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3巻

3-3

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 特筆事項② 作戦会議が行われました。


 混乱のなか出発し、無事マンタに乗った一行が『霧の狼』のアジトの調査を終えて帰還きかんした翌日。
 ギルド寮の最上階に併設へいせつされている大講堂では、報告会と作戦会議が行われようとしていた。メンバーはタリス、エルテ、コウヤはもちろんのこと、領主のレンスフィートと次期領主で領兵長のヘルヴェルス、今回同行した副隊長とソルア、ルディエとルディエに従う女性――いつか教会で挨拶あいさつを受けたサーナの九人だ。
 タリスが辺りを見渡して尋ねる。

「……ねえ、コウヤちゃん? こんな会議室があるなんて、今日初めて知ったんだけど……」
「あ、はい。初めてのお披露目ひろめですね。内装に手間取てまどりまして。なんせ、完全防音、耐火性能、モニター機材、収納しゅうのう可能な椅子といったものを全部揃えるには時間がかかるんですよ」
「そ、そう……」

 この講堂、間仕切まじきりによって、横に三つに分けられるようになっている。今いるのがその一つだ。舞台には、モニターや防音機能を取り付けるならとひそかにカラオケセットまで用意した。凝りに凝った結果、今日ようやく、この大講堂の体裁ていさいが整ったのだ。

「因みに、ここは会議室じゃありません。本来の会議室はこの下の階に大中小と三部屋用意するつもりですけど、モニターの製作が間に合ってなくて……すみません」
「いやいやっ、まだなにか用意するつもり!?」

 タリスの顔は引きつっていた。
 レンスフィート達もそうだ。平然としているように見えるのはルディエだけだった。そして、ソルアが気付いてしまった。

「あ、あの……コレは……」
「「「「「……っ」」」」」

 コウヤ達がいるのは実は舞台の上。カーテンによって閉め切られていたのだが、外が気になってめくってみたらしい。その先には大きなが広がっている。歩けば床もキュッキュッと鳴るはずだ。傷が付かないように特別な加工もしている。

「これは……っ」
「あ~、まだ未完成でお恥ずかしいです……」
「これで未完成!?」

 驚かれた。だが、コウヤの思う大講堂兼、体育館はまだまだ完成ではない。

「バスケットゴールの取り付けもまだですし、暗幕も用意できていないので、まだまだです!」
「「「「「……」」」」」

 他の面々にはよく分からなかったようだ。当然だ。この世界にバスケはない。

「な、なあ、下りてみてもいいか?」
「いいですよ」
「あ、なら私もよろしいですか?」
「はい! なんなら走ってみてください。皆さんの靴はすべらないようになってますし」
「は、はあ……」

 意味が分からなかったようだが、ソルアとサーナが飛び降りる。そして、一気に後ろまで走っていった。キュキュッという独特の音。体育館専用のフローリング処理は上手くできているようだ。コウヤが満足げにしていると、エルテが自信のない声音で話しかけてくる。

「もしや、入り口の板の魔導具が、靴になにか加工を……?」
「はい! あの板の上を歩くことで、靴に洗浄と、滑らないように付与をかけてます。帰りにもう一度歩くと、付与が解除されるようにしてありますよ」
「……」

 さすがに全員分の靴を用意することはできない。ならばと付与のできる特殊な魔導具を作ってみたのだ。見た目はただの玄関マットだ。エルテが頭を抱えた。一方、レンスフィートとヘルヴェルスは体育館を見下ろしながら呆然としていた。

「この広さ……どれだけの人数が……」
「かなり広いですね……」
「あ、一応、この町の三分の二は収容できる計算です。地下に整備中の音楽堂も同じくらい収容できるので、何かあった時の避難場所に使ってくださいね」

 もちろん、結界が張ってあるので、ドラゴンが何体来ようとも壊れない。コウヤには当たり前過ぎる対策なので、それはあえて口にしなかった。

「「「……」」」

 副隊長も加わって三人で頭を抱えていた。

「え? 待ってっ、地下に音楽堂って言った?」

 タリスは聞き逃さなかったらしい。

「はい! けど、音響の調節が難しくて……何より、奏者そうしゃを育てないことには……あ、でも、ここにもグランドピアノは一台いりますよね」
「……」

 タリスまで撃沈げきちんしたことで、コウヤは周りを見回す。ルディエさえ呆れているように見えるのは気のせいだろうと思うことにする。凝り性な性格は、自重の文字を見えなくしてしまうらしい。


 コウヤの自重消失事件から数分後。落ち着いてきたメンバーは会議の開始時刻を待っていた。

「時間ですので、回線をつなげます」

 コウヤは手元に用意したタブレットでモニターを操作する。すると、八つに分割された画面にそれぞれ知らない人物が数人ずつ映っていた。因みに、レンスフィート達が同席することは事前に連絡済み。ただし、モニターには映らない位置だ。映っているのはタリスとエルテだけ。

「映像、通信状況に異常なし。お待たせしました。マスターどうぞ」
「うん。どう? ちゃんとそっちも見えてるかな?」

 これにそれぞれの人達が頷いたり、返事をする。
 今回、ルディエに調査をお願いすると共に、討伐隊として参加する予定のギルドに優先的にこの魔導具を配ってもらった。タブレット型の魔導具でテレビ電話を作ったのだ。
 元々、声を届ける魔導具はギルドに支給されており、珍しくはない。ならば映像もと思いついたのがきっかけだった。といっても、この討伐のために作ったわけではない。ベニ達と離れていても会話ができればと考え出したのが始まりだ。
 タブレットはベニ達が町にやって来る少し前に完成しており、何度かの試験の末に、休みが増えたこともあって量産してみた。
 コウヤだって、前世では現代っ子として携帯電話を常に枕元に置いていた。依存症とまではいかなくとも、利便性は嫌というほど知っている。そのため、一人一台持っていてもおかしくないという感覚があった。ここでも自重が復活することはなく、こうしてギルドに配られることになったのだ。
 使い方は簡単。通信とちょっとした資料の共有を可能にしただけなので、説明書も一枚のみ。こうして通信が上手くいったということは、ちゃんとそれに目を通してくれたということだ。

「それじゃあ、始めるよ」

 こうして大規模な盗賊討伐の作戦会議が始まった。
 手順の説明には、副隊長達の作成した地図をタブレットに読み込ませて、それぞれに転送する。

「すごいよねっ。この地図っ。すっごく分かりやすいよ」
『……』

 絶賛するタリスとは違い、他のマスター達は絶句していた。食い入るように見ているためか、画面に映る彼らの顔が怖い。

「後で君達それぞれに一番近い場所の拡大地図を送るから、確認しておいて」

 コウヤは黙々と地図の取り込み作業を進め、それぞれに転送する準備を整えていく。その間にタリスは地図上のアジトの場所へ印を打って、番号を記して説明している。

「押さえる順番としてはこれがベスト。潰し切れずに逃がしたとしても、追い込んでいけばいいからね」

 ルディエ達の調査でも、敵の人数を全て把握することはできなかった。元々、盗賊なんてものは日によっても人数が変わる。
 抜けたり入ったり、小さな盗賊団を吸収したり、囮に使って切り捨てたり。そんな状況なのだから、幹部を特定するくらいで充分だ。脅威となっているのは頭の方なのだから、そこさえ押さえられれば討伐できたようなものだろう。

『タリス殿が直接現場で指揮をとられるのですか……?』

 モニター越しに、一人のギルドマスターが不安そうに尋ねてくる。

「うん。南から順番に全部回るよ。一番の大本とされるアジトの場所が特定できてないんだけど、この辺りっていうのは分かってるしね」

 タリスが丸で囲んだ場所。その辺りに『霧の狼』の本部がある。

『特定できなかったというのはどういうことです?』

 少し嫌味な声音だったので、サーナがピクリと反応していたが、それをルディエが目で制する。

「ほら、この森ってよく迷うことで有名でしょ? 魔獣とか魔物も迷って出てくる所だよね?」

 タリスの言葉に、その場所に一番近いギルドのマスターが答える。

『あ、そうです! 先々代の時代から、冒険者も入ってはいけないということになっています。入って迷っても捜索隊は出せないという場所です。そういえば最近、呪われるとかも聞きます』
「だよね。でさ、こっちで調べてもらったんだけど、呪われるっていう噂が出始めた辺りから、くだんの盗賊団が活動を活発化させてるんだよ。これ、怪しいよね?」
『っ……原因が盗賊にあると……?』
「そう思わない? こっちの予想だと、迷うのは古代の魔導具の効果かなって。ちょっととある方に確認したら、間違いなさそうなんだよね」

 とある方というのは、コウヤのことだ。身内以外の侵入者を迷わせ、居住地を見つけられないようにする魔導具。実はコウヤが魔工神であった頃に作ったものだ。まだダンゴやパックン達が生まれたばかりだった頃に、新しく作った小さな迷宮を隠すために作ったもの。
 最近、あの頃のことをよく思い出す。信仰の力の影響だろうか。少しずつ色々な記憶がはっきりしてきていたのだ。そのおかげで今回、すぐにこれに思い当たった。
 ダンゴ達の訓練場やコウヤの隠れ家を守るための魔導具だったのだが、神威戦争など、時の流れの中で流出してしまっていたらしい。因みに、ダンゴが訓練場としてその時初めて作った迷宮は、現在この国の北西にある。
『王座の迷宮』と呼ばれるそこは世界最古、最強の迷宮と言われている。

「あそこ、いつバレたんだろう?」

 しっかり魔導具で隠してあったはずなのに、いつの間にか大層な名前まで付いて恐れられていたのだ。コウヤはギルドに入ってから、その存在を知ってはいた。単純に魔導具が壊れた可能性もあるだろうと思っていたのだ。
 今回その魔導具の使用に確信が持てたのは、ダンゴの報告があったからだ。長く自分達を守っていたコウヤお手製の魔導具だ。そこから発せられる魔力波動を間違えるはずがなかった。

《取り返すでしゅ!!》

 そして、珍しく怒っていた。
《撃滅! ゲキメツ!! (*`ω´) 》

 パックンも物騒ぶっそうな雰囲気を出している。最近、パックンとダンゴは行動的になっているので、知らないうちに奇襲きしゅうに行くんじゃないかとコウヤは心配だ。さっきからパックンが食い入るように地図を見ているのが気になっている。因みに、ダンゴは今回の件で言語理解スキルが上がっている。

「パックン、ダンゴ、今回は勝手に行動しちゃダメだからね?」

 タリス達の邪魔にならないように、小さな声で釘を刺しておく。

《……参加する……でしゅよ?》
《ゲキメツ…… (´ー`) 》
「う~ん……けど俺も今回はサポート……」

 だしな、と呟くタイミングでタリスが宣言した。

「指揮をとるのは、僕とトラブル担当のコウヤちゃんだからよろしくね」
「へ? 指揮?」

 今回はタリスが暴れる気満々だったので、サポートに徹するつもりでいた。しかし、タリスの考えは違ったようだ。こっちに来てと手招きされる。

「コウヤちゃん強いし? 殺さず無効化も問題ないよね? 僕らがやるとどうしても殺しちゃいそうでね。ちょっとは生かしておかないと。今回は国に引き渡す必要もあるし」

 最後の一言はレンスフィート達に向けられた。それに二人が頷いている。
 確かにタリスは強いが、どうしても手加減が苦手らしい。盗賊の討伐ならば、アジトごと吹っ飛ばす方が早いと考える部類だ。他のマスター達も同様で、細かいことが好きではない。何より盗賊の場合、下手に手加減して逃してはまずい。なので、殲滅せんめつが本来正しいのだ。
 しかし、今回の盗賊団は、国としても看過かんかできない規模のもの。その上、何度も国の騎士達が取り逃がしている相手だ。処理したと遺体いたいを見せたところで信じないだろう。
 騎士達が取り逃がすような者達を冒険者ギルドがどうにかしたとなれば、色々面倒なことになるのは目に見えていた。だからこそ、生き証人は絶対に必要だ。このユースールの兵に引き渡すなら問題ないのだが、『霧の狼』は国中にアジトを持つ盗賊団だ。別領で捕らえた者を、まとめてユースールで引き取るわけにはいかない。

『コウヤちゃんって……その子どもですか?』
「そうだよ。軽く僕より強いから問題ないよ~」
「えっと、コウヤです。よろしくお願いします」
『……』

 画面に映ったコウヤを見て、マスター達は間違いなく納得できない顔をしていた。

「まあ、見れば分かるよ。楽しみにしてて。それじゃ、明日より決行! それぞれの場所まで指定した時間に迎えに行くからよろしくねっ」
『はい……』

 マスター達が釈然しゃくぜんとしない表情を見せたまま通信は終わった。

「アレは絶対にバカにするパターンだよねっ」
「マスター……コウヤちゃっ、コウヤくんに何かあったら許しませんよ」
「っ、だ、大丈夫だよ……多分」

 エルテの殺気に、楽しそうにしていたタリスが冷や汗を流していた。それは放っておいて、ルディエがコウヤに近付いてくる。

「僕も行くから」
「いいの? 調査だけで充分なんだよ?」
「いい。失礼なこと言う奴がいそうだから……黙らせる」
「ん?」

 よく聞こえなかったがやる気充分らしいので、お願いすることにした。

《やるでしゅ!》
《ゲキメツ! o(^▽^)o 》

 こちらもしっかり手綱たづなを握らなくてはならないので、人手が多いのは助かる。ここまでの話を聞いていたレンスフィート達は、絶対にコウヤについて一悶着ひともんちゃくあるだろうなと心配していたのだが、コウヤが考えるのはこの作戦の成功だけ。コウヤは自身の評価など全く気にしないのだ。
 それ以外にも、コウヤのとんでも行動に周りがちゃんと耐えられるかどうかという心配もある。それを誰もが口にすることなく、意味深な目配せをしているのは不思議な光景だった。


 盗賊討伐の決行日。
 ユースールから参加するメンバーは、サポート組も合わせて全部で十二人。当然のように、今回の移動も『闇飛行船マンタ』を使う。船長は変わらずダンゴだ。

「ねえ、コウヤちゃん。これの定員は? どれだけ乗れるの?」
「特に制限ないです。ただ、座席は船長を入れて十しか作っていないんですけどね。それはこの操舵室そうだしつ内に限ったことです。見てもらうと分かるように、空間拡張も限界まで施してありますから、住居スペースに入るだけ乗せられますよ」

 マンタに乗り込みながら、説明するコウヤ。重さも魔法でいじっているので、身動きが取れないくらい詰め込まなければ、乗せられるだけ乗せることが可能だった。
 操舵室と呼ばれる最上階の広い部屋の後方中央には、一段高い位置に作られた操縦席がある。
 戦艦せんかんの操舵室をイメージしていて、十人分の座席のうちの三つは、前方のガラス張りになった窓際にある。それぞれ中央と左右に間を取って配置されており、これは観測と砲撃を行う者の席だ。中央が前方と後方を担当。左右がそれぞれ船体を半分に分けて担当する。
 その三つの席と操縦席の間にテーブルがあり、三人がけの椅子が両側に並んでいる。そのテーブルと操縦席の間には、向かい合う形で地図を書くための製図板が立つ。それはほとんどがタッチパネルで操作可能。ヘルプ機能付きなので、分からないことがあっても大丈夫だ。
 操縦席には、コウヤお手製の小さな帽子を被ったダンゴがはまる場所があり、上半身だけ出るような感じだ。これにより、マンタと一体化するため、普段はコウヤやパックン以外には聞こえないダンゴの声も皆に聞こえるようになっている。
 もちろん、人が操縦できるよう、操縦桿そうじゅうかんも別に用意されているので、必ずしもダンゴが操縦しなくてはならないということはない。

「あっ、でも実は予備の椅子が後四つあります♪」

 操舵室の真ん中に二つある三人がけの椅子。その横に手を入れる場所があり、それを引き出すと補助席が出てくる。これは両側面についており、五人がけの椅子に変わるのだ。

「はい。ベニばあさま」

 引き出した椅子に、今回同乗することになったベニを案内する。しかし、ベニは座らなかった。

「あの中央がええな」
「え? だって、あの席は索敵さくてきと砲撃をするところだよ?」
「それ、やりたいわなぁ」

 そう言って、ベニは前方中央の席に軽い足取りで向かっていった。そこには、元無魂兵だった神官が座っている。しばらくしてご機嫌な様子で戻って来た。

「どうしたの?」
「コウヤ達が降りている間は交代するように交渉こうしょうしてきたわ。楽しみやなあ」
「……う、うん。じゃあ、留守中は頼むね」
「任せとき」

 因みに、なぜベニがついて来たかと言えば、ただの散歩だ。

『最近、遠出もできんし、それに死ぬまでに一度は空を飛んでみたいわなあ』

 身内に甘いコウヤがこの願いを聞いてしまった。それに、怪我人が出た場合、コウヤが治癒魔法を使うのでは目立つ。ならば、ベニに頼もうということになったのだ。

「司教様がいらっしゃるには危ない場所なのですが……」

 困った表情で言うのは、今回の見届け役兼、捕縛時の引き渡し交渉をするためについて来たヘルヴェルスだ。

「それ言うなら、領兵長で次期領主のあんたもダメじゃないかい?」
「私は交渉役ですし……」
「ならわたしも万が一の時の治療役だ。問題ないさね?」
「……なるほど……」

 納得させられてしまっていた。こんな感じで、誰もベニがついて来ることに反対できなかった。
 見兼ねてルディエが助け舟を出す。

「そんなに心配しなくても、その人一人でも僕より強いから大丈夫だよ」
「そ、そんなにお強いんですか……?」
伊達だてに長く生きてないからねえ。場合によっては戦力に加えてもらってもいいよ。最近は運動不足だからねえ。筋肉は使わんとおとろえるで」
「「なるほど」」
「……」

 これに感心するヘルヴェルスとタリスだが、ルディエ達、神官組は違った。一様に目を逸らして聞かなかったことにしている。運動不足だと言ったベニだが、つい最近コウヤにトレーニングルームを作ってもらったのだ。最初の教会の改築のおりに、雨の日でも外に出ずにいい具合に体を動かせる場所が欲しいということで、ランニングマシーンなどを作ってあげた。

『これは遠くに行かんでも、いい運動になって良いねえっ』

 そう絶賛したのだが、それでも今回は遠出したかったらしい。結構ワガママなところがある、ばばさまだ。目を逸らしたルディエ達は、ベニが筋トレマシンなどで毎日数時間ほど鍛えていることを知っている。そのため、兵や冒険者達よりも圧倒的に鍛えているだろうと言いたかったのだ。言いたいが口にはしない。

「そういえば、ルディエ君達、名前は決まったの?」

 コウヤはルディエ達を見ていて思い出した。元無魂兵達の部隊に、以前から名前を付けると言っていたのだ。
 正式に国へも報告をし『聖魔教』が認められた今、本格的に護衛騎士でもという話が出たのだ。神教国など、多くの教会は聖騎士をようしている。そこで、せっかく鍛えているのだからと、部隊をきちんと作ることになった。特に重要なのは、ルディエを中心とした精鋭部隊だ。

「うん……白夜びゃくや部隊……」
「へえ。うん。かっこいいね」

 日の落ちない夜の地がある。まさに白夜。それは聖地とされている場所。人が入れない特別な場所だ。神界しんかいへの道がそこにはある。かつて、ベニ達はその地を見たという。絶対の聖域せいいき。その美しさをルディエに話したらしい。それがずっと彼の中に残っていたのだろう。そこにベニが口を挟む。

「散々迷っとったよ。候補には光る夜という意味で光夜こうやってのもあったね」
「っ、ちょっ、なんで言うのさっ」
「他の子らは普通に聖魔部隊って名にしたがったんだがねえ。どうしてもって言うんだよ」
「っ、い、いいじゃないかっ。だいたい、師匠達も好きにしたら良いって言ったしっ」
「……そっか」

 コウヤはちょっとびっくりした。

「名前……勝手に使おうとしてごめんなさい……」
「え? 別にいいよ? でも、俺も白夜の方が良いと思うなあ。あそこは本当にキレイなところだしね」
「……うん」

 こうして、精鋭部隊である『白夜』が誕生した。
 因みに、そのメンバーが今回の同行者達だ。身体能力の高いルディエにもしっかりついて行けるメンバーらしい。

「でも、神子が先頭に立つのってどうなの?」

 巫女や神子を守るのが聖騎士達の仕事でもある。それと同じ位置付けになる部隊のリーダーがルディエだ。白夜部隊は戦闘も行う。それもガッツリと。
 コウヤがふと口にした疑問に、ベニが笑った。

「ええんよ。わたしらの弟子やしねえ。そうそう死なんでなあ」
「そう? まあ、ばばさま達も司教や司祭になったけど戦いそうだよね」
「もちろんや。なんなら国一つくらい滅ぼしてやるで?」
「あはは。もう、ベニばあさまったら元気なんだから」
「「……」」

 元気とかそういうレベルの話だろうかとか、本気でベニ達だけで国の一つや二つ消しそうだとか。言いたいけど怖くて言えない。二人の会話を聞いていたヘルヴェルスとタリスの目は、かつてないほど落ち着きなく泳いでいた。


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