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第八章 学校と研修

312 これはアレだ

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見えたのは紛れもない、物凄く楽しそうな笑みを浮かべるエリスリリア。興奮に頬を染め、はしゃいでいるのが分かった。

向かって来る兵士達はその笑みに見惚れ、なす術もなく張り倒されていく。

コウヤはその様子から目を逸らし、やるべき事を先にと息を吐く。

「……えっと、とりあえず……この機体はステルスモードのまま、ここに待機にして……」

着陸出来ない場合も想定し、無人で上空待機させることを可能にした。その場合、降りるには、空挺降下だけでなく普通に縄梯子も降ろせる。

飛行船の起動の鍵と、遠隔操作用のリモコン機能の付いた腕輪を操縦者と副操縦者が乗船するときに着ける。それで下から操作が出来るので、戻って来る時は自分の真上まで呼び寄せ、そこで梯子を降ろしたり、着陸させたり出来る。

「よし。じゃあ、行こうか」

今回はコウヤとルディエが着けていた。それを確認してから、全員でエリスリリアが駆け抜けて行った通路に転移した。

「……本当に張り付いてる……」
「なるほど。壁にめり込んでいますね」

ルディエは頬をヒクつかせ、ニールは何故か酷く感心した様子でそれらを眺めた。

まるで、絵画が飾られた通路を歩くように、壁に張り付いた鎧の兵士達をコウヤも確認する。

「良かった。あまり酷い外傷はないね」
《確かに、外傷は酷くなさそうですが……》
《あの辺の人、血を吐いてるよ?》

内側は傷付いていそうだ。

「大丈夫。きちんとエリィ姉が治癒かけて行ってるみたいだからね」
「えっ……あ、本当だ……でも、これ。死にかけないと発動しない……」
「うん。だから、死なないでしょ?」
「……そうだね……」
「安心ですね」

ルディエの方がもっとあっさり納得するかと思ったのだが、違うようだ。随分と常識人になったものだとおかしな感心をした。

ニールの方がなるほど、素晴らしいと頷いている。彼はコウヤ以外のことは割とどうでも良いらしい。

とりあえず合流しようと足を進めていると、随分先の方でガラガラと派手な音が響いた。それと同時に、外から悲鳴が聞こえるのに気付く。

外のは、城がないと叫んでいる声だと思ったのだが、町の外壁の外に煙が見えた。おそらく悲鳴はそちらだろう。

この城に張られた結界は、内側から外の様子は問題なく見えるのだ。

そこでもう一つのことに気付いて、コウヤは足を止めた。

「あれ? ダンゴは?」
《そういえば……この結界はダンゴのもので違いありませんが……ダンゴが居ませんね》

ここに結界もあるため、てっきり、エリスリリアと一緒だと思っていたのだが、改めて気配を感じ取ろうとすると、外に感じられた。それも、この町の外壁の外だ。

もう一度煙の昇っている場所を見る。

「……これは……迷宮?」

まさか、本当に迷宮を暴走させているのかと、慎重にダンゴの動きを追う。

「でもおかしい……ダンゴからは焦った感情を感じる……寧ろ……」
《暴走しないように抑えようとしていますね。失敗しているようですが》
「ってことだよね?」

どれだけ怒っていても、コウヤを害された訳ではない。だから、島の住民全てを見殺しにする考えはダンゴにはないだろう。

エリスリリアも、懲らしめることはあっても、あの笑顔で殲滅はない。仮にも愛と再生の女神なのだから。この兵士達も、帰る時には治して帰るはずだ。

島を沈めるとしたら、無関係な民達は逃すだろうし、責任が問われているのは王侯貴族達だけである。

神だとて、理不尽な行いはしないものだ。それは、人よりも厳格に自制していること。

王侯貴族に仕える者はもちろん同罪。よって、この壁にめり込んだ兵士達は仕方がない。線引きするためにも、城を隔離したのだろう。

「う~ん。悩んでても仕方がないね。ルー君。テンキとエリィ姉を任せて良い?」
「分かったけど……そいつは連れていくの?」

そいつと、ニールを見る。その目にあるのは嫉妬だ。最近、ルディエとは中々一緒に居られなかった。寂しいのだろうと察して、コウヤはルディエの頭を撫でた。

「避難誘導とか任せるかもしれないから。ルー君はそっち系、苦手でしょ?」

部下である白夜部隊を動かすことでの避難誘導は得意だが、自身が走り回ってというのはルディエには経験がない。それよりも、エリスリリアのフォローの方が適任だ。

逆に、ニールにエリスリリアの相手はできないというのもある。

「ルー君なら、エリィ姉を任せられるからね」
「っ……分かった。気を付けて」
「ありがとう。お願いね。テンキ、ルー君とエリィ姉を頼むよ」
《承知しました》

パックンでは、いざという時にエリスリリアと暴走しそうなので、まだ自制利くテンキに任せることにする。

「ニール、パックン、行くよ」
「はい」
《いいよー♪》

パックンの目は輝いていた。迷宮のある所には集めるべきお宝があるのだから。

転移したのは、今まさに氾濫が解き放たれたばかりの迷宮近くの人里。

ダンゴが結界を張ろうとしていた。

「ダンゴ、ダンゴ!?」
《っ、主さまあ~っ》

コウヤが驚くのも無理はない。ダンゴは人々を避難、説得しようとしていたのだろう。人化していた。

その姿は、今のばばさま達よりも少し下の女性のような見た目。眷属は皆、無性なので胸はない。だが、胸元にあしらわれたフリルがそんなことには気付かせない。カッコイイ系の美人さんだ。

しかし、今は目を潤ませてコウヤに抱き着こうとして来たため、せっかくの美人さんが台無しだった。

「これはアレだ。残念美人」

思わずそう呟いてしまったコウヤは悪くないはずだ。

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二日空きます。
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