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第十一章
438 どっちがいいですか?
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コウヤがプレゼントされて胸を撫で下ろしていた毒薬の本を、ユキとジンクが何の感情も映さない目で見つめる。複雑な心境らしい。
後から来た九尾の姿のままのテンキがこれはと目を向けるが、ジンク達の表情を見て、コウヤが何かやらかしたことだけは察し、ため息を吐いて見せる。
しかし、何も言うことなく静かにこの診療所とも呼べない小屋の前に寝転んで、その場で落ち着いた。エルフ達はもう近付くことも出来ないが、邪魔者を入れないようにするためだ。
小屋の中からは、コウヤが患者達に薬を飲ませようと励ます声がする。
「大丈夫。以前のように動けるようになりますよ。身体の中に溜まった毒をまず抜きましょう。魔力中毒を治すには、体力が必要ですから」
「や、やめろっ……人族っ、人族が作ったものなんて飲めるかっ」
意外にも元気に手を振り払おうとしてきた。コウヤは軽く避ける。
ジンクはこれに黙っていられなかったようだ。コウヤと同じ感想を持ったらしい。
「お前ら、意外と元気じゃねえか。そんなら、もう何日か放っておいても良さそうだな」
そして、ユキも黙っていない。先ほど暴れ回ったというのに、また爆発しそうだ。
「そうですね……もう何日かすれば、意識もなくなるでしょうし。そのあとでも十分でしょう」
「あ~、うん。この人が一番最初にダメになりそうだよね。どうしよう。結構深刻なんだけど。そろそろ痛みも出てくる頃だよね?」
コウヤは、一番状態が深刻な者から治療しようと思って手を出している。この悪態をつく男が一番危なかった。だが、自覚症状がないようだ。
「痛みなんてねっ……っ!」
身体を起こそうとした彼は、急激に走った身体の痛みに声を詰まらせた。
予想はしていたのだ。
「あそこにある薬……やっぱり痛み止めだよね」
「はい。その……どうも種族的に痛みに弱いのが多くて。それで、痛み止めだけは常備されてるんですよ」
「誤魔化しちゃったんですね」
痛みは薬で誤魔化しても、息苦しさや倦怠感はある。だが、調子が悪いというのは自覚できているが、痛みが感じられないので、それほど深刻に捉えられなかったのだろう。
「痛み止めは、簡単に作れるんで……材料も里で育てられる薬草でしたし」
「分かりますけどね……誤魔化しちゃいけない痛みとかありますよ?」
「はい……」
「く、薬っ、薬をっ……」
「薬漬けになってますね……」
薬物中毒にもなっていそうだった。
「痛み止めで誤魔化しても仕方ないですよ。さっさと飲んでください。じゃないと、その痛みを元から断てないでしょう」
「っ、う、うるっ……」
「この反応の仕方……子どもかな? 子どもですね。そう思うことにします」
薬を嫌う子どもと一緒という認識にした。なので、これに切り替える。
「飲まないなら、注射か……坐薬にしましょうか」
「……?」
何をする気だと、その目はキツく射抜くようにコウヤを見る。注射や坐薬と言っても、彼らは知らないだろう。その治療法はこの世界にはない。
なので、親切に丁寧に他の患者達にも分かるように説明してあげた。
「これ、薬を飲むより即効性があるんですよ。血管に直接針を刺して薬を投与する方法と、こちらのカプセル状の薬を直腸から吸収するようにお尻から入れるんですけど、どっちがいいですか?」
右手に注射。左手に坐薬を持って、怖がられないように笑顔で選択を迫る。
これに、全員が息も絶え絶えに答えた。
「「「「「薬を飲ませてください!」」」」」
「え? どっちかって言ってるんですけど……」
せっかく用意したのにと、コウヤは残念そうに肩を落とす。表情はとても悲しげだ。胸が締め付けられるほどに。
この効果は抜群だ。特に女性やコウヤの身内には。
「そうですよね? それに、あなたはもうギリギリじゃないですか。注射というのは、難しそうですし、こちらが良さそうですね♪」
「そうだよねえ。これなら別に、薬の不味さも感じないし、こっちがいいよね?」
「まっ、待っ……待ってっ」
坐薬をコウヤから受け取ったユキが近付けば、男はフルフルと震えて完全に泣いていた。
あまりにも可哀想なので、コウヤは良いことを教えてあげた。
「この坐薬なら、魔力中毒を抑える薬も配合できるので、早く良くなりますよ! 一回の投薬で良いんです! お得でしょう?」
「っ…………」
キラキラと、良いよねと同意をせがむコウヤ。純粋な目を見て、男は声を失くした。
一方、ジンクとユキはそれは良いと感心する。そして、手を洗い、腕まくりもした。
「いいねえ。なら、全員分出してよ。俺らでやろう。男は俺が」
「ええ。手間も少なくて済みますね。もちろん女性は私が」
「えっと……じゃあ、全員分の坐薬をすぐに用意しますね。あと、結界のカーテンで個別に囲います」
「「親切だね」」
「「「「「……………」」」」」
放心状態になった彼らは、ジンクとユキに素早く投薬され、あっという間に健康体になった。
しかし、しばらくは放心状態のまま、回復することはなかった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
後から来た九尾の姿のままのテンキがこれはと目を向けるが、ジンク達の表情を見て、コウヤが何かやらかしたことだけは察し、ため息を吐いて見せる。
しかし、何も言うことなく静かにこの診療所とも呼べない小屋の前に寝転んで、その場で落ち着いた。エルフ達はもう近付くことも出来ないが、邪魔者を入れないようにするためだ。
小屋の中からは、コウヤが患者達に薬を飲ませようと励ます声がする。
「大丈夫。以前のように動けるようになりますよ。身体の中に溜まった毒をまず抜きましょう。魔力中毒を治すには、体力が必要ですから」
「や、やめろっ……人族っ、人族が作ったものなんて飲めるかっ」
意外にも元気に手を振り払おうとしてきた。コウヤは軽く避ける。
ジンクはこれに黙っていられなかったようだ。コウヤと同じ感想を持ったらしい。
「お前ら、意外と元気じゃねえか。そんなら、もう何日か放っておいても良さそうだな」
そして、ユキも黙っていない。先ほど暴れ回ったというのに、また爆発しそうだ。
「そうですね……もう何日かすれば、意識もなくなるでしょうし。そのあとでも十分でしょう」
「あ~、うん。この人が一番最初にダメになりそうだよね。どうしよう。結構深刻なんだけど。そろそろ痛みも出てくる頃だよね?」
コウヤは、一番状態が深刻な者から治療しようと思って手を出している。この悪態をつく男が一番危なかった。だが、自覚症状がないようだ。
「痛みなんてねっ……っ!」
身体を起こそうとした彼は、急激に走った身体の痛みに声を詰まらせた。
予想はしていたのだ。
「あそこにある薬……やっぱり痛み止めだよね」
「はい。その……どうも種族的に痛みに弱いのが多くて。それで、痛み止めだけは常備されてるんですよ」
「誤魔化しちゃったんですね」
痛みは薬で誤魔化しても、息苦しさや倦怠感はある。だが、調子が悪いというのは自覚できているが、痛みが感じられないので、それほど深刻に捉えられなかったのだろう。
「痛み止めは、簡単に作れるんで……材料も里で育てられる薬草でしたし」
「分かりますけどね……誤魔化しちゃいけない痛みとかありますよ?」
「はい……」
「く、薬っ、薬をっ……」
「薬漬けになってますね……」
薬物中毒にもなっていそうだった。
「痛み止めで誤魔化しても仕方ないですよ。さっさと飲んでください。じゃないと、その痛みを元から断てないでしょう」
「っ、う、うるっ……」
「この反応の仕方……子どもかな? 子どもですね。そう思うことにします」
薬を嫌う子どもと一緒という認識にした。なので、これに切り替える。
「飲まないなら、注射か……坐薬にしましょうか」
「……?」
何をする気だと、その目はキツく射抜くようにコウヤを見る。注射や坐薬と言っても、彼らは知らないだろう。その治療法はこの世界にはない。
なので、親切に丁寧に他の患者達にも分かるように説明してあげた。
「これ、薬を飲むより即効性があるんですよ。血管に直接針を刺して薬を投与する方法と、こちらのカプセル状の薬を直腸から吸収するようにお尻から入れるんですけど、どっちがいいですか?」
右手に注射。左手に坐薬を持って、怖がられないように笑顔で選択を迫る。
これに、全員が息も絶え絶えに答えた。
「「「「「薬を飲ませてください!」」」」」
「え? どっちかって言ってるんですけど……」
せっかく用意したのにと、コウヤは残念そうに肩を落とす。表情はとても悲しげだ。胸が締め付けられるほどに。
この効果は抜群だ。特に女性やコウヤの身内には。
「そうですよね? それに、あなたはもうギリギリじゃないですか。注射というのは、難しそうですし、こちらが良さそうですね♪」
「そうだよねえ。これなら別に、薬の不味さも感じないし、こっちがいいよね?」
「まっ、待っ……待ってっ」
坐薬をコウヤから受け取ったユキが近付けば、男はフルフルと震えて完全に泣いていた。
あまりにも可哀想なので、コウヤは良いことを教えてあげた。
「この坐薬なら、魔力中毒を抑える薬も配合できるので、早く良くなりますよ! 一回の投薬で良いんです! お得でしょう?」
「っ…………」
キラキラと、良いよねと同意をせがむコウヤ。純粋な目を見て、男は声を失くした。
一方、ジンクとユキはそれは良いと感心する。そして、手を洗い、腕まくりもした。
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「えっと……じゃあ、全員分の坐薬をすぐに用意しますね。あと、結界のカーテンで個別に囲います」
「「親切だね」」
「「「「「……………」」」」」
放心状態になった彼らは、ジンクとユキに素早く投薬され、あっという間に健康体になった。
しかし、しばらくは放心状態のまま、回復することはなかった。
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