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2巻

2-3

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「今回のマスターはとっても良い人ですよ。お茶目で可愛らしいところがあって、若い冒険者へも喜んで指導を買って出てくれる、尊敬できる年長者です」
「……そうか……」

 残念ながら、今までのマスターの態度が悪過ぎて、頼れるマスターというイメージが正しく伝わらなかったらしい。けれど、一応は納得したという様子を見せた。

「そうだ。ギルドもですけど、教会も変わったんです。司教と司祭を追い出して、女司教がついたんですけど」
「っ……???」

 棟梁は全く頭がついていかずに混乱している。しかし、コウヤは構わず続けた。この世界では、女が司教や司祭を務めることも可能だ。ただし、大変珍しいことではある。

「司教と司祭が使っていた部屋は、まあ使えるから良かったんですけど、神官達の部屋がどうも酷くて、手入れしたいそうなんです。お時間がある時に相談に乗ってもらえますか?」
「……いいのか……?」
「教会専門の大工じゃないからってことですか?」
「……」

 教会を建てるのは、専門の大工だと思われている。この町の教会を建てる時も、神教国からわざわざ呼んでいたらしい。

「別にそこに決まりはないそうなんです。ただ、隠し部屋とか、あの国から派遣される司教達が良いようにできるからってだけで、本来はどこの大工に任せても構わないんですよ」

 お金を握らせて秘密の通路を作ったり、神官達との格差をつけるために部屋の間取りを予定と変えたりと、好き勝手に口出しができる者を雇っていただけだ。
 内部構造は、どの教会もほとんど変わらないので、慣れている者を使った方が早いという事情もあったのだろう。工期の間の滞在費などは、その国や領が出すので、外貨がいか獲得のためという現実的な思惑もあった。

「そこはあの国の事情なんで気にしなくて良いです。今回司教になったばばさま達はそんな本国の意見なんてけられますから安心してください」
「……」

 あとでなぜ他の大工を入れたんだと文句を付けられようと、ベニ達ならば鼻で笑って『悪いか』の一言で終わらせるはずだ。

「万が一いちゃもんを付けてきたらこっちのものだと、寧ろばばさま達は喜ぶと思います。なので、強気でいてください」

 ドラム組に密かに手を伸ばそうとすれば、待ち構えていたベニ達によって制裁が下されるのは目に見えていた。

「……ん……」

 これで神官達の部屋もなんとかなるだろう。ベニ達によって更生済みの残された若い神官達は、文句を言わないらしいが、正しい行いをする人達にはできることなら良い思いをしてもらいたい。
 今まで、治癒魔法を使ったとしても、治療代は司教達にほとんど搾取さくしゅされていたようで、彼らはかなり疲れた顔をしていた。食事も最低限といったものだったらしい。
 しかし、ベニ達がトップになったので、きっと沢山食べられて、ついでに体も鍛えられるだろう。ベニ達はひょろひょろのモヤシのような体が嫌いだ。数ヶ月もすれば健康的で活気溢れる神官達が出来上がることだろう。

「では、引き続きお願いします!」
「ん」

 早くゲンが会いに来てくれないかなとコウヤは一層心待ちにしながら、現場をあとにした。


 夕方。コウヤとパックンは仕事を終え、町を出た所で転移魔法を使い『咆哮の迷宮』に飛んだ。

「上手くいったみたいだね」

 コウヤは他に迷宮内に異常がないか確認しながら、最下層のボス部屋を覗いた。
 その時、パックンが定位置であるコウヤの腰から離れた。コウヤの足下を通ってぴょんぴょんと跳ねながら、開けた扉の隙間からボス部屋に入り込んでいく。

《りべんじします! ᕦ(ò_óˇ)ᕤ 》
「ん? パックン?」

 パックンはキメラとの再戦を望んだ。
 仕方ないのでコウヤは部屋の中に入り、扉にもたれかかる。

《あのときとおなじではない!》
《しょうりをこのてに!》
《いざ! じんじょうにしょうぶ! ψ(`∇´)ψ 》

 キメラに言葉が読めるとは思えないが、パックンの気分の問題だろう。律儀に表示しているのは面白く、コウヤは大人しく見守ることにした。

《グルラァァァ!》
《ひょいっ |( ̄3 ̄)| 》

 あおっているのだろうか。戦闘の途中でチラチラ見える文字に吹き出す。

「ふふっ、パックン余裕あるね」

 その時、コウヤの頭上にダンゴが現れる。くるんと回転しながらコウヤの頭の上に着地した。

《あるじさまぁでしゅ!》
「あ、お帰りダンゴ。お疲れ様」

 ねぎらえば、頭から肩に降りてきてスリスリと首元に擦り寄ってくる。くすぐったいのを我慢しながら手を当てると、今度はその手に擦り寄った。
 甘えモードが一段落したのか、ダンゴが今気付いたというようにパックンとキメラを見た。

《あれ、どうしたでしゅか?》
「ん~? リベンジだって」

 パックンは魔法の弾を巧みに当て、確実にキメラを追い詰めていた。キメラにコウヤを敵と認識させる隙を与えないほど、パックンは的確に攻撃している。

「でも、なんか前よりあのキメラ強くなってない?」
《ちょっとパワーアップしちゃったでしゅ》

 どうやら、生きたキメラに移されていたボスの記憶に、本体となったキメラの記憶が多少混じったのだろう。経験値がプラスされ、少し強くなってしまったようだ。

「仕方ないね。そんなすっごくレベルが上がった感じじゃないし、大丈夫だよ」

 これくらいならば、誤差の範囲内だろう。
 その時、キメラの後ろを取ったパックンは、風の魔法をジャンプ台のようにして使い、高く飛び上がった。

「あ、飛んだ」
《とんだでしゅ!》

 そんなこともできるんだと感心するコウヤと、目を丸くして驚くダンゴ。
 パックンはキメラの真上にくると、パカリと蓋(?)を開け、そこから無数の剣を容赦なく降らせた。

「うわわっ。パックン、あんなに剣を持ってたの? あ、あれ俺が打ったやつだ。ん? ゼストパパのもある!」
《だいほうしゅつでしゅ……》

 どこぞに放置したはずの高性能の剣が交じっており、全て着弾した瞬間に、キメラはガラスが砕けるように消えた。

《かんしょう! d( ̄  ̄) 》

 得意げだった。しかし、すぐさま剣を回収し始めるのは様にならなかった。

《かいしゅう、かいしゅう》
《てつだうでしゅ》

 ダンゴはフワフワ浮いて、床に突き刺さっている剣の柄に乗ると、一緒に剣を浮き上がらせて床から引き抜いていった。パックンだと、横になって噛み付くようにして刀身を挟み、ジャンプしなければ抜けないのだ。それを見かねて、コウヤも剣を抜いていく。驚いたお陰か、過去を色々思い出した。


「こんなにどうやって集めたの?」
《よんでいたのさ (´ー`) 》
《たぶんメイキュウでまよっただけでしゅ》
《なぜそれをっ Σ(-_-๑) 》

 嘘のつけないパックンだ。

《さすらいのミミックのうわさは、ゆうめいみたいでしゅ》

 精霊達の情報網は広く、迷宮に棲む彼らには有名な話だったらしい。

「さすらってたの? 全開で?」
《ええまあ ( ̄▽ ̄;) 》
「それでこの辺もついでに回収しちゃったと……パックン、中身って今どうなってんの?」

 コウヤは非常に不安になってきた。

《むげんのかのうせいをひめています!!》
「カッコよく言ってもダメ。ちょっとは自重しなよ? ほんと、びっくりするのが入ってそう」

 今回も充分びっくりしたのだ。これ以上もいくらでもありそうだ。

「こっちのゼストパパの打った剣なんて、火山の火口付近にあったはずでしょ? それで、こっちの俺が打ったやつは……水中神殿しんでんにダミーと一緒に……って、この辺そのダミーだっ。もしかして全部持ってきた!?」

 神殿前にある迷宮内で、朽ちた冒険者達の持っていた剣を回収し、供養も兼ねて全て壁一面に刺して、その中に紛れ込ませたのだ。その時の見覚えのある剣がいくつもあった。

《いっぱいあったとこ?》
《ざくざくだったよ》
《ぜんぶかいしゅうするのになんにちもかかった》
「本当に全部持ってきてるし……」

 パックンの趣味――収集癖はずっと健在だった。

《でも、このへんはもうつかえないでしゅね》

 古い剣も交ざっているので、先ほどの攻撃で折れてしまったものも多かった。

《ど、どこかでほじゅうしないと……》
《まだいるでしゅ?》
《いるの d( ̄  ̄) 》
「……」
《……でしゅ……》

 実際、役に立ったところを見てしまえば否定できなかった。

「はあ……帰りに、盗賊の情報がある場所を確認するつもりだったから、そこでもいい?」
《いい!!》
《けんいがいもいっぱいありそうでしゅね》
《それがまたいい! (≧∀≦) 》

 そうして、コウヤ達は迷宮を出ると、盗賊が出没するという情報のあった場所へ向かった。


『咆哮の迷宮』を出て、デリバリースクーターで走ること二十分ほど。
 ユースールの町の方向からは少しだけ逸れる。見通しが悪い場所ではないのだが、ここ最近、商隊が襲われるなど、大きな被害が出ている。

《かくれるところないよ?》

 パックンは早く戦利品を手に入れたいのか、ヤル気に満ちている。それなのに、見たところそれらしい気配がない。ここは森から離れた平原の一角いっかくだ。
 コウヤも情報のあった場所に来てみたはいいが、どうも自分の索敵さくてきに引っかかる場所には根城ねじろもないので困惑した。潜んでいる気配もない。

「おかしいな……場所は合ってるはずなんだけど……」
《どこじょうほう?》

 コウヤは人が好いので、パックンも騙されてやしないかと心配したらしい。しかし、一応は確かな情報だ。

「商業ギルド」
《おそわれたひとがほうこくした?》
「うん。商隊が狙われたからね。それと、ばばさま達」
《ならまちがいないね d( ̄  ̄) 》

 根拠はないが、ベニ達の情報というのは信憑性が高いという認識のようだ。
 すると、ダンゴが何かを感じたように鼻をヒクヒクさせて、地面に降り立った。

「どうしたのダンゴ」

 ダンゴは小さいので、くるぶしの辺りまで来る草の中でも隠れてしまえる。見失わないようにしなくては、とコウヤは注意しながら見つめた。
 そんな風に気を揉んでいるのを知ってか知らずか、ダンゴは後ろ足で立って体を伸ばすとコウヤを見上げる。

《ココ、へんでしゅ》
「変?」

 そうして、ダンゴは動き始めた。臭いを嗅いで何かを探すように、カサカサと草をかき分けながら進んでいく。パックンも見失わないようにと、その後をピョンピョンと跳ねながらついて行った。
 しばらくして、人が一人、二人余裕で隠れられそうな、平たい大きな石に突き当たる。隠れられる場所と言えば、これしかないだろう。その石は、碑石ひせきのように立っていた。
 急に立ち止まったダンゴが顔を上げる。

《ココでしゅ》
「ここがどうかしたの? トンネルでもあるとか?」

 コウヤは裏側を覗き込もうと石に触れて気づいた。

「っ、これ、隠蔽いんぺいの魔法? 石に刻まれてる……まさか、刻印術こくいんじゅつ? けど、そんなに古くない?」

 石のふち。そこに細かく刻まれている紋様もんようと文字。これにより、魔法を発動させている。これが刻印術と呼ばれるものだ。
 ただし、定期的に魔力を注がなくてはならないし、一文字でも欠ければ発動しなくなる。その難しさと使い勝手の悪さにより、大昔にすたれた技術だった。
 目を凝らして確認すると、朽ちた所を彫り直したような部分がいくつかあるのが分かった。

《きょうかいの?》
《こんなばしょでこんなイシにでしゅ?》

 この刻印術という技法は、コウヤが邪神と呼ばれるずっと前に、教会の守りのために柱に彫るものとして確立された。
 まだ魔法を上手く扱える者が少ない、現代では古代と呼ばれる頃のこと。国もなく、人々は細々と集まり、外からくる魔獣達に怯えながら暮らしていた。そこで神の助けを求め、教会というものができた。
 コウヤ達神も、祈る場所が固定されたことで、手を差し伸べやすくなった。安全な場所として力を注いだことで、少しでもその力を留めようと人々が考え出した方法が刻印術だった。
 毎日、決まった時間に決められた柱に魔力を通し、守りを維持する。それが神官達の朝のお務めの一つ。魔力操作の訓練にもなるし、神官としての意識も高まる良い慣習だったのだが、いつの間にか消えてしまった。
 この技法を知っているのは当時の司教や司祭達だけ。門外不出の技法だったのだ。それが今、吹きっさらしの平原の只中にある。色々と奇妙だった。

「これ、まともに見たの初めてだ……えっと、ここが隠蔽の……」

 コウヤ達神が人々に授けた技法ではなく、人々が独自に考案した技法。それは神であるコウルリーヤにとって何よりも嬉しいもので、興味深いものだった。だが、当時は研究する機会がなかった。

《これだめだね (。-_-。) 》
《あるじさまのキンセンにふれたでしゅ……》

 パックンとダンゴは、こんな研究肌な困った主人には慣れている。そして、解明するまで動かないことも知っていた。

「あ、でも、これに似たのをどこかで……」

 刻印術だと認識できなかったが、幼い時に、同じような彫り物を見たことがある気がすると、コウヤは空中に視線を投げて、記憶を探る。
 ここに来た目的をすっかり忘れてしまったコウヤを見て、事態を収拾するため、パックンとダンゴは頷き合った。

《しかたない (◞‸◟) 》
《おねがいするでしゅ》

 パックンは石の正面に回る。そこで、ダンゴが注意を引くようにコウヤへ声をかけた。

《あるじしゃまぁ~》
「ん? どうしたの、ダン……っ!?」

 コウヤが振り返り、少し石の縁から身を離したのを確認したパックンは、今だとばかりに巨大化して石を丸呑みした。

《いがいとあさめだった》
《セイコウでしゅ!》
「……」

 呆然と石のあった場所を見つめるコウヤ。その後ろでパックンとダンゴは小躍こおどりしていた。

「び、びっくりした……あ、これなんか懐かしいかも……」

 そういえば、昔もこんなことあったなと思い出す。ただし、こんな何でもかんでも入るような滅茶苦茶なことはなかったはずだ。コウヤは改めてパックンを見た。

「本当に何でも入るようになっちゃって……」
《ほめられた! (*´꒳`*) 》
《あ、ズルイでしゅ!》

 褒めてないとは言えなかった。
 パックンとダンゴから目を逸らしたコウヤは、ようやくに気付く。

「あっ、扉?」

 地面に扉が見えるようになっていた。

「これが隠されてたんだ……でも……」

 けれど、妙だった。コウヤのスキルでも中の構造が察せられない。それはまるで迷宮のようだと考えていれば、いつの間にか近づいてきていたダンゴが教えてくれた。

《ちいさい……カクがあるでしゅ》
「迷宮のってことだね。じゃあ、やっぱり迷宮になってる? でも、門がないね」
《カンリシャがいないんでしゅ》

 ダンゴによると、迷宮の核となるものが確かに存在するのだが、それを管理する精霊がいないらしい。

《しょうめつをまってるのかもでしゅ。ここには……100ねんちょっとまえにあったみたいでしゅ》

 核に力がなくなると、迷宮は消滅する。それを察して精霊達は管理を放棄するらしい。迷宮の扉は精霊の力によって作られるので、実際は精霊が離れる時点で扉がなくなり、迷宮は消滅したものと人々は判断する。
 しかし、その時点ではまだ核は力を残しているのだ。迷宮として魔獣達を呼び出すことができなくなっても、場所だけは残っている。

「そういうのを知ってる誰かが、この扉を作って、さっきの石の隠蔽術で……開けてみよう」

 コウヤは警戒しながらもその扉を開けた。そこにあったのは、闇だった。だが、目を凝らすと、その先に階段があるように見える。

「……空間を繋げてる? 危ない感じは一応ない……」

 扉に使われている、残った迷宮に繋げる技術も、過去にあったような気がする。未だ完全に神であった頃の記憶が戻っているわけではないので、これは思い出せなかった。

「よしっ」

 思い出せないことがあるのは不安だが、今は後回しにする。しかし、不安げには見えたようだ。ダンゴが心配そうに見上げてくる。

《あるじさま……》

 大丈夫だと伝えるため笑みを見せようとしていると、パックンがコウヤの体の横をすり抜けて行った。

《せんとうはまかせろ~! ψ(`∇´)ψ 》
「えっ、ちょっ、パックン!?」

 パックンが躊躇なく飛び込んでしまった。慌ててコウヤも入ろうとしたところで、パックンがピョンと顔を出して戻ってきた。

《かいだんあったよ~》
《あとわらってるひとがいる (・Д・) 》
「笑ってる人?」

 意味が分からず、コウヤとダンゴは首を傾げながら、まるで小さな池に入るようにそこへ飛び込んだ。
 ふわりと一瞬浮くような感覚があり、足下にあった階段に苦もなく降り立った。

『ひひっ』
『はははははっ』
『いぃぃひひひひっ』

 確かに笑い声が聞こえた。洞窟のような閉鎖的な場所での、くぐもった響きが耳に届く。
 パックンを先頭にして進んで行けば、広い空間に出た。隠し部屋として使っていた所だろうか。そこで見たのは、糸やロープに絡まって吊り下がっている人々。

《いっぱいつりさがってるね (-_-;) 》
《からまっちゃったでしゅ?》
「だから笑ってる、とかじゃないよね……?」

 天井や壁に金具で打ち付けられた糸やロープ。それはクモの糸のごとく張り巡らされ、盗賊らしき男達を絡めとっていた。そして、その男達は皆、声を上げて笑っていたのだ。
 たがが外れたように笑い続ける盗賊達をコウヤ達は見上げる。

《きのこでもたべたの?》
《かわいそうでしゅ……》
「いや、なんかそういうんじゃないような……」

『きひひ』『あはは』と笑う男達の目はうつろだ。ちっとも楽しそうではない。

「毒かな……精神系の魔法も使ってるような……とにかく、この人達を兵に捕まえてもらおう。動けそうなのはここにはもういないみたいだし」

 よそおいや見た目から、盗賊であることは間違いなさそうだ。しかし、彼らは弱っている。よく見れば、小さな切り傷がとても多かった。

《あんなにわらっててだいじょうぶなの?》
「う~ん、致死系じゃないと思うんだよね。それに、ずっと笑い続けるっていうのはさすがに無理だから、いずれは止まるよ」

 毒が神経に作用していても、精神に干渉されていても、永遠に笑い続けることはないだろう。痛みも度が過ぎれば分からなくなるように、反応し続けられるほど、人は機械的ではない。自己防衛本能がそれらを強制的に遮断しゃだんしてくれるはずだ。

「傷の具合から見ると、そろそろ収まるんじゃないかな。気絶するともいうけど」

 コウヤの言った通り、笑い声に力がなくなってきた。しかしその時、ダンゴが声を上げる。

《あるじさま、アレ!》

 ダンゴが小さな手で差した先。部屋の隅にあった四角いもの。それが、時計の文字盤もじばんのような魔法陣を少しずつ浮かび上がらせていくのが見えた。

「っ、もしかして爆弾!?」

 火薬を使っているわけではない。それは時限式の魔導具だ。
 ダンゴを慌てて掴み取り、胸に抱え込む。

「ちょっ、パックっ……」
《かいしゅう!》
「ええっ!?」

 次はパックンをと思ったコウヤは、唐突にパックンによって魔導具が回収されたのを見て、動きを止めた。

《3びょうまえはきちょうだね ♪(´ε` ) 》

 大変満足げだ。

《……いいでしゅか……アレ……》
「……」

 さすがのダンゴも呆れていた。

「ま、まあ、回避できたし……」

 結果が良ければ良いだろうか。もしかして、ああして何秒前かで止まっている爆弾が、いくつもパックンの中にあるのではないかと考えて、すぐに頭を振った。知らない方が良さそうだ。
 胸に抱えていたダンゴがもぞもぞと動いて顔を出す。

《あるじさま。ココはかくにんしてまってましゅから、ヘイのひとたちよんできていいでしゅよ》
「え、二人だけで大丈夫?」
《あい!》
《おたから~ ♪( ´▽`) 》
「……」

 ダンゴはしっかりしているし、パックンも今は収集癖が出ているだけのはずだ。ならば、場所を知らせて急いで戻ってくれば良いかもしれない。
 盗賊達が弱っている以上、今が捕まえる好機だ。さすがにパックンに全ての男達を回収させる気もない。これは兵達の仕事だ。

「分かった。すぐ戻ってくるから、危ないところがあったら逃げてね」
《まかせるでしゅ!》

 良い返事をして飛び上がって、空中で一回転すると、ダンゴの姿が消えた。核のある場所へ転移したのだ。
 ここは、一応はまだ迷宮だ。ダンゴの迷宮管理スキルも使えるだろう。支配下に置いてしまえば外部の侵入者を招くこともあり得ない。

「パックン! ダンゴは管理部屋に行ったし、俺は応援を呼んでくるからね! 変なもの回収しちゃダメだよ!」

 先にあった通路へ行ってしまったので返事は分からないが、了承を示す意思が伝わって来たので大丈夫だろう。そう思いたい。
 まだ盗賊達は笑い続けている。だが、恐らくもう力尽きていくだろう。先ほどの爆弾は、時限式だったのだ。これを仕掛けた者は、盗賊の意識が完全に落ちる前に、トドメを刺すつもりだったのかもしれない。

「……笑いながら死ねってことだったりして……」

 嫌な予想をしながらも、コウヤは外に出てからユースールの町へ転移した。

     
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