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第十章

399 頑固だよ

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国際会議が行われる当日。

コウヤはゼストラーク達と冒険者ギルドの代表である統括、グランドマスターであるシーレスとタリスに会議進行を任せ、テンキを連れて迷宮化対策のための野営地の一つへと転移で飛んだ。

ここには、コウヤが普及させた色付きの大きなテントが五つ建っている。既にこの迷宮化の問題に冒険者達が当たることは決定しており、そのため、野営地の設定と整備はもうはじめていた。

《冒険者達への通達は昨日されたのでしたか》

本来の姿。テンキの場合は省エネモードである小さな狐の姿で隣りを歩きながら、確認してくる。もっさりした尻尾は、今や八本。九本となるいわゆる完全体(?)の九尾になれるのも、もうすぐだろうか。

「そう。まだこの野営地には来てないけど、近くの町のギルドには集まって来てるみたいだね」

テンキは何度かここへも行き来していたため、周辺の人の動きが激しくなっていることに気付いたのだろう。

昨日の内に冒険者ギルドでは、冒険者達へ緊急招集が出ている。説明も今日には済んでいるはずだ。

《冒険者達の協力には問題がないようで安心しました》
「異変を感じていた人は多かったみたいでね。事実を知れて、納得もできたんじゃないかな」

迷宮というか、精霊の力によって、その土地に入ることを避けるように意識操作されていたようだ。迷宮化を意識していない者たちは、知らない内にその土地を避けさせれられていたのだ。

ただ、それは土地が安定するまでの時間稼ぎのようなものだったらしい。今ならば迷い込むということもあり得る。だが、冒険者はたいてい一度通ったルートを行き来する。そのため、迷宮の方の準備が整い、入れるようになった所で、そこは通らなくなっていたというわけだ。

しかし、中には以前は通れたのにと、違和感を覚える者はいたようだ。その違和感の正体が、今回分かった形だった。

「で、そうすると、冒険者はアレ……冒険者だから」
《好奇心ですか……》
「危険って言われると余計に気になっちゃうんだよね~」

土地が迷宮化しているのだと説明された冒険者達は、意味が分からないながらも『えっ、なにそれっ、気になる~』という具合に好奇心が優ったらしい。

《ですが、今回のは、ダンゴでさえ未知数な部分が多いと言っていました……無謀に挑む者は危険です》

ただの迷宮とは違う。色々と調べて分かったが、迷宮がそのまま外になっただけだろうと簡単に考えていると、痛い目に合いそうだ。

「まあね。だから、低ランクの人たちや、迷宮にも慣れてない人たちは、町の守りに当てることになる。普段の仕事も滞っちゃうのは困るからね」
《冒険者ギルドの活動を止めるのは、良くありませんね……物流も止まりそうです》

冒険者ギルドの影響力は高い。今回は各所で同時に集団暴走スタンピードが起きているようなもの。それでは、社会の機能が国単位で止まってしまいかねない。

「そう。だから、今回は騎士さんとか、領兵の人たちにも、全面協力してもらわないといけないんだ。冒険者の数が一気に減るようなものだからね」
《それも会議で……?》
「上の判断なら、騎士さん達も動かざるを得ないでしょう?」
《なるほど……町に残った冒険者たちに協力するようにと命じてもらうわけですね》
「そういうこと」

集団暴走スタンピードの時でも、小さないざこざが冒険者と兵の間で起きたりするのだ。残るのはほとんどが低ランクの冒険者達になりそうなので、余計にトラブルを起こしやすい。それを少しでも少なくなるように手回しするのだ。ギルド職員も、手が足りなくなるのだから。

「でも、国への一番の要請は今回の冒険者達への報酬だから」
《ほとんど全冒険者が出るからですね……依頼主なしですし》
「うん。お金出す人いないからね。でも、冒険者は報酬を貰って仕事するものだから」

今日の会議では、各国で情報を共有することもあるが、一番の理由は経費の確保。

世界中で協力し合わなくてはならない事態なのだ。冒険者の義務というわけではない。しかし、冒険者でなくては対処できない問題だ。そこをしっかり国に納得してもらい、報酬を出してもらうのだ。

《他の国の王も居る上に、ゼスト様方がいらっしゃいますしね……渋れないでしょう》
「ねっ。ちょっと申し訳ない気もしなくもないかな」
《いえ。正当な主張です》

寧ろお願いしますと頭を下げてくるべきだと、テンキは鼻息荒く断言していた。

コウヤとテンキは、黒のテントに入る。そこが問題のある者を留めておく牢のような役割の場所として設定されていた。

閉じ込める必要のある者に、このテントから出られないという制約をかけた手錠をかける。すると、封じの結界のように、テントから出られなくなるのだ。

これは、大きな盗賊討伐の折や、今回のような大きな仕事の時、捕まえた盗賊を一時的に閉じ込めておくのはもちろん、作戦の妨げになる問題を起こした冒険者を集める場所だった。

ここには今、師のスキルを奪ってきた者たちが集まっていた。

「お疲れ様、ジンクおじさん」

不貞腐れた様子で縛られて転がされている数人のエルフ達を、困った表情で見張っていたのは、ジンクだった。

「おう……こいつら、頑固だよ」
「ベニばあさまも、顔出してたんだよね?」
「そう。保護してきた王族達の相手をする合間にね」

ベニとルディエは、神教国によって病を得ていた王族の関係者達を攫いに行ってくれた。その様子を見ながら、時折ここに来ては、彼らを諭してくれていたのだ。

因みに、治療中の者たちも、意識がはっきりするようになったため、今回の会議の場に、最後には連れて行くことになっている。どんな反応をするか楽しみだとベニは笑っていた。

「ただ、なんかベニちゃんを怒らせるようなこと、この子達が言ったっぽくて、珍しく匙を投げたみたい」
「ベニばあさまが怒るって……何言ったの?」
「「「「「っ!!」」」」」
《っ、主?》

テント内に静かに、コウヤの怒気が広がった。

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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎

引き続き気分転換、暇つぶし用の新作
連日公開中です。
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