210 / 475
第八章 学校と研修
315 むしり取りましょう
しおりを挟む
明らかにワクワク、ソワソワしているリクトルスを見て、確かに今日の神界のお留守番はゼストラークだったなと確認を終える。
別に神界を留守にしても問題はないのだが、過去の遺物が出てきていることもあり、なるべく交代でとなったと聞いていた。
まあ、この状況ではどのみちゼストラークの出番というか、興味は湧かないので問題はないだろう。出て来たくなるのは更地になった後だ。
現在、太陽が地平線に半分見えなくなる頃。
天気が良いのは幸いだ。
「リクト兄だけ先に来たの?」
まだパックンが操縦する飛行船が近くに来て居ないのを確認して尋ねる。神官達も、まだのようだ。
「せっかくだから、王都とかに寄って、人を集めて行くって、タリスがね。ここ、冒険者ギルドがないらしいじゃない。冒険者だけじゃなくて、職員も必要でしょ」
「あ、そっか」
いくらコウヤでも、複数の拠点全てのサポートなど無理だ。この際、必要なのは冒険者よりも職員だった。
「本部からも連れて行くって言ってたよ。『冒険者ギルドがなかったから、島が滅びた』って教訓を残すのもありだけど、必要以上に迷宮への畏怖も植え付けそうだからねえ」
「うん……だから、見捨てるっていう選択は、したくないんだよ」
島一つ。迷宮の暴走によって滅ぼすことが可能というのが事実となれば、恐怖の対象としての見方が強くなってしまう。
それも、一気に複数とはいえB、Aランクの迷宮ではなく、Cランクの迷宮が大半ということは、きっと後で知られるだろう。そうなれば、迷宮の危険性の方が目立ってしまう。
精霊達との共存、共栄を願うのに、それは障害でしかない。
コウヤが見下ろす先には、くたびれた防具を着けて門の外に出て行く複数の人々の姿。兵士達は、上の判断をと右往左往しているのが分かる。
この島は、東西に長い横長型。北側三分のニ程が人の住む範囲。残りの南側に迷宮が犇めきあっている。
よって、ほぼ横並びに大きな町が五つほどあり、中央に王都だ。
一番早く集団暴走が始まったのは中央寄りのCランクの迷宮。兵士達は指示を仰ごうにも、城が無くなったように見えているため、そちらでも混乱しているようだ。彼らは使い物にならないだろう。町中でウロウロするだけなら邪魔にもならないので良しとすべきかもしれない。
それらをリクトルスも見下ろして苦笑する。
「おやおや。兵士には期待出来そうにありませんね」
「みたいだね……あの防具だけでも交換させたいな」
冒険者ギルドを追い出すような国だ。迷宮の必要性も理解せず、人同士のいざこざしか重視していないはず。民が下手に武具を持って反乱を起こさぬようにと、鍛冶屋に武具製作の規制を設けているかもしれない。先に出て行った者たちの防具より遥かに兵士達の武具はきちんとしていたのだから。
「確かに……その方が良さそうですが……どうしましょうねえ」
誰にその指示を出そうかと考える。タイミングもあるだろう。リクトルスにも賛同されたことで、コウヤの中でもこれは決定事項となった。
「そういえば、エリィの方はどうなったんでしょう」
「分かんない。楽しそうだったから、声もかけずに来ちゃった。ルー君とテンキに任せてきたけど」
そろそろ首魁の首を絞めている頃だろうかと、城のあるべき方を見る。
「そうですか……まあ、でも、それがありますし、貴族達は神官に拘束させましょう。上が押さえられてしまえば、兵士などいよいよ使い物になりませんからね。その後で防具をむしり取りましょう」
「それが一番かな」
使う方も、きちんと上が押さえられていた方が安心して使えるだろう。
「パックンにやらせたらいいですよ」
「うん? 確かにパックンならパックンすれば……」
早いかなと納得したのだが、リクトルスが続けた。
「なんでも『脱がせ屋さん』よりも華麗に早くを目指したいとか言っていましたからね」
「……」
パックンはどこを目指したいのだろうか。金のガマ様に、なぜ対抗心を燃やしたのか謎だ。
溜め込む所に親近感を沸かせていたとは、さすがにコウヤも気付けない。見た目が違い過ぎる。
実際は、冗談半分で冒険者たちがパックンに能力が似ている所があるなんて言ったのが始まりだった。
「『自分は着替えもさせてあげられる』とも言ってましたよ」
「……」
兵士がパックンされて防具を剥かれて吐き出され、冒険者らしき者たちがパックンされて防具を着せられて吐き出される様を想像して、微妙な気分になった。
そうこうしている内に、飛行船エイが視界に入った。周りに神官たちがバイクで飛んでくるのも見える。
「あ、そろそろ来ますね。さてと。戦闘の指揮は任せてくれてもいいですよ。コウヤくんはサポートお願いしますね」
「分かった……ん?」
「どうかしました?」
では準備をと、意識を切り替えた所で、不意に迷宮の方から町へ向けて駆けてくる小さな気配に気付いた。そちらに目を向けて慌てる。
「っ、ちょっと行ってくる!」
「え? あ~、なるほど。分かりました。気を付けてくださいね」
「うん!」
グラビティボードを操作して、その人たちの下へ急ぐ。
「なんで町の外に……」
訝しみながらも彼らの後ろに迫った魔獣を魔法で狩り取る。
「きゃあっ」
「ひっ」
「っ!!」
腰を抜かしたように崩れ落ちるのは三人の女子。
「大丈夫ですか?」
「え……」
育ちの良さそうな十代の少女とその妹らしき五歳頃の幼女。そして、二人を守ろうと警戒しながらも震える成人したばかりに見える年頃の女性の三人。
彼女たちは、森の中にある小さな小屋から出てきていたのだ。明らかに訳ありそうな三人だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
別に神界を留守にしても問題はないのだが、過去の遺物が出てきていることもあり、なるべく交代でとなったと聞いていた。
まあ、この状況ではどのみちゼストラークの出番というか、興味は湧かないので問題はないだろう。出て来たくなるのは更地になった後だ。
現在、太陽が地平線に半分見えなくなる頃。
天気が良いのは幸いだ。
「リクト兄だけ先に来たの?」
まだパックンが操縦する飛行船が近くに来て居ないのを確認して尋ねる。神官達も、まだのようだ。
「せっかくだから、王都とかに寄って、人を集めて行くって、タリスがね。ここ、冒険者ギルドがないらしいじゃない。冒険者だけじゃなくて、職員も必要でしょ」
「あ、そっか」
いくらコウヤでも、複数の拠点全てのサポートなど無理だ。この際、必要なのは冒険者よりも職員だった。
「本部からも連れて行くって言ってたよ。『冒険者ギルドがなかったから、島が滅びた』って教訓を残すのもありだけど、必要以上に迷宮への畏怖も植え付けそうだからねえ」
「うん……だから、見捨てるっていう選択は、したくないんだよ」
島一つ。迷宮の暴走によって滅ぼすことが可能というのが事実となれば、恐怖の対象としての見方が強くなってしまう。
それも、一気に複数とはいえB、Aランクの迷宮ではなく、Cランクの迷宮が大半ということは、きっと後で知られるだろう。そうなれば、迷宮の危険性の方が目立ってしまう。
精霊達との共存、共栄を願うのに、それは障害でしかない。
コウヤが見下ろす先には、くたびれた防具を着けて門の外に出て行く複数の人々の姿。兵士達は、上の判断をと右往左往しているのが分かる。
この島は、東西に長い横長型。北側三分のニ程が人の住む範囲。残りの南側に迷宮が犇めきあっている。
よって、ほぼ横並びに大きな町が五つほどあり、中央に王都だ。
一番早く集団暴走が始まったのは中央寄りのCランクの迷宮。兵士達は指示を仰ごうにも、城が無くなったように見えているため、そちらでも混乱しているようだ。彼らは使い物にならないだろう。町中でウロウロするだけなら邪魔にもならないので良しとすべきかもしれない。
それらをリクトルスも見下ろして苦笑する。
「おやおや。兵士には期待出来そうにありませんね」
「みたいだね……あの防具だけでも交換させたいな」
冒険者ギルドを追い出すような国だ。迷宮の必要性も理解せず、人同士のいざこざしか重視していないはず。民が下手に武具を持って反乱を起こさぬようにと、鍛冶屋に武具製作の規制を設けているかもしれない。先に出て行った者たちの防具より遥かに兵士達の武具はきちんとしていたのだから。
「確かに……その方が良さそうですが……どうしましょうねえ」
誰にその指示を出そうかと考える。タイミングもあるだろう。リクトルスにも賛同されたことで、コウヤの中でもこれは決定事項となった。
「そういえば、エリィの方はどうなったんでしょう」
「分かんない。楽しそうだったから、声もかけずに来ちゃった。ルー君とテンキに任せてきたけど」
そろそろ首魁の首を絞めている頃だろうかと、城のあるべき方を見る。
「そうですか……まあ、でも、それがありますし、貴族達は神官に拘束させましょう。上が押さえられてしまえば、兵士などいよいよ使い物になりませんからね。その後で防具をむしり取りましょう」
「それが一番かな」
使う方も、きちんと上が押さえられていた方が安心して使えるだろう。
「パックンにやらせたらいいですよ」
「うん? 確かにパックンならパックンすれば……」
早いかなと納得したのだが、リクトルスが続けた。
「なんでも『脱がせ屋さん』よりも華麗に早くを目指したいとか言っていましたからね」
「……」
パックンはどこを目指したいのだろうか。金のガマ様に、なぜ対抗心を燃やしたのか謎だ。
溜め込む所に親近感を沸かせていたとは、さすがにコウヤも気付けない。見た目が違い過ぎる。
実際は、冗談半分で冒険者たちがパックンに能力が似ている所があるなんて言ったのが始まりだった。
「『自分は着替えもさせてあげられる』とも言ってましたよ」
「……」
兵士がパックンされて防具を剥かれて吐き出され、冒険者らしき者たちがパックンされて防具を着せられて吐き出される様を想像して、微妙な気分になった。
そうこうしている内に、飛行船エイが視界に入った。周りに神官たちがバイクで飛んでくるのも見える。
「あ、そろそろ来ますね。さてと。戦闘の指揮は任せてくれてもいいですよ。コウヤくんはサポートお願いしますね」
「分かった……ん?」
「どうかしました?」
では準備をと、意識を切り替えた所で、不意に迷宮の方から町へ向けて駆けてくる小さな気配に気付いた。そちらに目を向けて慌てる。
「っ、ちょっと行ってくる!」
「え? あ~、なるほど。分かりました。気を付けてくださいね」
「うん!」
グラビティボードを操作して、その人たちの下へ急ぐ。
「なんで町の外に……」
訝しみながらも彼らの後ろに迫った魔獣を魔法で狩り取る。
「きゃあっ」
「ひっ」
「っ!!」
腰を抜かしたように崩れ落ちるのは三人の女子。
「大丈夫ですか?」
「え……」
育ちの良さそうな十代の少女とその妹らしき五歳頃の幼女。そして、二人を守ろうと警戒しながらも震える成人したばかりに見える年頃の女性の三人。
彼女たちは、森の中にある小さな小屋から出てきていたのだ。明らかに訳ありそうな三人だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
235
お気に入りに追加
11,119
あなたにおすすめの小説


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。