元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十章

406 称号の落差

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王と王子に詰め寄られるタリスに、シーレスも笑いながら近付いてくる。

「なんだか楽しそうですね」
「シーレス殿も聞いてください。あの入手不可能な聖魔教の食堂の『プレミアムお食事券』をニールが手に入れていたって言うんですよ! 私も誘って欲しかった!!」

アビリス王の本音がダダ漏れだ。

「ええっ、ニールちゃん良いな~。僕も試作の時にしか食べてないんだよ?」
「え、タリス殿……試作を……?」

タリスの言葉にすかさずジルファスが反応する。

「いいでしょ~。コウヤちゃんが『どうですか?』って。もうねっ。めちゃくちゃ美味しいんだよっ。それも、なんかアレ、本当に運が上がるみたいだね」
「「はい?」」

アビリス王とジルファスが、目を丸くする。そして、揃って身を屈め、タリスと内職話をするように口元に手を当てる。

「た、ただの噂だって聞いてますよ?」
「私も聞いたが……ちょっと良いことあるって……寧ろ、それが手に入ったことが幸運だしとか……」

噂があったのだ。その食事券を手に入れた者は運気が上がると。だから、それはその食事券を手に入れられた幸運を思ってのことだと。

タリスも小声になる。

「いやいや、あのね。少し前に気付いたんだよ。ほら、僕、鑑定持ってるでしょう? それで、いつもの癖でたまたま『昨日、家族で女神の食事をしてきたんだ!』って自慢してる子のステータスを見ちゃったんだけど……」
「「「「っ……」」」」

アビリス王とジルファスだけでなく、この時には、ベルナディオとシーレスも少し身を屈めて聞いていた。

「出てたのよ。称号に【神の聖餐:幸運】って」
「「「「っ、!」」」」

四人は揃って、確認のためにニールへ顔を向けた。

「……」

きちんと聞いていたらしいニールは、目を逸らしながらも正直に答えた。

「っ……あります……」
「ね?」
「「「「っ!!」」」」

四人はニールを見て、目を丸くしたまま動かなくなった。ニールは絶対に目を合わせないように必死だ。

「後で神官の子達にも確認したら、『コウヤ様が本気で考えられたレシピなのでっ』ってドヤ顔されたのよ。なんか、栄養とか健康とかも考えて作ったレシピみたいでね。人によってはその後に【健康】とか【美肌】とか出るみたい。因みにニールちゃんは?」

未だに目を逸らしたままのニール。視線は集まったままだ。その目は衝撃から嫉みに変わってきている。

「……健康が……」
「「羨ましすぎる!」」

王と王子が大人気ない一言を口にしていた。

「因みに僕は美肌~。モチモチなのよ~」
「その効果はいつまで……」

ベルナディオが泣きそうな顔で確認する。

「それがねえ。なんか、切れる感じがなくて。それ、コウヤちゃんに確認しようと思ってたんだけど、忘れてた」

迷宮化のことで忙しくなってしまい、未だにそれは確認できていなかった。

だが、そこにその答えがやって来る。

「聖餐の効果なら、半永久的よ♪  調薬とか研究した成果でね♪」
「「「エリス様っ」」」
「は~い♪  お待たせ~。そろそろ開始時間よ」

エリスリリアが部屋に現れた。これに、他国の者たちは一瞬、息を止める。女神は美しさだけでなく、その存在が心を、目を惹きつけてしまうのだ。

だが、エリスリリアは気にせず続けた。片頬に手を当てて微笑む。

「コウヤちゃんは、昔から薬じゃなくてちょっとした食事でも回復を早めたり、解毒効果や美肌効果のあるものを研究してたのよ。それが、本格的に料理をする様になって、完成したみたいなのよね~」
「回復や解毒も……」
「食事でそんなことが……」

食事療法の考え方が、コウルリーヤには既にあった。いくら薬で状態が良くなったとしても、食事を取らなければ本当に良くはならない。それに、薬は専門の知識がなくてはいけない。

だが、食事ならば、効果も緩やかだし、絶対に取らなくてはならないものなので、何かと渋られることも少ない。当然手間はかかるが、薬よりも気安く扱えるだろうと考えたのだ。

「美味しくて効果も抜群なんて、お得でしょ?」

エリスリリアの笑みに、何のことだかわからない他国の者たちまで首振り人形のように頷きまくっていた。

その時だ。

「あら?」

エリスリリアが首を傾げ、後ろを振り返る。そこに、リクトルスがやってくる。

「エリィ気付きましたか?」
「ええ……これは……コウヤちゃん?」

立ち会いに参加する聖魔教の代表であるベニとルディエを伴い、やって来たゼストラークも当然気付いていた。

「あの者達は、相当怒らせたようだな」

感じたのは、新たな称号が生まれたこと。

「新たな称号が『神を失望させた愚か者』とはな……中々、これは面白いことになったものだ」
「……父上笑っ……怒っていますね……」
「そうよね……コウヤちゃんがこれを認めちゃってるってことだものね……効果もちょっと強めだわ……相当のおバカさん達だったのね」

ゼストラークは口元は少し笑っていたが、目は怒っていた。

「え? なに? 新たな称号? コウヤちゃんを本気で怒らせる事態とか、誰が?」

タリスだけはいつも通りだ。そして、ベニが外へ目を向けながら答えた。

「師匠を裏切ったバカエルフ共だよ」
「ああ~……そういえば、お仕置きして来るって言ってた……え? 今?」
「テンキ殿が大暴れしたようだよ」
「うわ~、原型留めてるといいね……」

テンキの教官としての容赦ないシゴキは知っているタリスやジルファス、ニールは遠い目をする。

「っていうか……称号の落差……すごいね……」

一方は幸運を約束するもの。そして、新たなそれは明らかに悲運を呼ぶものだ。

微妙な雰囲気が広がる中、会議は始まるのだった。

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三日空きます。
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