33 / 475
3巻
3-1
しおりを挟む 「襲われないようにする方法ないんですか?」
「犯人に止めてもらうしかないわね。殺意を向けられる心当たりは?」
普通に生きていたらそんな事は滅多に無いだろう。
けれど周囲からすれば葵は棗累が失踪した原因だ。そのせいで母親は自殺未遂にまで至っている。彼らに近しい人ほど葵を憎んでいる事だろう。
大勢の女子から愛を囁かれる彼の死を悼む人数だけ殺意があるのだ。
「……多すぎて分からないです……」
「小さいのはノーカウント。日常ではありえない激しい憎しみを向けられる事があったはずよ。例えばあなたのせいで大切な人の死に目に会えなかったとか」
きっとお姫様はこの愛らしい顔で真実を突きつけるだろう事は予想していた。
一体何が目的かは分からないけれど、まるで真実を知っているような口ぶりは現実を再認識させられる。
「やっぱり累先輩は私を憎んでるんですね……」
「どうかしら。あなたが彼の大切な人を殺したの?」
「違うわ!そんな事してない!」
「では何故憎まれてると思うの?」
「……私が連れ出した間に弟さんが亡くなったんです。でも人を殺したいなんて、そんな事思う人じゃなかった」
「普段そんな人じゃないからこそ憎しみは人一倍深いんじゃないかしら」
リゼは憎まれても仕方ないわね、と大きく何度も頷いた。
彼じゃないわよと言って欲しかったけれど、そんな優しい嘘すら吐いてくれなかった。
相変わらず穏やかに微笑んでいるけれど、それが嘲笑なのか同情なのか軽蔑なのか意図は見えてこない。葵は俯きため息を吐いたけれど、そっとリンが頭を撫でてくれる。
「だが吉報でもあるだろう。彼はまだ生きてるという事だ」
「……そっか。そうですよね。失踪しただけで遺体が見つかったわけじゃ無いし」
「見つけて謝って許してもらえれば助かるかもしれないわね」
「あの、何か探す方法無いですか」
「あるわ。あの生クリームが何処から来たかつきとめれば良いの」
「何処って、沸いて出てきたのに出所があるんですか?」
「あれらは心の在処――身体から滲み出る物で宙に出現するわけではない。あの量で外から入って来たという事は、ここにやって来れる距離にいるんだろう」
「それに何処にでも出現できるなら直接内臓に現れて破裂させるでしょ」
「そ、そっか……」
急にグロテスクな事を言われ思わず想像してしまった。
しかしそれなら防ぎようはあるという事だ。窓ガラスを割って部屋中をべとべとにする物理的存在なら水をかけて溶かしてしまえばそれまでだ。
よしよしと葵は頷いたけれど、それを諫めるようにリンがコンコンとテーブルを突いてくる。
「一人で立ち向かおうなどと思うな」
「え、だ、駄目ですか」
「駄目というより無駄だ。溶かしても憎しみは無限に湧き出る。終わりなど無い」
「……そうですよね」
それにあんな大量の生クリームを解かせるだけの水を都合よく持ってるとは限らない。持っている事の方が珍しいだろう。
しかし、ならばどうしろと言うのか。襲われて死ぬのを待てと言うのか。
そんな葵の不安に気付いたのか、リゼはクスッと笑って葵の顔を覗き込んできた。
「大丈夫よ。手伝ってあげる。一人じゃ危ないからね」
お姫様は相変わらず穏やかに、そして意味ありげに微笑んでいた。
「犯人に止めてもらうしかないわね。殺意を向けられる心当たりは?」
普通に生きていたらそんな事は滅多に無いだろう。
けれど周囲からすれば葵は棗累が失踪した原因だ。そのせいで母親は自殺未遂にまで至っている。彼らに近しい人ほど葵を憎んでいる事だろう。
大勢の女子から愛を囁かれる彼の死を悼む人数だけ殺意があるのだ。
「……多すぎて分からないです……」
「小さいのはノーカウント。日常ではありえない激しい憎しみを向けられる事があったはずよ。例えばあなたのせいで大切な人の死に目に会えなかったとか」
きっとお姫様はこの愛らしい顔で真実を突きつけるだろう事は予想していた。
一体何が目的かは分からないけれど、まるで真実を知っているような口ぶりは現実を再認識させられる。
「やっぱり累先輩は私を憎んでるんですね……」
「どうかしら。あなたが彼の大切な人を殺したの?」
「違うわ!そんな事してない!」
「では何故憎まれてると思うの?」
「……私が連れ出した間に弟さんが亡くなったんです。でも人を殺したいなんて、そんな事思う人じゃなかった」
「普段そんな人じゃないからこそ憎しみは人一倍深いんじゃないかしら」
リゼは憎まれても仕方ないわね、と大きく何度も頷いた。
彼じゃないわよと言って欲しかったけれど、そんな優しい嘘すら吐いてくれなかった。
相変わらず穏やかに微笑んでいるけれど、それが嘲笑なのか同情なのか軽蔑なのか意図は見えてこない。葵は俯きため息を吐いたけれど、そっとリンが頭を撫でてくれる。
「だが吉報でもあるだろう。彼はまだ生きてるという事だ」
「……そっか。そうですよね。失踪しただけで遺体が見つかったわけじゃ無いし」
「見つけて謝って許してもらえれば助かるかもしれないわね」
「あの、何か探す方法無いですか」
「あるわ。あの生クリームが何処から来たかつきとめれば良いの」
「何処って、沸いて出てきたのに出所があるんですか?」
「あれらは心の在処――身体から滲み出る物で宙に出現するわけではない。あの量で外から入って来たという事は、ここにやって来れる距離にいるんだろう」
「それに何処にでも出現できるなら直接内臓に現れて破裂させるでしょ」
「そ、そっか……」
急にグロテスクな事を言われ思わず想像してしまった。
しかしそれなら防ぎようはあるという事だ。窓ガラスを割って部屋中をべとべとにする物理的存在なら水をかけて溶かしてしまえばそれまでだ。
よしよしと葵は頷いたけれど、それを諫めるようにリンがコンコンとテーブルを突いてくる。
「一人で立ち向かおうなどと思うな」
「え、だ、駄目ですか」
「駄目というより無駄だ。溶かしても憎しみは無限に湧き出る。終わりなど無い」
「……そうですよね」
それにあんな大量の生クリームを解かせるだけの水を都合よく持ってるとは限らない。持っている事の方が珍しいだろう。
しかし、ならばどうしろと言うのか。襲われて死ぬのを待てと言うのか。
そんな葵の不安に気付いたのか、リゼはクスッと笑って葵の顔を覗き込んできた。
「大丈夫よ。手伝ってあげる。一人じゃ危ないからね」
お姫様は相変わらず穏やかに、そして意味ありげに微笑んでいた。
90
お気に入りに追加
11,119
あなたにおすすめの小説


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。