上 下
210 / 471
第八章 学校と研修

315 むしり取りましょう

しおりを挟む
明らかにワクワク、ソワソワしているリクトルスを見て、確かに今日の神界のお留守番はゼストラークだったなと確認を終える。

別に神界を留守にしても問題はないのだが、過去の遺物が出てきていることもあり、なるべく交代でとなったと聞いていた。

まあ、この状況ではどのみちゼストラークの出番というか、興味は湧かないので問題はないだろう。出て来たくなるのは更地になった後だ。

現在、太陽が地平線に半分見えなくなる頃。

天気が良いのは幸いだ。

「リクト兄だけ先に来たの?」

まだパックンが操縦する飛行船が近くに来て居ないのを確認して尋ねる。神官達も、まだのようだ。

「せっかくだから、王都とかに寄って、人を集めて行くって、タリスがね。ここ、冒険者ギルドがないらしいじゃない。冒険者だけじゃなくて、職員も必要でしょ」
「あ、そっか」

いくらコウヤでも、複数の拠点全てのサポートなど無理だ。この際、必要なのは冒険者よりも職員だった。

「本部からも連れて行くって言ってたよ。『冒険者ギルドがなかったから、島が滅びた』って教訓を残すのもありだけど、必要以上に迷宮への畏怖も植え付けそうだからねえ」
「うん……だから、見捨てるっていう選択は、したくないんだよ」

島一つ。迷宮の暴走によって滅ぼすことが可能というのが事実となれば、恐怖の対象としての見方が強くなってしまう。

それも、一気に複数とはいえB、Aランクの迷宮ではなく、Cランクの迷宮が大半ということは、きっと後で知られるだろう。そうなれば、迷宮の危険性の方が目立ってしまう。

精霊達との共存、共栄を願うのに、それは障害でしかない。

コウヤが見下ろす先には、くたびれた防具を着けて門の外に出て行く複数の人々の姿。兵士達は、上の判断をと右往左往しているのが分かる。

この島は、東西に長い横長型。北側三分のニ程が人の住む範囲。残りの南側に迷宮がひしめきあっている。

よって、ほぼ横並びに大きな町が五つほどあり、中央に王都だ。

一番早く集団暴走スタンピードが始まったのは中央寄りのCランクの迷宮。兵士達は指示を仰ごうにも、城が無くなったように見えているため、そちらでも混乱しているようだ。彼らは使い物にならないだろう。町中でウロウロするだけなら邪魔にもならないので良しとすべきかもしれない。

それらをリクトルスも見下ろして苦笑する。

「おやおや。兵士には期待出来そうにありませんね」
「みたいだね……あの防具だけでも交換させたいな」

冒険者ギルドを追い出すような国だ。迷宮の必要性も理解せず、人同士のいざこざしか重視していないはず。民が下手に武具を持って反乱を起こさぬようにと、鍛冶屋に武具製作の規制を設けているかもしれない。先に出て行った者たちの防具より遥かに兵士達の武具はきちんとしていたのだから。

「確かに……その方が良さそうですが……どうしましょうねえ」

誰にその指示を出そうかと考える。タイミングもあるだろう。リクトルスにも賛同されたことで、コウヤの中でもこれは決定事項となった。

「そういえば、エリィの方はどうなったんでしょう」
「分かんない。楽しそうだったから、声もかけずに来ちゃった。ルー君とテンキに任せてきたけど」

そろそろ首魁の首を絞めている頃だろうかと、城のあるべき方を見る。

「そうですか……まあ、でも、それがありますし、貴族達は神官に拘束させましょう。上が押さえられてしまえば、兵士などいよいよ使い物になりませんからね。その後で防具をむしり取りましょう」
「それが一番かな」

使う方も、きちんと上が押さえられていた方が安心して使えるだろう。

「パックンにやらせたらいいですよ」
「うん? 確かにパックンならパックンすれば……」

早いかなと納得したのだが、リクトルスが続けた。

「なんでも『脱がせ屋さん』よりも華麗に早くを目指したいとか言っていましたからね」
「……」

パックンはどこを目指したいのだろうか。金のガマ様に、なぜ対抗心を燃やしたのか謎だ。

溜め込む所に親近感を沸かせていたとは、さすがにコウヤも気付けない。見た目が違い過ぎる。

実際は、冗談半分で冒険者たちがパックンに能力が似ている所があるなんて言ったのが始まりだった。

「『自分は着替えもさせてあげられる』とも言ってましたよ」
「……」

兵士がパックンされて防具を剥かれて吐き出され、冒険者らしき者たちがパックンされて防具を着せられて吐き出される様を想像して、微妙な気分になった。

そうこうしている内に、飛行船エイが視界に入った。周りに神官たちがバイクで飛んでくるのも見える。

「あ、そろそろ来ますね。さてと。戦闘の指揮は任せてくれてもいいですよ。コウヤくんはサポートお願いしますね」
「分かった……ん?」
「どうかしました?」

では準備をと、意識を切り替えた所で、不意に迷宮の方から町へ向けて駆けてくる小さな気配に気付いた。そちらに目を向けて慌てる。

「っ、ちょっと行ってくる!」
「え? あ~、なるほど。分かりました。気を付けてくださいね」
「うん!」

グラビティボードを操作して、その人たちの下へ急ぐ。

「なんで町の外に……」

訝しみながらも彼らの後ろに迫った魔獣を魔法で狩り取る。

「きゃあっ」
「ひっ」
「っ!!」

腰を抜かしたように崩れ落ちるのは三人の女子。

「大丈夫ですか?」
「え……」

育ちの良さそうな十代の少女とその妹らしき五歳頃の幼女。そして、二人を守ろうと警戒しながらも震える成人したばかりに見える年頃の女性の三人。

彼女たちは、森の中にある小さな小屋から出てきていたのだ。明らかに訳ありそうな三人だった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 2,759

あなたにおすすめの小説

シルバーヒーローズ!〜異世界でも現世でもまだまだ現役で大暴れします!〜

紫南
ファンタジー
◇◇◇異世界冒険、ギルド職員から人生相談までなんでもござれ!◇◇◇ 『ふぁんたじーってやつか?』 定年し、仕事を退職してから十年と少し。 宗徳(むねのり)は妻、寿子(ひさこ)の提案でシルバー派遣の仕事をすると決めた。 しかし、その内容は怪しいものだった。 『かつての経験を生かし、異世界を救う仕事です!』 そんな胡散臭いチラシを見せられ、半信半疑で面接に向かう。 ファンタジーも知らない熟年夫婦が異世界で活躍!? ーー勇者じゃないけど、もしかして最強!? シルバー舐めんなよ!! 元気な老夫婦の異世界お仕事ファンタジー開幕!!

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。