元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第八章 学校と研修

298 早速仕事にかかります!

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こんなに大袈裟に驚かれるとはコウヤも思っていなかった。

「そんなに驚くことでした?」
「あ、当たり前だよっ。え? 待って……今のコウヤ君の前って、こ、コウルリーヤ様じゃないの?」

後半は声を落とす。ジルファス達の声に驚いて、飛び込んで来た騎士達はアルキスが何でもないと戻らせ、近寄って来ようとしていた侍従や侍女達にはミラルファが笑って誤魔化していた。

気になるようなので、少し声が聞こえ辛くなる術をかけることにする。イスリナも話は聞いているようなので、そちらの問題はないはずだ。

「あ、大丈夫ですよ。皆さん以外、先程くらいの大きな声を出さなければ聞こえなくしましたから」

ジルファスがほっとしながら続けた。

「そ、そう……それで……その別の世界? というのに転生したのは、コウルリーヤ様と今の間ってことかな?」
「そうです。さすがに弱っていたので、ゼストパパ達があちらの神に頼んで保護してもらったんです。その世界では魔法を使える者がいません。なので、負担も少ない。魔素も使われずに十分あるので、回復も早いと考えたんです」

魂の修復は難しい。だが、神としてのコウルリーヤ自身の治癒力は魔素によって早められる。それを狙ったのだ。

「記憶も封じられていたので、その時はこの世界のことを思い出したりしませんでした。ただ、魂が弱っていたことと、人の体に無理に転生させたことで、病弱でした。子どもらしく何も気にせず走り回れたこともありませんでした。ほとんどベッドの上で、生まれた家より病院にいる時間の方が長かったですね」

生家で生活した記憶は朧げにしか思い出せない。実家なのに、入ったことのない部屋の方が多いくらいだった。

「生きた時間も短いです。けど、母と父は数日に一度は顔を見に来てくれました」
「でも、数日に一度だったんだね……」

ジルファスとしては、少し納得し難いようだ。だが、コウヤには有難いことだった。

「この世界よりも魔法に頼らない分、医療がとても進歩していました。それもあって、入院費は高いです。保障はありましたけど、一週間で何万なんて普通でしたから。こちらの価値だと……金貨がいくつも飛びます。それも、平民です」
「平民で……」
「ええ。なので、母や父には苦労をかけました。ろくに動けない息子の治療費を、必死で稼がなくてはならないんですからね」
「……それは、数日に一度会うだけでも大変だったろう……」
「ですね」

コウヤはきちんと分かっていた。恐らくそれは、封印されていたコウルリーヤの記憶の奥底にあった意識だろう。普通、十代でも入院費なんてそうそう気になるものではない。自分だって辛いのだから。

人が動けないというのは、精神にとても負担がかかるものなのだろう。赤ちゃんだって、周りを見て歩き出すのだ。稀に兄弟の下の子はハイハイをする期間をすっとばす。兄や姉が歩いているのだから、気がそちらに行くのかもしれない。

歩き回りたいと思うことは自然なことで、人には必要なこと。動けないことでストレスが溜まるのも自然なことだろう。そちらにばかり意識が向けば、周りのことは気にしていられなくなる。頼るべき周りにお金の話をされない限り、入院費など気にならないはずなのだ。

それなのに、コウヤはそれがとても気になった。自分のために父母が働いてくれているのだと、言われなくても幼いながらに気付いた。動けないからと卑屈になることもなく、前向きに考えていた。テレビや本で知識を欲したのも、少しでも役に立てることがないかと考えていたからだ。治ったら、動けるようになったらとずっと考えていたからだった。

「父母には感謝しています。けれど、十数年しか生きられませんでした。その十数年の記憶は、俺にとって大事なものです。生きていたら……今もあの人達を母さん、父さんと呼んでいたはずです。もっと……呼びたかった……」
「……コウヤ……」
「コウヤくん……」

少し目を伏せたコウヤを見て、ジルファスやミラルファがどう声をかけたらいいのかと戸惑う。

けれど、コウヤはすぐに顔を上げた。

「なので、区別はしたいです。ジル父さんと呼びますね」
「っ、コウヤっ……うん、うん。これからはそう呼んでねっ」
「はい」

ニコリと笑ったコウヤに、ジルファスは感動して涙を浮かべていた。

◆  ◆  ◆

あれから五日。

ギルドの仕事がない日や、半休があれば王城に詰めて、教師達と話し合ったり、文官達の洗礼の被害にあった者の治療に奔走した。

いつもならば休みが多くて不満になるが、王都と行き来しているため、寧ろ忙しいくらいだった。

その日。午後の半休を利用して王城に来たコウヤは、二日目以降に用意されたコウヤ専用の部屋で、教師達と学校についての話し合いをしていた。

「コウヤ様の言われたように、三年と五年で仮にカリキュラムを組んでみました」
「どうでしたか?」

ヤクスは他の教師達と顔を合わせて頷く。

「やはり、三年では難しいでしょう。五年は少しゆったりとしますが、理解速度を揃える必要もありますし、これくらいが妥当だと思われます」

彼らの科目以外にも、剣などの武術の授業やダンス、マナーも入る。それを考えると、やはり三年は短いという結論が出た。例え、朝から夕方近くまでの時間を使ったとしてもだ。

「入学の年齢は十歳で確定しても良いですか? もちろん、最初は対象の年齢全てですけど」
「ええ。貴族の子どものお披露目は、十才になる年の初めですから、お披露目が終わってから入学というのが一番自然です」
「ではそれで進めましょう」

入学は十才になる年。そこから五年。貴族は十五才で一応成人とみなされる。専門的な知識やそれぞれの家での教育が開始されるのが十五才からなので、丁度良いだろう。

成人したからといって、すぐに家を継ぐわけではない。より実践的に学べるのがそこからなのだ。そして、十八才までに父親の補佐としての知識を身につけ、結婚相手も決める。というのが一般的だった。

「一般の学舎としての計画はそれで落ち着きましたが、実は……魔法師や薬師達が専門の学舎を別で作ってもらえないかと問い合わせが来ております」

ヤクスはいつの間にか、コウヤの補佐的な目で見られるようになったらしい。今までは王族付き教師という気難しい印象から、とても周りが声を掛けようなんて思わなかったのだが、コウヤと楽しそうに話している様子を城内で見たことで、一気に親近感が湧いたようだ。

この人もコウヤの信奉者だと。

同じように、絶対に城内で話しかけられなかった他の教師達も、気付いたら普通に世間話をしていたりする。主にコウヤについてだが、それは不思議ではない。

そんな形で、魔法師や薬師達から相談を受けたらしい。

「そうですね……そうなると、学園のイメージでいきましょうか。無理ではないです。別に建物を用意して、そちらは平民も年齢も関係なく試験に受かれば入学できる仕組みにしましょう。それで、正しく知識を修め、卒業資格を得た者を魔法師、薬師と名乗れるようにすれば、師弟制も組み込めます」
「なるほど……そうなりますと、ますます、まとまった広い土地が必要になりますね……」

そう。今困っているのは場所だ。学園ともなると、土地の選定が難しい。ただでさえ、王都はぎゅっと密集している。明け渡してもらうにしても、代わりの土地を用意するのは大変だ。

だが、これが決まらないとこの先が進まない。土地の大きさが確定しなくては、図面も引けないのだから。

王都の地図を広げて、教師達とうんうん唸っていると、外から来客を告げる声が響いた。

「コウヤ様。第三騎士団の者が、話しをしたいと来ているのですが……」
「え? あ、良いですよ。すみません、少し休憩しましょう」
「はい。退出しなくてもよろしいですか?」
「ええ。場合によっては、音を遮断できますから、構いませんよ」

そうして、教師達は窓際のテーブルへ移動してもらい、コウヤは入室を許可した。

入って来たのはあの日、教会の食堂で会った三人と団長だった。

「突然の訪問、申し訳ありませんっ」
「いいえ。決まった時間に城にいない場合もありますから、問題ありませんよ。それで? 何かありましたか?」

畏まって礼をする第三騎士団の者の様子に、教師達が目を丸くしているのを目の端に捉えながらも、コウヤは促した。

「はっ! 先日より、我々騎士団は極秘に市井の財政状態についての調査を行って参りました」
「ああ……そういえば、調べてくださると言っていましたね。どうでしたか?」
「はい! お恥ずかしながら、我々の実家が関与しているものも多く……捕らえる準備は進めております! どうか、我々に出動許可をいただきたい!」

とても気合いが入っている。身内を捕らえるのも辞さないと、覚悟を決めた目をしていた。

コウヤは目をパチクリとさせてから、少し考え込む。

「なるほど……証拠書類はありますか?」
「は、はい! ですが……それらしいものを集めるだけ集めまして、後は捕らえて自白させようと思っているのですが……」
「それだと逆に手間も掛かりますし、確実な証拠もなく捕らえるのはいけません。冤罪は捕らえる方にとっても、捕らえられる方にとっても傷になりますからね。なので……今刑部にいる文官のジンラさんとバラトさんを呼んできていただけますか?」

その言葉に反応したのは、外にいた近衛騎士だ。すぐに走って行った。まだコウヤはずっと城に居るわけではないので、侍従も決まっていないのだ。

だが、少しでも何かあれば、すぐに走ってくれる人たちがいるのは有難い。そして、近衛騎士達は、コウヤの教えた城の裏道を駆使して移動するようになった。

最近は暗部の者たちが羨ましがっているようだ。自分たちも利用したいらしい。今はそのタイミングを図っているようだ。

「彼らに手伝ってもらって、先に書類を整えましょう。あなた方も知っていた方がいいですから、代表の方は見ているといいですよ」

そう言いながら、出された大量の書類をペラペラとめくっていく。確実なのは多い。

そして、三分と待たずにジンラとバラトがやって来た。

「「お呼びでしょうか!」」
「ええ。刑部は落ち着いたと聞いていますし、別のお仕事を頼みたいんです。コレを見てもらえますか?」
「拝見します!」
「失礼します!」

文官の制服なのに、武官にしか見えない彼らに、第三騎士団の者たちは戸惑っていた。それを察して、コウヤが説明する。

「彼らは武官としての経験もあるんですよ」
「文官……ですよね?」
「今は文官です。といっても、ユースールの文官は、武官並みに動けるよう日頃から鍛えてますので、そう変わらないんです。けど、どちらの立場も知っていますから、上手く現場でもまとめてくれますよ」
「はあ……」

実感は湧かないだろう。武官な文官なんて、存在しなかったのだから。

しばらくして、書類を確認し終わった二人は、コウヤへ向き直った。上官に報告する武官のように、きちんと背筋を伸ばしてだ。

ジンラがまず口を開く。

「確認いたしました! すぐにまとめさせていただき、捕縛リストを作成いたします! 明日の午後まで時間をいただきたい!」
「構いません。彼らからも情報を今一度聞き、正確にまとめてください」

次にバラトだ。

「財務局へ細かな裏取りを頼んで参ります! 場合によっては、商業ギルドにも確認に行きますが、よろしいでしょうか!」
「そうですね……その場合は、魔法師の方へも協力を要請してください。商業ギルドや商家に彼らが付き添えば、快く情報を提供してくださるでしょう。話は通しておきます」
「ありがとうございます! では、早速仕事にかかります!」
「お願いしますね」
「「はっ!!」」

書類を抱え、第三騎士団の者たちを引っ張って出て行った。

「さてと……お祖父様とジル父さんに報告しないといけませんね……」
「そうですねえ。さすがと言いますか……コウヤ様はこのようなことまで出来るのですね……ギルド職員とは……とても重要な職業なのですね」
「色々と出来ないといけないのはありますね。あ、先程ので良いこともありましたよ。学園の予定地が決まりそうです」
「え……」
「ふふ。明日には確定できそうですよ♪」

首を傾げる教師達。それを見てクスクスと笑いながら、コウヤは少し出て来ますと言って、部屋を出たのだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
今年もよろしくお願いします◎
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