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第十章
414 いす?
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コウヤはニールを連れて会議室から三つ隣にある部屋に入った。そこは少人数の会食に使えそうな部屋で、立派な木のテーブルがあった。
もちろん、給仕用の場所もあり、お茶も淹れられる。
「さてと、アレの資料は確か……」
コウヤはコウルリーヤであった頃の研究書などを、パックンから受け取っている。邪神として、理性がおかしくなる前にと、コウルリーヤはパックンにそれを預けていたのだ。
そして、パックンはその後、世界中に転移し、多くのコウルリーヤの残していた魔導具や研究書を回収しまくっていた。
パックンは戦闘向きではない。そのため、せめてもの意趣返しとして行ったのだ。それらのほとんどが今のコウヤに返されている。
資料を遠慮なく大きなテーブルに広げ、先ずは術式の構築からだと考えている間に、ニールはごく自然にコウヤを椅子に座らせていた。
「この術式をこれに転用して……」
思考し始めてしまったコウヤから静かに離れ、ニールはお茶を淹れ出す。
「あ、従魔のと二重になる可能性も……」
お茶が入る頃、コウヤは書きつけていた紙には沢山の数式と魔法陣が並んでいた。そこで一息ついたのを確認したニールは、絶妙な温度で淹れられたお茶をコトリと机に置いた。
「あ、ありがとうニール」
「いえ」
資料などを除けて、コップを引き寄せる。とても良い香りで、コウヤはほっと肩の力を抜く。その様子が、ニールにとっては何よりも嬉しいものだった。
「とってもおいしいっ。やっぱりニールの淹れるお茶が一番だね」
「っ、ありがとうございます」
心の底から、コウルリーヤは気に入ったと微笑んでいた。なぜかニールは、不意にそれが泣きたくなるほど、とても懐かしいもののように感じた。遠い昔にも、こうして同じように、笑みを向けられた気がしたのだ。
「ニール? どうかしたの?」
「っ、いえっ。喜んでいただけて嬉しいです」
「ふふっ。そうゆうとこ、変わらないよね」
「え……?」
「ううん。何でもないよ」
コウヤも懐かしく思っていたのだ。かつての神子が、同じように術式を考えている時に、キリがつく時を計算していたかのように、飲み物を持ってきてくれた。ほっと息を吐くと嬉しそうに笑っていた。そんな神子の一人を思い出したのだ。
生まれ変わっても、それは変わらないようだと改めて知り、コウヤはとても嬉しくて、なんだか可笑しかった。
「これで術式は完成したから、あとは色と……」
「何を描かれますか。決まった印などあった方が良いのではありませんか?」
「そうだね……うん。印かあ……絵だと、描いた人によっても変わってきちゃうもんね。だからって、文字も……魔獣の大きさによっては書きにくいだろうし……う~ん……」
悩み出すコウヤ。だが、そこでニールは思考に沈み込む前にと、大事な事を確認した。
「コウヤ様」
「ん?」
コウヤがきちんとニールを意識したことを確認し、告げた。
「あまり長い時間、そのお姿になっているのはご負担ではありませんか?」
「あ、うん、まあ、そうだね。今回は転移もいっぱいしたし、小さくなる時間も延びちゃうしね。計算も終わったからいいかな」
「あまりご無理をされてもいけません」
「そうだね。分かった」
次の瞬間、コウヤは三歳児頃の姿になっていた。服はジルファス達を迎えに行った時の神官服だ。ブカブカになることはなく、今のサイズにピッタリになっている。自動調整付きなのだ。もちろん下着類も全て。
何があっても良いように、ギルドの制服もコウヤが持っている服は自動調整機能が付いている。一度脱げば、大人が着られるサイズに変化するため、三歳児サイズからも戻すことは容易い。
「あ、やっぱりつくえがたかい」
「すぐに調整する布か椅子をご用意いたします」
「うん。パックンなら、こどもようのいすをもってるから」
さすがのニールも、すぐに子ども姿になるとは思っていなかった。それだけ負担があったのだろうと思うと、もっと早く提案すべきだったとニールは少し後悔する。
この幼い、お子様コウヤを一人で置いておくことなどできない。当然、ニールは離れる気はなかった。タイミング良く、とある人物が部屋に近付いてくる気配を感じていたのだ。
「少々お待ちください」
「うん」
ニールはすぐに部屋を出ると、部屋の前に差し掛かろうとしていたその人の前に出て声をかけた。
「ブランナ」
「あ、ニール先輩」
聖騎士であったブランナは、教会で鍛えられている間、ニールとも手合わせをしていた。そして、今後共にコウヤの傍にある者として、交友を持ち、最近はニールのことを先輩と呼んで慕っている。
「来ていたのですね」
「はい。お手伝いに」
「今は何を?」
「先ほどまで、厨房で昼食の用意を手伝っていたのですが、休憩がてら見回ってくるようにと言われまして」
「そうですか。では、こちらへ」
「……はい……?」
部屋に招かれたブランナ。そして、衝撃に固まる。
「えっ、え?」
「先程まで、コウルリーヤ様のお姿でした。ただ、そのままではお身体に負担がかかり、その反動で少々小さくなっておられます」
ニールが丁寧に説明する。
「あっ、ぶらんなっ。きてたんだねっ」
「っ!! に、ニール先輩!?」
ブランナは混乱していた。あまりのコウヤの可愛さと、現実が受け止めきれないのだ。
だが、ニールは構わず続けた。訓練でも容赦なく打ち据えるニールだ。それが先輩と呼ばれる原因である。
「コウヤ様。椅子をご用意いたしました」
「ん?」
可愛らしく首を傾げるコウヤ。ちょっと和むが、次に出たニールの言葉は衝撃だった。
「ブランナ。コウヤ様の椅子になってください」
「椅子……椅子!? い、椅子……っ」
「いす?」
ブランナは混乱しながらも理解した。そして、喜んで椅子になった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
もちろん、給仕用の場所もあり、お茶も淹れられる。
「さてと、アレの資料は確か……」
コウヤはコウルリーヤであった頃の研究書などを、パックンから受け取っている。邪神として、理性がおかしくなる前にと、コウルリーヤはパックンにそれを預けていたのだ。
そして、パックンはその後、世界中に転移し、多くのコウルリーヤの残していた魔導具や研究書を回収しまくっていた。
パックンは戦闘向きではない。そのため、せめてもの意趣返しとして行ったのだ。それらのほとんどが今のコウヤに返されている。
資料を遠慮なく大きなテーブルに広げ、先ずは術式の構築からだと考えている間に、ニールはごく自然にコウヤを椅子に座らせていた。
「この術式をこれに転用して……」
思考し始めてしまったコウヤから静かに離れ、ニールはお茶を淹れ出す。
「あ、従魔のと二重になる可能性も……」
お茶が入る頃、コウヤは書きつけていた紙には沢山の数式と魔法陣が並んでいた。そこで一息ついたのを確認したニールは、絶妙な温度で淹れられたお茶をコトリと机に置いた。
「あ、ありがとうニール」
「いえ」
資料などを除けて、コップを引き寄せる。とても良い香りで、コウヤはほっと肩の力を抜く。その様子が、ニールにとっては何よりも嬉しいものだった。
「とってもおいしいっ。やっぱりニールの淹れるお茶が一番だね」
「っ、ありがとうございます」
心の底から、コウルリーヤは気に入ったと微笑んでいた。なぜかニールは、不意にそれが泣きたくなるほど、とても懐かしいもののように感じた。遠い昔にも、こうして同じように、笑みを向けられた気がしたのだ。
「ニール? どうかしたの?」
「っ、いえっ。喜んでいただけて嬉しいです」
「ふふっ。そうゆうとこ、変わらないよね」
「え……?」
「ううん。何でもないよ」
コウヤも懐かしく思っていたのだ。かつての神子が、同じように術式を考えている時に、キリがつく時を計算していたかのように、飲み物を持ってきてくれた。ほっと息を吐くと嬉しそうに笑っていた。そんな神子の一人を思い出したのだ。
生まれ変わっても、それは変わらないようだと改めて知り、コウヤはとても嬉しくて、なんだか可笑しかった。
「これで術式は完成したから、あとは色と……」
「何を描かれますか。決まった印などあった方が良いのではありませんか?」
「そうだね……うん。印かあ……絵だと、描いた人によっても変わってきちゃうもんね。だからって、文字も……魔獣の大きさによっては書きにくいだろうし……う~ん……」
悩み出すコウヤ。だが、そこでニールは思考に沈み込む前にと、大事な事を確認した。
「コウヤ様」
「ん?」
コウヤがきちんとニールを意識したことを確認し、告げた。
「あまり長い時間、そのお姿になっているのはご負担ではありませんか?」
「あ、うん、まあ、そうだね。今回は転移もいっぱいしたし、小さくなる時間も延びちゃうしね。計算も終わったからいいかな」
「あまりご無理をされてもいけません」
「そうだね。分かった」
次の瞬間、コウヤは三歳児頃の姿になっていた。服はジルファス達を迎えに行った時の神官服だ。ブカブカになることはなく、今のサイズにピッタリになっている。自動調整付きなのだ。もちろん下着類も全て。
何があっても良いように、ギルドの制服もコウヤが持っている服は自動調整機能が付いている。一度脱げば、大人が着られるサイズに変化するため、三歳児サイズからも戻すことは容易い。
「あ、やっぱりつくえがたかい」
「すぐに調整する布か椅子をご用意いたします」
「うん。パックンなら、こどもようのいすをもってるから」
さすがのニールも、すぐに子ども姿になるとは思っていなかった。それだけ負担があったのだろうと思うと、もっと早く提案すべきだったとニールは少し後悔する。
この幼い、お子様コウヤを一人で置いておくことなどできない。当然、ニールは離れる気はなかった。タイミング良く、とある人物が部屋に近付いてくる気配を感じていたのだ。
「少々お待ちください」
「うん」
ニールはすぐに部屋を出ると、部屋の前に差し掛かろうとしていたその人の前に出て声をかけた。
「ブランナ」
「あ、ニール先輩」
聖騎士であったブランナは、教会で鍛えられている間、ニールとも手合わせをしていた。そして、今後共にコウヤの傍にある者として、交友を持ち、最近はニールのことを先輩と呼んで慕っている。
「来ていたのですね」
「はい。お手伝いに」
「今は何を?」
「先ほどまで、厨房で昼食の用意を手伝っていたのですが、休憩がてら見回ってくるようにと言われまして」
「そうですか。では、こちらへ」
「……はい……?」
部屋に招かれたブランナ。そして、衝撃に固まる。
「えっ、え?」
「先程まで、コウルリーヤ様のお姿でした。ただ、そのままではお身体に負担がかかり、その反動で少々小さくなっておられます」
ニールが丁寧に説明する。
「あっ、ぶらんなっ。きてたんだねっ」
「っ!! に、ニール先輩!?」
ブランナは混乱していた。あまりのコウヤの可愛さと、現実が受け止めきれないのだ。
だが、ニールは構わず続けた。訓練でも容赦なく打ち据えるニールだ。それが先輩と呼ばれる原因である。
「コウヤ様。椅子をご用意いたしました」
「ん?」
可愛らしく首を傾げるコウヤ。ちょっと和むが、次に出たニールの言葉は衝撃だった。
「ブランナ。コウヤ様の椅子になってください」
「椅子……椅子!? い、椅子……っ」
「いす?」
ブランナは混乱しながらも理解した。そして、喜んで椅子になった。
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