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第八章 学校と研修
327 迷宮の棚卸し!
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コウヤは溢れ出てきた魔獣達が、波のように木々や外壁、人家を薙ぎ倒し始めた様子を確認しながら続けた。
『ギルド職員の方々も、目を逸らさず見てください。冒険者の方々よりも、我々は忘れてはいけません。誰よりも、この状況を起こしてはならないという意識を持つべきです』
タリスやシーレスがギルド職員を各地から集めて連れてきたのは、これを見せるためだ。タリスは特にベルセンで体験したこともあり、迷宮の怖さを知らず、平和ボケした職員達は多いと知った。
統括の地位に居た時には考えなかったことだ。現場にギルドマスターとして戻ってきたことで、タリス自身もこの危機感を思い出した。
そんなタリスと目が合った。コウヤが頷くと、タリスはマイクのような魔導具をコウヤから受け取る。
『コウヤちゃんが言ったこと。冒険者の子達は絶対に忘れないでね。それと、職員の子達に改めて言っておくよ』
コウヤが言うより、彼らは素直に聞くだろうと思い、代わったのは正解だったかもしれない。きちんと職員達の意識が向いたのを感じた。
やはり、元Sランク、元グランドマスターは偉大だ。
『ギルドマスターの子達は特に、きちんと理解してね? そこで、確認。君たち、きちんと管轄の迷宮の調査してるかな?』
「「「……」」」
これに、どうだっけと目を泳がせるギルド職員達。
『出てくる魔獣や魔物に変化はないか。数の割合に変わりはないか。手に入る薬草とか、きちんと把握できてるかな?』
「「「……」」」
目が泳ぐどころか、ぐるんぐるんしてる人も居た。
『この重要性……今ならわかるよね?』
「「「っ、はい!」」」
返事を返さなくてはならないと思わせるほど、タリスの声はちょっと怖かった。
「なあ、その調査って、なんだ?」
「そんなことギルドがしてたのか?」
「いや、してないから、怒られてんじゃないの?」
これらは、冒険者達の会話だ。
冒険者達は、島の様子を見ながらも、その調査が大事なことだということを察して話し合う。
「確か、昔おやっさんから聞いたな……迷宮に、職員連れて入るんだって。護衛しながら踏破しないといけないから、結構大変だけど、実入りは良いとか言ってた」
聞いたことあるなと冒険者達は頷き合う。
『もちろん、何をやってるか知らない冒険者側からしたら、調査のために数日迷宮の立ち入り禁止にするし、迷惑だって思うだろうね。けど、それで反発されるからってやらないって選択をしちゃダメだよ?』
「「「……」」」
タリスはこれを避けようとするのも分かると思いながらも注意する。心当たりのあるギルドマスター達が、気まずげに目を逸らした。
「ああ、それか。確かに、迷惑だって言ってたな」
「けど、そうか……必要なことだったんだな」
冒険者達も、先輩冒険者達から愚痴を聞いたなと頷き合う。これだけで、ここ最近は行われていなかったことが明らかになった。
内容を知らなければ、必要なことでも迷惑だと反発される。だからこそ、今回知れたのは良い事だろう。
『そうだねえ……あ、コウヤちゃんはこの前なんて言ってたっけ? ほら、調査に出る時、居合わせたゼットちゃんに分かりやすく説明してたでしょ?』
「えっと、『迷宮の棚卸し』ですか?」
『それそれ、迷宮の棚卸し! ゼットちゃんが成る程って言って納得してたよ。商人じゃなくても、聞いたことあるでしょ? お店では大体やるもんねえ』
きちんと商業ギルドの規定で、年に一度以上は棚卸しをすることと定められている。そのため、冒険者であっても噂ぐらいは聞いて知っている。
その日、なぜ店が閉まっているのか、商人はしっかり説明する。その説明要員を商業ギルドも派遣するのだ。決して閉店するわけではないとはっきりさせるためでもある。よって、冒険者であっても棚卸しが何かぐらい分かるのだ。
『あれと同じだよ。なんで迷宮が立ち入り禁止になるのか、これからは『迷宮の棚卸し中』って看板立てようね。それで理解出来ない子は、何って聞いてくるから。きちんと説明するように』
「「「はい……」」」
そうするだけで良かったんだと、ギルドマスター達は少し呆然としていた。長年悩みだった問題が一つ解決した。
『もちろん、いっぺんにやらないようにね。日頃から、きちんと計画的にやることが大事だよ』
全部の迷宮を一度に閉められてしまっては困る。時間もかかるものだから、時期的なものも含めて、日取りも決めるべきだろう。
「ユースールはどうなんだ? コウヤさんが居るなら、きちんとやってたんだろ?」
これは王都組の質問だ。
だが、聞かれたユースールの冒険者達は首を捻る。
「いや、知らない」
「やってるだろ。コウヤならきちんと気にしてそうだし」
こんなことを言っているのは、一部のユースールの冒険者だ。もちろん、知っている者もいた。
「何言ってんだよ。うちは、コウヤ一人でやってたぞ」
「「「は?」」」
聞いていたギルド職員達も反応して声を上げる。一斉に視線を向けられた冒険者は顔をしかめながら説明した。
「だから、コウヤ一人でやってたんだよ。ありゃあ、前のクズギルマスが依頼出すの渋ったんだろうな~」
「いやいや、アイツらなら、やったってことにして、本来依頼を受けた冒険者に払う金を懐に入れてたんじゃね?」
大正解だ。
「……だからって、コウヤ一人で?」
「それも三つの迷宮全部な。あれは、多分一日で回ってる。コウヤは変な乗り物とか使うし」
「あ~、だな。その日の迷宮でのコウヤの目撃情報から行くとそうだわ」
「すげえ高速で駆け抜けてくんだよな」
「手元カチカチ何かしながら、一階層ごとに紙に何か書いて、すぐ駆け出してくんだよ。何やってるか不明だったけど、多分あれが棚卸し作業だな。商人の方の棚卸しを手伝ったことあるけど、同じようなことしてた」
うんうんと頷き合うユースール組。
普通、商店の棚卸しを冒険者が手伝うなんてことは、あまり親しくない冒険者ギルドと商業ギルドの関係上あり得ない。だが、ユースールは特別だ。Z依頼にも出る。荷物の移動などお願いするのだ。
それが聞こえたタリスは、笑いながら信じていないらしい者たちに肯定しておく。
『そうそう。ユースールでは、コウヤちゃんが一人でやってるね。あ、コウヤちゃん、あのカチカチするやつ……』
「数取器ですか?」
『うんうん。その数取器、ギルドに備品申請しといてくれる? なんか、コウヤちゃんの持ってたやつって、五つくらい繋がってたでしょ?』
「はい。あ、でも連結したやつは商業ギルドに登録してないです」
『じゃあ、しといて。全ギルドに支給するから』
「わかりました」
こうした道具もはっきりいって揃ってはいなかった。だからこそ、余計に時間がかかるのだ。
「……本当にあの子一人で……?」
これがコウヤを知らない、子どもと侮って見ていたギルド職員達の総意だ。まったく信じられないという顔をしていた。
『本当だよ。コウヤちゃんは、一人で迷宮を周回できるからね。というか……そういえば、ひと昔前には、職員の子も荒事担当の子とは関係なく、迷宮研修があったはずだけど、ちゃんとやってるのかな』
迷宮での行方不明者の捜索など、最終判断のために職員が出向く必要がある。冒険者に護衛されながらにはなるが、全く迷宮に入ったことのない者では、いざという時に困るので、定期的に研修が組まれていた。
『ユースールは……確か、Z依頼であったよね。護衛研修と一緒になったやつ』
当たり前のようにタリスはコウヤに確認する。
「はい。前のギルドマスター達に文句を言われないように考えました♪」
『うん。天才』
職員達も最初は嫌がったが、なんせユースールの管理する迷宮の一つには文具が出る。自分たちで調達するのも悪くないと思ってくれたのだ。それからは、怖がらずに他の迷宮にも行く。何より、きちんとベテランの冒険者が指導する研修なので、しっかり守ってくれる安心感があるのも良かったようだ。
『ってことで、Z依頼に組み込むように。それと、ここから戻ったら、ユースールでの研修を本格的に始めるよ。マスター達も予定をきちんと空けておくように』
そうして締め括られる頃には、島にあった全ての城や建物は崩れ落ちていた。
「さて、では最後のお掃除ですね。人選は任せてもらいましょう」
リクトルスが立ち上がる。これから、島中に溢れ出た魔獣や魔物の掃討を始めるのだ。
「コウヤ君も、行きましょうね」
「え、あ、うん?」
「君の力を見せつけないといけませんから」
まさかメンバーに加えられるのは思っていなかったコウヤは、驚いた。リクトルスとしては、未だコウヤの力に懐疑的な者たちが気に入らないようだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
『ギルド職員の方々も、目を逸らさず見てください。冒険者の方々よりも、我々は忘れてはいけません。誰よりも、この状況を起こしてはならないという意識を持つべきです』
タリスやシーレスがギルド職員を各地から集めて連れてきたのは、これを見せるためだ。タリスは特にベルセンで体験したこともあり、迷宮の怖さを知らず、平和ボケした職員達は多いと知った。
統括の地位に居た時には考えなかったことだ。現場にギルドマスターとして戻ってきたことで、タリス自身もこの危機感を思い出した。
そんなタリスと目が合った。コウヤが頷くと、タリスはマイクのような魔導具をコウヤから受け取る。
『コウヤちゃんが言ったこと。冒険者の子達は絶対に忘れないでね。それと、職員の子達に改めて言っておくよ』
コウヤが言うより、彼らは素直に聞くだろうと思い、代わったのは正解だったかもしれない。きちんと職員達の意識が向いたのを感じた。
やはり、元Sランク、元グランドマスターは偉大だ。
『ギルドマスターの子達は特に、きちんと理解してね? そこで、確認。君たち、きちんと管轄の迷宮の調査してるかな?』
「「「……」」」
これに、どうだっけと目を泳がせるギルド職員達。
『出てくる魔獣や魔物に変化はないか。数の割合に変わりはないか。手に入る薬草とか、きちんと把握できてるかな?』
「「「……」」」
目が泳ぐどころか、ぐるんぐるんしてる人も居た。
『この重要性……今ならわかるよね?』
「「「っ、はい!」」」
返事を返さなくてはならないと思わせるほど、タリスの声はちょっと怖かった。
「なあ、その調査って、なんだ?」
「そんなことギルドがしてたのか?」
「いや、してないから、怒られてんじゃないの?」
これらは、冒険者達の会話だ。
冒険者達は、島の様子を見ながらも、その調査が大事なことだということを察して話し合う。
「確か、昔おやっさんから聞いたな……迷宮に、職員連れて入るんだって。護衛しながら踏破しないといけないから、結構大変だけど、実入りは良いとか言ってた」
聞いたことあるなと冒険者達は頷き合う。
『もちろん、何をやってるか知らない冒険者側からしたら、調査のために数日迷宮の立ち入り禁止にするし、迷惑だって思うだろうね。けど、それで反発されるからってやらないって選択をしちゃダメだよ?』
「「「……」」」
タリスはこれを避けようとするのも分かると思いながらも注意する。心当たりのあるギルドマスター達が、気まずげに目を逸らした。
「ああ、それか。確かに、迷惑だって言ってたな」
「けど、そうか……必要なことだったんだな」
冒険者達も、先輩冒険者達から愚痴を聞いたなと頷き合う。これだけで、ここ最近は行われていなかったことが明らかになった。
内容を知らなければ、必要なことでも迷惑だと反発される。だからこそ、今回知れたのは良い事だろう。
『そうだねえ……あ、コウヤちゃんはこの前なんて言ってたっけ? ほら、調査に出る時、居合わせたゼットちゃんに分かりやすく説明してたでしょ?』
「えっと、『迷宮の棚卸し』ですか?」
『それそれ、迷宮の棚卸し! ゼットちゃんが成る程って言って納得してたよ。商人じゃなくても、聞いたことあるでしょ? お店では大体やるもんねえ』
きちんと商業ギルドの規定で、年に一度以上は棚卸しをすることと定められている。そのため、冒険者であっても噂ぐらいは聞いて知っている。
その日、なぜ店が閉まっているのか、商人はしっかり説明する。その説明要員を商業ギルドも派遣するのだ。決して閉店するわけではないとはっきりさせるためでもある。よって、冒険者であっても棚卸しが何かぐらい分かるのだ。
『あれと同じだよ。なんで迷宮が立ち入り禁止になるのか、これからは『迷宮の棚卸し中』って看板立てようね。それで理解出来ない子は、何って聞いてくるから。きちんと説明するように』
「「「はい……」」」
そうするだけで良かったんだと、ギルドマスター達は少し呆然としていた。長年悩みだった問題が一つ解決した。
『もちろん、いっぺんにやらないようにね。日頃から、きちんと計画的にやることが大事だよ』
全部の迷宮を一度に閉められてしまっては困る。時間もかかるものだから、時期的なものも含めて、日取りも決めるべきだろう。
「ユースールはどうなんだ? コウヤさんが居るなら、きちんとやってたんだろ?」
これは王都組の質問だ。
だが、聞かれたユースールの冒険者達は首を捻る。
「いや、知らない」
「やってるだろ。コウヤならきちんと気にしてそうだし」
こんなことを言っているのは、一部のユースールの冒険者だ。もちろん、知っている者もいた。
「何言ってんだよ。うちは、コウヤ一人でやってたぞ」
「「「は?」」」
聞いていたギルド職員達も反応して声を上げる。一斉に視線を向けられた冒険者は顔をしかめながら説明した。
「だから、コウヤ一人でやってたんだよ。ありゃあ、前のクズギルマスが依頼出すの渋ったんだろうな~」
「いやいや、アイツらなら、やったってことにして、本来依頼を受けた冒険者に払う金を懐に入れてたんじゃね?」
大正解だ。
「……だからって、コウヤ一人で?」
「それも三つの迷宮全部な。あれは、多分一日で回ってる。コウヤは変な乗り物とか使うし」
「あ~、だな。その日の迷宮でのコウヤの目撃情報から行くとそうだわ」
「すげえ高速で駆け抜けてくんだよな」
「手元カチカチ何かしながら、一階層ごとに紙に何か書いて、すぐ駆け出してくんだよ。何やってるか不明だったけど、多分あれが棚卸し作業だな。商人の方の棚卸しを手伝ったことあるけど、同じようなことしてた」
うんうんと頷き合うユースール組。
普通、商店の棚卸しを冒険者が手伝うなんてことは、あまり親しくない冒険者ギルドと商業ギルドの関係上あり得ない。だが、ユースールは特別だ。Z依頼にも出る。荷物の移動などお願いするのだ。
それが聞こえたタリスは、笑いながら信じていないらしい者たちに肯定しておく。
『そうそう。ユースールでは、コウヤちゃんが一人でやってるね。あ、コウヤちゃん、あのカチカチするやつ……』
「数取器ですか?」
『うんうん。その数取器、ギルドに備品申請しといてくれる? なんか、コウヤちゃんの持ってたやつって、五つくらい繋がってたでしょ?』
「はい。あ、でも連結したやつは商業ギルドに登録してないです」
『じゃあ、しといて。全ギルドに支給するから』
「わかりました」
こうした道具もはっきりいって揃ってはいなかった。だからこそ、余計に時間がかかるのだ。
「……本当にあの子一人で……?」
これがコウヤを知らない、子どもと侮って見ていたギルド職員達の総意だ。まったく信じられないという顔をしていた。
『本当だよ。コウヤちゃんは、一人で迷宮を周回できるからね。というか……そういえば、ひと昔前には、職員の子も荒事担当の子とは関係なく、迷宮研修があったはずだけど、ちゃんとやってるのかな』
迷宮での行方不明者の捜索など、最終判断のために職員が出向く必要がある。冒険者に護衛されながらにはなるが、全く迷宮に入ったことのない者では、いざという時に困るので、定期的に研修が組まれていた。
『ユースールは……確か、Z依頼であったよね。護衛研修と一緒になったやつ』
当たり前のようにタリスはコウヤに確認する。
「はい。前のギルドマスター達に文句を言われないように考えました♪」
『うん。天才』
職員達も最初は嫌がったが、なんせユースールの管理する迷宮の一つには文具が出る。自分たちで調達するのも悪くないと思ってくれたのだ。それからは、怖がらずに他の迷宮にも行く。何より、きちんとベテランの冒険者が指導する研修なので、しっかり守ってくれる安心感があるのも良かったようだ。
『ってことで、Z依頼に組み込むように。それと、ここから戻ったら、ユースールでの研修を本格的に始めるよ。マスター達も予定をきちんと空けておくように』
そうして締め括られる頃には、島にあった全ての城や建物は崩れ落ちていた。
「さて、では最後のお掃除ですね。人選は任せてもらいましょう」
リクトルスが立ち上がる。これから、島中に溢れ出た魔獣や魔物の掃討を始めるのだ。
「コウヤ君も、行きましょうね」
「え、あ、うん?」
「君の力を見せつけないといけませんから」
まさかメンバーに加えられるのは思っていなかったコウヤは、驚いた。リクトルスとしては、未だコウヤの力に懐疑的な者たちが気に入らないようだった。
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