元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
表紙へ
上 下
49 / 475
4巻

4-1

しおりを挟む



 特筆とくひつ事項① タマゴを温めることになりました。


 大陸の北にある国トルヴァラン。この国の王は、難しい病に長くおかされていた。それを治療ちりょうする薬を得るため、第一王子は宮廷薬師きゅうていくすし達を連れて、国の最も北に位置する辺境伯へんきょうはくの治める町、ユースールへと向かった。
 ここで薬師達は治療に必要となる技術と多くの知識を得て、同じくこの地で多くを学んだ王子と騎士達と共に王都へと戻っていった。
 それから数日後、ユースールの薬屋で、一人の少年が薬屋の主と話をしていた。

「ゲンさん。手紙にはなんて?」
「ああ。無事あっちでも薬が出来たとよ。順調らしい」

 王都から冒険者ギルド経由で送られてきた薬師達の手紙。それを彼らの師匠ししょうであり、このユースール一の薬師でもあるゲンへと手渡したのは、この少年――ギルド職員のコウヤだった。
 コウヤはゲンの返事を聞いて顔をほころばせる。

「よかったっ。じゃあ、明日にでもテルザさんを送っていかないとね」
「まあ、そうだな。そんなこと言ったら、あのじいさんは泣きそうだが」
「なんか、たった数日なのに馴染なじんじゃったもんね。子ども達も寂しがるかな」
「あの頑固がんこなじじいがね……まったく、司教しきょう様達にはかなわんな」
「ふふっ。自慢じまんのばばさま達だからね」

 コウヤは晴れやかに笑いながらゲンの薬屋を出ると、教会へと向かった。
 紫がかった銀の髪に、一瞬少女かと思うほど可愛らしい顔つき。生き生きと輝く宝石のような紫の瞳のこの少年は、かつて邪神じゃしんとして討たれたこの世界の神の一柱――魔工神まこうしんコウルリーヤの生まれ変わりだ。地球に一度転生した後、再び生まれ変わり、この世界に帰ってきた。今世こんせいでは、冒険者ギルドの職員としてこのユースールで働いている。
 教会に向かうと、その入り口の前で一人の少年に出会う。コウヤが来るのを待っていたようだ。

「こんにちは。ルー君。もしかして、待っててくれたの?」

 コウヤに真っ直ぐに見つめられ、照れたように頬を赤らめて目をらす十歳頃の見た目の彼は、名をルディエという。
 このユースールで立ち上げられた、コウルリーヤを含めた四柱の神を信仰しんこうする『聖魔教せいまきょう』の神子みこだ。実年齢は三百を下らない。けれど、見た目通りの少し素直になれない少年だった。
 ルディエはコウヤから目を逸らしたまま言う。

「っ、べ、別にっ、そのっ……手紙来てるって聞いたから……っ」
「そっか。なら、一緒に説明に行く?」
「行く……」

 彼は長年、この大陸で勢力を伸ばしている宗教国家しゅうきょうこっか神教国しんきょうこく神官しんかん達をひそかにほうむってきた『神官殺し』だ。その仲間達も含めて、情報収集能力は高い。今回も、何の手紙が来たのか知っていた。
 コウヤとルディエが並んで向かうのは、教会に併設へいせつされた孤児院こじいん。入り口には守衛しゅえいとして、引退兵のお爺さん達がひかえている。ずっと門番をしていたベテランを雇用こようしたため、誰が中に入ったかもしっかりチェックしてくれる。頼もし過ぎる守衛だ。
 孤児院の設計はコウヤがほとんどしており、保育園と小学校が合わさったような造りだ。子どもの年齢によって部屋が分けられ、七歳よりも下の子達は一階に集まっている。職員室はその隣だ。

「こんにちは~」
「おや、コウヤとルディか。どうしたんだい」
「セイばあさまも来てたんだね。今日は、テルザさんの帰る日を伝えようと思って」

 部屋には、職員である神官達数人と宮廷薬師長のテルザ・ワイズ、それと教会の司祭のセイがいた。この孤児院では神官服とは色の違う緑の服が支給されており、テルザやセイもその色の服を着ている。
 帰ると言われたからか、テルザは落ち込んだ様子を見せた。彼はついこの間まで、宮廷薬師長として傲慢ごうまんに人の上に立ってきた人だった。しかし、この地でセイやその姉妹のベニ達によって価値観かちかんなどをくだかれ、今やすっかり気の良いお爺ちゃんになっている。

「わ、私は……」

 ここでの暮らしが気に入ったらしいテルザは、王宮に戻ることをしぶった。

「帰らないってのはなしだよ。立場があるんだから、せめて後任とかをしっかり指名してもらわないと。ここじゃなければ死んだことにしてやっても良かったんだけどね」

 ルディエは正直だ。テルザがここへ第一王子と来たのは王宮にも知られている。それが行方不明になれば、らぬ憶測おくそくを生むだろう。
 情報操作も問題なくできるルディエだが、コウヤにも迷惑がかかるのは目に見えていたので、今回は実行しなかった。

「ルー君。国に関係することは、手間でもちゃんと手続きしないとダメだよ。ルー君が疑われるのは困るしね」

 ルディエは、コウヤが自分を心配してくれたことに感動して口を閉じた。
 コウヤはテルザに話を向ける。

「それに、あなただって後任とかしっかりしたいでしょう? 五日後にお送りしますから、用意をお願いしますね」
「……分かりました……その……セイ殿……」
「うむ。平穏に隠居いんきょできる者でも、最期には周りに世話させて若い者に迷惑をかけるでな。動けるうちは、なるべく迷惑かけんようにせなあかんよ」
「……承知しました……コウヤ殿、お手間を取らせて申し訳ありませんが、お願いいたします」
「はいっ」

 彼は、ここで子ども達に読み書きを教えるのが楽しかったらしい。子ども達の裏表のない言葉や振る舞いは、彼に忘れていた笑みを浮かべさせた。素直にしたわれることの喜びや、肩の力を抜いて笑いながら過ごせる日々が、とてつもなくとうといものに感じられたようだ。

「ちゃんと後任を決めたら、ここに帰って来てもいいんです。子ども達も待っててくれますよ」
「っ、ありがとうございます」

 生きがいを見つけた人というのは、いくつであっても輝くものだなとコウヤは笑みを浮かべた。

 ◆ ◆ ◆

 それからテルザを無事に王都へ送り届け、三ヶ月が経った。
 コウヤは、この日も相変わらず、元気にギルドの仕事をこなしていた。

「お次の方どうぞ~」
「お、お願いします」
「はい。お預かりします」

 やって来たのは元『イストラの剣』のケルトだ。彼は仲間二人が捕らえられて以来、この町で活動していた。彼から差し出された依頼用紙とギルドカードを受け取り、コウヤは依頼受注手続きを始める。

「受注完了です。お待たせしました」
「ありがとうございます」

 カードを受け取り、ケルトは小さく頭を下げる。彼が去る前にと、コウヤは声をかけた。

「ケルトさん。そろそろ昇格試験しょうかくしけんを受けてみませんか?」
「え……試験……ですか?」
「はい。昇格試験は分かりますよね」
「それは……はい」

 冒険者ギルドでは、Dランクに昇格する時から昇格試験というものを受ける必要がある。ギルドから指定された依頼を数個こなすのだ。その時には、試験官としてギルド職員か冒険者が付き添うことになる。実力が本当にあるのかどうかを判断するためだ。これは冒険者の生存率を上げることにもつながる。数だけこなせば昇格できるのはEランクまでとなっていた。
 ケルトはかつてCランクだったが、仲間の起こした事件の責任を問われ、Dランクに降格となっていた。

「以前、Cランクに上がる時には討伐とうばつ採取さいしゅ護衛ごえいの三つを一つずつ受けてもらったと思います」

 ランクによって受けてもらう依頼の数は違ってくる。上のランクになってくると、一度の依頼では測り切れないものもあるということだ。

「降格から復帰ふっきする場合は、少し回数が増えます。一年以内に討伐、採取を各三回。配達と護衛を一回。討伐と採取については、各一回を他のギルド支部で受けてもらうことになります」

 降格した者というのは、反省することを強要きょうようされる。当然だが、上のランクの者が降格するような行いをした場合は、それだけ復帰する時にノルマが増える。

「でも、早くありませんか……まだ降格してから一年も経っていませんし……」

 試験を受けても良いと判断されるのにも時間がかかる。それまでの依頼達成率などからギルド側で判断されるのだが、降格した者は当然印象が悪い。そのため、充分に依頼を達成していたとしても、一年、二年昇格許可が下りない場合は多かった。

「降格処分を受ける前に、ケルトさんは俺に『ランク査定、お願いします』と頭を下げて言いましたよね。そのことから、きちんと自分を見つめ直せる人だと判断しました。これまでの姿勢でもそれは確認できています。納得できずにいる人は時間がかかりますけど、あなたは違いましたからね」
「っ……ありがとうございます」
「ふふっ。受験許可を出しましたので、後はケルトさんが受ける日を決めてください。あちらにあるサポート窓口に、都合の良いタイミングで来てくだされば対応できますので」
「はいっ」
「それでは、お気を付けて行ってらっしゃい」
「行ってきます」

 ケルトはギルドを意気揚々いきようようと出て行った。そこへ、書類を抱えた職員のマイルズがやって来る。

「先ほど言っていた『サポート窓口』って何ですか? 他の支部にはなかったと思うんですけど」
「ん? ああ。俺がお願いして作ってもらったものなんで、ないでしょうね。昇格試験と冒険者の方々の生活についての相談窓口です。マリーちゃんとは会っていませんか?」
「マ、マリーちゃん?」

 首を傾げるマイルズを見て、コウヤはそういえばと思う。

「あ、そっか。マリーちゃん……うん。そろそろマイルズさん達の気配も覚えたと思いますし。あなた方もこの場に慣れたでしょうから、会ってみます?」
「……はい?」


 コウヤは早速、昼休憩の時に、サポート窓口に続く部屋へマイルズ、同じく同僚のフラン、セイラをともなってやって来た。

「こんにちは~。マリーちゃん、異動いどうしてきた職員さん達を連れてきました~」

 コウヤがノックをしながらそう扉の向こうに伝えると、ゆっくり扉が開いた。

《あ、おにいちゃ~んっ》

 飛び出して来たのは小さな女の子だった。身長がコウヤの胸辺りまでしかない、ルディエと同じくらいの年齢だ。しかし、決定的に気配が違う。それに気付いて口にしたのはフランだった。

「っ、まさか……人じゃない?」
《凄ぉいっ。一度で分かる人ってめずらしいんだよ?》

 その言葉と共に、マリーはコウヤから離れてフワリと身をひるがえす。すると、次の瞬間にはフラン達と同じくらいの年齢になったあでやかな女性がいた。

《ふふ。改めてこんにちは。この地を守護しゅごする妖精ようせい、マリーファルニェよ。この地に住まう者達は全てわたくしの可愛い子ども。新しくわたくしの子どもとなったあなた達を歓迎かんげいするわ♪》

 本来の姿となったマリーファルニェは、まとったドレスのすそをつまんで可憐かれんに笑って見せた。
 彼女に連れられ、コウヤとマイルズ達は事務用の小さな面談室を抜けると、奥の部屋へ通される。コウヤ達がそこに並べられた椅子に腰掛けると、マリーファルニェは昔語りを始めた。
 マリーファルニェはコウヤがこの世界に転生する前から、このギルドがある場所にいた。最初はただの妖精であった彼女。しかし、人が多く出入りするこの場所にきつけられたのだ。

《あれは何百年前かしら……ここに町が出来てすぐだったわ。何もかもを一度はあきらめて、それでも生きなくてはと思い留まった子達が集まって来たの》

 当時の彼女は、時折少女の姿で顕現けんげんしては、少しずつ人々の心をなぐさめていた。

《みんな『小さな女神』だってわたくしのことを呼ぶようになったわ。それが力になって上位種である守護妖精になったの♪ でも、気味悪がる子っているのよね》

 突然現れて、ふっと消える少女。そんな理解できない存在を怖いと思うのはおかしなことではない。人の防衛本能ぼうえいほんのうのようなものだ。

《コウヤお兄ちゃんが来た時には、そういう子達に追い立てられてボロボロだったわ。けど、コウヤお兄ちゃんは地下に逃げ込んでたそんなわたくしを見つけて、ここで役職を用意してくれたの☆》
「いやあ、俺だけではフォローし切れないから、人手ひとでを探しててね。やっぱり、冒険者は男の人が多いし、カウンセラーは美人な女の人がいいですよねっ」
《美人? ホント? コウヤお兄ちゃん、およめさんにしてくれる!? いつでもいいよ‼》
「落ち着こうね?」

 興奮気味こうふんぎみに迫ってくるマリーファルニェを、コウヤは手で制する。いつものことだ。

「それにしても……よく前ギルドマスター達が許しましたね」

 セイラがもっともな疑問を口にする。

「こんなにも綺麗きれいな妖精なんて……あの人達がちょっかいを出しそうですよ?」
《ん? ああ。あの出来の悪い子達のことね。何度かここに来たけど、軽くお仕置きしてやったわ。それからわたくしのこと、悪魔あくまだとか言って避けてたわね~》
「そんなことをして、よくギルドを追い出されなかったですねえ」

 フランが首をかしげていた。前ギルドマスターが支配していた頃、ここはそういう理不尽りふじんなこともまかり通る所だった。

《わたくしのことが怖かったんでしょう》
「マリーちゃんの仕事振りが役に立ってたからだよ。ほら、職員の方の相談も受けてくれたでしょう? それで仕事がしっかり回るようになったからね」
《女性が怖いって言う子や、本部怖いって言う子や、一人になりたいって泣いてた子達のこと?》

 なるほど、とマイルズ達はとある職員達を思い浮かべて頷いた。マリーファルニェは彼らのカウンセラーでもあったのだ。

「結果を出せば、あの人達も文句言いながらも放置だったから」
《確かに、冒険者の子達の試験のサポートとかで、わたくしってば役に立ちまくってるものね♪》
「はい。助かってます」
《わぁいっ。お兄ちゃんにめられた~♪》

 マリーファルニェは喜びながらまた少女の姿になってコウヤにまとわり付く。そんな様子を見てから、マイルズは部屋へと視線を動かす。

「それにしても……ここ、建物の中のはずですよね?」

 この奥の部屋へ案内され、椅子をすすめられて昔語りが始まるまで、マイルズ、フラン、セイラはせわしなく周りを見回していた。その理由は、部屋の内装にある。

「建物の中に空は普通、ないです……」
いずみと川、たきもあり得ないです……」
「森があって、床は草原とか……さっきちょうと鳥を見ましたよ?」

 明らかな異空間が広がっていたのだ。

《あ、ここまでまねくのは、わたくしを妖精って知った子達だけよ? ここはいやしの空間なの》

『だけ』とは言ったが、ここのギルドの職員はほとんどが知っており、時折訪ねてくる。そんな一人がこの人だ。

「あれぇ? 珍しく出てこないと思ったら、コウヤちゃんが来てたんだね」
《おじいちゃん! いらっしゃ~い》
「うん。お邪魔するね。そんで、お昼寝させて? もう、老人を大事にしなさ過ぎだよ、あの秘書」

 このユースールのギルドマスターで、数年前までは、大陸中に広がる全ての冒険者ギルドを統括とうかつするグランドマスターだったタリス・ヴィットだ。

《エルテちゃん出かけてるんだっけ》

 エルテというのは、タリスの秘書の名だ。

「そうっ。だから三時間くらい寝させて~」
《いいよー♪ 三時間ね。エルテちゃんに用意されてる宿題が、その後二時間本気でやれば終わる量だもんね☆》
「バレてるし! もうっ、もういいもんっ。ふて寝しちゃる!」

 お茶目ちゃめな彼は、そう言って森の奥に消えて行った。

「あの奥に寝る場所が?」

 マイルズの質問に、コウヤがクスクス笑う。

「ええ。ちょっとした仮眠室かみんしつです。コテージもあるんですけど、ハンモックがいくつかあって、そこでマスターは寝るんだと思います。皆さんも、ここの仮眠室、これから使ってくださいね」
《いつ来てもいいわよ~☆ わたくしは基本寝ないから、いつでも起こしてあげる♪》
「なんていたれりくせりな……」

 こうして、少々の衝撃はあったが、三人への紹介は終わった。
 マイルズ達が先に出て行くのを確認して、コウヤはマリーファルニェに伝えておく。

「近々、昇格試験を受ける人が来るから、よろしくね。資料はこの後用意して持ってくる」
《は~い♪ そういえば、お兄ちゃん、王都に行く予定ってある?》
「何か見えたの?」

 守護妖精である彼女は、守護する者達の未来を時折見ることがあるのだそうだ。

《お兄ちゃんが王都に向かうところと、何かそこで黒い影と向き合ってるのをね。気を付けてよ?》
「そう……心配してくれてありがとう」
《えへへ。あとっ、パックンちゃんの中身、確認した方がいいよー♪ イヌネコならいいんだけど、ちょっとなんか違う感じのを拾ってるっぽい☆》
「……了解……」

 こういう情報は、まとめてじゃなくて小出しにして欲しいなと思うコウヤだった。


 コウヤは仕事が終わってすぐ、今日は一日薬屋にいることになっていたパックンの確認に走った。パックンは魔工神時代からコウヤのそばにいる、眷属けんぞくのミミックだ。

「パックン。何かおかしな物を拾ったってマリーちゃんに聞いたんだけど?」
《 (・・?) 》

 製薬作業台の上にいるパックンを少し見下ろすようにして問い詰めたのだが、ふたの部分に顔文字を表示してキョトンとするばかりだった。

「自覚のないものなんだね?」
《いっぱいあるし (。-_-。) 》

 これは仕方がないとため息をつく。同じ部屋で調薬ちょうやくをしながら見ていた薬師のナチが苦笑する。

「そこで、コウヤ様が仕方ないと呆れて終わりにしてしまうからいけないのではないかと……」
「あ、そっかあ……うん。いつもこんな感じで、結局中身確認してないや……」

 何度も確認をと思ってはいても、それに至らなかったのはこのせいかとコウヤも自覚した。

《み、見るの?》
「う~ん……昔はそれほど量も入らなかったから、適当な倉庫で端から出して確認してたけど……」

 ゆっくりと屈み込むようにしてパックンと目線(?)を合わせる。

「……パックン、またレベル上がってない?」
《ちょっと? ( ̄∀ ̄) 》

 鑑定で確認すると、色々とスキルも上がっているし、称号も増えている。そして、何よりも見逃せないスキルが一つあった。

「パックン……『収集癖しゅうしゅうへき』ってスキルが出来ちゃってるんだけど? 昔っからその癖はあったのに、スキルにまでなるって……その上、熟練度が四つ上の【えつ】って……」

 スキルにまでなるほどの収集癖って何だろうと、思わず遠い所を見てしまう。

《まだまだ極められる‼ (≧∀≦) 》
「……これ以上?」

 さすがに、いつも自重を知らないコウヤでも絶句ぜっくするしかなかった。
 そこに、ずっとパックンの隣で丸くなりながら何やら考え込んでいたもう一体の眷属――迷宮を作り出す妖精で、小さなハリネズミのような姿のダンゴが立ち上がった。

《パックン、アレでしゅ。二日前に拾った石でしゅ》

 ダンゴは、マリーファルニェのことも知っている。彼女が感知したということから考えて、当たりをつけたらしい。

《石? ああ、タマゴ型の石ね》

 パックンがパカっと口――蓋とも言う――を開けると、ヒョイっとそこから石が飛び出してきた。ゴトっと机の上に載ったそれは、確かにタマゴ型の石だ。拳よりも二、三回りくらい大きい。マリンブルーの美しい石だった。

《これ、何か分からないの ( ̄^ ̄) 》
「鑑定スキルあるのに?」

 先ほどのコウヤの鑑定では、パックンは鑑定スキルを新たに習得していた。しかも熟練度は【きわみ】。鑑定所での経験が良かったのだろう。しかし、そんなパックンでも理解できないという。

「鑑定【極】でも無理って……隠蔽いんぺいがかかってるようにも見えないけど……」

 コウヤは石を見つめて、世界管理者権限のスキルを発動させる。コウヤの鑑定スキルは、これに統合されているのだ。まず看破できないものはない。



 名前……なし
 種族……飛天翼族ひてんよくぞく(タマゴ)
 レベル……0
 魔力属性……聖2、邪2、空1、無1
 スキル・称号……前世界種族最後の生き残り、狭間はざまを旅した者



 これは分からなくて当然だ。この世界に現在、該当がいとうする物はないのだから。

「……まさか、この世界の再生前に生きていた種族の生き残りなんて……」

 驚いたことに、前任の神が滅ぼした世界で生きていた種族の生き残りだった。

「これは俺の手に余るかも……ちょっと、教会に行くよ」
《珍しいものなの!? (´⦿ω⦿`) 》
「そうだね……」
《やった~‼ o(^▽^)o 》

 パックンは嬉しそうだ。ナチは聞かない方が良さそうだと思ったのか、既に距離を置いていたので、コウヤの呟きは聞こえなかったらしい。賢明けんめいな判断だ。

「お邪魔しました」
「いえ。何かありましたら、遠慮なくおっしゃってください」

 先日のことだが、ナチは自分のステータスの職業欄から、『邪神?の巫女みこ』の文字が消えていることに気付いたという。元々、彼女個人の称号ではなく、職業としての巫女だった。血筋として受け継いでいた役目だったらしい。

『巫女ではなくなりましたが、それでもコウヤ様のお力になりたいです』

 そう告げたナチの目は真剣だった。そして今度は、薬師の頂点に立ってみせると、意気込んでいる。現在、着々と薬師としての力を付けているところだ。
 ナチに見送られて薬屋を出ると、コウヤはパックンとダンゴを連れて教会に向かう。タマゴはコウヤが持っていくことにした。
 その道すがら、これをどこで拾ったのかパックンに尋ねた。ベルトにくっ付いたパックンの蓋に表示される言葉は見えなくても、体に触れているためにその意思は正確に伝わってくる。

《どこだっけ? あ、ペンとか出る迷宮めいきゅうの近くのほこらで拾った》
書架しょかの迷宮の近くに祠なんてあったかな……」

 書架の迷宮では紙や筆記具が手に入るため、コウヤも『ちょっと買い物に』という感覚でよく出かけるのだが、その途中で思い当たる場所はなかった。すると、パックンの上にいたダンゴが肩に飛び乗ってきた。

《凄く古い石で出来た祠でしゅけど、小さ過ぎて、人は入れないでしゅ》

 ダンゴは余裕だが、パックンは今のサイズだと入るのが難しい入り口だったらしい。パックンは伸縮自在なので、小さくなって入ったというわけだ。

《なんかキラキラしてた (*´ω`*) 》
「それに誘われて入ったと……パックン、変なわなにはまったりしないでね?」
《罠ごといただくから大丈夫 (๑˃ᴗ˂) 》
過信かしんしないように」
《 ( ̄^ ̄)ゞ 》

 コウヤはちょっと心配だ。罠にはまった場合、飛んできたものや出てきたものは全て『パックン』して体内に取り込む気なのは分かる。だが、落とし穴や捕獲ほかく道具などだったらどうするつもりなのか。コウヤが内心で呆れながらも教会に着くと、すぐに意識が神界しんかいへ移動した。
 神界は文字通り神が住まう場所。コウヤにとっては家族といえる、三人の神が暮らす世界だ。


しおりを挟む
表紙へ
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。