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第十章

413 チカチカするやつ!?

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従魔契約が仮でも出来れば、契約の効果で味方の攻撃を無効、弾くことができる。だが、やはり考えなくてはならないのは、野生の魔獣と迷宮の魔獣を一目で判断できる方法だ。余分な攻撃は極力減らしたい。

「魔導具をつけてもらおうかとも思ったんですけど、野生の魔獣ですからね。何か着けるの嫌がると思うんですよ」
「それは確かに、あるかもしれませんね……」

シーレスが同意する。従魔術師が全くいなかったわけではない。だから、シーレスも現役の時に知り合いに従魔術師もいた。その時のことを思い出したようだ。

「従魔の中にも、従魔の印を着けるのを嫌がるというのは、ありますからね……今まではそれほど居ませんでしたから、周りが従魔だと認識するのも早かったはずです。ですが、今回は完全に混戦になりますからね……どうしたものか……」

従魔術師が少なかったから、その人の従魔だと従魔の方もきちんと認識できている、今までの状態ならば良かった。しかし、今回は初めて見る従魔が多くなる。印があったとしても、戦いの中、一瞬の判断が命取りとなる状況では難しいだろう。

戦力は多い方が良い。それが分かっているから、魔獣達の参戦は望むところだ。だからこそ、味方同士で同士討ちという不安は極力無くしたい。

コウヤとしても、このチャンスは逃したくないのだ。

「術式は保険ですからね。味方を認識して気を付けるようにしてもらわないといけません」

タリスも想いは同じだ。

「もちろんだよ。連携の仕方も、実戦で覚えてくしかないからね。味方同士で怪我して戦えなくなってる余裕はないよ。保険でも、それは助かると思うな」

冒険者は、実戦で感覚的に覚えていくものだ。だから、連携は出来なくはないだろうとタリスは予想している。とはいえ、余裕がない戦場になれば、それも難しくなるとは考えていた。

うんうん首を傾げて悩むコウヤを入れた冒険者ギルド組。

そこに、エリスリリアが明るい声で口を挟んだ。

「なら、魔導具とかじゃなくて、ペイントしちゃったら? コウヤちゃん昔、水に濡れても流れないやつ、お父様と作ってなかった?」
「……あっ! うん! 作った。水中神殿みたいになった迷宮に色付けするのに作ったやつだっ」
「何で色付けたの!? ってか、もしかして、地底湖にある迷宮の!? ボス部屋が特に目がチカチカするやつ!?」

タリスはかつて挑戦したことのあるカラフルな迷宮に思い当たった。もちろん、シーレスも知っていた。

「あそこ……行く度に、壁の絵が変わるので、迷いやすいんですよね……逆に矢印で教えてくれる時もありましたけど……ん? でも、消えましたよね? 水では無理なのに、何で消えるんです?」

水の中でも、そのままになる絵。絵の具ではないのは分かる。迷宮だからそういうこともあると思っていたが、コウヤの話し方からすると、描いていたのだと分かる。しかし、次に来た時には消えていたり、変わっていたりした。それが不思議だったようだ。ただ、迷宮だしなと無理やり納得していたのだろう。

「アレ、魔術を混ぜてあるんです。だから、消すための魔術もあって、寧ろ、それじゃないと消えないんですけどね」

手で擦っても、削っても消えない。それがこのペイントのすごいところだ。

「確かに、アレなら魔獣の子達の体に、直接絵を描けます。もう少し考えれば、それで味方の攻撃を無効に出来る術式を組み込めるかも……うん。いける! 色は何色にしよう……マスターは何色が良いと思います?」
「う~ん……毛色に映えないと困るよね。そうなると白と……赤……は怪我した時に紛らわしいかな?」

魔獣の体に直接塗るのだ。体毛の色によっては、目立たない色がある。一目で分かるようにしたいのだ。目立つものがいい。

「コウヤちゃんっ、コウヤちゃんっ。ピンクが可愛いと思う~。それと、黒……よりは、コウヤちゃんの髪の色がいいわね」
「う~ん。紺色? 確か、ダンゴが好きで作ったかな。うん。大丈夫」

ここにリクトルスも入った。

「橙とか、黄色の色もあって良いと思いますよ。暗いフィールドもありそうですからね」
「そっか。分かったっ。じゃあ、俺はそれをささっと作ってくるね。そうだっ、忘れてた。本当に早くやらないと、小さくなっちゃうから作業がやり難いよねっ。急ごうっ」
「「「「「小さくなる……っ、それがあった!」」」」」

喜色に染まった声がコウヤのこの後の反動を知る者たちから出る。

それに応えず、コウヤは部屋を飛び出して行く。

「じゃあ、また後で」

ここですかさずニールが歩み寄る。

「ご一緒いたします」
「え、ここに居なくて良いの? ニール」
「もう会議も終わるでしょうから」

これにリクトルスが頷く。

「うん。今ので方針も伝えられただろうし、午前のはここでお開きかな。昼食休憩した後に、彼らも交えて教会の話になるよ」
「そっか、ならいいかな?」
「お茶をお淹れいたします」
「ありがとうっ」

そして、ニールと共に後にしようとした時、女王達へと声もかける。

「あ、そうだ。無理せずに車椅子も使ってくださいね?」
「っ、は、はい!」
「っ、お気遣いありがとうございますっ」
「無理しないように気をつけますっ」
「ふふっ」

すかさず返事を返す者たちに、コウヤはふわりと微笑んで去っていった。

その微笑みを見てしまった一同は、なんでトルヴァランの代表の一人が一緒にとか、あれが本当に邪神と呼ばれていた神なのかとか、色々と新たな疑問を抱えながらも、目に焼き付いた微笑みに、胸が熱くなるのを感じていた。

そして、しばらくして代表達は一つの結論を出した。


『トルヴァラン国は色々知っていそうだ』


これは聞き出さねばと決意する。目を向けたトルヴァランの一同は、なんだかそわそわとしている。

ジルファス達は、ベルナディオも含め、コウヤがこの後、あの可愛らしい幼子の姿になると知って、落ち着きをなくしていたのだ。もちろん、タリスやベニ、ルディエもそうで、誰もこれをこちらから指摘できる者はいなかった。

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