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第十章

415 ちょうどいい♪

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コウヤは高さが丁度良くなったと大満足していた。

「えへへ♪  ちょうどいい♪ ありがとう、ぶらんなっ」
「っ、き、恐縮です……っ」

ブランナに膝抱っこされ、満足げに少し後ろへもたれかかるように上向き、頭の上にあるブランナの顔を見てお礼を伝える。それがまた可愛らしく、ブランナは表情を引き締めようと必死だ。だらしない顔は見せられないと心を強く持っている。

ブランナとしては、これもニールに与えられた試練のように感じていた。自分は試されているのだと意識する。とはいえ、今ここにニールはいない。彼はブランナをコウヤに付けると、コウヤの食事を頼みに厨房に向かったのだ。

幼くなってしまったコウヤに、王達に用意されているような食事は出せない。厨房にいるのは、日頃食堂の厨房を任されている神官達と、トルヴァランの王宮料理人達数名だ。よって、コウヤのためとなれば、喜んで子ども用の食事を提供してくれるだろう。

ぬの をかさねたざぶとん座布団 だとねえ、まえ にすべっちゃうんだ~」

コウヤはブランナの考えなど知らず、無邪気に話を続ける。

「な、なるほど……それは危ないですね……」

思わず緩みそうになる頬を必死に制御するが、もう既に疲労で痙攣しそうだった。

「うん。だから、こどもよう のイスをつくったんだ~」

ご機嫌なコウヤは、ゆらゆらと頭を揺らす。それもまた可愛い。しかし、ブランナは誘惑に負けなかった。会話に集中することにする。

「っ、もしや、あの食堂の子ども椅子はコウヤ様の発案でしたか」
「そうっ。あし もぶらぶらしないようにだい になるのをつけて、よこ やまえ におちたり、すべらないようにかこい囲いや、べるとベルト をつけたんだっ」

幼い子と食事なんて機会はなかったし、コウヤが幼かった頃は、いつだって今のようにベニ達が膝抱っこをしてくれていた。前世の影響か、子どもらしく落ち着きなく動き回ったりもしなかった。危ないと予想できたし、滑るのも気を付けるようになっていった。そのため、その時は特に不自由はなかったのだ。

リルファムを見て、あってもいいなと思い、試作した子ども用の椅子は、教会の孤児院で使い始めていた。そして、初めて反動で幼くなった時、子ども用の椅子や机の有用性を改めて感じた。哺乳瓶をはじめ、抱っこ紐などベビー用品も充実させ始めていたこともあり、すぐに子ども用の椅子も商業ギルドに登録したのだ。

とはいえ、すぐに普及するかといえばそうではない。特に椅子は、家庭でなんてまず考えないだろう。幼い頃しか使えない物は裕福な家庭にしか無理だ。よって、店で使ってもらう方針に切り替えた。まず手始めにと置いたのが、聖魔教会にある食堂だった。

「町の婦人達が、喜んでいましたよ。ベルトで固定したことで、動き回ることもなく、食事が終わるまできちんと座らせてやれると。椅子も倒れないように机に固定できるのも有り難いと」
「ごはんといっしょ一緒 にころげ転がげ おちたりするからね~。あれ、こどももなく泣く けど、おかあさんたちもなき泣き たくなるんだってきいた聞いた から」

コウヤは住民達とも仲がいい。そこで、愚痴を聞いたりしていたのだ。育児の悩みはどんな世界でも同じだ。その中で一番多かった愚痴がこれだった。せっかく作った食事をひっくり返されたというのが、泣きたくなるらしい。

兄弟が多い場合もあるため、一人だけに構っていられない。そこでやられると、どうしても許せないらしい。また怒っちゃったんだよねと落ち込んでいるお母さん達を慰めることがよくあった。

その時は子ども用の椅子をとまで考えが及ばなかったが、作って正解だったようだ。子どもからしても安心感もあるというのは、幼くなった時のコウヤ自身が実感したこと。小さくなるのも悪くない。

「なるほど……ところで……っ、そ、その……先ほどから何を?」

コウヤは話をしながらも、紙に絵を描いたり、文字らしきものを書いたりしていた。小さな手で、一気にこの世界に普及した鉛筆を握り、書き付けるさまはなんとも言えない愛らしさだ。一生懸命、小さな子がお絵かきをしているようにしか見えない。鉛筆が長いのもポイントが高い。

孤児院育ちのブランナからすれば、初めて見る子どもの愛らしい行動の一つだ。地面に枝や石で落書きをするというのは見たことはあっても、大人の膝の上で、大人しく真剣に紙に描くというのは、ブランナにとっては、物語の中の夢のような優しい情景でしかなかったのだ。

それに少し感動していれば、コウヤが見上げてきた。

「ねえ、ぶらんな。じゅうま従魔 たちにね、しるしをつけたいんだ。どんなしるしがいいとおもう? できれば、かき書き やすいのがいいんだけど」
「印ですか……」

コウヤが描いたのは、ハートや星、ただの四角や三角、丸。

「うん。あとは、けいやく契約 してるひとのなまえ名前 のかしらもじ頭文字  とか?」
「そうですね……私ならば、コチラを描くと思います」
「それ……あっ、しえんじ四円柱!」

ブランナは、コウヤの体を恐々支えていた腕を片方外し、聖魔教の制服の胸元に描かれている四円柱を指差した。

「うん! それなら、おおきさ大きさ も にしなくていいねっ」

大型の魔獣も、小型の魔獣も、ジェットイーグルにも問題なく描ける。四つの円が集まり、四葉のクローバーのようになったマークだ。誰でもすぐに描けそうなのも良い。

「これ! これにけってい決定!」

紙に書き付けて、満面の笑みで何度も頷くコウヤ。そこに、ゼストラーク達三神とベニ、ルディエ、そして、トルヴァラン王家組、タリスにシーレス、更にはパックン、ダンゴ、先ほど戻ってきたらしいテンキが揃って飛び込んできた。

そして、若いパパとその子どもの図を見せるコウヤとブランナの様子を数秒見つめ、何人かが同時に叫んだ。

「「「「「っ、ずるい!!」」」」」
「あ……」
「あ~」

ブランナはこの後どうなるだろうかと少しばかりヒヤリとし、コウヤはそういえば棟梁に膝抱っこされながら設計図を書いた時も、何人かに言われたなと思い出す。

あわや一触即発という時。ニールが昼食を持って戻ってきた。

「みなさま、お食事の用意をさせていただきます」

ニールの後ろには、この場に来た者たち全員分の食事を乗せたワゴンが並んでいた。彼に抜かりはないのだ。

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