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第九章
350 良い機会です!
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コウヤはニールの方を向いて弁明しておく。
「だって、俺の侍従、今のところニールしか立候補してないでしょ?」
ニールの有能さはじわじわと広がっていたらしい。ユースールの文官達とも仲が良い様子も見られたのも影響した。そのため、ニールがコウヤの侍従長に立候補したと聞き、誰もが尻込みしているようなのだ。
「同じような年頃の子をっていうのも、考えてるみたいだけど、貴族家は跡取り問題で大変だし、こっちに割く余裕がないじゃない? 俺には乳兄弟もいないし」
因みに、シンリームとリルファムには、乳兄弟がいる。そして、彼らを侍従の一人としていた。しかし、シンリームの方はカトレアの件があって更生中。リルファムの方は当然だが幼いため、勉強中で側にはまだ付いていなかった。
「そ、それはそうですが……私だけでは……」
「ニールの補佐も必要でしょう? 全部一人でやってたら大変だもの。俺は、ニールに無理して欲しくないからね」
「っ、わ、分かりました」
サニールの事でもそうだったが、ニールは意外と照れ屋なようだ。それを微笑ましく見て、再びフレスタとディスタへ顔を向けた。
「どうでしょう?」
「そんな……そんなこと……いいのですか?」
「私たちは、他国の者なのですよ?」
あり得ないと思うのも分かる。他国の王子を、そのまま側付きにするなんて事、普通はしない。出身国の思惑通りに、指示されることを恐れるだろう。だが、そこはコウヤでは問題にならない。
「別に、どちらの国とも緊張状態にないですよね?」
これは、アビリス王に尋ねる。
「あ、ああ。そうだな。この二人の国に対してなら、国境も接してはいない。関係をあまり持っていないというのが正確な所だが」
一代前くらいまでは、隣合った国との諍いも多かったが、怪我人が出て神教国に頼るくらいならと、その熱も冷めていったと聞いている。
あの国もいい所はあった。
ただ、戦争をしなくなったからの仲良く交易でもということもない。ほとんど、各国の中で完結させている状況だ。
他国のものは、商業ギルドや冒険者ギルドに任せてしまっている。それで事足りてしまうためだ。けれど、そんな状況だったからこそ、神教会のことも、そのままになっていたともいえる。
「なら、問題はそう大きくないですよね。あちらへの許可も、取れなくない。それに、そろそろ他国と手を取り合うことも、必要だと思うんです」
コウヤは、この状況に甘んじている人々を憂えていた。他国との交流がないこと。他国に無関心なこと。
神教国の状態についても、隣国がおかしいと声を発することができていたなら、あの国の国民達も、貧困に喘ぎ、多くの命を散らす事もなかっただろう。
他国が介入することで、そこに生きる人々も、外へ関心を示す。自分たちと比べて絶望や嫉妬をするかもしれないが、それで変わろうと思うのなら、自国の民達で神教国は変われただろう。どのみち、民達が国を捨てれば、国は立ち行かなくなる。
呪われた状態の土地の情報も広がり、どうにかしようと立ち上がる者もいたかもしれない。
「火種がないのは良いことです。国同士の争いは、無関係な民達を犠牲にしますから。ですが、完全に他国と無関心というのも、民達を苦しめます。自己完結した世界は、それ以上の発展も、新しい意見も生まれなくなってしまう」
コレで良いと現状を維持するだけになれば、ある時期で衰退が始まる。
コウヤは、王子として王宮に迎えられることが決まってから、この国以外にもの目を向けた。コウヤ自身も、ユースールの中で完結していたことに気付いたのだ。人として生きていたコウヤは、それで満足もしていた。
ベニや、ルディエ達が来た事でコウルリーヤとしての記憶も安定しだし、ようやく外へと意識が向くようになった。世界を意識したのだ。
コウルリーヤであった頃よりも、多くのものが失われており、世界の在りようも違ってきていた。そして、気付いたのだ。人々は、現状で満足してしまっていると。
「人は変わることに敏感です。それが結果的にいいことでも、現状に慣れた人は、その変化に戸惑います。楽な方に甘んじるのが人です。ですが、それでは何も生まれません。感情さえも」
「……」
アビリス王だけでなく、王子達も真剣な表情で聞いていた。
「苛立つことも、喜ぶことも、希薄になっていくんです。不満を持つことで、人は考えること始めます。それを少しでも解消しようと悩む。答えが出て心が晴れた時、喜びの感情を知ります。そして、大切な人にも同じように感じて欲しいと願い、邁進していく。そんな小さな変化さえ、現状に満足してしまったら起きなくなるんです」
今がその維持されていているギリギリの時期だと、コウヤには感じられていた。これ以上放置したなら、きっと一石を投じたとしてもそれを感じなくなってしまう。
神教国に対しての石はベニ達が放った。これはゆっくりと、他国へ波紋となって影響している。ならば目を覚ました今だと思うのた。
「ばばさま達が動いてようやく、多くの国が変わろうと動き始めました。この波に乗らない選択はありません。あり得ないことを、あり得るものにするのにも良い機会です!」
楽しそうに笑うコウヤを見て、アビリス王達は絶句する。彼らが言いたい答えは、ニールが代表して口にした。
「それは……この際、大いに掻き乱してやろうと……そういう……」
これにコウヤはグッと握った拳を見せて宣言した。
「はい! そういうことです! 大きな嵐にしちゃいますよ!」
「……」
コウヤが神であることを知っている面々は思った。これが神なのだと。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
「だって、俺の侍従、今のところニールしか立候補してないでしょ?」
ニールの有能さはじわじわと広がっていたらしい。ユースールの文官達とも仲が良い様子も見られたのも影響した。そのため、ニールがコウヤの侍従長に立候補したと聞き、誰もが尻込みしているようなのだ。
「同じような年頃の子をっていうのも、考えてるみたいだけど、貴族家は跡取り問題で大変だし、こっちに割く余裕がないじゃない? 俺には乳兄弟もいないし」
因みに、シンリームとリルファムには、乳兄弟がいる。そして、彼らを侍従の一人としていた。しかし、シンリームの方はカトレアの件があって更生中。リルファムの方は当然だが幼いため、勉強中で側にはまだ付いていなかった。
「そ、それはそうですが……私だけでは……」
「ニールの補佐も必要でしょう? 全部一人でやってたら大変だもの。俺は、ニールに無理して欲しくないからね」
「っ、わ、分かりました」
サニールの事でもそうだったが、ニールは意外と照れ屋なようだ。それを微笑ましく見て、再びフレスタとディスタへ顔を向けた。
「どうでしょう?」
「そんな……そんなこと……いいのですか?」
「私たちは、他国の者なのですよ?」
あり得ないと思うのも分かる。他国の王子を、そのまま側付きにするなんて事、普通はしない。出身国の思惑通りに、指示されることを恐れるだろう。だが、そこはコウヤでは問題にならない。
「別に、どちらの国とも緊張状態にないですよね?」
これは、アビリス王に尋ねる。
「あ、ああ。そうだな。この二人の国に対してなら、国境も接してはいない。関係をあまり持っていないというのが正確な所だが」
一代前くらいまでは、隣合った国との諍いも多かったが、怪我人が出て神教国に頼るくらいならと、その熱も冷めていったと聞いている。
あの国もいい所はあった。
ただ、戦争をしなくなったからの仲良く交易でもということもない。ほとんど、各国の中で完結させている状況だ。
他国のものは、商業ギルドや冒険者ギルドに任せてしまっている。それで事足りてしまうためだ。けれど、そんな状況だったからこそ、神教会のことも、そのままになっていたともいえる。
「なら、問題はそう大きくないですよね。あちらへの許可も、取れなくない。それに、そろそろ他国と手を取り合うことも、必要だと思うんです」
コウヤは、この状況に甘んじている人々を憂えていた。他国との交流がないこと。他国に無関心なこと。
神教国の状態についても、隣国がおかしいと声を発することができていたなら、あの国の国民達も、貧困に喘ぎ、多くの命を散らす事もなかっただろう。
他国が介入することで、そこに生きる人々も、外へ関心を示す。自分たちと比べて絶望や嫉妬をするかもしれないが、それで変わろうと思うのなら、自国の民達で神教国は変われただろう。どのみち、民達が国を捨てれば、国は立ち行かなくなる。
呪われた状態の土地の情報も広がり、どうにかしようと立ち上がる者もいたかもしれない。
「火種がないのは良いことです。国同士の争いは、無関係な民達を犠牲にしますから。ですが、完全に他国と無関心というのも、民達を苦しめます。自己完結した世界は、それ以上の発展も、新しい意見も生まれなくなってしまう」
コレで良いと現状を維持するだけになれば、ある時期で衰退が始まる。
コウヤは、王子として王宮に迎えられることが決まってから、この国以外にもの目を向けた。コウヤ自身も、ユースールの中で完結していたことに気付いたのだ。人として生きていたコウヤは、それで満足もしていた。
ベニや、ルディエ達が来た事でコウルリーヤとしての記憶も安定しだし、ようやく外へと意識が向くようになった。世界を意識したのだ。
コウルリーヤであった頃よりも、多くのものが失われており、世界の在りようも違ってきていた。そして、気付いたのだ。人々は、現状で満足してしまっていると。
「人は変わることに敏感です。それが結果的にいいことでも、現状に慣れた人は、その変化に戸惑います。楽な方に甘んじるのが人です。ですが、それでは何も生まれません。感情さえも」
「……」
アビリス王だけでなく、王子達も真剣な表情で聞いていた。
「苛立つことも、喜ぶことも、希薄になっていくんです。不満を持つことで、人は考えること始めます。それを少しでも解消しようと悩む。答えが出て心が晴れた時、喜びの感情を知ります。そして、大切な人にも同じように感じて欲しいと願い、邁進していく。そんな小さな変化さえ、現状に満足してしまったら起きなくなるんです」
今がその維持されていているギリギリの時期だと、コウヤには感じられていた。これ以上放置したなら、きっと一石を投じたとしてもそれを感じなくなってしまう。
神教国に対しての石はベニ達が放った。これはゆっくりと、他国へ波紋となって影響している。ならば目を覚ました今だと思うのた。
「ばばさま達が動いてようやく、多くの国が変わろうと動き始めました。この波に乗らない選択はありません。あり得ないことを、あり得るものにするのにも良い機会です!」
楽しそうに笑うコウヤを見て、アビリス王達は絶句する。彼らが言いたい答えは、ニールが代表して口にした。
「それは……この際、大いに掻き乱してやろうと……そういう……」
これにコウヤはグッと握った拳を見せて宣言した。
「はい! そういうことです! 大きな嵐にしちゃいますよ!」
「……」
コウヤが神であることを知っている面々は思った。これが神なのだと。
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