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第十章

397 幕開けを

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国際会議を予定されている前日。夕刻に近付く頃。

会議参加者達の回収のため、ユースールに近い深い森の向こう、大きな渓谷の間から、それはゆっくりと空へと浮上した。

白い縦長の巻き貝のような見た目。しかし、その一番天辺には、城が建っている。この世界にはない造りの城。日本の城だ。ほとんど木でできており、その木は輝くほどに白い。瓦は軽量化と固定化がしっかりと効いている。ただし、色は黒ではなく夜空に溶ける煌めく濃紺の色だった。

そんな天辺に乗っている城など、上空に吹き荒れる強風や雷雲に壊されてしまうように見えるが、この巻き貝全体を結界で覆っており、その結界の中の気流や気圧なども調整しているため、実は海の中にも入ることが可能だ。

そんな説明を、城の天守閣で外を眺めながら、製作したゼストラークから聞いていたコウヤ、リクトルス、エリスリリアは、それぞれ違う表情で感想を告げる。

「うわ~。ゼストパパ、すごく楽しんだんだねっ」
「うむ」

コウヤはすごいな、いいなと、キラキラとした目を時折ゼストラークに向ける。

「父上……自重しなかったんですか……」
「うむ」

リクトルスは頭痛がするのか、こめかみの辺りを、何度も揉んでいる。

そしてその時、巻き貝の中間辺りから、いくつもの空飛ぶ馬車が発進して行った。それを見てエリスリリアが困ったように片方の手を頬に当てて、少し首を傾げて見せる。

「予想はしてたけど、ついにやっちゃったって感じかしら?」
「……うむ……」

ここでようやく、ゼストラーク自身も、やり過ぎたかなと迷いを見せた。

出てきた馬車は、速度を調整するように巻き貝の周りを右回りで回り出す。馬車を引くのは、真っ白なペガサスの姿形をしたゴーレムだ。こちらも、特殊な結界で覆っており、気圧などの調整がされている。

この世界、飛行機はないし、スキューバもしない。気圧で耳がおかしくなる経験をしたことがある者はほとんどいないはずだ。招く客人達に不快な思いをさせたくはない。

「あのゴーレムはコウヤちゃん?」
「うん。車体や操縦席はゼストパパが最初に造って、その後量産の手伝いはしたけど」
「コウヤは仕事が早い」
「えへへ。楽しかったよ♪」

既にきちんとした見本があるなら、作業は滞ることなく進められる。量産は得意だった。

「今回は会議だけだから、遊園地や温泉施設は開放しないのが残念だよ。ね~、ゼストパパ」
「そうだな」
「……父上がそんな自信満々で……どんな施設に……?」

リクトルスは不安で仕方ない。そして、それを裏付けるように、ゼストラークが嬉しそうに呟いた。

「自重しないというのは、楽しいものだな」
「「!!」」

リクトルスとエリスリリアは二度見した。ゼストラークは、少し興奮気味の、嬉しさが溢れんばかりの表情をしていたのだ。

そして、自重してない宣言。

聞き間違いかと二人は思わず顔を見合わせる。

「たまには思いっきり楽しまないとねっ」
「うむ」
「「……」」

リクトルスとエリスリリアは、しばらく思考停止した後、この世界は主神であるゼストラークのもの。我慢しなくていいのかなと考え直し、全て受け入れることにする。

その間に、ペガサスが引く空飛ぶ馬車は、キレイに眼前に並んでいた。ホバリングもお手のものだ。間隔も線を引いたように等間隔になっており、操縦者達の腕も良いことが分かる。

指揮者として最前に出てきたのは、ペガサスに乗った人化したテンキだった。

《これより、会談出席者の迎えに行って参ります》

テンキの言葉と同時に、操縦席に乗っている神官達も立ち上がって礼をする。それはとても壮観だった。空中に並ぶ馬車というだけで圧巻だ。リクトルスとエリスリリアの表情が少し引きりそうになっているのは彼らには見えないので良しとする。

「気を付けて行って来てね」

コウヤが最初に声をかける。それに続いて、リクトルスが小さく息を吐きながら口を開く。気持ちは切り替えなくてはならないとリクトルスはわかっている。

「……愚かな振る舞いをする者には、相応の対応をすることを許します」

キラリと神官達の目が煌めいた気がした。

「ふふふ。そうね。無理にでも連れてきて良いわ。今回は私たちも出るのだから。ね♪」
「「「はい!」」」

これはもう楽しんだ者勝ちということだろうと、エリスリリアも自重を辞める決意をしたようだ。

そして、ゼストラークが一歩踏み出した。

「ここが始まりだ。新たな時代の幕開けを……始めよう」
「「「「「はっ!」」」」」

神とこの世界に生きる人との共同戦が始まる。

**********
2022年明けましておめでとうございます!
今年も頑張って参ります。
次回、二日空きます。
よろしくお願いします!
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