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第十章

410 生きていたっ

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会議はスムーズに進んでいた。

「では、この件につきまして、冒険者ギルドに一任していただけるということでよろしいでしょうか」

これに、各国の王たちは神妙に頷く。神々の前で、無様に喚き散らすことなどできないだろう。長々と引き伸ばす者も居らず、対策は講じられていく。

しかし、ただ聞くだけでは緊張感のあるだけのつまらない会議だ。そこに少し手を加えるのがトルヴァラン組だった。

ジルファスが手を挙げる。

「はい。ジルファス殿。なんでしょうか」

シーレスが笑顔で対応し、問いかける。

「迷宮化がどのような状況であるかはわかりました。冒険者でなければ対処できないのも納得です。ただ、冒険者がこぞってそちらの対応に出てしまうとなると、国としては困ることも出てくるかと」

王達の中には、冒険者が居なくなるという状況に危機感を感じていない者も居るようだ。その心配の意味が分からないという顔をしているのが数人いた。

そう言った国は、冒険者のことをあまり知らない。気にしていないのだろう。そこをシーレスはきちんとチェックしている。

ジルファスは続けていた。

集団暴走スタンピードでは、全ての冒険者が、何らかの対応に当たっていました。あれは長くとも一日ほどでしたので、町の機能が完全に停止したとしても、それほど影響はありませんでしたが……」

ここで気付く者も居た。冒険者の存在を本当に理解している王は少ない。今こうして話を聞いて、考えてみて、ようやく想像力が働きだしたようだ。

「冒険者が動かなければ、物が動きません。物流が止まれば、商店に並ぶ商品が不足するでしょう。住民達も生きていかねばなりません。町の中で安全が確保されたとしても、そこを止められては困るのですが……」

確かにそうだと、他の王達が背筋を伸ばす。そこのところどうなのかと、シーレスとタリスを見つめた。

これにシールスは頷き、説明する。

「今回の迷宮化は、一日でどうにかなるものではないでしょう。仮にどうにか出来たとしても、この影響下に入っている迷宮は、機能を停止しています。その調査も早急に行う必要があります。そうなれば、更に人員を投入することになるでしょう」

その場の迷宮化が解けた所で、すぐに解決とはいかない。その後の調査には、もっと時間がかかるだろう。

「ですが、私どもも、町の機能を止めないことも重要だと思っています。商業ギルドとも連携し、迷宮化に対応する冒険者の数も半分ほどに抑えます。今回は町単位でのものではありませんので、恐らく可能だと思われます」

恐らくと言われ、王達は反論しそうになる。不確かなものは困るのだ。それはシーレスも分かっている。だから、きちんと対策も提案する。

「そのためにも、各国の騎士や兵の方々への協力をお願いしたい。町の外での活動については冒険者が、町の防衛と中の問題については、そちらでお任せしたいのです。迷宮化に全力を尽くすためにもそれが最善かと思いますが、いかがでしょうか」
「「「「「……」」」」」

納得できないこともあるだろう。お金を出すのは決まった。けれど、聞いていれば町の防衛は自国の騎士や兵の仕事になる。全部任せろと言ったのではなかったか。そんな不満が顔に現れている者は多かった。

だが、ここでもトルヴァラン組が手を挙げる。アビリス王だ。

「元々、国の防衛は騎士や兵達の役目。もちろん、いざとなれば、町に残られる冒険者の協力も得られるのでしょう? ならば、問題はないのでは?」

これは各国の王達に向けられた。

確かにそうだと頷けるものだった。お金を払うということが念頭にあるため、反発したくなる思いも出てきてしまう。それが同じ国を任されているアビリス王にも分かった。

「この場は、迷宮化という事態の周知を促すものと思っております。これは冒険者にだけ任せることになるでしょう。彼らは迷宮の専門家だ。我々はその専門家に仕事を依頼しているだけ。報酬を支払うのは当然です。寧ろ、一国で賄わなくて良い分助かります」
「「「「「……っ」」」」」

その通りだと、王達は目を覚ました。これが自国だけだったならば、何の助けもなく苦しい選択を強いられただろう。

「では、ご納得いただけたということで、よろしいですか?」

誰もが頷いた。

そして、次に聖魔教会代表として、ベニが神教国のことについて話をはじめた。

「聖魔教の大司教、ベニと申します」

各国の王達を前にしても、堂々とした様子のベニ。半分ほどは見惚れていた。

「神教国には呪具のようなものがあり、それによりいくつかの国の王家の者を呪っていたことが分かりました」

これにより、神教国に頼らざるを得ない状況を作っていたことなどを説明した。

そして、それに思い当たることのある国の代表が、アビリス王へ目を向ける。これを受け、ベニは頷いて見せる。

「これまでは、ただそのまま死を迎えることを待つしかありませんでした。神教国につけ込まれただけ。解く方法もなく、それが神教国が仕掛けた事であるということさえ分からなかった。ですが、コウルリーヤ様がお戻りになったことで、それは不治のものではなくなりました」

その時、神官達が二人の王子と動けなくなっていたはずの者たちを連れて来たのだ。身内である王や代表達が思わず立ち上がる。

「っ、そんなっ、こんなことが……っ、良かったっ……」
「生きてっ……生きていたっ……っ」

王に気付かれないよう隔離していたらしい。その二国の者は、王妃と皇后の無事を喜んでいた。一方で、顔色の悪い者もいる。

それがベルネルとデランタ、セルーナの三国の代表だった。

「っ、お、王……っ」
「母上っ……っ」
「あ、そ、そのっ」

この三国は、王子達が助けを求めてきた所だ。セルーナの王子は幼く、今はトルヴァラン王都の聖魔教会の孤児院で健やかに過ごしている。

そして、ベルネルとデランタの王子、フレスタとディスタは、トルヴァランの王宮でコウヤの侍従となるべく勉強中だ。とはいえ、その二人もこの場にやって来ていた。

「フ、フレスタ……っ」
「ディスタ王子……っ」

ベルネルとデランタの代表が、父である王と祖母である皇后をそれぞれ支えて控えていた王子二人に動揺する。

そして、その支えられている王と皇后は、それぞれの国の代表の面々を真っ直ぐに見る。

「色々と、話さねばならんことがありそうだな」
「愚かな子だとは思っていましたが、ここまでとは……見損ないましたよ」
「「っ!!」

二国の代表は、真っ青になっていた。

そして、病に侵されていたセルーナ国の者。彼女は女王だった。今回代表として来ているのは、彼女の夫。彼女は静かに、しかし、鋭い視線を代表としてやって来ていた夫に注ぐ。

トルヴァランで保護している幼い王子は、彼女の亡き姉、先代女王の忘れ形見だったらしい。それを女王となった彼女は大切に自身の息子と変わらず愛情を持って受け入れていた。それを追い出したと知って、怒らないはずがない。

一歩踏み出した女王。けれど、まだ体は万全ではないのだ。少しよろめき、思うように動かない体に眉を寄せる。

その時、スッと手を差し出され、彼女の体が支えられた。

「大丈夫ですか?」
「っ……え……」

それはコウルリーヤの姿のコウヤだった。

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