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第十章

401 最強過ぎる……

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三十分ほど経っただろうか。

テンキはエルフ達の命を奪ってはいないらしい。命は簡単に奪うべきものではないのだと、テンキが迷いをチラリと感じたのは、恐らくこれまで接してきた冒険者達や、関わりを持った人たちとの間で生まれた思いだろう。

そして、こちらも幸いなことに、テントの全滅は免れた。

「潰れたのは二つだね。防御の付与をもっと強めにするべきかな?」
「いやいや、充分だから。普通はびくともしないからっ」

ジンクは呆れ顔で叫ぶ。コウヤが普及させたテントは、普通では考えられない、やり過ぎなくらいの術式が付与されている。時代が違うとか、そういう次元も越えているのだ。

いざという時、避難所としても使えるように作られたテント。仮に集団暴走スタンピードの直中でも無事だろう。それだけの防御の術式が込められている。

「テンキが凄かったってことだね。それも晴れて完全体! やっと九尾が解放されたしねっ」

レベル上げの成果ではなく、怒りによる解放なので心配だったが、存在が変質している感じもないため、念願叶ったと素直に喜んでいいだろう。

しかし、この世界の人にとって、九尾なんてものは想像すらしたことのない存在だ。いわば、この世界での幻獣扱いになる。

「そもそも、九尾って何!? ドラゴンよか危ない感じがすごくするんだけど!!」
「ドラゴンより強いと思いますよ。飛べるかどうかは分かりませんけど……重力制御出来るみたいですし、落とされて終わりでしょうね。ドラゴンは落としたもの勝ちですから」
「昔の話? 昔の話かな!? これまで生きてきて、そんなにドラゴンに出会う機会なんてなかったけど!?」

日に一、ニ体はドラゴンを見るというのが普通だった大昔。凶暴な個体も多かったので、ドラゴンを倒すことにも慣れていた。そんな頃を思い出して懐かしく思うコウヤだ。

「とりあえず、エルフ達の様子を見ましょうか」
「生きてるみたいだけど……まだうめき声が聞こえるよ?」
「生きてる証拠ですねっ」
「……うん……」

今日のコウヤの笑顔は黒い気がする。

ジンクもあんなことを言うようなエルフ達に、コウヤ一人で会わせるのは嫌だったらしい。だから、まだテンキから発せられる威圧に動揺しながらも、コウヤと共にそこに戻った。

エルフ達はただの人よりも体は頑丈だ。魔力が高いため、常に身体強化へ回す余裕がある。そうして少しでも日常生活の中で魔力を消費するのが、彼らのステータスであり、自然なことだった。

お陰で、多少血を吐いたりしているし、骨も折れているようだが、致命傷にはならなかったようだ。

野営地には、クレーターがいくつものできている。解放したばかりの力だ。テンキも制御しきれなかったのだろう。

それでも、テントを壊せばコウヤが困ると思ってか、なんとか最小限の被害で治めたようだ。

「うわ~。めり込んでる?」
「息できてるのが不思議だね……」
「辛うじてって感じかな?」

すぐに助けようとせず、クレーターの中を覗き込んで、埋まりかけているエルフ達を確認する。

「さてと……テンキ。落ち着いた?」
《……主……申し訳ありません。少々、我を忘れました……》
「うん。暴走してたね。けど、俺のために怒ってくれたでしょ? 構わないよ。ベニばあさまのためにも、これは必要なことだったと思うからね」
《はい……》

思い知らせるというのは、必要なことだった。彼らが敵わないと思わせる、絶対の力というのを見せつける。そうすることでしか、彼らはもう聞く耳を持っていなかった。

《引き上げます》
「うん」

テンキは九尾としての力で、彼らを今度は浮き上がらせた。埋まっていた顔は、涙や鼻水、涎や吐血した汚れで見るも無惨な様子になっていた。

「ここまでくると、美しさもなにもないね」
「いや、コウヤくん……さすがに殺されるかもしれない瀬戸際に、美しさとか保っていられる余裕ないから……」
「そこは頑張るのかなって。彼ら、意外とナルシストな所あるでしょ?」
「……ある……と聞いたことはある……」
「オシャレとか、女の人って寒くても辛くても頑張るじゃない? だから、どうかなって」
「……無理じゃないかな……」

そんな話で盛り上がりながら、空中に浮かぶエルフ達が、目を覚ますのを待つ。

《主様の前で寝こけるか……どこまでも無礼なっ》
「いやいや、彼ら気絶して……っ」

ジンクの言葉など無視して、テンキが尻尾を振ると、電撃が走った。その衝撃で蘇生するように息を吐き、目を覚ましたエルフ達は、焦点を彷徨わせる。

「うわ~……もう、ホント容赦ない……」

コウヤにも、ゼストラーク達にも失礼な発言をしたおバカさん達という認識はジンクにもあるが、目の前のこの惨状を見ると同情もしたくなるのだろう。

「生きていたなら、今度は死ぬまで罪を償うべきだね」
《はい。救済措置ではありません。寿命でしか死なず、狂わぬ呪いを掛けました。すり潰され、痛みに苛まれても、寿命が来ねば終わることは許されない。許さない……》
「「「「「っ……!」」」」」

その言葉に込められた怒気に、エルフ達は正気付く。そして、ゆっくりと言われた言葉を反芻して、真っ白になった。ガクガクと体が震えているのは、恐怖のためだ。

「テンキの呪いは、テンキにしか解けないから、いいかな。ゼストパパ達も納得するよ」
《は! 何がありましても、解かぬとゼストラーク様達の前でお誓いいたしましょう》
「……最強過ぎる……神の眷属……怖っ」

ジンクまで顔色が悪くなっていた。

そこで、エルフの一人がようやくコウヤの正体に気付いたようだ。最初に目を合わせた時にも、鑑定される感覚があった。しかし、レベル差もあり、出来なかったのだろう。

ここで、テンキは隠す気がなかったこともあり、普段は隠蔽しているテンキのステータスが見えたようだった。そして、その主人ということで気付いたのだ。

「っ、コ、コウっ、コウルリーヤっ……さまっ……っ」

震える声で、なんとかそう彼は呟いたのだ。

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二日空きます。
よろしくお願いします◎
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