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第九章

353 切り捨てる気なんだね

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正直に情報を話すという、ある意味密偵としては致命的な行動をしようとする四人。

彼らに話してもらう前に、コウヤは周辺の気配を確認しておく。

「う~ん。うん。聞き耳立てる者もいないね。ちゃんと、この後もお仕事に戻れるかな」

コウヤが心配したのは、彼らが切り捨てられたりしないかどうか。自主的であっても、捕まって情報を吐いたなんてこと、彼らの職業柄、あってはならないことだ。

もちろん、コウヤがこうして気にするというのは、サーナも承知していたらしい。

「ご心配には及びません。そのために、わざわざ気絶させて運んだのですから」
「……」

未だ、正座する四人は、コウヤの優しさに感動した矢先、サーナの言葉に少し遠い目をした。

「なるほど。さすがはサーナさんです」
「ありがとうございます」
「……」

四人は、しばらく焦点が合わなかった。それでも、ないわと思っているようだ。

サーナ達には、敵わないと認めているため、最早、密偵達の中でも逆らう気はない。情報提供を求められたら応えるしかないと既に覚悟もできていた。

神官達は、素直に死なせてはくれない。神教会系の治癒魔法とは一線を画す彼らの力。密偵ならばそれも知っている。だからこその覚悟。みっともなくとも、密偵として失格であろうとも、その誇りなど、彼らの前では無意味。そこまで理解している。

対応を間違えなければ、話し合いで解決する。まるで、自分たちは他国に派遣された外交官のようだとは誰かが言っていた。まさに、そうなっているのだが、彼らに自覚はなかった。

それなのに、今回、問答無用で気絶させられたのだ。泣きたくなるだろう。

「話し合い……」
「大事……」

小さく呟く彼らは、四人でうんうんと頷いていた。この認識がおかしいとは、彼らはもう思わない。普通、密偵は話し合いなど選択には入れないものだ。これが、掌握出来ている証拠だった。

「それでは、教えていただきたいんです。先ずそちらのベルネルの方。現在、ベルネル王や国内の状況を教えてください」
「はい! では、私から」

二人のベルネルの密偵の内、年配の者の方が手を挙げた。

「ベルネル国王の状況ですが、一年ほど前からほとんど目覚めることがなくなってきています。日に一、二度目を覚ましますが、二時間ほどしか起き上がれません。それでも政務をと無理していたようです」

国王の決裁が必要なものだけをまとめて、その短い時間でなんとかやりくりしていたようだ。しかし、それも長くは続かない。

「次に王宮内の状況ですが、宰相が過労で倒れてから、それらの政務が滞るようになり、それを理由に次期王を立てるべきだと貴族達が騒ぎ出しました。これが半年前です」

理由としてはまともだ。だが、そこに国のため、王のためにも、との純粋な想いはないのだろう。国の上位に食い込む。その権勢欲だけだ。

「第一、第二、第三王子をそれぞれ担ぎ出し、誰を次の王に据えるかとの争いが激化したのがそれから間もなくのこと」

ここで、フレスタへ目を向ける。彼は第三王子だ。自分の意思ではなく、巻き込まれただけ。それが、彼には悔しいのだろう。ぐっと、何かを堪えるように少し俯いた。

「特に、第一王子派は過激な者が多く、王の暗殺計画も出ております。第二王子派は、中立という顔をしておりますが、確実に突ける隙を窺っているようです」

第一王子派は直接的に。隠すことなく王位を狙っている。第二王子派は頭脳戦が得意な者が多いらしい。腹黒い者ばかりだという。

「第三王子派は、二つの派閥からあぶれた者で固められています。実態は、王への忠義の篤い古参の者たちです。といっても、力は昔ほどありません。権力争いに巻き込まれないようにと、王が中央から離した者たちなのです。ですが今、王が暗殺されずに居られるのは、彼らの守りが効いているからと言えます」

彼らは、じっと、ことの成り行きを外側から見ているのだろう。

つてが多い方たちなのですね。だから、彼を逃がせたと」
「え……」

フレスタをコウヤが目で示すと、彼は驚いていた。彼としては、第一、第二王子派の者たちに、はめられたと思っていたはずだ。

「その通りです。先代から仕える第三王子派の方々はまず、最も後ろ盾が弱く、立場の弱い第三王子を国外に逃すことを考えました。その際、確実にこの国へ来られるよう、繋がりの出来た上位の冒険者を護衛につけたようです」
「……私は……切り捨てられたわけではない……と? 罠ではなかった……?」

フレスタは、確実に切るための、不可能な課題を与えられたのだと思っていたのだ。誰ももう、国に味方は居ないのだと思い込んでいた。

「彼らが王を万全に守るためにも、あなたには外へ出てもらうしかなかったのかもしれませんね。きっと、諦めていないんですよ」
「っ……もう……私だけかと……父を……助けたいと思うのは、私だけだと思っていました……っ」

これに、密偵のもう一人の男が口を開く。

「違います。中央は確かに、これ以上神教国に頭を下げるくらいならば、王を切り捨てようとする考えです。ですが、外の方々は違います。もちろん、神教国の世話になるつもりはもはやありません。多くの教会の罪が明らかになったことで、繋がりは断つよう動いています。だからこそ、この国の情報を知って、希望を見出したのです」

この国に入る密偵が多い理由の一つが、神教国の神官達の力によって長らえるだけになる病の治療法を知ることだ。ただ、薬学の知識もない密偵達の持って帰る情報はこの国の薬師がすごいというくらいのもの。それくらいしか伝わらない。

それでも、神教国の力を借りずに快癒までしたのは初めてのこと。どうにかして知りたかった。

けれど、ここで問題があった。他国と交易さえしたことがない。そういった交渉ごとは全て商業ギルド任せ。外交官の仕事は、即位式など、式典における打ち合わせ程度しかなかった。

だから、相談しようにも、まずそのきっかけが掴めない。そうして一部が悩んでいる内に、欲をかいた貴族達がそれぞれの旗頭を作り、裏側で醜い争いが始まった。

「あ~、そっか。こっちで流した神教国の話で、くすぶっていたのも動き出しちゃったんだ」

コウヤは、ここへ来て各国が王子達を動かした理由に気付いた。特にセンジュリン国のことなどは、神教国に頼るべきではないと、確実に思わせられるものだった。

「病の人たちを、切り捨てる気なんだね」
「はい。他の国も、そのようです」

他国の二人へも目を向けると、頷きが返ってきた。

「神教国に頼るべきではない。頼れないことで手がないならば、王であっても切り捨てる。そう上層部は判断しました。一部の者たちは、我々をこうしてここに遣わせたりと、なんとか穏便に争いを避けるためにも解決しようと動いております」
「ん? なら、ここに来るあなた方は、それが目的?」
「大半がそうです。その……ここ、しばらく前から、我々の情報交換の場所になっていまして……」
「それ、外交の仕事だね?」

どうやら、密偵達はこの城の屋根裏を、外交の場としていたようだった。

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三日空きます。
よろしくお願いします◎
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