元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
302 / 475
第十章

407 避難させる場所

しおりを挟む
コウヤはコウルリーヤの姿のまま、迷宮化した土地に足を踏み入れた。

「……すごい……本当に景色が変わった」

普通に歩いて森に入り、ゾワリとする膜のようなものを通り抜けた途端、周りに夜が来た。このフィールドは少し肌寒い。まるで良く晴れた冬の夜のようだ。そして、森の木々はかなり減り、草原と言っても良いほどの景色になった。

数歩行くと、魔獣の姿が見える。所々に大きな岩があるので、それに身を隠し、気付かれない距離を取って立ち止まった。

「ん? あの子は……迷宮の子じゃない……か。一応は距離を取ってるんだ……よしっ」

野生の魔獣達は、しれっと自分達の縄張りに混ざるようになった迷宮の魔獣達を警戒しているようだ。まだこの場にも慣れていないのかもしれない。

「……気配もやっぱり違う……」

迷宮が、精霊が生み出した魔獣と、外の魔獣は違う。迷宮の魔獣は、言ってしまえば見せかけの幻影のようなもの。精霊の持つ特別な魔力効果で実体を持つが、本当に生きている訳ではない。

いわば、ゴーレムのようなもので、呼吸をしない。リアリティを追求する精霊によっては、食事もしているように見せかけるが、別に食事も必要としない。瞬きも必要とはしないが、呼吸と同じで、見せかける動きはする。

リアルな人形でしかないため、本来そこに生き物としての気配はない。その気配さえも精霊達による作られたものだ。

精霊は神に次ぐ世界を創る力を持っている。迷宮とは、精霊達が創り出した小さな世界。けれど、神ではないため、全て作り物の見せかけだった。

コウヤは気配を消して、ゆっくりと離れた場所に居る野生の魔獣へ近付く。

《っ!!》
「あ、待って。大丈夫。何もしないよ」
《ブルル……》

この魔獣は、猪のような姿をしている。そして、比較的賢い個体だ。

コウルリーヤとしての今のコウヤは、いつもよりも神気を纏っている。そのため、人を相手にした時とは魔獣の反応も違う。魔獣は本能的に害がないことを理解したのだ。

そっとその鼻先を撫でれば、大人しくなる。

「驚かせてごめんね。君たちみたいな元々ここに居た子たちだけ、避難させることってできるかな?」
《ブルル……ブルッ》

出来るが、どうしてだと問いかけられた。

「できれば移動して欲しい。どうも、あの子達を全部倒すか、あの子達のボスを倒さないと、このフィールドは消えないみたいなんだ」

この場に来たことでコウヤには分かった。迷宮より厄介なことに、このフィールドを司っているらしい本来の階層ボスを倒すか、魔獣を全滅させないことには、この場を元に戻せないのだ。

完全攻略をしなくては、この迷宮化は解決できない。かつて迷宮化を解決したベニや神子達は、大きな魔術によって、階層ボスごと吹っ飛ばしていたらしいのだ。それにより、解決していた。

その時よりも今回は範囲も広い上に、少しばかり迷宮のランクも上のようだ。そもそもが、一つの迷宮から成るものではなく、複数の迷宮の合作になっているらしく、場所ごとのランクの配置もバラバラだった。

《ブルルル》
「協力してくれるってこと? でも、冒険者の……人をここに入れることになるよ?」

魔獣達も、困っているようだ。自分達も戦うと伝えてきた。

《ブルっ》
「うん。まあ……そうだね。数で負けることはなくなるかな」
《ブルル!》

ならばいけるとのことだ。魔獣達も、下手に敵対しては危ないことを本能的に感じていたのだろう。迷宮の魔獣は、種が違っても同じ敵として向かってくるだろうと感じたのだ。よって、野生の魔獣達は、大人しく何でもない風を装ってきたらしい。

《ブルルっ、ブルッ》
「あっ、調べにきた従魔にも気付いてたんだね」
《ブルルっ》
「……君、結構長生き? というか……ここのボスかな?」

どうも、元はこの森の主の一体らしい。

《ブルル》
「そっか、お母さんが人と契約したことがあったんだね」
《ブルル!》

本当に賢い。この魔獣は、母親が従魔として人と居た頃の話を聞いていたらしい。その母親は、主人が亡くなってからこの魔獣を産み、人と生きたことで得た知識を色々と教わったと言う。

《ブルル》
「戦わない子たちの避難させる場所だね。後で従魔の子に案内させるよ。任せていい?」
《ブルル!》

他の、森の野生の魔獣達の中で、戦わない者を避難誘導してくれるらしい。

「ありがとう。なら、すぐにこっちで段取りを整えるよ」
《ブルル》
「うん。なるべく早く始める」

他の魔獣達も、不安には思っているとのこと。だから、出来れば早く逃げたいと思っている子達を避難させたいらしい。さすがはボスだ。

「じゃあ、頼むね」
《ブルル》

コウヤは今度は調査を指揮しているユストが居る拠点へと転移した。

「ユストさん、居る?」
「は~い。コウヤさ……ま!? ちょっ、こっ」
「「「「「コウルリーヤ様!?」」」」」
「え、あ~……えっと、こんにちは?」

いつものコウヤとしてのノリで現れたコウルリーヤに、ユストだけでなく、その場にいたユースールと王都の従魔術師達も仰天した。だが、向けられた無邪気な笑顔に見惚れて、反射的にきちんと挨拶は返す。

「「「「「……こんにちは……」」」」」

だがその時、さすがに彼らの従魔達の目を借りる術が切れたのは、仕方のないことだ。

この後、主人に異変ありとのことで、慌てて従魔達が一斉に帰ってくることになるのだが、今はそれどころではなかった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎

しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。