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第十一章

425 見捨てるのか……っ

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獣人族たちは、不安気に突然空に映された光景を見つめていた。

「っ、なんなんだ……これ……っ」
「一体何がっ……」

本当に唐突にそれが空に映し出されたのだ。驚くに決まっている。

「あれは……っ、入口の森の辺りじゃ……っ」
「そういえば、少し前から、人族が集まってた……っ」

高い何ものにも越えられない外壁のような天然の岩壁。その上から、目の良い獣人たちは、異変を感じて外界を確認していた。

岩壁に開いている里への入口は二つ。けれどそのどれも、獣人たちの身体能力が無ければ通れない。壁の二メートルほど上に開いているのだ。だから、この先に来ようと思う者はいない。

何より、里の場所に興味を示さないようにする特別な魔導具がある。それは、かつて魔工神コウルリーヤが作り出したものだった。強欲な人族によって連れ去られる子どもたちを守るために授けられたもの。

「っ、こんなことができるのは……っ」

人に出来るわけがない。魔法に秀でると言われるエルフ族かと考えたが、これをする意味がわからなかった。だから、エルフ族でもないだろうと、年配の者たちは考えた。

そして、何をするのかの説明を聞いている人々の様子が映し出される。その人々が見ていた映像の中に、神の姿を見た。

「あれはっ!! めっ。女神エリスリリア様っ」
「武神リクトルス様だっ。間違いない!」

彼らは人族よりも寿命が長い上に、外界と長く接触を絶ってきた。だから、神の姿を正しく記したものも、里には多く残っている。

人とは違い、コウルリーヤへの信仰も変わらずある。何よりもこの里を隠しているのがそのコウルリーヤから贈られたものだ。エルフ族と同じように、そのコウルリーヤを邪神として討った人を野蛮な種族と思っている。

彼らは当初から里にこもっていたわけではない。目まぐるしく世代を変え、考えを変える人族に染まらぬよう、弱い子どもたちや女たちを守ろうと考えたのだ。

しかし、さすがに彼らも長い時の中で考え方を変え、種族として完成している自分たちだけの場所が至高であるとしたのだ。これにより、彼らは自らの首を絞めて行った。

迷宮化により、段々と外の魔獣たちがこれに対抗しようと力を付ける一方で、里にこもっていた彼らは弱体化した。

そして、現在のように籠城と言っても過言ではない状況になったのだ。里を抜けた者たちを無理に里から出てまで殺そうとしたのは、コウルリーヤを人が討ったことで、神が世界を見放し、加護をなくしたというのに、その罪を人々は忘れ、更には獣人たちをペットのように扱うのを知ったから。

里を抜ける者は、彼らにとって、人族側に立つことを意味する。だから許せないのだ。血を混ぜる行為など、もっての外だった。無理にでも森を抜けさせ、戦士を派遣してこれらを始末するのは、彼らにとっては正義の行いだ。

そうすることで、神へ示そうとしていた。自分たちは人々の罪を許さないと。

だから、今彼らは混乱していた。人族に神が味方しているという状況に。

「なんで……っ、なぜ、神がっ……っ」
「なぜ我らを……見捨てるのか……っ」

自分たちの信じてきた道は、なんだったのかと思わずにいられなかった。

今、映像は、戦いに移っているところだった。その中に、里を抜けた者たちの面影を見つけ、更に驚愕する。

「あいつらっ……強くなってる……っ」
「なんでだよっ。なんで掟を破って出てった奴らがっ、笑ってんだ!!」

怒り、困惑、悔しさ。様々な感情を抱きながらも、映像から目を逸らすことが出来ずにいると、その映像の前に、ふわりとエリスリリアが現れた。

「「「っ、え……」」」
「こんにちは」
「「「っ!!」」」

エリスリリアは物見櫓の上に降り立った。すると、いつの間にかその下に現れた人族が、その櫓から大きな白い布を広げて吊るす。これに、エリスリリアをアップにした映像が、映し出された。

「これで見えるかしら。改めて、こんにちは」
「「「っ……」」」

エリスリリアは微笑みを浮かべて驚く彼らを見下ろしたのだ。

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二日空きます。
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