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第十章
384 今どうして会話を!?
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それが何の薬なのか理解できたのは、おばばと呼ばれる老婆のみ。だが、それで充分だった。
「こ、これはっ! こ、この薬をすぐに、数日眠ったままになっている者達に飲ませなさい!」
「え? これを? 大丈夫なのか?」
心配する者は揃って、そっとジェットイーグルに目を向ける。この視線を受けて彼(?)は、『なんか文句あんのか?』とクイッと顎をしゃくるように、頭を動かした。
エルフ達はその鋭い目にゴクリと喉を鳴らしたあと、その隣で満足げにジェットイーグルに寄り添い、安心して目を閉じた小鳥を見て、ほっこりする。
これが決め手だった。
「……あのジェットイーグル……なんか、めちゃくちゃ良いやつっぽい……」
「頼りになりそう……弱いものいじめはしないって感じが……何だろう……かっこいい……」
「やべえ……これはアレか? デキる男の空気だ……こいつを信じねえのは男じゃねえ!」
「よし! 急いで薬飲ませるぞ!」
「「「おおっ!」」」
この様子を見ていたジェットイーグルは『コイツら単純だな……』と呆れたように嘆息する仕草を見せた。だが、それをエルフ達は見ていない。薬瓶を引っ掴んで、それぞれが患者の元へ走って行ったからだ。
患者は、ひと所に集められているわけではないため、走っていく方向はバラバラだった。
それを見送ったおばばは、少し寂しそうに肩を落とす。
「……鳥に負けた……」
《……キュビー》
最終的に信用されたのはおばばではなく、ジェットイーグルの方だったというのは、この老婆にも分かった。それをジェットイーグルは『すまんな……』という労るような目を向けて応える。
「いえ……あなたには感謝しております」
《キュビー……》
そこで、目を閉じていた小鳥が、思い出したというようにパチリと目を開け、パタパタと袋の所に降りて、中から手紙を引っ張り出した。
《ピュっ》
「ああ。手紙があったね。読ませてもらうよ」
《ピュピュ》
手紙を嘴で持ち上げ、見上げてくる小鳥。それを受け取りながら、老婆は小鳥に違和感を感じた。
「ん? この小鳥……偽装が?」
《ピュ、ビュビーっ》
「まさか……ジェットイーグルの子ども?」
《ピュビー!》
その通りと鳴いて翼を広げるが、術が解けることはなく、ただの小鳥にしか見えない。だが、その思慮深げな円らな瞳が、ジェットイーグルと同じだった。
《キュビー》
《ピュ、ビュビー!》
ジェットイーグルが呼ぶように鳴くと、小鳥はパタパタと小さな翼を忙しく動かし、また同じ枝にとまった。
《ピュっ!》
《キュビー》
小鳥はまるで『ちゃんと出来たよ』と訴えるように鳴き、ジェットイーグルは優しげな目を向けて『よくやった』と褒めるようだった。
「親子……なので?」
《……キュビ》
「あ、違うのですか……なら……お、お弟子さんとか……」
《キュビー!》
「あ、そうなのですか。それはそれは……立派なお弟子さんですね」
《キュビー》
《ピュビっ♪》
どうやらそのようだ。
「……私は……いつの間に意思の疎通を……はっ、手紙っ」
なぜか分かるようになったことに驚きながら、慌てて手紙を開いた。
「……っ、里の外で迷宮化が起きている……っ! そ、その影響で魔力狂いの症状の者がっ……な、なんと!! 調査するから、手伝えと……っ、これはっ、だ、誰がっ……っ、ナチと……じ、ジンク殿っ!?」
手紙にはジンクとナチの名があった。
《キュビー?》
「え、ええ。ジンクという名の知り合いがおります。ただ……私からしてもかなり昔のことでして……その方かどうかは……」
《キュビー》
「っ、そ、そうです。私の名はユキです」
《キュビー!》
「そのジンク殿がっ、私の名を知っておられた……それならば、やはり、あの方なのですね……っ、はっ、わ、私は、今どうして会話を!?」
とても自然に意思の疎通が出来るようになっていることに気付き、ユキは驚いた。だが、ジェットイーグルの方はそれほど驚く様子はない。その理由に思い当たっているからだ。少し申し訳なさそうに、ほんの少し頭の位置を下げた。
《キュビー……》
「っ、なんと! わ、私に従魔術の素質が……っ? その素質があると、あなたと意思の疎通が出来やすいと……」
《キュビー》
「あ、あなたの方が、その素質に合わせられる能力を持っておられるのですね……残念です。私に才があるわけではないとは……あ、いえ、従魔術の素質が私にあると分かっただけで嬉しゅうございますよっ」
動揺し過ぎているのか、ユキは話し方も変わっていた。彼女は、いつもは、この里の中の年長者として、少し威厳があるように喋ることを心がけていたのだ。だが、今はその余裕がない。
《キュビー》
「はい。もちろんです。こちらでも調査……っ」
《キュビー!》
「確かに! 監視者達を捕らえるのが先でしょう。やってみせます!」
《キュビー》
「ええ。この手紙に書かれているように、この里を安全地帯にしましょう。早急に、体制を整えます。三日……いえ、二日ください!」
《キュビー!》
「はい。では、二日後の早朝に。ここで」
《キュビー!!》
ジェットイーグルは頷くと、弟子である小鳥姿の子どもに視線を投げる。
《ピュビー!》
この視線を受けた小鳥は、『わかった』というように小さく頷き、先に飛び立った。それを確認してから、ジェットイーグルはユキにも頷きかけ、『ではな』と伝える。
《キュビー!》
「はい!」
飛び立つ速さは矢の如く。上空で旋回して待っていた小鳥と合流し、その背に小鳥を乗せると、あっという間に、黒い点にしか見えなくなっていた。
「……はあ……お名前を聞くのを忘れた……今度、絶対にお聞きしよう」
その決意と共に、ユキは二日後までの計画を立て始める。胸に灯った熱が、ユキを急き立てていく。
「何百年振りでしょうね……この高鳴りを感じるのは……」
この里が、外へと門を開け放つ時がもうすぐやってくるのだ。未来を信じてその時を願っていた若い頃の感覚が戻ってくるのを感じ、ユキは瞳を輝かせながら、里の中心へと向かったのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
「こ、これはっ! こ、この薬をすぐに、数日眠ったままになっている者達に飲ませなさい!」
「え? これを? 大丈夫なのか?」
心配する者は揃って、そっとジェットイーグルに目を向ける。この視線を受けて彼(?)は、『なんか文句あんのか?』とクイッと顎をしゃくるように、頭を動かした。
エルフ達はその鋭い目にゴクリと喉を鳴らしたあと、その隣で満足げにジェットイーグルに寄り添い、安心して目を閉じた小鳥を見て、ほっこりする。
これが決め手だった。
「……あのジェットイーグル……なんか、めちゃくちゃ良いやつっぽい……」
「頼りになりそう……弱いものいじめはしないって感じが……何だろう……かっこいい……」
「やべえ……これはアレか? デキる男の空気だ……こいつを信じねえのは男じゃねえ!」
「よし! 急いで薬飲ませるぞ!」
「「「おおっ!」」」
この様子を見ていたジェットイーグルは『コイツら単純だな……』と呆れたように嘆息する仕草を見せた。だが、それをエルフ達は見ていない。薬瓶を引っ掴んで、それぞれが患者の元へ走って行ったからだ。
患者は、ひと所に集められているわけではないため、走っていく方向はバラバラだった。
それを見送ったおばばは、少し寂しそうに肩を落とす。
「……鳥に負けた……」
《……キュビー》
最終的に信用されたのはおばばではなく、ジェットイーグルの方だったというのは、この老婆にも分かった。それをジェットイーグルは『すまんな……』という労るような目を向けて応える。
「いえ……あなたには感謝しております」
《キュビー……》
そこで、目を閉じていた小鳥が、思い出したというようにパチリと目を開け、パタパタと袋の所に降りて、中から手紙を引っ張り出した。
《ピュっ》
「ああ。手紙があったね。読ませてもらうよ」
《ピュピュ》
手紙を嘴で持ち上げ、見上げてくる小鳥。それを受け取りながら、老婆は小鳥に違和感を感じた。
「ん? この小鳥……偽装が?」
《ピュ、ビュビーっ》
「まさか……ジェットイーグルの子ども?」
《ピュビー!》
その通りと鳴いて翼を広げるが、術が解けることはなく、ただの小鳥にしか見えない。だが、その思慮深げな円らな瞳が、ジェットイーグルと同じだった。
《キュビー》
《ピュ、ビュビー!》
ジェットイーグルが呼ぶように鳴くと、小鳥はパタパタと小さな翼を忙しく動かし、また同じ枝にとまった。
《ピュっ!》
《キュビー》
小鳥はまるで『ちゃんと出来たよ』と訴えるように鳴き、ジェットイーグルは優しげな目を向けて『よくやった』と褒めるようだった。
「親子……なので?」
《……キュビ》
「あ、違うのですか……なら……お、お弟子さんとか……」
《キュビー!》
「あ、そうなのですか。それはそれは……立派なお弟子さんですね」
《キュビー》
《ピュビっ♪》
どうやらそのようだ。
「……私は……いつの間に意思の疎通を……はっ、手紙っ」
なぜか分かるようになったことに驚きながら、慌てて手紙を開いた。
「……っ、里の外で迷宮化が起きている……っ! そ、その影響で魔力狂いの症状の者がっ……な、なんと!! 調査するから、手伝えと……っ、これはっ、だ、誰がっ……っ、ナチと……じ、ジンク殿っ!?」
手紙にはジンクとナチの名があった。
《キュビー?》
「え、ええ。ジンクという名の知り合いがおります。ただ……私からしてもかなり昔のことでして……その方かどうかは……」
《キュビー》
「っ、そ、そうです。私の名はユキです」
《キュビー!》
「そのジンク殿がっ、私の名を知っておられた……それならば、やはり、あの方なのですね……っ、はっ、わ、私は、今どうして会話を!?」
とても自然に意思の疎通が出来るようになっていることに気付き、ユキは驚いた。だが、ジェットイーグルの方はそれほど驚く様子はない。その理由に思い当たっているからだ。少し申し訳なさそうに、ほんの少し頭の位置を下げた。
《キュビー……》
「っ、なんと! わ、私に従魔術の素質が……っ? その素質があると、あなたと意思の疎通が出来やすいと……」
《キュビー》
「あ、あなたの方が、その素質に合わせられる能力を持っておられるのですね……残念です。私に才があるわけではないとは……あ、いえ、従魔術の素質が私にあると分かっただけで嬉しゅうございますよっ」
動揺し過ぎているのか、ユキは話し方も変わっていた。彼女は、いつもは、この里の中の年長者として、少し威厳があるように喋ることを心がけていたのだ。だが、今はその余裕がない。
《キュビー》
「はい。もちろんです。こちらでも調査……っ」
《キュビー!》
「確かに! 監視者達を捕らえるのが先でしょう。やってみせます!」
《キュビー》
「ええ。この手紙に書かれているように、この里を安全地帯にしましょう。早急に、体制を整えます。三日……いえ、二日ください!」
《キュビー!》
「はい。では、二日後の早朝に。ここで」
《キュビー!!》
ジェットイーグルは頷くと、弟子である小鳥姿の子どもに視線を投げる。
《ピュビー!》
この視線を受けた小鳥は、『わかった』というように小さく頷き、先に飛び立った。それを確認してから、ジェットイーグルはユキにも頷きかけ、『ではな』と伝える。
《キュビー!》
「はい!」
飛び立つ速さは矢の如く。上空で旋回して待っていた小鳥と合流し、その背に小鳥を乗せると、あっという間に、黒い点にしか見えなくなっていた。
「……はあ……お名前を聞くのを忘れた……今度、絶対にお聞きしよう」
その決意と共に、ユキは二日後までの計画を立て始める。胸に灯った熱が、ユキを急き立てていく。
「何百年振りでしょうね……この高鳴りを感じるのは……」
この里が、外へと門を開け放つ時がもうすぐやってくるのだ。未来を信じてその時を願っていた若い頃の感覚が戻ってくるのを感じ、ユキは瞳を輝かせながら、里の中心へと向かったのだった。
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