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第十章

405 プレミアム……

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それはテンキが九尾の姿を解放し、バチバチと電撃を放っている頃、会議は時間通りに始まろうとしていた。

その部屋は一番上に立つ城の二階部分。

城の見た目は日本の城という感じだが、板張りの床に机と椅子も入っている。中は色々と使いやすいようにアレンジされていた。

窓も大きく取られていて、空が見える開放的なものだ。

案内されて集められた王達は、あまりの驚きに国など関係なく話していたりする。それも椅子に座らず、窓に寄っていくのだ。

「これが空の上とは……」
「美しいものですなあ……」
「雲を下に見るなど……考えたこともなかった……」
「今にも触れられそうに近い……」
「全く揺れないというのもすごい……」
「そうですねえ……」

飛行機のように上昇や下降時に気圧の変化も感じず、浮く感じもない。地上と同じ条件になっている。更には、高所恐怖症の気がある人にも平気なように、精神安定も少しばかり作用していたりする。

創造神であり、技巧の神であるゼストラークが本気を出して造り上げたものだ。手抜かりはない。

使者である神官達からはゼストラークの造った城だと聞いていても、アビリス王達以外は、まだ半信半疑のようだ。その姿を見たことも感じたこともないのだから仕方がないだろう。

そして、アビリス王達はといえば、驚きや感心よりもここでは畏れが強いようだ。

「やはり、ゼスト様はすごいな……」
「どうしましょう。父上……こんな物までお造りになるゼスト様が普通にドラム組や大工達に混ざっていたんですよ。現在もですけど」
「……ヤバいな……」
「父上……叔父上の口調が……」
「ヤバいなっ」
「落ち着いてください、父上っ」

王都の拡張工事に、しれっと混ざっていたことは、アビリス王達も知っている。だが、こんな物を造ることができるひとに、それをこちらからお願いするのでもなく手伝ってもらていたのだと思うと、今更ながらに震えてくる。

一歩後ろにいた宰相のベルナディオの目は、心なしが光が薄くなっていた。

「そうですね……いつの間にかシュヴィが友人のように気安い仲になっていると聞いて……今でも信じられません……」

ベルナディオがシュヴィと呼ぶのは、ドラム組の棟梁で甥っ子のシュヴィアのことだ。

これにニールが情報を付け加える。

「つい先日は、ゼスト様とご一緒に下町の酒場で飲んでいたという情報があります」
「っ……そんなっ、酒場にお連れするなんて……っ、なぜ、ユースールではなくこちらで……っ、失礼があったらどうするのです……っ」
「他の大工の棟梁達との懇親会だったそうです」
「……懇親会……っ」

ユースールならば、個室完備の『満腹一服亭』があるとベルナディオはニールから聞いて知っている。なぜ、よりにもよって王都の下町でなのかと思ったようだ。しかし、王都の大工達が居たなら、そう簡単にユースールへ移動は出来ない。何より、王都の大工達が選んだとっておきの店だったはずだ。

ベルナディオの瞳から光が消えた。畏れ多すぎると呟き、今にも崩れ落ちそうだった。

ニールは更に情報を開示する。

「ご心配なく、ゼスト様に気付いた騎士達が、密かに店の警護をしておりました。ハメを外しそうな者は速やかに正気に戻し、退店させたそうです。失態を見せるなどのご迷惑はかけておりません」

非番で飲みに来ていた騎士がたまたま居合わせ、慌てて警護の算段を付けたらしい。この日、周辺の店でも失態を晒す者は居なかったという。

「……そうでしたか……いえ、良くはないのですが……良かった……その騎士達には、きちんと労いをかけないといけませんね」
「既に、大司教様より、お礼として教会の食堂でのプレミアムお食事券が配布されております」
「プレミアム……それは……今後の警備にも力が入りそうですね……」
「それはもう」

大きく頷くニール。今現在、騎士や兵士達だけでなく、町の人々も欲しがるのは、お金よりも食堂のこの券だったりする。

提案したのはコウヤだ。ベニ、セイ、キイはその役職からか、中々外に出なくなった。元々、それほど外に出るような人たちでもなかったというのもある。神官は教会に居るのが当たり前だ。

しかし、無魂兵だった者たちは、逆に外に出ることの方が当たり前になっており、後から聖魔教会に来た神官達も、それに倣って外出は多い。前者に至っては、平気で国も出るほど、活動範囲が広い。

ベニ達は運動不足ということはないが、散歩ということも中々しない。それが気になったコウヤは、この券をベニ達に渡した。


『お散歩に出て、ばばさま達が気になった人にご褒美として渡してよ。良いことしてた人とかにね♪』


食堂で特別なデザートもドリンクも、お土産まで付くプレミアムセットの無料券。それも、本人認証付きで、家族や友人五人まで有効。ただし、使用期限がひと月だ。とはいえ、逃す者は今のところいない。

そして、いつしかこれは『女神のプレミアムお食事券』と呼ばれ、それが手に入ったら運気も爆上がりすると評判だ。

今や美人な大司教達に出逢おうと、住民達は活気を持って仕事や生活に励んでいる。少しでも良いことをしようと心がけ、犯罪率が急激に減っていた。

「私も食べたことないのに……」
「私も……」
「私もです……」
「……」

いいなと羨ましがる王に王子に宰相。ニールは賢く口を噤んでいたが、三人は流さなかった。

「「「ニール」」」
「……申し訳ありません……いただいた事がございます」
「「だと思ったっ」」
「やはりですか……」
「……」

ニールは目を逸らした。

そんな話は、部屋の中に居る者たちなら聴こえている。だが、誰もそれが何の話か分からない。この場でとても自然体でいられるこの四人に注目が集まるのは当然だった。

そこへ、タリスと冒険者ギルドの統括シーレスがやってくる。

「なになに~。ニールちゃんが何か誤魔化してる?」
「っ、聞いてくださいよタリス殿っ」
「ニールがズルいんです!」

アビリス王とジルファスがタリスに詰め寄って行った。

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