元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第九章

341 それはダメです!

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フレスタとディスタの話は明日聞くと言うことになった。今日はもう昼食の後、休んでもらう。もう一人、幼い他国の王子も居るようだが、彼の方は年齢的に幼過ぎて、色々まだ理解しきれていない様子。体調も悪そうだったので、薬師に頼んだ。

フレスタとディスタも気にかけてくれるということで、任せることにする。彼らは部屋も子ども達と一緒で構わないと言うので、ベッドをいくつか用意し、世話係としてメイドを付けておいたので大丈夫だろう。ダンゴも話し相手として残ってくれた。

コウヤはアビリス王とジルファスに呼ばれて、王族揃っての昼食を取る。そのあと、報告会となった。事情が分からないながらも、リルファムも混ざっている。聞くだけでもと、コウヤが勧めたのだ。

だが、いざ話そうとした所で、ミラルファとイスリナは、リルファムに話を聞かせることに不安そうな顔をしていることに気付いた。

「リルに聞かせるのは……」
「まだ早くないかしら?」

これを聞いて、隣に座るリルファムが俯き気味になりながらもコウヤの袖を掴んだ。仲間はずれは嫌だけれど、母親であるイスリナ達が反対するならいけない事なのかと戸惑っているのだ。

そんなリルファムの頭に、コウヤは優しく手を置く。言葉はイスリナ達にも向ける。

「子どもは、理解できるかどうかが重要じゃないと思うんです。今理解する必要はなくて、いつか、後で、コレのことだったんだと答え合わせできれば、それで良い。聞くこと、知ることを経験の一つとして、一つでも多く教えてあげるのが大人の役目ではないかと」

問題によっては、その時にしか知れないものもある。そもそも、問題になることなんて、そう頻繁にあってもらっては困るのだ。もし、次があった時に、全く聞いたこともないゼロの状態で受け止めるのか、そういえば以前にと、ほんの少しでも解決の糸口になるきっかけを作れるかでは、大きく違ってくる。

王族ならば尚更、解決までに時間をかけていられない場合もあるのだ。負担になってはいけないが、こうした場所から外す必要はないとコウヤは考えた。何より、子どもは周りの言葉をよく聞いている。ルベルの件でそれを再確認したばかりだ。

中途半端に後で噂として聞くよりは良い。王族だからこそ、特に気を付けなくてはならないだろう。コウヤはリルファムの教師役の一人でもあるつもりでいるため、ここはと思った。

「リルは話もよく聞きますし、後になって、色々な憶測や偏見で歪んだ話を聞くよりは、今ここで聞いた方が良いと思いませんか?」
「そうね……たしかにそうだわ……」

ミラルファは納得した。イスリナも迷っている様子だ。母親とは難儀なものだなと、コウヤはクスリと笑った。それに、どうしたのかとリルファムが不思議そうに見上げてくる。

「情報を精査して与えるのは良いことかもしれませんが、それを毎回、イスリナさんがやっていたら、どうなると思います?」
「えっと……大変ってこと?」
「もちろん大変ですけど、それより、リルがイスリナさんの言葉が正しいと思い込み、その情報源だけを頼って、信じるようになります……これ、考え方は少し違いますが、とっても身近でありませんでしたか?」

これに反応したのはシンリームだ。

「あっ。私だねっ。母上の言葉だけを信じていた」
「っ!! 理解しましたわ! それはダメです!」

拒否反応が凄かった。

「ふふふっ」
「もっ、もうっ、コウヤさんったら、そういうことは、もっと分かりやすく言って、注意してくださいなっ」
「すみません。親としての気持ちも分かるので、どうしようかとも思ったんですけど、リルが学びたいと思っているのもあったので」
「はい! もっといろいろ、しりたいです!」
「その気持ちはとっても大事ですね。あと、お祖父様達が、こういう時、何をどう考えるのかも考えてみましょうか」
「はい!」

アビリス王やジルファスが、少し緊張した様子だが、仕事中や、色んな場面での親の姿というのは子どもに見せるべきだ。

「コウヤさんったら……敵わないわ……」

少し拗ねてしまったイスリナに笑いかけながら、コウヤは報告に移った。

「今回のことも、ほとんどが親が子どもを思っての行動のようですよ」
「親が? あの国の関係ではなかったのか?」

アビリス王が確認する。ジルファスも目を瞬かせた。

「てっきり、コウヤのお披露目を邪魔するために、送り込んできたものと思っていたんだが……」

神教国の者が狙っているという不安を植え付け、お披露目をし難くなるようにしたいのだとコウヤも考えていた。しかし、蓋を開けてみれば、あの国の命で来たのは、最初のたった一人だ。ただの挨拶程度のものでしかなかった。

もちろん、その後にと考えていたかもしれないが、あの国にはもう、そんな余裕はないだろう。

「そもそもは、治癒魔法の適性を持つ子どもを、あの国に連れて行かれる前にと、逃したということらしくて。逃げ込む先はここが良いよと誰かに入れ知恵されて来たようです」

ここではまだ、他国の王子のことは告げない。

「それって……ここなら助けてくれるって思ったってこと?」

シンリームが答えを探るように口にする。これに、コウヤは頷いた。

「聖魔教会ではなく、この王城にというのがよく分かりませんが、結果的には保護された訳ですから、正解だったといえますよね」
「うん……そうなるね」

曖昧な言い方ではあったが、コウヤの偽物として来た者たちだ。他の国ならば、王子と偽ったとして、問答無用で極刑もあり得る。そんな危ない橋をどうして渡ったのかは分からない。

保護で済んだのは、この国だったからだ。

「そこで思ったんですが、もしかしたら、彼らにここに来るようにと助言した者は、オスローの存在を知っているのかもしれません」

アビリス王が納得したと頷いた。

「そうか。害悪のある者はこの王都には近付けぬ。それを知っているこちらは、彼らに害悪がないと保護する……それを狙っていたということだな」
「はい。この方法を提案したのが旅の剣士だったと聞いて、一人思い出したんです……妖精を連れている人を」
「知り合いかい?」

ジルファスに聞かれて、コウヤは少し目を逸らす。

「ええ……その……ばばさまの知人に、凄い剣士がいまして……そのお弟子さんなんですけど……」

ちょっと目が泳ぐ。違うかなと迷いもある。それに気付いたアルキスが目を細めた。

「コウヤ? 何? そいつ、ヤバいのか?」
「ヤバいというか、すごく人嫌いで、会話は、ほぼ一緒にいる妖精が人の振りして代わりにする感じです……ばばさま達相手にもそうで……俺は直接会えていませんが、最初は言葉を話せない人なんだって思ってました」
「そこまで……?」

コウヤがまだ幼い頃だった。客は珍しく、興味があったのだが、『顔は見せない様に』と言われた。『アレにはまだ会う資格がない』とも聞いた気がする。

部屋をちらりと覗き込んで、その人の様子を見ていた。ばばさま達相手に、何を話しかけられても微動だにしなかったなと、よく覚えている。周りの声を聞こえなくしているのかもとまで思ったほどだ。気に入らないという表情で固定されていたのが、子ども心に不快だった。

「エルフの人だったっていうのもあります」
「あ~……人族の言葉を使うのを嫌うのがいるって聞いたことあるな」

アルキスは冒険者として各地を放浪したことで、そういった情報も持っていた。

「でも、そんな人だから、助言する……っていうのがちょっと……」

想像できなかった。

「妖精の方は、正反対に社交的で素敵な方なんですけど」

彼の側に居た妖精は、物腰も柔らかで穏やかに笑う女性の姿だった。彼女にとって、彼は可愛い子どもらしく、コウヤに、隠れてではあるが、きちんと挨拶してくれたのだ。

「そんなんなら、甘やかしてそうだもんなあ」
「はい……けど、助言をしたのが剣士だと言うので……う~ん、やっぱり人違いかな……?」

その師匠もは人族だったが例外で、彼の人嫌いが酷過ぎて、冒険者ギルドにも行けないと愚痴っていたほどだ。それもエルフ。長命種は、数年単位で性格など変わらないのが普通だ。

「その妖精の方が化けてんじゃねえの?」
「女性で剣を持っていたら『女剣士』とか『女の剣士』って言いませんか? 印象に残りそうですし。子ども達なら尚更、どうしても剣士は男性の印象が強くなりますからね」
「それはあるな……」
「それも、冒険者じゃなくて剣士ってみんな言うんです。そうわざわざ名乗ったってことですよね? そうなると、やっぱりエルフの方の可能性が出てくるんですよ」

エルフや他の種族では、冒険者で一括りではなく、わざわざ剣士や魔法師と名乗ることが主流らしいのだ。これは、冒険者の中でも知られている。アルキスも頷いた。

「なら、そいつが怪しいんだよな? どこにいるかとか、司教達が分かったりしないか?」
「多分、知らないんじゃないかと……でも、師匠さんの方は、少し前からこの王都に居るみたいですけど」
「は?」
「教会の食堂で見かけたので。棟梁達と食事してましたし、学園の建築の方に参加してそうな……それと……」

チラリと端に控えるニールに目を向けた。彼は、報告が終わるまではと、コウヤについていたのだ。不思議そうに見返されたので、言ってしまうことにする。

「どうも、その師匠さん、ニールの血筋のような気がするんですよね~」

これに全員の視線がニールに集まる。当のニールは珍しく動揺した様子で目を泳がせた。

「っ……剣……剣士で……ベニ様方と……まさか……叔父上……っ、すっ、すぐに確認して参ります!」
「えっと、うん。お願いしたいな。良いですか?」

一応、アビリス王に確認をとっておく。彼は未だ宰相補佐なのだから、必要だ。

「もちろんだ。だが、本人かどうかは……」
「そうですね。ニール、俺も一緒に良い? そうだって確認できたら連れてきてもいいし。ついでに少し現場も見てきます」

これを聞いて、リルファムが元気に声を上げた。

「にいさまっ、わたしもいきます!」
「リル!?」

イスリナとジルファスも驚いていた。そこに、シンリームまでも名乗りを上げる。

「リルが行くなら、私も行きたいな」
「あ~、なら、俺も行く。ニールもいるなら護衛に問題ねえだろ。リルも、たまには外に出してやらんとな」
「はい! わたしとおなじとしのこたちが、こんかい、たびをしてきたんですよね? なら、わたしも、やってみたいです!」

やはりどこかで聞いていたようだ。きちんとリルファムは、五歳頃の子ども達が来たことを知っていた。別に、王都を出るわけでもないので問題はないだろう。

「よし! それでこそ、この国の王族だ!」
「はい!」

アルキスの言葉に、リルファムがキリリと表情を引き締めた。イスリナとジルファスも、これは反論できない。それを微笑ましく見つめ、コウヤは立ち上がった。

「では、行ってきます。あっ、そういえば、あの子ども達の中に、三人ほど、他国の王子が居ましたよ」
「え!?」
「なっ!?」

アビリス王とジルファスが目を丸くする。他も、控えている近衛騎士達も含め、初めて聞いたと驚きの表情だ。コウヤは至って普通に、ちょっと明日お茶しませんかという気軽さで続けた。

「明日、話を聞くことになってますから、予定に入れといてくださいね♪」
「……分かった……」
「……うん……」

コウヤは言うだけ言って、リルファムと手を繋いで部屋を出て行く。そんな背中を見つめながら、それはもっと早く聞きたかったなと誰もが思った。だが、コウヤのことは信頼している。これは下手に手を出さない方がいいなと、アビリス王達は頭を切り替えるように、揃ってため息をついたのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます!
よろしくお願いします◎
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