元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
207 / 475
第八章 学校と研修

312 これはアレだ

しおりを挟む
見えたのは紛れもない、物凄く楽しそうな笑みを浮かべるエリスリリア。興奮に頬を染め、はしゃいでいるのが分かった。

向かって来る兵士達はその笑みに見惚れ、なす術もなく張り倒されていく。

コウヤはその様子から目を逸らし、やるべき事を先にと息を吐く。

「……えっと、とりあえず……この機体はステルスモードのまま、ここに待機にして……」

着陸出来ない場合も想定し、無人で上空待機させることを可能にした。その場合、降りるには、空挺降下だけでなく普通に縄梯子も降ろせる。

飛行船の起動の鍵と、遠隔操作用のリモコン機能の付いた腕輪を操縦者と副操縦者が乗船するときに着ける。それで下から操作が出来るので、戻って来る時は自分の真上まで呼び寄せ、そこで梯子を降ろしたり、着陸させたり出来る。

「よし。じゃあ、行こうか」

今回はコウヤとルディエが着けていた。それを確認してから、全員でエリスリリアが駆け抜けて行った通路に転移した。

「……本当に張り付いてる……」
「なるほど。壁にめり込んでいますね」

ルディエは頬をヒクつかせ、ニールは何故か酷く感心した様子でそれらを眺めた。

まるで、絵画が飾られた通路を歩くように、壁に張り付いた鎧の兵士達をコウヤも確認する。

「良かった。あまり酷い外傷はないね」
《確かに、外傷は酷くなさそうですが……》
《あの辺の人、血を吐いてるよ?》

内側は傷付いていそうだ。

「大丈夫。きちんとエリィ姉が治癒かけて行ってるみたいだからね」
「えっ……あ、本当だ……でも、これ。死にかけないと発動しない……」
「うん。だから、死なないでしょ?」
「……そうだね……」
「安心ですね」

ルディエの方がもっとあっさり納得するかと思ったのだが、違うようだ。随分と常識人になったものだとおかしな感心をした。

ニールの方がなるほど、素晴らしいと頷いている。彼はコウヤ以外のことは割とどうでも良いらしい。

とりあえず合流しようと足を進めていると、随分先の方でガラガラと派手な音が響いた。それと同時に、外から悲鳴が聞こえるのに気付く。

外のは、城がないと叫んでいる声だと思ったのだが、町の外壁の外に煙が見えた。おそらく悲鳴はそちらだろう。

この城に張られた結界は、内側から外の様子は問題なく見えるのだ。

そこでもう一つのことに気付いて、コウヤは足を止めた。

「あれ? ダンゴは?」
《そういえば……この結界はダンゴのもので違いありませんが……ダンゴが居ませんね》

ここに結界もあるため、てっきり、エリスリリアと一緒だと思っていたのだが、改めて気配を感じ取ろうとすると、外に感じられた。それも、この町の外壁の外だ。

もう一度煙の昇っている場所を見る。

「……これは……迷宮?」

まさか、本当に迷宮を暴走させているのかと、慎重にダンゴの動きを追う。

「でもおかしい……ダンゴからは焦った感情を感じる……寧ろ……」
《暴走しないように抑えようとしていますね。失敗しているようですが》
「ってことだよね?」

どれだけ怒っていても、コウヤを害された訳ではない。だから、島の住民全てを見殺しにする考えはダンゴにはないだろう。

エリスリリアも、懲らしめることはあっても、あの笑顔で殲滅はない。仮にも愛と再生の女神なのだから。この兵士達も、帰る時には治して帰るはずだ。

島を沈めるとしたら、無関係な民達は逃すだろうし、責任が問われているのは王侯貴族達だけである。

神だとて、理不尽な行いはしないものだ。それは、人よりも厳格に自制していること。

王侯貴族に仕える者はもちろん同罪。よって、この壁にめり込んだ兵士達は仕方がない。線引きするためにも、城を隔離したのだろう。

「う~ん。悩んでても仕方がないね。ルー君。テンキとエリィ姉を任せて良い?」
「分かったけど……そいつは連れていくの?」

そいつと、ニールを見る。その目にあるのは嫉妬だ。最近、ルディエとは中々一緒に居られなかった。寂しいのだろうと察して、コウヤはルディエの頭を撫でた。

「避難誘導とか任せるかもしれないから。ルー君はそっち系、苦手でしょ?」

部下である白夜部隊を動かすことでの避難誘導は得意だが、自身が走り回ってというのはルディエには経験がない。それよりも、エリスリリアのフォローの方が適任だ。

逆に、ニールにエリスリリアの相手はできないというのもある。

「ルー君なら、エリィ姉を任せられるからね」
「っ……分かった。気を付けて」
「ありがとう。お願いね。テンキ、ルー君とエリィ姉を頼むよ」
《承知しました》

パックンでは、いざという時にエリスリリアと暴走しそうなので、まだ自制利くテンキに任せることにする。

「ニール、パックン、行くよ」
「はい」
《いいよー♪》

パックンの目は輝いていた。迷宮のある所には集めるべきお宝があるのだから。

転移したのは、今まさに氾濫が解き放たれたばかりの迷宮近くの人里。

ダンゴが結界を張ろうとしていた。

「ダンゴ、ダンゴ!?」
《っ、主さまあ~っ》

コウヤが驚くのも無理はない。ダンゴは人々を避難、説得しようとしていたのだろう。人化していた。

その姿は、今のばばさま達よりも少し下の女性のような見た目。眷属は皆、無性なので胸はない。だが、胸元にあしらわれたフリルがそんなことには気付かせない。カッコイイ系の美人さんだ。

しかし、今は目を潤ませてコウヤに抱き着こうとして来たため、せっかくの美人さんが台無しだった。

「これはアレだ。残念美人」

思わずそう呟いてしまったコウヤは悪くないはずだ。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。