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第八章 学校と研修

310 戦うの前提?

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 コウヤは王都の教会から、ユースールのゲンの薬屋とギルドの間にある路地に転移した。ユースールの町は、犯罪抑止のために狭い路地が少ない。

その少ない路地の一つがここだ。さすがに冒険者ギルドと神官も出入りする薬屋の間で悪いことは考えられない。転移場所としては良い場所だった。

レナルカを預けたり、迎えに行くのにも都合がいいのだ。今日も、人化できるようになったというテンキを気にしながらも、先ずはレナルカに顔を見せようと思ってここに飛んだ。

テンキ達も仕事が終わるとレナルカの所に自然と集まるため、ちょうどいい。問題のテンキとパックンもここに居るようだった。

「テンキと……パックンもちょっと気配が変わってる?」

これはもしやと思った。

ベルセンでの一件の後、リクトルス達が現れるようになったこともあり、テンキ達は修行するとコウヤに宣言していた。

コウヤの立場の変化もあり、傍を離れても他に護衛につく者も居る今ならばと思ったようだ。

テンキ達も、本格的にコウヤがこの国の王子として顔見せするまでに、可能な限り力をつけようと考えたらしい。

そうして、テンキはリクトルスに、パックンはゼストラークに、ダンゴはエリスリリアに助言をもらい、時に手を貸してもらいながら、この二ヶ月ほどスキルアップに尽力していた。

「パックンも人化できたのかな」

ダンゴも、テンキとパックンは出来るようになるのは近いだろうと言っていたのだ。そうかなと予想は出来る。

そうして、ゲンの薬屋へ入って行くと、真っ先に飛び出てきたのはレナルカだ。

「まま~♪」
「レナルカ。いい子にできた?」

腕の中に飛び込んできたレナルカを抱き寄せ問いかける。

「できた! れなレナねえ、はっぱちぎって、げんゲンじいじのおてつだいしたの!」
「すごいね。けど、葉っぱによっては痛いやつもあるから、お手伝いしていいか聞いてね」
「うん! わかった! ちゃんときく!」
「よし」

いい子だと頭を撫でた。レナルカの体の大きさは、一歳児程度。だが、目の輝きもはっきりとしているし、言葉もしっかり話すようになっていた。最近は飛ぶのも安定しており、速さの調節も出来るようになってきたようだ。高さも、低空飛行からかなり上がり、二メートル近くまでは可能になっていた。

飛んで冒険者に肩車をしてもらうのが、最近のレナルカのお気に入りらしい。もちろん、誰彼構わずするわけではなく、コウヤが信頼している者を選んでいるようだ。よって、グラムやセクタが多い。

「おっ。コウヤ。今週は王都勤務じゃなかったのか?」

つい先ほどまで、そのセクタに肩車をされていたようだ。店内には少ないが他にお客も居た。陽も落ちたが、この薬屋は急患の受け入れもするため、ほぼ一日中開いている。

隣に、ずっと営業中のギルドがあるのだ。なにより、薬を求めてやって来る冒険者達に時間など関係ない。

交代で入る神官達も夜勤に慣れているため、まず店を閉めることはなくなった。

「そうなんですけど、テンキが人化できるようになったって聞いて」
「ああ。なんだ。コウヤ知らんかったのか」

それは珍しいなとセクタが笑う。

「まあ、アイツらのことだ。完璧になってから報告したかったんだろうさ」
「セクタさん、よく分かってますね?」
「ははっ。俺らだってコウヤには新技とか、完璧に出来るようになってからしか見せねえだろ?」
「そういえば……?」

コウヤに最初は教えてもらったり、助言をもらうが、その後は自分達で特訓する。魔弓術を使えるようになってきたオルスもそうだ。

あそこまでやれるようになるまで、コウヤに報告しなかった。ある日、魔弓術が少しは扱えるようになったと照れ臭そうに教えられたのだ。ユースールの冒険者達はとても勤勉だった。

そうしてセクタと話していると、テンキとパックンが本来の姿で奥からやってきた。

《主様。お帰りなさいませ》
《お帰り~♪》

そうして数歩進んだ所で、テンキとパックンは人化した。きちんと服も着ているのはさすがだ。

「うわあ。本当に人化出来てる。頑張ったねっ」
《あ、ありがとうございます》
《えへへ♪》

コウヤが嬉しそうに笑えば、テンキとパックンは照れていた。そして、コウヤはもう一つ気付いた。

「その服、昔作ったやつだね」

テンキの騎士服のようなものと、パックンの服は、コウルリーヤの時に二人が人化もいずれ出来るようになると知った時にそれぞれと考えた服だった。もちろん、自動で体の大きさに調整できる魔法が付与されているため、大きさもピッタリだ。

《はい。ようやく着ることができました》
「うん。よく似合ってる。パックンのも、昔の執事服を基本にしたけど、変じゃないね。寧ろ新しい感じが出てるかも」
《でしょでしょ? この生地の色も最近じゃあないやつだもんっ》

光の入る角度によって黒にも藍色にも見える少し光沢を持った生地は、もう随分前に廃れてしまった織物技術で織られ、染められたものだった。

「そういえばそうだね……うん。今度、機織はたおり機を作るよ。確か原料の糸は……どこかの迷宮には残ってるかも」
《グランディアスパイダーでしょ? アレ、進化するの難しいもんね。今は従魔術でスパイダー系をって考える人居ないだろうし》

その話の所で、ナチが顔を出してきた。彼女はずっとパックンの服の生地が気になっていたらしいことは、その目を見ればわかる。

「あのっ。その服の生地のことですよね? やっぱり伝説の藍染めだったんですねっ」
「そっか、今では確かに伝説かも……」
「伝説ですよ! コウルリーヤ様の髪のような、それはもう美しい生地があったと、幼い頃に聞いたことがあったのですっ」

ナチは代々『邪神の巫女』を引き継いできた家系だった。コウルリーヤについての話も残っており、その中にあったらしい。特に美しいものであったと。

彼女が里を飛び出したのも、それを手に入れることで『邪神』という悪い印象を少しでも払拭できるのではないかというある意味使命のような形だったらしい。

その後、運悪く足を怪我して人に捕まり、奴隷となってしまったが、今ではそれもコウヤに会うための試練であったと納得しているという。因みに、足はゲンの薬屋に入って早々に治している。

「本当に美しいです! 手触りも素敵で……っ、あ、すみませんっ」
「ううん。俺も好きな生地だったから、なんだか嬉しいな」
「っ……」

今度はコウヤが照れ臭そうに笑った。それにナチがドキリと頬を赤らめるが、すぐにテンキの言葉へ視線を持っていったため、コウヤは気付かない。

《あの織師が居たのはこの国の辺りではありませんでしたか?》
「そうかも。うん……家系が残ってるかもね。今度調べてみるよ」
《はい。あの頃でもあの糸を織った布自体が貴重でしたから、王族である主に相応しいもののはずです》
「あ~、手触り良いもんね。下着にも使ってたっけ」
「し、下着に!? あ、すみません……っ」

ナチは珍しくも興味津々だ。

「ふふっ。出来たら是非使ってみて。なんなら、レンス様に話を持って行って、産業にしてもいいよね」
《また主は……ですが、これは賛成します。エリス様も、この生地は気に入っておられましたからね》

エリスリリアもこれで服を作るのが好きだった。きっと生地が手に入ればまた作りたくなるだろう。

「そういえば、そのエリィ姉とダンゴは? ビジェを借りるってちょっと前に攫って行ったけど……まさか……」

ここにダンゴが揃っていないのが不思議だった。そこで思い出したのだ。少し前にビジェを道案内に連れて行くと言って出かけて行った。

《はい……あの島に。聖女に怒っていらしたので……その……》

テンキが困ったように顔をしかめていた。

「そうだね……心配だな……」
《なら行く?》
「あ、うん。そうしようかな」
《では行きましょう。人化したまま戦える所もお見せしたいです》
《僕も~☆》

なんだかやる気だ。

「えっと……戦うの前提?」
《はい》
《だよ?》
「そうなんだ。わかった。じゃあ、行こう」

こうして、コウヤはテンキとパックンを連れて、エリスリリアとダンゴの居る島へ向かうことになった。

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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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