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第八章 学校と研修
313 お誘いしてきて
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少し考えれば、ダンゴが目指そうとする所は分かる。
ユースールではもうかなり前から『か弱い女性』や『守られる女の子』は絶滅危惧種だ。
そう。『女の子』も消えたのだ。
今や三歳の幼女でさえ『つおいおんな』になることを目指している。
女は家を守るものではなく、男と一緒に冒険に出られる生涯のパートナーになるべく精進しているのだ。
商家の女性達でさえ、自分達で仕入れをとの考えが当たり前。この強き女性達に敬意を表して、ユースールでは女性が家長を名乗ることも許されている。
これはこの世界初の試みだ。
妊娠しても普通に出産日まで店頭に立っている。お陰で出産による死亡率は母子共に他の地域より遥かに低い。体力が違う。
ゲンの所で日に日に医薬の知識を吸収しているナチや女性神官達の頑張りも勿論あるが、それにしても凄いことだ。
そんな訳で、ダンゴの周りでは『いざとなれば戦える強い女性』しか参考にならなかったため、どちらかというと女性寄りだったダンゴがこうなるのは自然なことではあった。
しかし、やはりというか、中身は当然甘えたなダンゴのまま。
コウヤに抱き着いて泣くのはダンゴらしい要素の表れだ。少しほっとする。
《主しゃまぁぁぁっ》
「あ~、はいはい。一人で頑張ったんだね」
よしよしと撫でる髪はアッシュグレー。毛先の方が銀になるグラデーション。ふわふわと波打つ柔らかいその髪は、肩口までの長さだ。
トップスの胸元には白のフリル。膝までのプリーツのワンピースはエリスリリアが好きな淡いピンク色。その下はパックンの服と同じ濃紺のすらりとした七分丈のパンツという、可愛らしい格好。
これもコウルリーヤの時に、ダンゴがいつか人化したならと作っていたもの。女性っぽくなりそうだからワンピース。けれど、もしかしたら男性寄りにもなるかもとパンツも用意していたのだが、まさかの合わせ技のオシャレさんだった。
単にワンピースを着たはいいが、戦うにはちょっとと考えた結果かもしれないが、結果的に良い感じだ。
「それで、ダンゴ。これはどういう状況なの?」
落ち着いてきたのを見計らって尋ねる。
泣いたことで恥ずかしそうに離れたダンゴは、顔を少し伏せ、もじもじと手を組みながら告げる。
《そ、それが……この国では精霊に懸賞金が掛かっていたらしく、精霊達も我慢の限界だったみたいで……わたしが来たことで、許しが出たと勘違いを……》
「あ~……」
精霊を使役することで迷宮を制御しようとの計画は継続されており、新しい迷宮を求めて旅立とうとする精霊達を捕獲していたらしい。
そうして、無理やり精霊を使役し、迷宮に干渉するようになったという。まだ数件ではあったが、精霊はそもそも特別な資格がなければ使役できない。
無理やり使役される過程で精霊がおかしくなり、消滅することの方が多かったらしい。
それにダンゴが気付いたのは、この国に入ってから。警戒心MAXの精霊達によって、この国の精霊達は独自で結界を張り、その様子をダンゴが知ることができなくなっていた。
そもそも、この国には国外からの侵入を拒み、国内からの脱出を阻む結界が施されていたのは、精霊達の力だった。ビジェなど誰もが上の独断によるものだと思い込んでおり、精霊の仕業とは思わなかったのだろう。
肝心の上層部は内側のゴタゴタにかかりきり。結果的にこの結界は彼らにとって都合の良いものだったため、誰も追及することもなかった。
聖女も居たことで、結界の出どころは勝手に神教会と納得していたようだ。
《迷宮が異常な数になっていたので、おかしいと確認に降り立ったのですが……》
「確かにちょっと異常な数だもんね。これだと逆に土地の力が……それを狙って?」
《はい……》
「タイミングを測ってたんだ……」
大地と共に生きる精霊達は、その地に力を与える。これにより更なる迷宮の核が生まれ、そこでまた力を放出してどこかに迷宮の核が生まれる。
それらも精霊達は調整することができるのだが、際限なく増やすことを優先させれば、飽和状態になり、うまく土地に力を広げられなくなる。何事にも限度があるのだ。
この国の精霊達は、随分前から怒っていた。冒険者が居ないことで、正しく迷宮の力を使うことも出来ず、土地は拓かれて行き、精霊達の住む場所も追いやられた。
土地が正常化されたとしても、野生の獣や魔獣、魔物、植物などが無くなれば意味がない。
この国の土地は破綻しかけていた。
そこへ来て、無理やり使役しようとされれば、キレても文句は言えない。
精霊達は決めた。自由を奪われ、土地を奪われた。ならば取り戻そう。
全てを破壊して。
「ダンゴが来たことで、爆発しちゃったんだね」
《みたいでしゅ……》
語尾が普段のものになったのは癖だろう。舌足らずな本来の体。今はそれも大丈夫なようだが、長年で付いた癖は中々制御できないものだ。可愛いので良しとする。
「仕方ないね。もういっそのこと放出させちゃおう。ここで止めても、大地の力が上手く巡らないからね」
《……頑張って調整するつもりでしたけど……》
「いいよ。だって、冒険者も居ないし、また同じことになるだけだから」
迷宮に入る冒険者が居なければ、精霊達の不満はどのみち解消されない。兵士達が出来れば良いが、彼らは国のゴタゴタで忙しい。
冒険者が居て、循環しなければ意味がないのだ。精霊達の存在意義までなくなってしまう。そうなれば、この島は数年で不毛の地となるだろう。周りを見た限り、今でも作物の育ちがかなり悪そうだ。
遠巻きにこちらを見ている住民達の栄養状態も悪いのが分かるのだから。
《でも、見捨てるつもりはないんでしょ?》
パックンがニコニコとご機嫌に問いかけてきた。
「まあね。パックン。ユースールまで行って、人を連れて来てくれる? 訓練したい人たちを集めてきてほしいんだ」
《兵士さん達も?》
「うん。神官もね。結界張ってもらうから。集団暴走の訓練しませんかってお誘いしてきて。飛行船エイに乗ってって」
《分かったー♪》
オリジナルのエイを出し、それでパックンに応援部隊の輸送をお願いした。
「よろしいのですか? 冒険者ギルドの規定があるのでは?」
ニールの確認に、コウヤは笑った。
「だって、ここには冒険者ギルドありませんからね」
応援要請もなにもない。
「やりたい放題できますよ」
「なるほど。それは楽しそうです」
ニールと二人。笑顔でパックンを見送る。これにダンゴはようやく肩の力を抜いていた。
《やっぱり主しゃまが居ると落ち着くでしゅ……》
そんな呟きが聞こえて、コウヤは自分より高い位置にある頭をよしよしと撫でたのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
ユースールではもうかなり前から『か弱い女性』や『守られる女の子』は絶滅危惧種だ。
そう。『女の子』も消えたのだ。
今や三歳の幼女でさえ『つおいおんな』になることを目指している。
女は家を守るものではなく、男と一緒に冒険に出られる生涯のパートナーになるべく精進しているのだ。
商家の女性達でさえ、自分達で仕入れをとの考えが当たり前。この強き女性達に敬意を表して、ユースールでは女性が家長を名乗ることも許されている。
これはこの世界初の試みだ。
妊娠しても普通に出産日まで店頭に立っている。お陰で出産による死亡率は母子共に他の地域より遥かに低い。体力が違う。
ゲンの所で日に日に医薬の知識を吸収しているナチや女性神官達の頑張りも勿論あるが、それにしても凄いことだ。
そんな訳で、ダンゴの周りでは『いざとなれば戦える強い女性』しか参考にならなかったため、どちらかというと女性寄りだったダンゴがこうなるのは自然なことではあった。
しかし、やはりというか、中身は当然甘えたなダンゴのまま。
コウヤに抱き着いて泣くのはダンゴらしい要素の表れだ。少しほっとする。
《主しゃまぁぁぁっ》
「あ~、はいはい。一人で頑張ったんだね」
よしよしと撫でる髪はアッシュグレー。毛先の方が銀になるグラデーション。ふわふわと波打つ柔らかいその髪は、肩口までの長さだ。
トップスの胸元には白のフリル。膝までのプリーツのワンピースはエリスリリアが好きな淡いピンク色。その下はパックンの服と同じ濃紺のすらりとした七分丈のパンツという、可愛らしい格好。
これもコウルリーヤの時に、ダンゴがいつか人化したならと作っていたもの。女性っぽくなりそうだからワンピース。けれど、もしかしたら男性寄りにもなるかもとパンツも用意していたのだが、まさかの合わせ技のオシャレさんだった。
単にワンピースを着たはいいが、戦うにはちょっとと考えた結果かもしれないが、結果的に良い感じだ。
「それで、ダンゴ。これはどういう状況なの?」
落ち着いてきたのを見計らって尋ねる。
泣いたことで恥ずかしそうに離れたダンゴは、顔を少し伏せ、もじもじと手を組みながら告げる。
《そ、それが……この国では精霊に懸賞金が掛かっていたらしく、精霊達も我慢の限界だったみたいで……わたしが来たことで、許しが出たと勘違いを……》
「あ~……」
精霊を使役することで迷宮を制御しようとの計画は継続されており、新しい迷宮を求めて旅立とうとする精霊達を捕獲していたらしい。
そうして、無理やり精霊を使役し、迷宮に干渉するようになったという。まだ数件ではあったが、精霊はそもそも特別な資格がなければ使役できない。
無理やり使役される過程で精霊がおかしくなり、消滅することの方が多かったらしい。
それにダンゴが気付いたのは、この国に入ってから。警戒心MAXの精霊達によって、この国の精霊達は独自で結界を張り、その様子をダンゴが知ることができなくなっていた。
そもそも、この国には国外からの侵入を拒み、国内からの脱出を阻む結界が施されていたのは、精霊達の力だった。ビジェなど誰もが上の独断によるものだと思い込んでおり、精霊の仕業とは思わなかったのだろう。
肝心の上層部は内側のゴタゴタにかかりきり。結果的にこの結界は彼らにとって都合の良いものだったため、誰も追及することもなかった。
聖女も居たことで、結界の出どころは勝手に神教会と納得していたようだ。
《迷宮が異常な数になっていたので、おかしいと確認に降り立ったのですが……》
「確かにちょっと異常な数だもんね。これだと逆に土地の力が……それを狙って?」
《はい……》
「タイミングを測ってたんだ……」
大地と共に生きる精霊達は、その地に力を与える。これにより更なる迷宮の核が生まれ、そこでまた力を放出してどこかに迷宮の核が生まれる。
それらも精霊達は調整することができるのだが、際限なく増やすことを優先させれば、飽和状態になり、うまく土地に力を広げられなくなる。何事にも限度があるのだ。
この国の精霊達は、随分前から怒っていた。冒険者が居ないことで、正しく迷宮の力を使うことも出来ず、土地は拓かれて行き、精霊達の住む場所も追いやられた。
土地が正常化されたとしても、野生の獣や魔獣、魔物、植物などが無くなれば意味がない。
この国の土地は破綻しかけていた。
そこへ来て、無理やり使役しようとされれば、キレても文句は言えない。
精霊達は決めた。自由を奪われ、土地を奪われた。ならば取り戻そう。
全てを破壊して。
「ダンゴが来たことで、爆発しちゃったんだね」
《みたいでしゅ……》
語尾が普段のものになったのは癖だろう。舌足らずな本来の体。今はそれも大丈夫なようだが、長年で付いた癖は中々制御できないものだ。可愛いので良しとする。
「仕方ないね。もういっそのこと放出させちゃおう。ここで止めても、大地の力が上手く巡らないからね」
《……頑張って調整するつもりでしたけど……》
「いいよ。だって、冒険者も居ないし、また同じことになるだけだから」
迷宮に入る冒険者が居なければ、精霊達の不満はどのみち解消されない。兵士達が出来れば良いが、彼らは国のゴタゴタで忙しい。
冒険者が居て、循環しなければ意味がないのだ。精霊達の存在意義までなくなってしまう。そうなれば、この島は数年で不毛の地となるだろう。周りを見た限り、今でも作物の育ちがかなり悪そうだ。
遠巻きにこちらを見ている住民達の栄養状態も悪いのが分かるのだから。
《でも、見捨てるつもりはないんでしょ?》
パックンがニコニコとご機嫌に問いかけてきた。
「まあね。パックン。ユースールまで行って、人を連れて来てくれる? 訓練したい人たちを集めてきてほしいんだ」
《兵士さん達も?》
「うん。神官もね。結界張ってもらうから。集団暴走の訓練しませんかってお誘いしてきて。飛行船エイに乗ってって」
《分かったー♪》
オリジナルのエイを出し、それでパックンに応援部隊の輸送をお願いした。
「よろしいのですか? 冒険者ギルドの規定があるのでは?」
ニールの確認に、コウヤは笑った。
「だって、ここには冒険者ギルドありませんからね」
応援要請もなにもない。
「やりたい放題できますよ」
「なるほど。それは楽しそうです」
ニールと二人。笑顔でパックンを見送る。これにダンゴはようやく肩の力を抜いていた。
《やっぱり主しゃまが居ると落ち着くでしゅ……》
そんな呟きが聞こえて、コウヤは自分より高い位置にある頭をよしよしと撫でたのだった。
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