元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十一章

432 おかしな術

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ジンクがこの里の代表となっているおばばと呼ばれる者と知り合いだというのは知っていた。

「ユキは可愛いおばあちゃんになったねえ」
「っ、本当ですか? 偏屈で嫌味なおばあちゃんの顔になってません?」
「いやいや、昔と変わらず可愛いよ」
「っ、あ、ありがとうございますっ」
「……」

コウヤは空気を読める子だ。

見た目はおばばと呼ばれるユキが六十頃、ジンクの方が若く見えるだろう。だが、ユキは恋する乙女にしか見えないし、ジンクの方が大人に見える。

ユキとしては、二度と会えないと思っていた人。この瞬間が嬉しくないはずがない。

《ジンクはどこか残念な姿しか知らなかったのですが、意外とやりますね》
「ばばさまとは、こうはいかないからね……ジンクおじさんの方がばばさま達より年上だけど、どうしても振り回されちゃうし」

ジンクは最古の神子だ。加護も強い。けれど、どうしてもベニ達の方が威厳もある。これも、育った環境の違いだろうか。

ベニの前では、惚れた弱みというのもあるかもしれない。

そんな話をコソコソとコウヤとテンキはユキとジンクの後を追いながらしていれば、奥の里の門が見えた。

「ん? 門番が居ないね?」
《開け放しが常なのでしょうか?》

門が開いていた。

しかし、ユキはこれを聞いて否定する。

「いいえ。いつもは確かに閉めています。寧ろ、全開にすることなど、数百年なかったこと……あ……」
「あ……」

近付いたことでその理由に気付いた。ジンクが思わず笑う。

「あははっ。数百年も開けなかったから、開けたら壊れたんだねっ」
「……戦士達が出て行った時でしょうか……」
「じゃない? カッコよく出陣!ってやった後に、閉まらなくなったと見たっ」
「……なんて間抜けな……っ」

ユキは、同胞の失態に心底呆れていた。

威張り散らし、エルフ族こそ欠点のない最高の種族だと声高に自慢していた者たちが、門が閉まらなくなって慌てる情景を想像して、三人は笑った。

「「「ぷふっ」」」
「し、閉まらないって焦ったでしょうねっ。くふふっ。ジジイ共め、ざまあっ」
「あははっ。いやあ、見たかったなあ。それで、外からの侵入を怖がって、更に奥の方に? わっかりやす~」
「これで、更にリクト兄に『失望宣言』受けてるってことは……立ち直れなくなっても仕方ないですねえ」
《打たれ弱そうですからね》
「「「だよね~」」」

言ってしまえば、世間に揉まれていない純粋な人たち。厳格に里長は決められているし、何より、継承による揉め事は、子どもがほとんど生まれないためにまず起きない。権力争いがないから、陰湿な争いもない。

ルール、掟には従うのが当然で、少しでも反抗すれば、外の里へ連れて行かれるし、嫌なら里を抜け出す。

「そういえば、戦士の方って、どういった扱いなんです? 神教国に行っていた方々が、里には戻れないと言っているんですけど」

獣人やドワーフ族の者たちは、タリスたちの説得もあり、大人しく撤退した。

「神教国の方で結界も張っていましたし、こちらでも結界を張って閉じ込めてしまったので、手が出せないと諦めてはくれたんですが……」

ベニ達の指示により、神教国の首都は民間人の救出は済んだとして、内側からも外側からも手が出せないように結界を張って、神教国の幹部達を閉じ込めたのだ。

よって、エルフの戦士達も、手を出せなくなり、撤退するしかなくなった。だが、それでも彼らは里に戻ろうとしなかった。

そんな中、彼らは全員、強化の術をかけていたのだろう。一気に弱体化し、動けなくなったのだ。

「戦士の方たち、何かおかしな術がかかってますよね?」

死にはしないとのゼストラークの判断により、コウヤもこれの確認は行っていない。迷宮化の対応の方が優先だ。彼らは今、冒険者ギルドの用意した野営地で大人しくしている。

彼らのことは、師匠を裏切った者たちも含め、サニール達が面倒を見てくれていた。根性を叩き直すと言って良い笑顔を見せていたので、手を出すつもりはない。お任せしておいた。

誰も居ない門を通過しながら、ユキが苦笑する。

「戦士とは言っていますが、アレらは死刑囚のようなものです。里に戻ることは許されず、里の名誉の為に死ぬ者たち……強化と吸収の呪いをかけられた哀れな者たちです」
「強化は分かりますけど、吸収?」
「そうです。殺めた者の魔力を吸収することができます」
「「は?」」

ジンクも初耳だと、コウヤと共に声を揃えた。

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三日空きます。
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