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第十一章
430 飛び出して良かった
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殴り倒して気絶した門番を端に除け、ナチに案内されながら里の中を歩いて行く。
「はあ……申し訳ありませんでした。ご到着する時には眠らせておくつもりだったのですが」
「こっちこそ、連絡すればよかったですね。他の方々は上手く?」
「問題なく」
それは良かったと計画通りいっている様子に喜びながらも、コウヤは周りを見回して確認していた。門から入ってしばらくは、農耕地が広がっている。だが、そこに人の姿はない。見張りもいないようだった。
「見張りがもっと沢山居ると聞いていましたけど、予定通り排除できたようですね」
エルフの里の位置を知ってからすぐ、この里の者たちだけでも動けるようになってもらおうと、ジェットイーグルに薬を届けてもらった。
迷宮化の出発点は、この里を越えて更にフィールドを十越えた場所と推定されている。だが、この先からは一つのフィールドがかなり広い。攻略にも時間がかかる。
よって、この里を安全地帯として確保しようと考えていた。そのための一手が寝込んでいる者たちも動けるようにすることだった。
「はい。ジェットイーグル達によって薬を運んでもらってから二日後には、門番を残して、上手く排除したようです。あの門番達、交代要員も居なくなって、そろそろ倒れる限界でした。いい夢が見えていると思います」
「なるほど……」
振り返って見ると、確かに殴られた所は痛そうではあるが、幸せそうにも見えた。痛みに快楽を覚える変態ではないと思いたい。見た目が良い分、余計に不安だ。
この里の者たちが裏切らないように、きちんと働くようにと多くの見張りが配置されていたらしい。それを、薬で眠らせたり毒を盛ったりして、排除していったようだ。
「ここで育つ作物に迷宮化の影響で毒素が入り出してから、見張りの者たちは少し弱っていたらしいので、排除は簡単だったそうです」
迷宮化した土地にある作物、植物は毒素を含むようになるというのは、調査済みだった。
「もしかして……見張りの人たちは、毒に気付いていなかった?」
「いくらここに居る者たちが裏切り者だと言っても、実力行使した者はいません。身内が外へ出て行った者と、少々正論でやり込めて里の者を困らせたり恥をかかせた者しかいないのです。まさか、毒を盛るとは思わなかったのでしょう」
ナチは冷めた様子で淡々と説明した。これに、本来の大きさではなく、馬よりひと回りほど小さい大きさになった九尾姿のテンキが口を開く。
因みに、門を通れたなら脅しの意味も込めて本来の小さな小屋ほどの大きさになろうとしたのだが、思いの外平和だったため、大きさも小さめに落ち着いたのだ。
《裏切り者として扱っているのに、同類という見方は変えていなかったようですね》
「ふふっ、はい。甘いですよね」
《長く外敵もなく暮らしていたようですし、甘いのは仕方ありませんね。そのおかげで、今回やりやすかったのですし、良かったと見るべきでしょう》
「ええ。楽ができました。奥の里への定期報告さえしていなかったようですから」
ナチは口元に手をやり、軽やかに笑う。
「それ、見張りの意味ないよね?」
「そうなんですっ。これを知っていれば、全員で早々に里を捨てて出て行けていたのですが」
見張り達には楽な仕事だっただろう。
「里の中で争うのも、土地を血で穢すことを嫌うため、ほとんどしません。冷静に考えてみれば、この里は口煩いのが多い奥の里に比べたら、相当平和で良い場所だったようです」
彼らは外ではかなり血生臭いこともするが、里で処刑したりは絶対にしなかった。殺しもご法度らしい。
「離れてみて気付くって……本当なんですね」
「それだけ、世界を知ったってことだよ」
「はい……ふふっ、飛び出して良かった」
外に出てみなければ分からないことは多いだろう。エルフはただでさえ長命なのだ。ただなんとなく生きていたら、そのまま変化もなく続いてしまう。
「でも、こんなことがなければ、戻ろうとも思えませんでした。変われない里の者達を少しバカにもしていたんです……きっと、他の外に出た者たちも、そうだったんでしょう……」
自分は飛び出せた。里から刺客が来るかもしれないが、自分は変われた。それが何よりも誇らしくて、里に閉じこもっている者たちをバカにしていたのだ。
「だからっ、コウヤ様にも感謝していますっ。今回のような機会を与えてくださったこと……同胞の目を覚まさせる役割を私たちにくださったことを」
ナチは私たちと言った。
そう。今この里では、里を抜け出して冒険者として生きてきたエルフの者たちが密かに里入りし、忙しなく走り回っていたのだ。
そして、その指揮をするのが現冒険者ギルドのグランドマスター、シーレスだった。
「さあ、作戦会議を始めましょう。神をも失望させた者たちを粛清し、里をあるべき姿にします。我々の里を取り戻しますよ!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
奥の里へと攻め入る準備と覚悟はできていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
「はあ……申し訳ありませんでした。ご到着する時には眠らせておくつもりだったのですが」
「こっちこそ、連絡すればよかったですね。他の方々は上手く?」
「問題なく」
それは良かったと計画通りいっている様子に喜びながらも、コウヤは周りを見回して確認していた。門から入ってしばらくは、農耕地が広がっている。だが、そこに人の姿はない。見張りもいないようだった。
「見張りがもっと沢山居ると聞いていましたけど、予定通り排除できたようですね」
エルフの里の位置を知ってからすぐ、この里の者たちだけでも動けるようになってもらおうと、ジェットイーグルに薬を届けてもらった。
迷宮化の出発点は、この里を越えて更にフィールドを十越えた場所と推定されている。だが、この先からは一つのフィールドがかなり広い。攻略にも時間がかかる。
よって、この里を安全地帯として確保しようと考えていた。そのための一手が寝込んでいる者たちも動けるようにすることだった。
「はい。ジェットイーグル達によって薬を運んでもらってから二日後には、門番を残して、上手く排除したようです。あの門番達、交代要員も居なくなって、そろそろ倒れる限界でした。いい夢が見えていると思います」
「なるほど……」
振り返って見ると、確かに殴られた所は痛そうではあるが、幸せそうにも見えた。痛みに快楽を覚える変態ではないと思いたい。見た目が良い分、余計に不安だ。
この里の者たちが裏切らないように、きちんと働くようにと多くの見張りが配置されていたらしい。それを、薬で眠らせたり毒を盛ったりして、排除していったようだ。
「ここで育つ作物に迷宮化の影響で毒素が入り出してから、見張りの者たちは少し弱っていたらしいので、排除は簡単だったそうです」
迷宮化した土地にある作物、植物は毒素を含むようになるというのは、調査済みだった。
「もしかして……見張りの人たちは、毒に気付いていなかった?」
「いくらここに居る者たちが裏切り者だと言っても、実力行使した者はいません。身内が外へ出て行った者と、少々正論でやり込めて里の者を困らせたり恥をかかせた者しかいないのです。まさか、毒を盛るとは思わなかったのでしょう」
ナチは冷めた様子で淡々と説明した。これに、本来の大きさではなく、馬よりひと回りほど小さい大きさになった九尾姿のテンキが口を開く。
因みに、門を通れたなら脅しの意味も込めて本来の小さな小屋ほどの大きさになろうとしたのだが、思いの外平和だったため、大きさも小さめに落ち着いたのだ。
《裏切り者として扱っているのに、同類という見方は変えていなかったようですね》
「ふふっ、はい。甘いですよね」
《長く外敵もなく暮らしていたようですし、甘いのは仕方ありませんね。そのおかげで、今回やりやすかったのですし、良かったと見るべきでしょう》
「ええ。楽ができました。奥の里への定期報告さえしていなかったようですから」
ナチは口元に手をやり、軽やかに笑う。
「それ、見張りの意味ないよね?」
「そうなんですっ。これを知っていれば、全員で早々に里を捨てて出て行けていたのですが」
見張り達には楽な仕事だっただろう。
「里の中で争うのも、土地を血で穢すことを嫌うため、ほとんどしません。冷静に考えてみれば、この里は口煩いのが多い奥の里に比べたら、相当平和で良い場所だったようです」
彼らは外ではかなり血生臭いこともするが、里で処刑したりは絶対にしなかった。殺しもご法度らしい。
「離れてみて気付くって……本当なんですね」
「それだけ、世界を知ったってことだよ」
「はい……ふふっ、飛び出して良かった」
外に出てみなければ分からないことは多いだろう。エルフはただでさえ長命なのだ。ただなんとなく生きていたら、そのまま変化もなく続いてしまう。
「でも、こんなことがなければ、戻ろうとも思えませんでした。変われない里の者達を少しバカにもしていたんです……きっと、他の外に出た者たちも、そうだったんでしょう……」
自分は飛び出せた。里から刺客が来るかもしれないが、自分は変われた。それが何よりも誇らしくて、里に閉じこもっている者たちをバカにしていたのだ。
「だからっ、コウヤ様にも感謝していますっ。今回のような機会を与えてくださったこと……同胞の目を覚まさせる役割を私たちにくださったことを」
ナチは私たちと言った。
そう。今この里では、里を抜け出して冒険者として生きてきたエルフの者たちが密かに里入りし、忙しなく走り回っていたのだ。
そして、その指揮をするのが現冒険者ギルドのグランドマスター、シーレスだった。
「さあ、作戦会議を始めましょう。神をも失望させた者たちを粛清し、里をあるべき姿にします。我々の里を取り戻しますよ!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
奥の里へと攻め入る準備と覚悟はできていた。
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