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第九章
352 躾け済みかよ……
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笑顔で、ご紹介しますと、気絶した男たちを指差すサーナ。
「こちらの二人がベルネル。あちらがそれぞれデランタとセルーナの密偵です」
フレスタの母国であるベルネル、ディスタの母国のデランタ。そして、セルーナは幼い王子の国の名。彼らはそれぞれの国からやって来て、この城に潜んでいた密偵達だった。
気になるのはこんなにすぐに捕まえて来られる場所に、密偵が入り込んでいたことだろう。アルキスが突っ込む。
「なんだよ。あんたらが居るのに、普通にまだ入り込んでんのか?」
「ガチガチにしたら、警戒されるんでしょ。国って」
ルディエの意見に、アルキスは少し考えて頷く。
「あ、たしかにそうだ。だが……隣国じゃないデランタの奴までかよ……たまたまか?」
王子であるディスタが心配で来たのかと口にはしないが、そうアルキスは思ったようだ。しかし、ルディエはそうではないと否定した。
「たまたまなんかじゃない。大陸にあるほとんどの国から、ニ、三人は来てる」
「は? おいおい。ならどんだけ……」
思わず天井へと視線を投げる王宮組。だが、近衛やメイド達は、当たり前のように受け入れている様子。それが目の端に映り、アルキスが不満そうに口を尖らせた。
「なんでお前ら驚かねえんだよ。近衛なら心配するだろ」
「そんなっ。暗部の方々の仕事を取る気はないですし」
「寧ろ、こうして国まで行かずとも、最新情報が得られるようにワザとしているのですしね?」
「……は?」
近衛達はうんうんと頷き合う。あまりにも当たり前のように話すので、聞き捨てならないセリフを聞き流す所だった。アルキスやアビリス王達がそれを反芻している間にも、近衛達での会話は続いていた。
「暗部はやっぱり、直接教官に指導してもらってるから、練度が違うよな」
「怠けたら教官にはバレるもんな」
「暗部の人たちが強くなると、こっちは気配察知が鍛えられるし有難いよ」
「それそれっ。一時期、完全に分からなくなって焦った」
「他の国の奴らは分かるのにな。一瞬、居なくなったんじゃないかって、慌てたよな」
この会話から、色々察せられるはずだ。
「……やべえ、暗部まで掌握されてた……」
アルキスはもう諦めた様子。これをジルファスが慌てて否定する。
「ちょっ、ま、待ってください叔父上。大丈夫です。これはコウヤじゃないですっ」
その隣でアビリス王は、悟ったような穏やかな表情で、メイドがさり気なく入れ替えた熱めの紅茶を飲んで息を吐く。
「ふぅ。コウヤが出ていくと、暗部まで消えるのか。そうか、そうか」
こんな会話が繰り広げられる中、フレスタとディスタは顔を見合わせ合っていた。味方の少ない王宮で暮らしていた二人は、察しが良い方だ。身を守るためには、言外からも情報を得なくてはならなかったのだから、鍛えられるだろう。
「そういうことでしょうか……」
「そういうことのようですね……」
もう既に、二人はしっかり通じ合っているのだ。そして、これから主人となるコウヤを見る。
その視線に気付きコウヤはどうしたんですかというように、首を傾げて見せた。
それに、なんでもありませんと二人で首を横に振り、出された紅茶に口を付ける。教育の行き届いたメイド達により、こちらも熱めのものに替えられていた。
「あ、美味しい」
「ええ。美味しいですね」
落ち着いたようだ。
こんな、一種混沌とした時間も、捕まった者たちにとっては必要だった。ゆっくりと覚醒し、飛び退る前に、自分たちの側に誰が居るのか気付いたらしい。
ピシッと動きを止め、自然に正座した。手は開いて太ももを掴むようにして揃えている。握ると、彼らの性質上、武器を持っていると疑われかねないのときちんと理解しているための行動のようだ。
最初に声をかけたのはコウヤだ。少し怯えているような気配もあったので、それも気にしてのことだった。
「目を覚まされましたか。お疲れ様です」
「……」
「……」
「……」
「……」
彼らはかつて『お疲れ様』などと労われたことがあっただろうか。どう答えていいのか分からず、せめてと正座のまま頭を下げていた。
こうして、自然に頭を下げたりできる所を見て、コウヤは嬉しそうに微笑む。習慣ではなく、これが出るということは、きちんと人の話を聞ける人だとコウヤは色々な人と関わってきて知っている。
「呼び付けてしまってすみません。少しお聞きしたいことがありまして」
「……」
「もちろん、言ってはならないことなら、言わなくていいです。そこは気にしないでください」
「……」
そこで彼ら四人は、揃って後ろに控えているサーナともう一人の男性神官へ目だけ一度向け、すぐに戻した。
逃げられないと悟ったのだろうか。明らかに顔つきが変わった。
「なんなりとお聞きください」
「ご満足いただけるものがあることを願っております」
「貴族の相関図も喜んでお渡しいたします」
「あちらの城の侵入経路図はご入用ではありませんか?」
売り込みはじめた。どういうことだろうとサーナへ目を向けると、どうですか、すごいでしょうと自信満々な笑みが返ってきた。
多分、そういうことだ。
「……他国のまで躾け済みかよ……」
アルキスがぼそりと呟いたその言葉が大成功のようだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
「こちらの二人がベルネル。あちらがそれぞれデランタとセルーナの密偵です」
フレスタの母国であるベルネル、ディスタの母国のデランタ。そして、セルーナは幼い王子の国の名。彼らはそれぞれの国からやって来て、この城に潜んでいた密偵達だった。
気になるのはこんなにすぐに捕まえて来られる場所に、密偵が入り込んでいたことだろう。アルキスが突っ込む。
「なんだよ。あんたらが居るのに、普通にまだ入り込んでんのか?」
「ガチガチにしたら、警戒されるんでしょ。国って」
ルディエの意見に、アルキスは少し考えて頷く。
「あ、たしかにそうだ。だが……隣国じゃないデランタの奴までかよ……たまたまか?」
王子であるディスタが心配で来たのかと口にはしないが、そうアルキスは思ったようだ。しかし、ルディエはそうではないと否定した。
「たまたまなんかじゃない。大陸にあるほとんどの国から、ニ、三人は来てる」
「は? おいおい。ならどんだけ……」
思わず天井へと視線を投げる王宮組。だが、近衛やメイド達は、当たり前のように受け入れている様子。それが目の端に映り、アルキスが不満そうに口を尖らせた。
「なんでお前ら驚かねえんだよ。近衛なら心配するだろ」
「そんなっ。暗部の方々の仕事を取る気はないですし」
「寧ろ、こうして国まで行かずとも、最新情報が得られるようにワザとしているのですしね?」
「……は?」
近衛達はうんうんと頷き合う。あまりにも当たり前のように話すので、聞き捨てならないセリフを聞き流す所だった。アルキスやアビリス王達がそれを反芻している間にも、近衛達での会話は続いていた。
「暗部はやっぱり、直接教官に指導してもらってるから、練度が違うよな」
「怠けたら教官にはバレるもんな」
「暗部の人たちが強くなると、こっちは気配察知が鍛えられるし有難いよ」
「それそれっ。一時期、完全に分からなくなって焦った」
「他の国の奴らは分かるのにな。一瞬、居なくなったんじゃないかって、慌てたよな」
この会話から、色々察せられるはずだ。
「……やべえ、暗部まで掌握されてた……」
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「ちょっ、ま、待ってください叔父上。大丈夫です。これはコウヤじゃないですっ」
その隣でアビリス王は、悟ったような穏やかな表情で、メイドがさり気なく入れ替えた熱めの紅茶を飲んで息を吐く。
「ふぅ。コウヤが出ていくと、暗部まで消えるのか。そうか、そうか」
こんな会話が繰り広げられる中、フレスタとディスタは顔を見合わせ合っていた。味方の少ない王宮で暮らしていた二人は、察しが良い方だ。身を守るためには、言外からも情報を得なくてはならなかったのだから、鍛えられるだろう。
「そういうことでしょうか……」
「そういうことのようですね……」
もう既に、二人はしっかり通じ合っているのだ。そして、これから主人となるコウヤを見る。
その視線に気付きコウヤはどうしたんですかというように、首を傾げて見せた。
それに、なんでもありませんと二人で首を横に振り、出された紅茶に口を付ける。教育の行き届いたメイド達により、こちらも熱めのものに替えられていた。
「あ、美味しい」
「ええ。美味しいですね」
落ち着いたようだ。
こんな、一種混沌とした時間も、捕まった者たちにとっては必要だった。ゆっくりと覚醒し、飛び退る前に、自分たちの側に誰が居るのか気付いたらしい。
ピシッと動きを止め、自然に正座した。手は開いて太ももを掴むようにして揃えている。握ると、彼らの性質上、武器を持っていると疑われかねないのときちんと理解しているための行動のようだ。
最初に声をかけたのはコウヤだ。少し怯えているような気配もあったので、それも気にしてのことだった。
「目を覚まされましたか。お疲れ様です」
「……」
「……」
「……」
「……」
彼らはかつて『お疲れ様』などと労われたことがあっただろうか。どう答えていいのか分からず、せめてと正座のまま頭を下げていた。
こうして、自然に頭を下げたりできる所を見て、コウヤは嬉しそうに微笑む。習慣ではなく、これが出るということは、きちんと人の話を聞ける人だとコウヤは色々な人と関わってきて知っている。
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「……」
「もちろん、言ってはならないことなら、言わなくていいです。そこは気にしないでください」
「……」
そこで彼ら四人は、揃って後ろに控えているサーナともう一人の男性神官へ目だけ一度向け、すぐに戻した。
逃げられないと悟ったのだろうか。明らかに顔つきが変わった。
「なんなりとお聞きください」
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売り込みはじめた。どういうことだろうとサーナへ目を向けると、どうですか、すごいでしょうと自信満々な笑みが返ってきた。
多分、そういうことだ。
「……他国のまで躾け済みかよ……」
アルキスがぼそりと呟いたその言葉が大成功のようだった。
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