元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
343 / 475
第十一章

448 釣ってきて

しおりを挟む
ニール達は、ワイバーンとの戦い方を急速に理解し、慣れていく。それを確認したコウヤは、残りのワイバーンの数を調べる。

「ん~、うんっ、後二十三匹! けど……隠れてるのが多いな……」

目視で確認できる、渓谷の上を飛ぶのは十数匹。半分ほどだ。

他は、崖に作られる巣に居るのだろう。

「う~ん……」

こうして悩む間にも、渓谷に近付いて行くことで、コウヤ達の存在に気付いて飛んでくるワイバーンを討伐していた。

本来ならば、その遺骸が残るので、少し足を止める必要があったりするが、迷宮の魔獣はその必要がない。

首を刈ったと同時に、残りの体と刈り取られた頭が、ガラスが砕けるようにパリンと崩れ割れ、氷が一気に蒸発するように、跡形もなく消える。

次の瞬間にコロンと転がるのが、ドロップ品。

『香石』のようだ。『香しの石』とも呼ばれる。名の通り、香りを楽しむための石だ。小さく砕いて火を付けると匂いが発生するのだ。それを特別な容器に閉じ込めて使う。

種類によってその香りは特殊な効果を持ち、ただ、リラックスするものから、催淫効果のあるものまで様々だ。

拾いながら、コウヤはついついそれを鑑定して効果の確認をしてしまう。

「うわ~、これ精力強化の効果があるやつだ」

それを聞きつけたニール達が動きを止めた。

「こ、コウヤ様……これは……ただの石か木の実では……」
「ど、どうゆう……」
「……せいりょく……」

立ち止まったことで、ワイバーン達の強襲も止まる。こういう所は機械的にさえ感じるなと、コウヤは呑気に考える。

「ん? 迷宮だもん。ドロップ品がただの石ってことはないよ。まあ、俺も最初は石かなと思ったんだけどね。こんなに毎回出るようなものじゃないし」

ドロップ品としても、一匹討伐につき一つ出るようなものではなかった。

「これは香りの『香しの石』みたい。すっごく高値で売れるよ!」
「「「……」」」

ニール達は、鉱石が出てきたと思っていたようだ。専門家でなければ、どんな鉱物なのか分かるものでもないだろう。このままでは匂いも特にしないので仕方がない。見た目はツルリとした石だ。

「天然の香しの石はねえ、木のコブみたいな所から出てきたり、海で拾えたり……あとはワイバーンやドラゴンの中から出てきたりするんだ」
「……なぜワイバーンの中から……」
「結石だからね」
「……けっせき……」
「そっか、結石が分からないよね。まあ、終わったら説明するよ」

医学的な知識は一般には広がらない。よって、結石というのも、一部の薬師が知っているだけのものだ。

香石の正体も、知られてはいない。だから、冒険者達も当然知らず、香石はたまたま解体に持ち込まれた時に手に入るからどうかということになり、とても希少なものという扱いになっているのだ。

全部の個体が持っているものでもないから余計だろう。

ワイバーンの肉は不味いので、革や牙など、表に出ている部分で取る素材しか使わない。よって、解体しようとする者自体が少ないのだ。

「それよりもほら、かなり数も減ったからさあ、全部こっちに呼んでもいいかな」

調べてみれば、数は十六に減っていた。これくらいならば、慣れてきたニール達とで一気に片付けられそうだ。

ニール達もそう判断した。

「残りを全て一気にということですか?」
「慣れてきましたし、遺体も残りませんから、問題ないかと」
「大丈夫です」

自信もありそうだ。ならばと、コウヤは腰のポーチを開けた。

「【なないろ】出てきて」
《ひよっ》

七つの羽ペンゴーレムが飛び出す。そして、コウヤの上空で円を描いて並び、ひよひよと鳴きながら回転する。

「あの渓谷からワイバーンを釣ってきて」
《ひよっ!》

ひよひよと鳴きながら、【なないろ】は一直線に並んで渓谷へと向かって飛んで行った。

すぐに、渓谷の所で様々な魔法が吹き荒れた。

「「「……」」」
「あっ。何匹か倒しちゃったかも」
「「「……」」」

あの小ささでも、攻撃力は高かったと、コウヤは今更ながらに思い出した。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。