元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第九章

369 神子でいるため?

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ナチからエルフの里の状況を改めて聞いたタリスは『土地の迷宮化』ということがどういうことなのかエリスリリアに問いかけた。

冒険者ギルドのグランドマスターを長く務めたタリスでさえ、この言葉を聞いたことはなかったのだ。

「え? な、なんだか、明らかに良くない状況の言葉に聞こえますけど……? 迷宮じゃなくて、もう……外……なんてこと……」

想像できないのはタリスだけではない。コウヤでさえ知らないのだから。

「そうよ。本来なら、精霊は迷宮という小さな異界を作るのだけど、それが溢れて、一部の土地が一体化したのを『土地の迷宮化』って言うのよ」

無限に広がっていくわけではない。あくまで、範囲は限定される。とはいえ、迷宮としての力が強くなればそれは広がっていくだろう。

「精霊が怒りを鎮めきれなくて、不安定になってた時期に、いくつかあったみたいね。町とか村一つ分の範囲を取り込んで、迷宮化することが」

それは、コウルリーヤを亡くしたことの悲しみと怒りによって引き起こされた。眷属として側にいたダンゴの影響が大きいだろう。

「あったみたいって……エリィ姉も詳しく知らないの?」
「ん~、だって、その頃は私たち、もうこの世界見捨てよっかなーって思ってた時期だもの」
「「「………」」」

タリスもナチも、居合わせてしまったゲンも察した。それがいつのことなのかを。

コウヤも気付きながらも、話をすすめる。

「その時はどうしたの?」

コウルリーヤの記憶にはない。この世界から居なくなった時の空白の時間。そこで起きたことは、コウヤは今も把握していない。

もちろん、神界で調べることはできる。だが、エリスリリア達が知らなくて良いと思っていることが感じられるため、そこは未だ空白のままにしているのだ。ゼストラーク達からすれば、コウルリーヤを亡くしたことで自分たちが怒り狂った所など、知って欲しくないのだろう。

「その時は私も怒ってたから、詳しくどうやったかとかは知らないのよ。抑える気なかったし。ただ、対処したのは、ベニちゃん達を筆頭にした神子達だったみたいね」
「え……ばばさま達?」
「……」

タリスの顔には、本当にあの人達はどれだけ生きているのだろうという疑問符がありありと浮かんでいた。

「そう。まだ若かったわね~。だから、ベニちゃん達も教会を止める力がなくて……せめて私たちが神界に籠っている間に、この世界を立て直そうと奔走してくれたみたいなの」

その頃のベニ達は二十代後半。聖女の任を解かれ、一神官として三人はバラバラに地方の教会を任されていたらしい。任されたとはいえ、現状は孤児院の経営が主だった。

この頃にはすでに、神教会の上層部は腐敗していたため、巫女としてのベニ達が上層部は気に入らなかったのだ。

「世界全部を怒りに任せて無くしてしまったら、さすがの私たちも後味が悪いわ……それを察してくれたのね……各地に散らばっていた神子達をまとめて、世界の安定に努めてくれたのよ」

コウルリーヤへの暴挙は止められなかった。ならばせめてと、世界中に散らばる神子の資質を持つ者たちに呼びかけ、生き残った人々の保護に努めた。

ただ、それに力を注いでいたため、神教会のことは後手に回り、手を出せなくなったらしい。

「あの時、あの教会の解体を先にしていればって、ベニちゃん達は相当悔しそうだったわね。けど、結果的にはベニちゃん達の行動は正しかった。それは確かだわ」

そのお陰で、世界は安定し、人々は生き延びたのだから。

「それでね。多分、あの子達もまた、そろそろ目を覚ますと思うのよ♪」
「あの子達って?」

なんだか突然話が変わったように、エリスリリアの表情が楽しげな様子に一変する。

「神子達よ♪  ベニちゃん達が居るなら安心だって、だから時が来るまで眠るって、ほとんどの子がねむっちゃったのよね~」
「え……」
「だってねえ、アムラナはもうないじゃない? それに、私たちもやたらと神子の指名をしなくなったもの。あの子達、それが分かってたんでしょうね」
「……長く……神子でいるため?  それ、自分たちで……」

自分たちの意思で決めたのだろうかと、コウヤは不安に思った。ルディエ達のように、神教国は自分たちの都合で、神子を利用しようとした。それを知っているから、彼らの意思なのかどうかを気にしてしまう。

表情を曇らせるコウヤに、エリスリリアは優しく微笑んで見せた。そっと手を伸ばして、コウヤの頬を撫でる。

「あの子達は、間違いなく自分たちで決めたのよ。だって、あの子達の眠るための術は、そのために自分たちで作り上げていたもの。それはそのまま秘匿されているわ。使えるのはベニちゃん達ともう一人の神子だけ。それだけ限定したものなの」
「もう一人の……?」
「ふふふ。コウヤちゃんも知ってる人よ♪」
「……ん……?」

ベニ達と同等ということを考えれば、確かに一人しか思い当たらなかった。

「もしかして……ジンクおじさん?」

エリスリリアの表情は、それが正解だと教えてくれていた。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。

投票ありがとうございました!
同時に応援もありがとうございます。
第2巻楽しんでいただけたようで嬉しく思います!

そこでとりあえず
ジンクの登場を決めました◎

投票結果とSSについては後日発表いたします!

これからもよろしくお願いします!
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