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第八章 学校と研修

315 むしり取りましょう

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明らかにワクワク、ソワソワしているリクトルスを見て、確かに今日の神界のお留守番はゼストラークだったなと確認を終える。

別に神界を留守にしても問題はないのだが、過去の遺物が出てきていることもあり、なるべく交代でとなったと聞いていた。

まあ、この状況ではどのみちゼストラークの出番というか、興味は湧かないので問題はないだろう。出て来たくなるのは更地になった後だ。

現在、太陽が地平線に半分見えなくなる頃。

天気が良いのは幸いだ。

「リクト兄だけ先に来たの?」

まだパックンが操縦する飛行船が近くに来て居ないのを確認して尋ねる。神官達も、まだのようだ。

「せっかくだから、王都とかに寄って、人を集めて行くって、タリスがね。ここ、冒険者ギルドがないらしいじゃない。冒険者だけじゃなくて、職員も必要でしょ」
「あ、そっか」

いくらコウヤでも、複数の拠点全てのサポートなど無理だ。この際、必要なのは冒険者よりも職員だった。

「本部からも連れて行くって言ってたよ。『冒険者ギルドがなかったから、島が滅びた』って教訓を残すのもありだけど、必要以上に迷宮への畏怖も植え付けそうだからねえ」
「うん……だから、見捨てるっていう選択は、したくないんだよ」

島一つ。迷宮の暴走によって滅ぼすことが可能というのが事実となれば、恐怖の対象としての見方が強くなってしまう。

それも、一気に複数とはいえB、Aランクの迷宮ではなく、Cランクの迷宮が大半ということは、きっと後で知られるだろう。そうなれば、迷宮の危険性の方が目立ってしまう。

精霊達との共存、共栄を願うのに、それは障害でしかない。

コウヤが見下ろす先には、くたびれた防具を着けて門の外に出て行く複数の人々の姿。兵士達は、上の判断をと右往左往しているのが分かる。

この島は、東西に長い横長型。北側三分のニ程が人の住む範囲。残りの南側に迷宮がひしめきあっている。

よって、ほぼ横並びに大きな町が五つほどあり、中央に王都だ。

一番早く集団暴走スタンピードが始まったのは中央寄りのCランクの迷宮。兵士達は指示を仰ごうにも、城が無くなったように見えているため、そちらでも混乱しているようだ。彼らは使い物にならないだろう。町中でウロウロするだけなら邪魔にもならないので良しとすべきかもしれない。

それらをリクトルスも見下ろして苦笑する。

「おやおや。兵士には期待出来そうにありませんね」
「みたいだね……あの防具だけでも交換させたいな」

冒険者ギルドを追い出すような国だ。迷宮の必要性も理解せず、人同士のいざこざしか重視していないはず。民が下手に武具を持って反乱を起こさぬようにと、鍛冶屋に武具製作の規制を設けているかもしれない。先に出て行った者たちの防具より遥かに兵士達の武具はきちんとしていたのだから。

「確かに……その方が良さそうですが……どうしましょうねえ」

誰にその指示を出そうかと考える。タイミングもあるだろう。リクトルスにも賛同されたことで、コウヤの中でもこれは決定事項となった。

「そういえば、エリィの方はどうなったんでしょう」
「分かんない。楽しそうだったから、声もかけずに来ちゃった。ルー君とテンキに任せてきたけど」

そろそろ首魁の首を絞めている頃だろうかと、城のあるべき方を見る。

「そうですか……まあ、でも、それがありますし、貴族達は神官に拘束させましょう。上が押さえられてしまえば、兵士などいよいよ使い物になりませんからね。その後で防具をむしり取りましょう」
「それが一番かな」

使う方も、きちんと上が押さえられていた方が安心して使えるだろう。

「パックンにやらせたらいいですよ」
「うん? 確かにパックンならパックンすれば……」

早いかなと納得したのだが、リクトルスが続けた。

「なんでも『脱がせ屋さん』よりも華麗に早くを目指したいとか言っていましたからね」
「……」

パックンはどこを目指したいのだろうか。金のガマ様に、なぜ対抗心を燃やしたのか謎だ。

溜め込む所に親近感を沸かせていたとは、さすがにコウヤも気付けない。見た目が違い過ぎる。

実際は、冗談半分で冒険者たちがパックンに能力が似ている所があるなんて言ったのが始まりだった。

「『自分は着替えもさせてあげられる』とも言ってましたよ」
「……」

兵士がパックンされて防具を剥かれて吐き出され、冒険者らしき者たちがパックンされて防具を着せられて吐き出される様を想像して、微妙な気分になった。

そうこうしている内に、飛行船エイが視界に入った。周りに神官たちがバイクで飛んでくるのも見える。

「あ、そろそろ来ますね。さてと。戦闘の指揮は任せてくれてもいいですよ。コウヤくんはサポートお願いしますね」
「分かった……ん?」
「どうかしました?」

では準備をと、意識を切り替えた所で、不意に迷宮の方から町へ向けて駆けてくる小さな気配に気付いた。そちらに目を向けて慌てる。

「っ、ちょっと行ってくる!」
「え? あ~、なるほど。分かりました。気を付けてくださいね」
「うん!」

グラビティボードを操作して、その人たちの下へ急ぐ。

「なんで町の外に……」

訝しみながらも彼らの後ろに迫った魔獣を魔法で狩り取る。

「きゃあっ」
「ひっ」
「っ!!」

腰を抜かしたように崩れ落ちるのは三人の女子。

「大丈夫ですか?」
「え……」

育ちの良さそうな十代の少女とその妹らしき五歳頃の幼女。そして、二人を守ろうと警戒しながらも震える成人したばかりに見える年頃の女性の三人。

彼女たちは、森の中にある小さな小屋から出てきていたのだ。明らかに訳ありそうな三人だった。

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