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第九章
378 許せなかったんだね
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レナルカを抱いたまま、席に着いたコウヤ。そこは、ゼストラークの隣だ。
「コウヤ……その子は……」
あまり表情が出ないゼストラークだが、コウヤには不安そうに見えた。
「ん? ああ。そういえば、ゼストパパ達には、ちゃんと会わせてなかったね。この子がレナルカだよ」
「……うむ……」
レナルカ自身に問題があるわけではない。だが、かつて前任の神を怒らせ、世界を滅ぼさせた種族だ。良い顔はできないのだろう。困惑気味な表情になっていた。
「やっぱり、気分良くない?」
「……そうではない……だが……これは……っ」
「何か気になることでも?」
ゼストラークは、何かが引っかかったらしい。じっと眠ったレナルカを見つめる様子から、詳細鑑定をしているのが分かった。
「っ……まさか……」
「……ゼストパパ……?」
何か、予想外の事実が出てきたのだろう。ゼストラークは驚愕したように、目を大きく見開いた。その視線は、レナルカに固定されている。
「……今まで、顔を合わせなかったのは……無意識に避けていたか……」
「……どういうこと?」
ゼストラークのその呟きを聞いて、コウヤは思い出す。なぜかレナルカはゼストラークだけでなくエリスリリアやリクトルスとも、まともに顔を合わせていなかった。タイミング良くナチと散歩に出ていたり、マリーファルニェの所にエリスリリアが居ないタイミングで遊びに行っていたりと、上手く会わずに来ていた。
それが、もしかしたら、レナルカの故意によるものかもしれないと思えたのだ。
いつの間にか、キイとセイを迎えに行っていたエリスリリアも戻ってきていた。そして、同じようにエリスリリアとリクトルスは何かを感じて鑑定をかけるているようだ。
その後、二人は呆然とレナルカを見つめる。
「……こんな事って……」
「まさか……こんなことが……」
「……詳細鑑定?」
理由は詳細鑑定にある。ならばと、コウヤもレナルカを視た。世界管理者権限のスキルを最大限に引き出し、レナルカを鑑定する。
「……え……」
そこにあったのは、思わぬ正体だった。
『元調停神』
それは、かつてこの世界の初代神が喧嘩を売った破壊神であり、レナルカの種族の過ちによって彼らを滅ぼした調停神だったのだ。
「……レナルカが……先代の神……?」
コウヤの呟きに、ゼストラークは、未だレナルカへ視線を固定しながら頷く。
「間違いない……行方が分からなかった先代だ……だが、これは……完全に生まれ直している……能力と記憶を対価として使ったか……」
ゼストラークのより詳細な鑑定から導き出された推察がそれだった。
理由はさすがに分からない。しかし、生まれ直したのは、先代の意思によるものだというのは間違いないだろう。
「どうして、滅ぼした種族に生まれ変わるなんてこと……」
さっぱり分からない。かつて、神に成り代わろうとした罪を持つ種族。同じ世界に生きる他種族を虐げ、地上の神として振る舞った愚かな種族だと世界の記録にはあった。
それに怒り、持っていた破壊神としての力をも振るい、全てを滅ぼした先代の神。
「……調停神だったからかもしれん。自身に厳しい神だったと聞いている……」
「それって……もしかして、自分に罰を課したってこと?」
「うむ……記録や私が聞いた話によれば、破壊神として生まれたことを……破壊神としての力を振るってしまったことを……後悔していた可能性はある……」
「そんな……」
コウヤは、泣き疲れて眠るレナルカを抱く腕に、少し力を加える。
破壊神として生まれたことを恨み、それを変えようと努力して調停神になったのではないだろうか。
そうして、新たな存在となったのに、破壊神としての先代に喧嘩を売ってくる輩がいた。その神を倒してしまったことも、先代は後悔したのかもしれない。
だからこそ、その世界を引き継いだのではないだろうか。そして、今度こそ、調停神として多くの種族を創り出し、調整された世界を創りたかったのかもしれない。
「先代の理想は、種族別に特徴を持つ多くの種族が共存しあい、共生する世界……調停神としての力を存分に使えば、争いも治めることができるだろう。だが……」
気の毒な子を見るような悼ましげな視線をレナルカへ向け、ゼストラークは言葉を切った。
後を続けたのは、近付いてきたエリスリリアだ。
「……破壊神だった自分を嫌っていたって聞いたわ……だから、壊す事……戦う事を、必要以上に厭ったのね……」
「うむ……少々潔癖過ぎたのかもしれん……」
「……許せなかったんだね……」
レナルカ達の種族の行いは、先代にとっては心底、忌むべき行為だったのだ。
「そして、自身がそれを許せなかったことを、許せなかったのだろう……その罪の意識が、生まれ変わりを決意させたのかもしれん……」
「……レナルカ……」
小さな頭を撫でる。
目元に残った涙も、後悔を表すように見えた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
「コウヤ……その子は……」
あまり表情が出ないゼストラークだが、コウヤには不安そうに見えた。
「ん? ああ。そういえば、ゼストパパ達には、ちゃんと会わせてなかったね。この子がレナルカだよ」
「……うむ……」
レナルカ自身に問題があるわけではない。だが、かつて前任の神を怒らせ、世界を滅ぼさせた種族だ。良い顔はできないのだろう。困惑気味な表情になっていた。
「やっぱり、気分良くない?」
「……そうではない……だが……これは……っ」
「何か気になることでも?」
ゼストラークは、何かが引っかかったらしい。じっと眠ったレナルカを見つめる様子から、詳細鑑定をしているのが分かった。
「っ……まさか……」
「……ゼストパパ……?」
何か、予想外の事実が出てきたのだろう。ゼストラークは驚愕したように、目を大きく見開いた。その視線は、レナルカに固定されている。
「……今まで、顔を合わせなかったのは……無意識に避けていたか……」
「……どういうこと?」
ゼストラークのその呟きを聞いて、コウヤは思い出す。なぜかレナルカはゼストラークだけでなくエリスリリアやリクトルスとも、まともに顔を合わせていなかった。タイミング良くナチと散歩に出ていたり、マリーファルニェの所にエリスリリアが居ないタイミングで遊びに行っていたりと、上手く会わずに来ていた。
それが、もしかしたら、レナルカの故意によるものかもしれないと思えたのだ。
いつの間にか、キイとセイを迎えに行っていたエリスリリアも戻ってきていた。そして、同じようにエリスリリアとリクトルスは何かを感じて鑑定をかけるているようだ。
その後、二人は呆然とレナルカを見つめる。
「……こんな事って……」
「まさか……こんなことが……」
「……詳細鑑定?」
理由は詳細鑑定にある。ならばと、コウヤもレナルカを視た。世界管理者権限のスキルを最大限に引き出し、レナルカを鑑定する。
「……え……」
そこにあったのは、思わぬ正体だった。
『元調停神』
それは、かつてこの世界の初代神が喧嘩を売った破壊神であり、レナルカの種族の過ちによって彼らを滅ぼした調停神だったのだ。
「……レナルカが……先代の神……?」
コウヤの呟きに、ゼストラークは、未だレナルカへ視線を固定しながら頷く。
「間違いない……行方が分からなかった先代だ……だが、これは……完全に生まれ直している……能力と記憶を対価として使ったか……」
ゼストラークのより詳細な鑑定から導き出された推察がそれだった。
理由はさすがに分からない。しかし、生まれ直したのは、先代の意思によるものだというのは間違いないだろう。
「どうして、滅ぼした種族に生まれ変わるなんてこと……」
さっぱり分からない。かつて、神に成り代わろうとした罪を持つ種族。同じ世界に生きる他種族を虐げ、地上の神として振る舞った愚かな種族だと世界の記録にはあった。
それに怒り、持っていた破壊神としての力をも振るい、全てを滅ぼした先代の神。
「……調停神だったからかもしれん。自身に厳しい神だったと聞いている……」
「それって……もしかして、自分に罰を課したってこと?」
「うむ……記録や私が聞いた話によれば、破壊神として生まれたことを……破壊神としての力を振るってしまったことを……後悔していた可能性はある……」
「そんな……」
コウヤは、泣き疲れて眠るレナルカを抱く腕に、少し力を加える。
破壊神として生まれたことを恨み、それを変えようと努力して調停神になったのではないだろうか。
そうして、新たな存在となったのに、破壊神としての先代に喧嘩を売ってくる輩がいた。その神を倒してしまったことも、先代は後悔したのかもしれない。
だからこそ、その世界を引き継いだのではないだろうか。そして、今度こそ、調停神として多くの種族を創り出し、調整された世界を創りたかったのかもしれない。
「先代の理想は、種族別に特徴を持つ多くの種族が共存しあい、共生する世界……調停神としての力を存分に使えば、争いも治めることができるだろう。だが……」
気の毒な子を見るような悼ましげな視線をレナルカへ向け、ゼストラークは言葉を切った。
後を続けたのは、近付いてきたエリスリリアだ。
「……破壊神だった自分を嫌っていたって聞いたわ……だから、壊す事……戦う事を、必要以上に厭ったのね……」
「うむ……少々潔癖過ぎたのかもしれん……」
「……許せなかったんだね……」
レナルカ達の種族の行いは、先代にとっては心底、忌むべき行為だったのだ。
「そして、自身がそれを許せなかったことを、許せなかったのだろう……その罪の意識が、生まれ変わりを決意させたのかもしれん……」
「……レナルカ……」
小さな頭を撫でる。
目元に残った涙も、後悔を表すように見えた。
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