元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第九章

338 休養を取りましょう

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仮にも一応は『聖女と王子の子=コウヤ』と偽ってやって来たはずの少年達だが、容姿にはまったく共通する所がなかった。コウヤとも、その他の少年達とも似ていない。髪色も瞳の色もバラバラだ。

年齢も違うため、当然だが体の大きさも違う。そして、恐らく育った環境も違うようだ。

それなりに身なりの良い少年達もいたためだろう。彼らの捕らえられている牢は、鉄格子の扉があるだけの部屋として使えるものだった。

絨毯も敷かれているし、長いソファや一人がけの椅子、テーブルもある。ただベッドは一つしかないらしく、何枚も分厚い布を重ねた場所がいくつか用意されていた。とはいえ、その辺の素泊まりの宿よりは快適な寝心地になるだろう。

この牢は、罪が確かでない貴族の保護や一時的に軟禁する場所のようだ。

コウヤは、牢の番をしている騎士に声をかける。

「入れてくれる?」
「っ、まだ調べがはっきりしておりません。危険です」

本気で心配だという顔をされる。もちろん、彼はきちんとコウヤが騎士に訓練を付けられるくらい強いことを知っている。

騎士達にとってコウヤは、決して力で敵わなくとも、何者にも傷付けられてほしくないこの国を変えてくれた恩人なのだ。そんな思いも理解して、コウヤは微笑む。心配してくれるのは、普通に嬉しい。

「悪い人たちじゃないよ。だから大丈夫」
「ですが……」

コウヤが言うのならそうなのだろうと、盲目的に信じられるくらい、コウヤは信頼されているが、それでも渋る。守るべき子どもであることも確かだからだ。

しかし、ここでニールが騎士の前に立ったことで迷いは消える。

「私が居ります。問題ありません」
「に、ニール殿……っ、承知しました……」

騎士がはっきりと怯む様子に、コウヤは首を傾げた。彼は、近衛騎士達から宿舎で聞かされていたのだ。センジュリン国でのニールの戦いっぷりは凄まじかったのだと。自分たちでは到底敵わないという近衛騎士達の言葉には大袈裟なものも、嘘もないと知っていた。王城に勤める騎士達で、ニールを知らぬものは最早、居なかった。

ちょうど、ユースールの文官達の影響で『文官にも強い者が居る』というのが周知されている時だ。信憑性が高まっていた。お陰で一気に騎士達の中に浸透したのだ。

「くれぐれもお気を付けて」
「うん。ありがとう」
「私が先に」

コウヤはニールについて部屋に入る。最初に覗いた時は、怯えていた少年達も、やって来たのが自分たちと変わらない年齢の子どもであると見て、少しだけ警戒を解いたらしい。

「おはようございます。俺はコウヤといいます。少しお話しを聞かせてください」
「っ……」

穏やかなその声かけに、少年達やこの場に残っていた二人の老人が顔を見合わせて小さく頭を下げて見せた。

そこで気付く。

「あれ? 二人?」

老人が二人しか居なかった。つい先ほど来た者を合わせて九組。先の八人中五人は倒れて薬師が看ていると聞いた。合わせて四人になるはずだ。これに、ニールが外の騎士に確認する。

「先程来た大人と合わせて、あと二人はどうしました」
「あ、はい! 先日こちらに入っていた二人が今朝方、体調を崩したらしく、運び出して薬師様にお任せしました!」

ハキハキと背筋を伸ばして答えた騎士に、コウヤは頷きながら頼む。

「そう……残っているこのお二人も、薬師に診せてください」
「えっ」

なぜと騎士が言葉を口にする前に、ニールが固く告げる。

「すぐにそのように」
「は、はっ!!」

ニールの一言で戸惑いはきっぱり断ち切られ、一人の騎士が運び出すための人を呼びに行った。

コウヤがゆっくり老人二人に近付き、手を取る。体温が高い。脈も少し早いようだ。

「疲れが出ているだけだと思いますが、きちんと眠って、休養を取りましょう。大丈夫。彼らは俺が預かります。教国には手出しさせませんから」
「っ……お、お分かりに……っ」
「全ては分かりません。ですが、あの国の手から逃れて来られたのだというのは、あなた方の様子からわかりました」

ここまで話すと、老人二人は、顔を伏せて涙を流した。そんな彼らを労わるように、未だ取っていた手を緩く握る。

「事情が理解出来ている子もいるでしょう? 話せることだけでも、彼らに教えてもらいます。だから、あなた方は休んでください。辛い旅でしたね」
「っ、はい……っ、はい……、ありがとうございます……っ」
「どうかっ、どうか……っ、お守りくださいっ……」
「ええ。もう大丈夫ですよ」
「っ……ありがっ……ありがとうございます……っ」
「っ……」

拝まんばかりの様子だが、これ以上泣くのも体力を使う。だから、コウヤは彼らを眠らせた。

「っ、おじいっ」
「じいっ」

二人の老人と来た少年だろう。それなりに身なりの良い二人が、それぞれくたりと崩れ折れた老人に手を伸ばす。

「眠らせただけです。このまま運んでもらいますから心配ないですよ。それと、この城の中は安全です。危害を加えようとする者は、全て排除されます。害悪あるあの国の者は入り込めませんから、安心してください」
「そんなこと……どうやって……」

問いかけてきたのは、十五歳頃に見える少年だ。老人に手を差し伸べる二人の少年は、両方ともコウヤより年上に見える。けれど、恐らく彼が一番年長だろう。

「この城には守護妖精が居ます。だから、外部の……敵と判断されている者は入ることができません。妖精は、悪意に敏感ですから」
「妖精が……そうか……」

納得したというより、もう納得したかったのだろう。その表情には憔悴した色が見えた。

「決して、悪いようにはしません。目的を話してください。そうしたら、きちんと一度休みましょう。部屋も用意してもらいますから」
「っ、部屋は……ここでいい……私は隣の国、ベルネルの第三王子、フレスタ・ウェル・ベルネル。こちらの国の王が病から快癒したと聞いた……父を助けて欲しい」
「……同じ病だと?」

真剣な表情のフレスタに、コウヤは一応はと確認する。これに彼は頷いた。

「そうだと聞いています。どうか、お力をお貸し願いたい」
「わ、私もっ。私、私はデランタ王国、第五王子のディスタです……お祖母様を助けてくださいっ」

こちらも身なりや所作から、それなりの身分ある子どもだとは思ったが、王子だった。同じ事情のようだ。

フレスタが再び口を開く。

「他にも聞きましたが、そちらの幼い子も隣国の王子だそうです。同じように身内に病の者がおり、その治療法を教えてもらうためにやってきたと」

彼は全ての少年達から話を聞いていたらしい。味方に付けられるならば、付けるという考えがあるのだろう。

「残りは、治癒魔法の素質を持ち、あの教会に目を付けられた子ども達だそうです。無理に家族から引き離される前にと、逃げてきたと」

両親の顔は知られているため、一見して、一緒に逃げられるような者ではない老人を選んで、子ども達を託したのだという。老人達は昔の伝を頼り、冒険者を護衛にして、この王都までやって来たらしい。

「この国の王子と聖女の子だと言えば、匿ってもらえると、教えた者がいるようです。私も、そう言って城に入って交渉すると良いと、旅の剣士に教わりました。彼もそうらしい。同じ人物かはわかりませんが……」

彼といって、もう一人の少年ディスタを指した。

「旅の剣士……」

チラリとニールに視線をやると頷かれた。予想通り、何者かによる誘導があったようだ。

**********
読んでくださりありがとうございます◎

書籍第1巻、発売となりました!
もう見つけていただけたでしょうか。
これに伴いまして該当部が引き下げられレンタルとなっています。
明日、その下にSSを投稿する予定です。
お暇潰しにどうぞ!
本編の裏話ですので、書籍と合わせてお楽しみください◎

では、次回本編は二日空きます。
よろしくお願いします◎
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