元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
66 / 475
第一章 ギルド改革編

第1巻連動SS②

しおりを挟む
書籍部分を読むと……
キーワードがありますよ♪
ではどうぞ。

**********

青年の恋は応援されます

【迷宮から帰ってきて数日後のユースールの日常のお話】


 
 大きな欠伸をしながら、青年はその日、あてもなく町を散策していた。

ふと目に入った店先で売っていた赤い果実に引き寄せられる。すると、店番をしていたおばちゃんが話しかけてきた。

「おや。ソルア坊、どうだい? 門番するのも慣れたかい?」
「それ何度目だよ……だいたい、もう二年目だぞ」
「あっはっはっ。あんたはまだまだ、私らからしたらひよっこだからね」

 現在、門番をしているソルアは、二年前に兵士として戻ってくるまで王都に五年いた。

 このユースールは辺境だ。ここで兵士になりたければ、せめて見習いは卒業しておく必要があった。それだけ、危険な場所なのだ。お陰で、王都では一人前と認められていても、ここに帰ってきた途端にもう一度半人前扱いされる。

 それを了承して異動してくるので文句はないが、住民達は諸々の事情など知らないため、当たり前のように半人前として心配されるのは、少し反応に困る。

「今日はフィアナちゃんも休みらしいからね。コレをお土産に荷物持ちデートでもしておいで」
「なっ、に、荷物持ちデート? それ、デートって言うのか?」
「知らないのかい? 王都では有名なんだよ? これは商人の情報だからね。確実さっ。ほれ、さっさと行く! 早いとこ結婚決めないとねえ。銀貨五枚だよ」
「どんな売り方だよ……はい」

 欲しいとは思ったが、半ば押しつけられた品物だ。それなのに、きっちり代金の請求はされる。もちろん逆らわず、素直に払って、あっちと言われた方に歩き出した。おばちゃんは邪険にしてはいけない。特にこのユースールでは、結婚が一気に遠のく。

「そういえば、コウヤにもバレたんだったな……」

 ソルアは、幼なじみで現在は領主の屋敷でメイドをしているフィアナに惚れている。どうやら、おばちゃん達には丸わかりらしい。

 つい先日もコウヤに、森に入っていた領主邸のメイドを迎えに来たフィアナを送るように仕向けられた。フィアナが乗って来た馬車の御者を代わりにということだったが、結果的にフィアナには感謝され、降りる時に『今度お礼する』と言われたので良かった。思わずコウヤの居るギルドの方を拝んだほどだ。

 しかし、そんなに分かりやすいだろうかと、今更ながら気付いて悶々とする。止まりそうになる足を動かし、百面相をしながらソルアは進んだ。

 おばちゃんの指差した方は中央区。領主の屋敷や各種ギルドがある。現在はドラム組が冒険者ギルド隣に出ているので、普段の数倍賑やかだ。

 そんな少し騒がしい様子に誘われて歩いていると、数人の冒険者達に囲まれながら屋台の前にいるグラムの姿が目に入った。その数人は数日前、コウヤと共に迷宮から朝帰りした者達だ。

 屋台の者とも話しているのは、最近コウヤが連れ歩くようになったという従魔のミミック、パックンについてのようだ。

「焼きたてのやつを入れてなあ。その後すぐに『おいしい!』って表示するのは感動した!」
「あれ、どうなってんの? いや、もうコウヤの連れだし、そういうものだって納得したけどっ」
「薬とか、魔法とか自由に出し入れするしなあ。入れたら全部消えないんだって初めて知った」

 ミミックとは思えないほど表情(?)豊かで、どんな冒険者達にも分け隔てなく社交的に、楽しく振る舞うパックンは、既に人気者になっていた。

 一見、鞄にしか見えない見た目。アレを普通のミミックとして認識したら危ない。門を出て行こうとする冒険者達に、子ども達が『パックンみたいなミミック見つけてきて!』と言われているのを、先日からソルアは見ていた。

  無茶なお願いだと、一緒に門番をしていた同僚と気の毒に思ったものだ。因みに、必死で無理だと弁明していた冒険者の中に、グラムも居た。門から出て行く冒険者達に子ども達が手当たり次第に声をかけているのだ。あれはしばらく続くだろう。

「あ~、人も別に保管できるらしいんだが、その時大丈夫なのか聞いたら『まずそう』って言うんだ。なんか心底納得っていうか、安心した」
「「「ああ……」」」

 よく分からないが、コウヤの連れているミミックが凄いことができるのは分かった。

 そこでふと振り返ったグラムと目が合う。

「おっ、ソルア。今日は休みか。あ、なら……北区の方にできたパン屋に行くと良いぞ」
「……ありがとうございます」

 もう否定する気も起きない。

 次に向かったのは、北区だ。子どもの頃は、絶対に近付くなと言われていたスラム街のあった地区。しかし、今は主婦達が井戸端会議に精を出し、子ども達が元気に走り回っている。パン屋の匂いに誘われていると、不意にテンション高めの声が響いた。

「うわっ、本当に凄いね、この門!」

 これに誰にともなく頷く。周りの人もそうだ。見なくても分かる。間違いなく、その門はコウヤの家の門のことなのだから。あれは迷宮の門よりも凄い。芸術が分からなくても、あれが凄いことだけは住民達にも分かるものだった。

 後日、この時の声の主が新しい冒険者ギルドのマスターだったということが分かり、素直に凄いと感心していたその印象から、良い人判定が為されることになる。

 その後、ソルアは無事パン屋でフィアナを見つけることができた。

「あ、ソルア?」
「っ、フィアナ……その……荷物持つよ」
「うん……ありがとう」
「おうっ……」

 その後ソルアは、多くのおばちゃん、おじちゃん達に暖かく見守られ、荷物持ち(?)デートを楽しんだのだった。

*********
門番の青年のお話しでした◎
キーワードとヒントは
『グラムさんの言葉』と『お宅訪問』です♪
気付いてもらえると嬉しいなあ。

書籍ともども、今後もよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。