきたのだ。
「「「「「……」」」」」
しんと静まり返る。
そして、ユースール組が呆れたように、何したんだとコウヤを見た。
コウヤ自身は、ゼストラークやリクトルス、いつの間にか現れたエリスリリアと共に食事中だった。
この視線に気付き、コウヤは一度テントの方を見る。
「うん?……うん」
順調だなと頷くコウヤに、グラムが苦笑する。
「いや、うんじゃなくて、コウヤ。中、どうなってんだ?」
「え? ああ、お化け屋敷みたいなものなんですけどね?」
「おばけ……? 屋敷?」
お化け屋敷と聞いてもピンと来ないだろう。そこここで、冒険者達が首を傾げる。
「ちょっとビックリするだけですよ。ユースールに今度作ろうかなって思ってるんですけど……子ども達でも楽しめますし、ついでに暗視スキルと気配察知スキル、探索スキルも取れそうです」
「……」
コウヤって、こういう子だよなと、ユースール組はもう笑うしかない。
『嫌だぁぁぁっ』
『助けてっ』
『ぎゃぁぁぁ!』
微かに聞こえる声は、必死だ。これを聞いて、グラムは質問を続ける。
「ビックリするだけにしては、かなり……大丈夫なのか……」
中に入っているのは、精鋭の選ばれた冒険者達なのだ。それが、聞いたこともないような悲鳴を上げている。心配にならないはずがない。
そろそろ、順番待ちしている冒険者達も、ワクワクは消えたようだ。今は、並んでしまったという少しの後悔と、不安のドキドキと逃げ腰のソワソワ感だけ。
「う~ん……多分? アレですよ。いつもならワンパンでどうにかなりそうなものでも、中では撃退出来ないくらい弱体化しますから。初心を思い出してると思います」
「……初心……」
「あ、グラムさん達も後でやってみてください。きっと楽しいですよ! 初心を忘れないって大事ですしね!」
「「「「「……初心……」」」」」
初心は確かに大事だと頷きたいが、テントから聞こえる悲鳴や叫び声を聞く限り、素直に頷きたくない。
本来ならば、軽く撃退できる何か。それを撃退出来なくて想定外のことに怯え、恐怖し、叫ぶ。初心を思い出すにしても、その体験は必要だろうかと内心、首を捻る冒険者達だ。
一方、コウヤは手を叩いて名案を思いついたと告げる。
「俺の計算だと、暗視スキルを持ってる人でも、熟練度上げられるはずなんです! 是非試してみてください!」
「……お、おう……」
「じゃあ、後でお願いしますね! 入る前に、熟練度の確認してください!」
「……ああ……」
「データは多い方がいいので、みなさんもお願いしますね!」
「「「「「……はい……」」」」」
結果的に見れば、きっと良いことだと、ユースール組は無理矢理納得する。
この後、暗視スキルを持っていなかった者たちは当然、完璧に全員暗視スキルを手に入れた。
そして、コウヤの予想通り、ユースール組は熟練度がしっかり上がったのだ。
「……いや、意外と……楽しかったかも」
「アレだ。初心って……やっぱ大事だわ……」
「これを子どもらに……いや、子どもらの方が好きかもしれんが……必死になって暗視スキル取った俺らの立場は……」
「言うな……悲しくなる……」
微妙に落ち込む者が多かったが、成功したことに、コウヤは大満足だった。
これにより、翌日以降の攻略に余裕が出来たのは間違いない。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
そこには、外壁に沿って長いトンネルが作られている。それはまるで、防災訓練の時の、煙の中を行く体験をするために作られた長いテントのよう。
テントの色は黒で、中が全く見えない。そして、距離が長い。八十メートルはあるだろう。これが、いつの間にか出来ていたのだ。
コウヤが集まって来た冒険者達に説明する。
「はいは~い。順番にお願いしますね。因みに、中では身体強化や魔法が使えません。レベルも抑えられるようになってます。何が出て来ても、何が起きても、進んでくださいね。あっ、目を閉じちゃダメですよ?」
この説明を聞いた時点で、冒険者達は、予想すべきだった。
「ついつい手が出たりすると思いますけど、害はないですから安心してください。反撃しちゃっても問題ないですけどねっ」
段々と不安になってくるのは、一割くらい。他は本当にスキルが取れるならとワクワク、ソワソワしているため、半分くらい聴こえていない。
「しっかり目を凝らしたら、壁に矢印書いてありますから。そっちに進んでください。とにかく進む! これだけです! では、行ってみましょう! 一人ずつ、ある程度間隔を空けますから、指示に従ってください」
そうして、一人ずつ、神官がタイミングを測り、入るように指示してくれる。
十人は入っただろうか。だが、一人も反対側から出てこないのを、そろそろ気にし始める者が出てくる。
「なあ、出口ってあそこだよな?」
「おお……」
「誰も出て来てないよな?」
「だな……」
ざわざわと話す声や、宴会場に残った者たちの声で聞こえなかったが、それは、入った者が中々出て来ないのを心配する者が出始めたため、少しばかり静かになったのがきっかけだった。
『っ、うわぁぁぁっ』
『きゃぁぁぁっ』
『来ないでっ』
『く、来るなぁぁぁぁっ』
くぐもった叫び声や悲鳴が微かに聴こえてきたのだ。
「「「「「……」」」」」
しんと静まり返る。
そして、ユースール組が呆れたように、何したんだとコウヤを見た。
コウヤ自身は、ゼストラークやリクトルス、いつの間にか現れたエリスリリアと共に食事中だった。
この視線に気付き、コウヤは一度テントの方を見る。
「うん?……うん」
順調だなと頷くコウヤに、グラムが苦笑する。
「いや、うんじゃなくて、コウヤ。中、どうなってんだ?」
「え? ああ、お化け屋敷みたいなものなんですけどね?」
「おばけ……? 屋敷?」
お化け屋敷と聞いてもピンと来ないだろう。そこここで、冒険者達が首を傾げる。
「ちょっとビックリするだけですよ。ユースールに今度作ろうかなって思ってるんですけど……子ども達でも楽しめますし、ついでに暗視スキルと気配察知スキル、探索スキルも取れそうです」
「……」
コウヤって、こういう子だよなと、ユースール組はもう笑うしかない。
『嫌だぁぁぁっ』
『助けてっ』
『ぎゃぁぁぁ!』
微かに聞こえる声は、必死だ。これを聞いて、グラムは質問を続ける。
「ビックリするだけにしては、かなり……大丈夫なのか……」
中に入っているのは、精鋭の選ばれた冒険者達なのだ。それが、聞いたこともないような悲鳴を上げている。心配にならないはずがない。
そろそろ、順番待ちしている冒険者達も、ワクワクは消えたようだ。今は、並んでしまったという少しの後悔と、不安のドキドキと逃げ腰のソワソワ感だけ。
「う~ん……多分? アレですよ。いつもならワンパンでどうにかなりそうなものでも、中では撃退出来ないくらい弱体化しますから。初心を思い出してると思います」
「……初心……」
「あ、グラムさん達も後でやってみてください。きっと楽しいですよ! 初心を忘れないって大事ですしね!」
「「「「「……初心……」」」」」
初心は確かに大事だと頷きたいが、テントから聞こえる悲鳴や叫び声を聞く限り、素直に頷きたくない。
本来ならば、軽く撃退できる何か。それを撃退出来なくて想定外のことに怯え、恐怖し、叫ぶ。初心を思い出すにしても、その体験は必要だろうかと内心、首を捻る冒険者達だ。
一方、コウヤは手を叩いて名案を思いついたと告げる。
「俺の計算だと、暗視スキルを持ってる人でも、熟練度上げられるはずなんです! 是非試してみてください!」
「……お、おう……」
「じゃあ、後でお願いしますね! 入る前に、熟練度の確認してください!」
「……ああ……」
「データは多い方がいいので、みなさんもお願いしますね!」
「「「「「……はい……」」」」」
結果的に見れば、きっと良いことだと、ユースール組は無理矢理納得する。
この後、暗視スキルを持っていなかった者たちは当然、完璧に全員暗視スキルを手に入れた。
そして、コウヤの予想通り、ユースール組は熟練度がしっかり上がったのだ。
「……いや、意外と……楽しかったかも」
「アレだ。初心って……やっぱ大事だわ……」
「これを子どもらに……いや、子どもらの方が好きかもしれんが……必死になって暗視スキル取った俺らの立場は……」
「言うな……悲しくなる……」
微妙に落ち込む者が多かったが、成功したことに、コウヤは大満足だった。
これにより、翌日以降の攻略に余裕が出来たのは間違いない。
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