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第八章 学校と研修
290 反省しなさい!
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時刻は朝のピークを過ぎた十時頃。
いつものように、コウヤは受付に座っており、そろそろ一息つこうと思って立ち上がりかけた時だった。
「やあ、コウヤ君。テンキは居るかな?」
「……リクト兄……っ?」
物凄く普通に、リクトルスが目の前に立っていた。
「あ、どうかな? やっぱりいつもの装束は浮くかと思ってね。ここまで歩いて来るのにも目立つだろうし、ギルドの制服を支給してもらったんだ。ほら、お揃いでしょう?」
「ほんとだ……お揃いだね?」
ちょっと状況についていけなくて、しっかりと首を傾げてしまった。
「ん? どうしたの、コウヤ君。近々行くって言っておいたよね?」
「言ってたね……でも驚いた」
「それは良かった」
背の高いリクトルスの制服姿は、はっきり言って本気で驚いた。神に肉体的時間経過はない。眠ることも必要ないのだ。よって、一日が終わったからお風呂に入って着替えるとか、寝巻きを着たりとかもする必要がない。
常に同じ服装というのが普通なのだ。もちろん、気分というものはあり、ゼストラークは鍛治の後、リクトルスは鍛錬の後に着替えたりもする。だが、着替えるのはほとんど同じものだ。エリスリリアでさえ、色味違いの多少異なる服を着るくらい。
コウヤもこの感覚が残っているので、休みの日でもギルドの制服を着ていたりする。ほとんど私服は持っていない。
とはいえ、多くの者に愛されるコウヤだ。レンスフィートやヘルヴェルスがたまにこれを着て遊びに来てくれと、服をいくつかプレゼントしてくれてもいた。しかし、残念ながら外に着ていく機会は少ない。
コウヤでさえそうなのだ。リクトルスが違う服を着ているというのは、結構な衝撃だった。
「因みに、今日はエリスが留守番でね」
「ゼストパパは……あ……」
ゼストラークも出ているということを知り、気配を辿れば、ベルセンに居るのが分かった。
「まさか……」
「そのまさかだよ。ドラム組にね」
「ダンゴから凄く戸惑ってる感情が伝わってきてたかも……」
「うん。昨日の夜から上機嫌だったよ。マンタに乗れるってね」
「採用されたんだ」
今朝、ダンゴにマンタを託し、ドラム組を乗せてベルセンに向かってもらった。
そのドラム組に普通に混じって、ゼストラークがついて行ったようだ。ダンゴ的には『なんか普通に居ますけど……これって良いの? けど、周りが受け入れているなら言わない方が良いよね? 良いんだよね?』と戸惑いながらも運んだのだろう。
戸惑いの感情はチラリと感じたが、必死さがなかったので大丈夫かなと、特に応答もしなかったのだ。
ベルセンに着いて数時間は経つのに、ダンゴが戻ってこないのは多分、本当にそのままゼストラークをベルセンに置いて行っていいのか迷っているからかもしれない。
「一日置きの参加ってことになったらしいから、さすがに正式採用ではないみたいだけどね」
「うん。さすがにね」
繊細な棟梁が心配だ。
だが、そこは職人だ。きっと今日で白目を剥くこともなくなるだろう。ゼストラークは時折、ドラム組の様子も観察していた。恐らく、初仕事でも連携に問題なく入れるだろう。そこは技巧の神なのだから心配していない。
「で、私はどうなったのかな?」
「え? あ~」
そこにタリスが階段を駆け下りて慌てて駆け寄ってきた。
「や、やっぱりリクトルス様! おはようございます!」
リクトルスは武の神だ。死を司るという部分は、それほど恐れられてはいない。戦いを知る者にとっては当然の面なのだから。
特に冒険者にとってリクトルスは特別な神だ。教会でどの神に強く祈るかとすれば四柱の中で一番だろう。
危険な仕事の前にエリスリリアへ『命があるように』と願うよりも、リクトルスへ『勝利を掴む力を』と願うのが冒険者だった。
それは、現役を退いたタリスも同じ。エリスリリアが来ることよりも、リクトルスが教官として来るということの方に興奮していた。
ギルド内にいる冒険者達も、ソワソワしながら見ている。神が職員として入るという情報は、既にこのユースール内に広がっている。けれど、野次馬がほとんど居ないのは、この土地だからだろう。きちんと弁えてくれているのだ。
「リクトルス様は、教官の特別枠に入れさせていただきました! この場合、冒険者からの指名はなく、リクトルス様の方で指名していただけます! これが規約になります!」
テンキは指名も受けている。それが通常の教官だ。戦い方の指導官なのだから、相手も低ランクの者が多くなる。戦闘講習でも指名されることが多い。
しかし、リクトルスにそこまで求めるのは畏れ多い。そんな判断により、わがままOKの特別枠での採用にしたというわけだ。
活動の仕方などをまとめた書類を一読し、リクトルスは満足気に頷いた。コウヤには、その目に心から楽しそうな色が浮かんだのがわかった。
「これは予想よりも楽しそうですね。外から拾って来ても良いと……ふふふ。ギルド職員も例外ではない……良いですね。契約書はどこです?」
「えっ、いや、神様に契約書なんて……」
タリスが飛び上がって驚いていた。神の名をもってそれにサインするなんて、何か起こりそうで怖いというのが透けて見えた。
なので、コウヤがフォローする。
「特におかしなことにはなりませんよ。特別に強制力を持ったりする契約書でも、神には効きませんから。ましてや、ここのは至って普通の書類としての契約書じゃないですか。内容は確認しましたよという了承のサイン以上の意味はないです」
「そうなの?」
「はい。俺も色々確かめましたし、間違いないです」
神だからこそ強制力を持つとか、そういうこともない。本当にただの人が行うサインでしかないので問題はないと太鼓判を押す。
なるほどと頷きながら、タリスは気付いた。
「ん? 何を確かめたの?」
「ですから、契約書が神にも有効かどうかです。色んな形態の契約で試して、結果的に契約内容も全部、効力を持つように力を込めて書かないと意味がないってことが分かりましたっ」
「……何してんのコウヤちゃん……」
実はこの実験。コウルリーヤであった頃から試していた。純粋な好奇心からだ。もちろん、強制力が働いても問題ない内容。因みに、内容はこれだ。
『半日、笑い続ける』
行動として出た方が分かりやすくて良いなと考えた結果だ。破棄の方法もきっちり記していたので、例え発動したとしても抜かりはない。
それで、コウヤになってもどうかというのも確認した。結果、今のコウヤも人の作った契約書では意味がないことを確認している。
「何が大変って、世界中にある契約形態を調べて、その紙とか術式を手に入れるのに苦労しましたよ~。あ、でも、やっぱり王家に伝わるのが強力ですね。それと、神教国のは異質っていうか、けど完璧な形で継承されなかったのか、中途半端でしたよ。思わず手を加える所でした♪」
「……どうやって手に入れたかは聞かないよ。聞きたくないよ」
タリスはもう、耳を塞いでイヤイヤとしていた。
普段なら、それで終わりだろう。だが、コウヤは忘れていた。これをリクトルスの前でやってはいけない。
「……コウヤくん」
「うん? っ、は、はい……」
「座りなさい」
「っ、はい! ごめんなさい……」
反射的に窓口を飛び越えでリクトルスの前で正座した。
「コウヤくん。いいですか? コウヤくんのその好奇心と、知りたいと思う考えは良いと思いますよ? 父上もそうですからね。そこは否定しません。ですけど、いつも言っているでしょう。なんの相談もなく、自分を使って実験するのはやめなさい。コウヤくんの悪いところは、十分な検証もなく、寧ろ初めから自分で実験するところです。分かっていますか?」
「はい……」
肩を落とすコウヤ。可哀想だと冒険者や職員達が同情する。だが、次に続けられた話を聞いて考え直すことになる。
「まったく、目を離すとすぐこれです。毒薬や新薬を躊躇いなく作って即行飲む。それも味の確認とか要りませんからね? この前も作った剣の切れ味を試すのに何をしましたか? 例え無人島だろうと、半分にしてはいけません! あの辺りの海流が変わって、大変なことになったでしょうっ」
何してんだと冒険者達は思った。
それはないわと職員達は首を横に振った。
「ちゃんと調整したよ? 思ってたより……大変だったけど……」
睨まれて目を晒しながら声を窄めていく。
「けどなんです」
ジロリと睨めつけるリクトルス。周りは戦々恐々としている。だが、コウヤはもう良い意味でも、悪い意味でも慣れてしまっている。そして、何よりも自分に素直なる子だった。
「良い経験した!」
「コウヤくん! 反省しなさい!」
「誰にも気付かれる前に、なかったことにしたし」
「真っ二つにした島はどうしたんです!」
「それもちゃんと、修復したよ? パックンが半分しまっちゃおうか? って言ったけど、さすがにダメかなって」
「ダメに決まってるでしょ! パックンはどこですか! 一度あの子の中身、全部出しなさい!」
「出し切れるくらいの広い所が、多分ないよ? 俺、もう確認するの諦めた」
「主人であるあなたがそれでどうします!」
とんでもない内容だが、冒険者達や職員達は気付いた。
「コウヤが……わがまま言ってる……」
だってとか、でもとか、コウヤが普段言わないような言葉を使っていることに気付いたのだ。
「リクトルス様ってすごいな……」
「コウヤが甘えてる……」
「こういうコウヤくんもカワイイ!」
「やらかしてること、とんでもねえけどな……」
「あれは苦労する……」
いつの間にか、コウヤへの同情よりも、リクトルスへの同情の方が多くなっていた。お陰でリクトルスが身近に感じられ、必要以上に萎縮することがなくなった。
こうして、コウヤがコウルリーヤなのではないかという確信も飲み込みながら、ユースールの者たちは自然と受け入れていくのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
いつものように、コウヤは受付に座っており、そろそろ一息つこうと思って立ち上がりかけた時だった。
「やあ、コウヤ君。テンキは居るかな?」
「……リクト兄……っ?」
物凄く普通に、リクトルスが目の前に立っていた。
「あ、どうかな? やっぱりいつもの装束は浮くかと思ってね。ここまで歩いて来るのにも目立つだろうし、ギルドの制服を支給してもらったんだ。ほら、お揃いでしょう?」
「ほんとだ……お揃いだね?」
ちょっと状況についていけなくて、しっかりと首を傾げてしまった。
「ん? どうしたの、コウヤ君。近々行くって言っておいたよね?」
「言ってたね……でも驚いた」
「それは良かった」
背の高いリクトルスの制服姿は、はっきり言って本気で驚いた。神に肉体的時間経過はない。眠ることも必要ないのだ。よって、一日が終わったからお風呂に入って着替えるとか、寝巻きを着たりとかもする必要がない。
常に同じ服装というのが普通なのだ。もちろん、気分というものはあり、ゼストラークは鍛治の後、リクトルスは鍛錬の後に着替えたりもする。だが、着替えるのはほとんど同じものだ。エリスリリアでさえ、色味違いの多少異なる服を着るくらい。
コウヤもこの感覚が残っているので、休みの日でもギルドの制服を着ていたりする。ほとんど私服は持っていない。
とはいえ、多くの者に愛されるコウヤだ。レンスフィートやヘルヴェルスがたまにこれを着て遊びに来てくれと、服をいくつかプレゼントしてくれてもいた。しかし、残念ながら外に着ていく機会は少ない。
コウヤでさえそうなのだ。リクトルスが違う服を着ているというのは、結構な衝撃だった。
「因みに、今日はエリスが留守番でね」
「ゼストパパは……あ……」
ゼストラークも出ているということを知り、気配を辿れば、ベルセンに居るのが分かった。
「まさか……」
「そのまさかだよ。ドラム組にね」
「ダンゴから凄く戸惑ってる感情が伝わってきてたかも……」
「うん。昨日の夜から上機嫌だったよ。マンタに乗れるってね」
「採用されたんだ」
今朝、ダンゴにマンタを託し、ドラム組を乗せてベルセンに向かってもらった。
そのドラム組に普通に混じって、ゼストラークがついて行ったようだ。ダンゴ的には『なんか普通に居ますけど……これって良いの? けど、周りが受け入れているなら言わない方が良いよね? 良いんだよね?』と戸惑いながらも運んだのだろう。
戸惑いの感情はチラリと感じたが、必死さがなかったので大丈夫かなと、特に応答もしなかったのだ。
ベルセンに着いて数時間は経つのに、ダンゴが戻ってこないのは多分、本当にそのままゼストラークをベルセンに置いて行っていいのか迷っているからかもしれない。
「一日置きの参加ってことになったらしいから、さすがに正式採用ではないみたいだけどね」
「うん。さすがにね」
繊細な棟梁が心配だ。
だが、そこは職人だ。きっと今日で白目を剥くこともなくなるだろう。ゼストラークは時折、ドラム組の様子も観察していた。恐らく、初仕事でも連携に問題なく入れるだろう。そこは技巧の神なのだから心配していない。
「で、私はどうなったのかな?」
「え? あ~」
そこにタリスが階段を駆け下りて慌てて駆け寄ってきた。
「や、やっぱりリクトルス様! おはようございます!」
リクトルスは武の神だ。死を司るという部分は、それほど恐れられてはいない。戦いを知る者にとっては当然の面なのだから。
特に冒険者にとってリクトルスは特別な神だ。教会でどの神に強く祈るかとすれば四柱の中で一番だろう。
危険な仕事の前にエリスリリアへ『命があるように』と願うよりも、リクトルスへ『勝利を掴む力を』と願うのが冒険者だった。
それは、現役を退いたタリスも同じ。エリスリリアが来ることよりも、リクトルスが教官として来るということの方に興奮していた。
ギルド内にいる冒険者達も、ソワソワしながら見ている。神が職員として入るという情報は、既にこのユースール内に広がっている。けれど、野次馬がほとんど居ないのは、この土地だからだろう。きちんと弁えてくれているのだ。
「リクトルス様は、教官の特別枠に入れさせていただきました! この場合、冒険者からの指名はなく、リクトルス様の方で指名していただけます! これが規約になります!」
テンキは指名も受けている。それが通常の教官だ。戦い方の指導官なのだから、相手も低ランクの者が多くなる。戦闘講習でも指名されることが多い。
しかし、リクトルスにそこまで求めるのは畏れ多い。そんな判断により、わがままOKの特別枠での採用にしたというわけだ。
活動の仕方などをまとめた書類を一読し、リクトルスは満足気に頷いた。コウヤには、その目に心から楽しそうな色が浮かんだのがわかった。
「これは予想よりも楽しそうですね。外から拾って来ても良いと……ふふふ。ギルド職員も例外ではない……良いですね。契約書はどこです?」
「えっ、いや、神様に契約書なんて……」
タリスが飛び上がって驚いていた。神の名をもってそれにサインするなんて、何か起こりそうで怖いというのが透けて見えた。
なので、コウヤがフォローする。
「特におかしなことにはなりませんよ。特別に強制力を持ったりする契約書でも、神には効きませんから。ましてや、ここのは至って普通の書類としての契約書じゃないですか。内容は確認しましたよという了承のサイン以上の意味はないです」
「そうなの?」
「はい。俺も色々確かめましたし、間違いないです」
神だからこそ強制力を持つとか、そういうこともない。本当にただの人が行うサインでしかないので問題はないと太鼓判を押す。
なるほどと頷きながら、タリスは気付いた。
「ん? 何を確かめたの?」
「ですから、契約書が神にも有効かどうかです。色んな形態の契約で試して、結果的に契約内容も全部、効力を持つように力を込めて書かないと意味がないってことが分かりましたっ」
「……何してんのコウヤちゃん……」
実はこの実験。コウルリーヤであった頃から試していた。純粋な好奇心からだ。もちろん、強制力が働いても問題ない内容。因みに、内容はこれだ。
『半日、笑い続ける』
行動として出た方が分かりやすくて良いなと考えた結果だ。破棄の方法もきっちり記していたので、例え発動したとしても抜かりはない。
それで、コウヤになってもどうかというのも確認した。結果、今のコウヤも人の作った契約書では意味がないことを確認している。
「何が大変って、世界中にある契約形態を調べて、その紙とか術式を手に入れるのに苦労しましたよ~。あ、でも、やっぱり王家に伝わるのが強力ですね。それと、神教国のは異質っていうか、けど完璧な形で継承されなかったのか、中途半端でしたよ。思わず手を加える所でした♪」
「……どうやって手に入れたかは聞かないよ。聞きたくないよ」
タリスはもう、耳を塞いでイヤイヤとしていた。
普段なら、それで終わりだろう。だが、コウヤは忘れていた。これをリクトルスの前でやってはいけない。
「……コウヤくん」
「うん? っ、は、はい……」
「座りなさい」
「っ、はい! ごめんなさい……」
反射的に窓口を飛び越えでリクトルスの前で正座した。
「コウヤくん。いいですか? コウヤくんのその好奇心と、知りたいと思う考えは良いと思いますよ? 父上もそうですからね。そこは否定しません。ですけど、いつも言っているでしょう。なんの相談もなく、自分を使って実験するのはやめなさい。コウヤくんの悪いところは、十分な検証もなく、寧ろ初めから自分で実験するところです。分かっていますか?」
「はい……」
肩を落とすコウヤ。可哀想だと冒険者や職員達が同情する。だが、次に続けられた話を聞いて考え直すことになる。
「まったく、目を離すとすぐこれです。毒薬や新薬を躊躇いなく作って即行飲む。それも味の確認とか要りませんからね? この前も作った剣の切れ味を試すのに何をしましたか? 例え無人島だろうと、半分にしてはいけません! あの辺りの海流が変わって、大変なことになったでしょうっ」
何してんだと冒険者達は思った。
それはないわと職員達は首を横に振った。
「ちゃんと調整したよ? 思ってたより……大変だったけど……」
睨まれて目を晒しながら声を窄めていく。
「けどなんです」
ジロリと睨めつけるリクトルス。周りは戦々恐々としている。だが、コウヤはもう良い意味でも、悪い意味でも慣れてしまっている。そして、何よりも自分に素直なる子だった。
「良い経験した!」
「コウヤくん! 反省しなさい!」
「誰にも気付かれる前に、なかったことにしたし」
「真っ二つにした島はどうしたんです!」
「それもちゃんと、修復したよ? パックンが半分しまっちゃおうか? って言ったけど、さすがにダメかなって」
「ダメに決まってるでしょ! パックンはどこですか! 一度あの子の中身、全部出しなさい!」
「出し切れるくらいの広い所が、多分ないよ? 俺、もう確認するの諦めた」
「主人であるあなたがそれでどうします!」
とんでもない内容だが、冒険者達や職員達は気付いた。
「コウヤが……わがまま言ってる……」
だってとか、でもとか、コウヤが普段言わないような言葉を使っていることに気付いたのだ。
「リクトルス様ってすごいな……」
「コウヤが甘えてる……」
「こういうコウヤくんもカワイイ!」
「やらかしてること、とんでもねえけどな……」
「あれは苦労する……」
いつの間にか、コウヤへの同情よりも、リクトルスへの同情の方が多くなっていた。お陰でリクトルスが身近に感じられ、必要以上に萎縮することがなくなった。
こうして、コウヤがコウルリーヤなのではないかという確信も飲み込みながら、ユースールの者たちは自然と受け入れていくのだった。
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