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第十章
407 避難させる場所
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コウヤはコウルリーヤの姿のまま、迷宮化した土地に足を踏み入れた。
「……すごい……本当に景色が変わった」
普通に歩いて森に入り、ゾワリとする膜のようなものを通り抜けた途端、周りに夜が来た。このフィールドは少し肌寒い。まるで良く晴れた冬の夜のようだ。そして、森の木々はかなり減り、草原と言っても良いほどの景色になった。
数歩行くと、魔獣の姿が見える。所々に大きな岩があるので、それに身を隠し、気付かれない距離を取って立ち止まった。
「ん? あの子は……迷宮の子じゃない……か。一応は距離を取ってるんだ……よしっ」
野生の魔獣達は、しれっと自分達の縄張りに混ざるようになった迷宮の魔獣達を警戒しているようだ。まだこの場にも慣れていないのかもしれない。
「……気配もやっぱり違う……」
迷宮が、精霊が生み出した魔獣と、外の魔獣は違う。迷宮の魔獣は、言ってしまえば見せかけの幻影のようなもの。精霊の持つ特別な魔力効果で実体を持つが、本当に生きている訳ではない。
いわば、ゴーレムのようなもので、呼吸をしない。リアリティを追求する精霊によっては、食事もしているように見せかけるが、別に食事も必要としない。瞬きも必要とはしないが、呼吸と同じで、見せかける動きはする。
リアルな人形でしかないため、本来そこに生き物としての気配はない。その気配さえも精霊達による作られたものだ。
精霊は神に次ぐ世界を創る力を持っている。迷宮とは、精霊達が創り出した小さな世界。けれど、神ではないため、全て作り物の見せかけだった。
コウヤは気配を消して、ゆっくりと離れた場所に居る野生の魔獣へ近付く。
《っ!!》
「あ、待って。大丈夫。何もしないよ」
《ブルル……》
この魔獣は、猪のような姿をしている。そして、比較的賢い個体だ。
コウルリーヤとしての今のコウヤは、いつもよりも神気を纏っている。そのため、人を相手にした時とは魔獣の反応も違う。魔獣は本能的に害がないことを理解したのだ。
そっとその鼻先を撫でれば、大人しくなる。
「驚かせてごめんね。君たちみたいな元々ここに居た子たちだけ、避難させることってできるかな?」
《ブルル……ブルッ》
出来るが、どうしてだと問いかけられた。
「できれば移動して欲しい。どうも、あの子達を全部倒すか、あの子達のボスを倒さないと、このフィールドは消えないみたいなんだ」
この場に来たことでコウヤには分かった。迷宮より厄介なことに、このフィールドを司っているらしい本来の階層ボスを倒すか、魔獣を全滅させないことには、この場を元に戻せないのだ。
完全攻略をしなくては、この迷宮化は解決できない。かつて迷宮化を解決したベニや神子達は、大きな魔術によって、階層ボスごと吹っ飛ばしていたらしいのだ。それにより、解決していた。
その時よりも今回は範囲も広い上に、少しばかり迷宮のランクも上のようだ。そもそもが、一つの迷宮から成るものではなく、複数の迷宮の合作になっているらしく、場所ごとのランクの配置もバラバラだった。
《ブルルル》
「協力してくれるってこと? でも、冒険者の……人をここに入れることになるよ?」
魔獣達も、困っているようだ。自分達も戦うと伝えてきた。
《ブルっ》
「うん。まあ……そうだね。数で負けることはなくなるかな」
《ブルル!》
ならばいけるとのことだ。魔獣達も、下手に敵対しては危ないことを本能的に感じていたのだろう。迷宮の魔獣は、種が違っても同じ敵として向かってくるだろうと感じたのだ。よって、野生の魔獣達は、大人しく何でもない風を装ってきたらしい。
《ブルルっ、ブルッ》
「あっ、調べにきた従魔にも気付いてたんだね」
《ブルルっ》
「……君、結構長生き? というか……ここのボスかな?」
どうも、元はこの森の主の一体らしい。
《ブルル》
「そっか、お母さんが人と契約したことがあったんだね」
《ブルル!》
本当に賢い。この魔獣は、母親が従魔として人と居た頃の話を聞いていたらしい。その母親は、主人が亡くなってからこの魔獣を産み、人と生きたことで得た知識を色々と教わったと言う。
《ブルル》
「戦わない子たちの避難させる場所だね。後で従魔の子に案内させるよ。任せていい?」
《ブルル!》
他の、森の野生の魔獣達の中で、戦わない者を避難誘導してくれるらしい。
「ありがとう。なら、すぐにこっちで段取りを整えるよ」
《ブルル》
「うん。なるべく早く始める」
他の魔獣達も、不安には思っているとのこと。だから、出来れば早く逃げたいと思っている子達を避難させたいらしい。さすがはボスだ。
「じゃあ、頼むね」
《ブルル》
コウヤは今度は調査を指揮しているユストが居る拠点へと転移した。
「ユストさん、居る?」
「は~い。コウヤさ……ま!? ちょっ、こっ」
「「「「「コウルリーヤ様!?」」」」」
「え、あ~……えっと、こんにちは?」
いつものコウヤとしてのノリで現れたコウルリーヤに、ユストだけでなく、その場にいたユースールと王都の従魔術師達も仰天した。だが、向けられた無邪気な笑顔に見惚れて、反射的にきちんと挨拶は返す。
「「「「「……こんにちは……」」」」」
だがその時、さすがに彼らの従魔達の目を借りる術が切れたのは、仕方のないことだ。
この後、主人に異変ありとのことで、慌てて従魔達が一斉に帰ってくることになるのだが、今はそれどころではなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
「……すごい……本当に景色が変わった」
普通に歩いて森に入り、ゾワリとする膜のようなものを通り抜けた途端、周りに夜が来た。このフィールドは少し肌寒い。まるで良く晴れた冬の夜のようだ。そして、森の木々はかなり減り、草原と言っても良いほどの景色になった。
数歩行くと、魔獣の姿が見える。所々に大きな岩があるので、それに身を隠し、気付かれない距離を取って立ち止まった。
「ん? あの子は……迷宮の子じゃない……か。一応は距離を取ってるんだ……よしっ」
野生の魔獣達は、しれっと自分達の縄張りに混ざるようになった迷宮の魔獣達を警戒しているようだ。まだこの場にも慣れていないのかもしれない。
「……気配もやっぱり違う……」
迷宮が、精霊が生み出した魔獣と、外の魔獣は違う。迷宮の魔獣は、言ってしまえば見せかけの幻影のようなもの。精霊の持つ特別な魔力効果で実体を持つが、本当に生きている訳ではない。
いわば、ゴーレムのようなもので、呼吸をしない。リアリティを追求する精霊によっては、食事もしているように見せかけるが、別に食事も必要としない。瞬きも必要とはしないが、呼吸と同じで、見せかける動きはする。
リアルな人形でしかないため、本来そこに生き物としての気配はない。その気配さえも精霊達による作られたものだ。
精霊は神に次ぐ世界を創る力を持っている。迷宮とは、精霊達が創り出した小さな世界。けれど、神ではないため、全て作り物の見せかけだった。
コウヤは気配を消して、ゆっくりと離れた場所に居る野生の魔獣へ近付く。
《っ!!》
「あ、待って。大丈夫。何もしないよ」
《ブルル……》
この魔獣は、猪のような姿をしている。そして、比較的賢い個体だ。
コウルリーヤとしての今のコウヤは、いつもよりも神気を纏っている。そのため、人を相手にした時とは魔獣の反応も違う。魔獣は本能的に害がないことを理解したのだ。
そっとその鼻先を撫でれば、大人しくなる。
「驚かせてごめんね。君たちみたいな元々ここに居た子たちだけ、避難させることってできるかな?」
《ブルル……ブルッ》
出来るが、どうしてだと問いかけられた。
「できれば移動して欲しい。どうも、あの子達を全部倒すか、あの子達のボスを倒さないと、このフィールドは消えないみたいなんだ」
この場に来たことでコウヤには分かった。迷宮より厄介なことに、このフィールドを司っているらしい本来の階層ボスを倒すか、魔獣を全滅させないことには、この場を元に戻せないのだ。
完全攻略をしなくては、この迷宮化は解決できない。かつて迷宮化を解決したベニや神子達は、大きな魔術によって、階層ボスごと吹っ飛ばしていたらしいのだ。それにより、解決していた。
その時よりも今回は範囲も広い上に、少しばかり迷宮のランクも上のようだ。そもそもが、一つの迷宮から成るものではなく、複数の迷宮の合作になっているらしく、場所ごとのランクの配置もバラバラだった。
《ブルルル》
「協力してくれるってこと? でも、冒険者の……人をここに入れることになるよ?」
魔獣達も、困っているようだ。自分達も戦うと伝えてきた。
《ブルっ》
「うん。まあ……そうだね。数で負けることはなくなるかな」
《ブルル!》
ならばいけるとのことだ。魔獣達も、下手に敵対しては危ないことを本能的に感じていたのだろう。迷宮の魔獣は、種が違っても同じ敵として向かってくるだろうと感じたのだ。よって、野生の魔獣達は、大人しく何でもない風を装ってきたらしい。
《ブルルっ、ブルッ》
「あっ、調べにきた従魔にも気付いてたんだね」
《ブルルっ》
「……君、結構長生き? というか……ここのボスかな?」
どうも、元はこの森の主の一体らしい。
《ブルル》
「そっか、お母さんが人と契約したことがあったんだね」
《ブルル!》
本当に賢い。この魔獣は、母親が従魔として人と居た頃の話を聞いていたらしい。その母親は、主人が亡くなってからこの魔獣を産み、人と生きたことで得た知識を色々と教わったと言う。
《ブルル》
「戦わない子たちの避難させる場所だね。後で従魔の子に案内させるよ。任せていい?」
《ブルル!》
他の、森の野生の魔獣達の中で、戦わない者を避難誘導してくれるらしい。
「ありがとう。なら、すぐにこっちで段取りを整えるよ」
《ブルル》
「うん。なるべく早く始める」
他の魔獣達も、不安には思っているとのこと。だから、出来れば早く逃げたいと思っている子達を避難させたいらしい。さすがはボスだ。
「じゃあ、頼むね」
《ブルル》
コウヤは今度は調査を指揮しているユストが居る拠点へと転移した。
「ユストさん、居る?」
「は~い。コウヤさ……ま!? ちょっ、こっ」
「「「「「コウルリーヤ様!?」」」」」
「え、あ~……えっと、こんにちは?」
いつものコウヤとしてのノリで現れたコウルリーヤに、ユストだけでなく、その場にいたユースールと王都の従魔術師達も仰天した。だが、向けられた無邪気な笑顔に見惚れて、反射的にきちんと挨拶は返す。
「「「「「……こんにちは……」」」」」
だがその時、さすがに彼らの従魔達の目を借りる術が切れたのは、仕方のないことだ。
この後、主人に異変ありとのことで、慌てて従魔達が一斉に帰ってくることになるのだが、今はそれどころではなかった。
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