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第七章 ギルドと集団暴走
285 よくやりましたね
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リルファムはエリスリリアを見て目を瞬かせた後、きちんと椅子から降りて頭を下げた。
「おひさしぶりでございます。エリスリリアさま」
「ふふ。こんにちは。弟くん。気にせず座って。一緒にお茶をしましょう」
「はい!」
その間、パックンがエリスリリア用に椅子を出している。
《どうぞ》
「あら、パックン。気が利くわね」
コウヤは紅茶を淹れていた。それを差し出しながら確認する。
「調整が済んだの?」
エリスリリアは紅茶のカップを口元に持って行きながら答えた。
「ええ。ようやくね♪」
神界と聖域となった教会の聖堂に通す道の調整。それが完了したらしい。ダンゴが嬉しそうにフワリと浮き上がり、エリスリリアの膝の上で丸まった。それをエリスリリアが愛おしげに撫でる。
「といっても、こっちを優先したから、王都の方はまだよ。それに、転移を使えば良いし、この主神殿だけにしようかって話になってるわ」
「確かに、それでも良いかもね」
「まあ、コウヤちゃんが王宮に住むとかなったら考えるけど」
「俺が王宮にって……」
目の前では、キラキラと期待するような目で見つめてくるリルファム。横を向けばその先には、未だに冒険者達に詰め寄られているジルファスが居るはずだ。
パクリとマドレーヌを含むエリスリリアへと顔を戻す。
「王子として王宮にってこと? 俺はユースールが好きだし、ギルド職員を辞める気もないよ?」
リルファムが残念そうな顔をしているが、これは変わらない。
「王都に遊びに行くとか、リル様達に会いに行くのは構わないんだけど」
「ふふふ。だそうよ。良かったわねえある意味、上手く半分こできるんじゃない?」
「ん?」
エリスリリアの目線を追うようにして見れば、ジルファスや冒険者達がこちらを見ていた。
「コウヤちゃんの意思は大事にしてもらわなくちゃね。でも、王子の肩書きも確かに必要なのよ。特に、神教国に弱みを握られてる国には有効だわ。庶子扱いになるから、無理に結婚を強要して来る場合の狙いもはっきりするしね♪」
母親が聖女ファムリアとはいえ、貴族家の血筋ではない。それに、正式に妃として迎えていない以上、コウヤは庶子だ。貴族の血筋重視の国はとても多く、本来ならば候補に上がらないはず。それでもとなれば、欲しいのは聖女ファムリアの力。
神教国の価値は既に低くなってきている。それでも、治癒魔法の使い手は居てもらわなくては困るのだ。そうなってしまった原因はコウルリーヤにもあった。
エリスリリアは困ったというように片頬に手を当てて、少し目を伏せる。
「こんなに治癒魔法に偏るのは想定外なのよ? 本当なら、薬学とバランスを取って、治癒魔法も他の魔法と同じような扱いになる予定だったのに……」
「エリィ姉……」
あくまでも予定ではあった。攻撃魔法と同じように、多くの者が使えるように広げるつもりだった。だが、治癒魔法は扱いが難しい魔法だ。相手に影響を与えるのだ。加減も手探り状態になる。教会に限っていたのは、確かな指導が出来る場所を確保するためだった。
世界中に広がり、国に縛られないというのも良かった。しかし、教会は道を間違えた。特別な力というのは、それほどまでに人々にとって魅力あるものだったのだ。
「……コウルリーヤが戻ってきたことで、薬学が広がるでしょう? そうしたら、神教国の神官達の加護を徐々にまた弱めるつもりなの。取り上げられないのは悔しいけど、小さな切り傷がやっとって所まで弱めるわ」
「……」
誰もが沈黙して、その意味を理解しようとした。そして、エリスリリアの存在を認識していく。
「……女神……さま」
目の前の存在が、エリスリリアだと認識した冒険者達は、ゆっくりと膝をつく。
「ふふふ。そんなこと不要よ。気にしないで。私や他の神も、このユースールは気に入っているの。コウヤちゃんや、ベニちゃん達がいるんだもの」
日の光の中で、美しく笑うエリスリリアは、女神という存在をありありと見せつけていた。
「一度はこの世界ごと見放そうと思ったわ。私たちの大切な家族を理不尽に殺されたのですもの。ゆるやかな衰退を……滅びをと願ったけれど……それでも見捨てきれなかったのは……コウルリーヤが人をずっと、最期まで信じていたから……」
「……」
エリスリリアは初めて、人に本音を語っている。コウヤにも打ち明けなかった想いだ。
「絶望の中でも希望を見出せる、あなた達の力を信じていたからよ。だから今回、早くここに来たかったの。集団暴走は間違いなく、あなた達にとって絶望となり得るもの。それをものともしなかった」
浮かべたのは、嬉しいと、見れば分かるような笑み。
「お疲れ様。よくやりましたね」
「っ……」
涙を流すのは当たり前のこと。この時、彼らは心から思った。自分たちが、確かにその困難を乗り越えたことを。何より、それが乗り越えられないものだと思ってもみなかったことを。
そこに、タリスが前に出てきて告げる。
「ありがとうございます。エリスリリア様。今後もご期待に沿えるかは分かりませんが、精一杯、正しいと思う生き方をいたしましょう」
必ずとその目は伝えてくる。それがコウヤにも嬉しかった。
「ええ。それでいいわ。常に考えて、周りの声を聞いて、時に過去を振り返る。そうしてあなた達が向かっていく未来を、私たちに見せてちょうだい」
「「「「「はい!!」」」」」
応えは思わず出たようだ。誰もが顔を上げる。そして、その目に映ったのは、同じように眩しいほど嬉しそうに笑うコウヤとエリスリリア。
エリスリリアの手はその時、コウヤの手を握っていた。その光景を見た瞬間、彼らは理解した。
コウヤがエリスリリアにとって大切な人なのだということ。敏い者はコウヤの笑みとコウルリーヤの笑みがダブって見えて納得する。そして、そのことはそっと胸に秘めた。
コウヤはコウヤなのだから。コウルリーヤだとしても、自分たちにはコウヤなのだから。
「ふふふ。少し脅してしまったけど、今のままのあなた達なら、何も気にすることはないわ。ね? コウヤちゃん」
「うん。今回だって終わった後、良い訓練になったって顔してたんだ。すごく頼もしいよね」
「さすがねっ。リクトが訓練に混ざりたいって言ってたわよ。あ、そうだったわ! えっと、タリスちゃんだったかしら。マスターさん。リクトもテンキちゃんみたいに教官として登録しておいてくれないかしら?」
とんでもないことを言い出した。タリスもその意味を理解して顔色を変える。
「……リクト……まさか、リクトルス神様を? 教官に? 神様を雇えませんが!?」
「あらいいじゃない。コウヤちゃんだっていいんだもの」
「コウヤちゃんはコウヤちゃんでしょう!」
「あら、間違えたわ。テンキちゃん達も良いならいいじゃない」
「ちょっと、エリィ姉……」
これはダメだと思った。タリスまでテンパっている。何気にコウヤが神様だと暴露している。大半の者が聞いてませんを実施中。大変申し訳ない。
「テンキちゃん達は眷属じゃなく、従魔として誤魔化せるからいいんですよ!」
ここでもダメ押し。テンキ達がただの従魔ではないことがバレた。とはいっても、既に初めからテンキ達がただの従魔だと思っている者は少ない。
「なら、リクトもコウヤちゃんの兄で通しちゃえばいいじゃない。ついでに私も雇ってもらおうかしら。マリーちゃんと同じ部署で♪ あら? マリーちゃんは何で登録してるの?」
「……知らないですよ」
前任の時の登録なので、タリスは知らない。やったのはコウヤだ。
「マリーちゃんは妖精族で普通に登録してるけど……?」
ギルドには種族の別はない。よって、妖精族は珍しいことだが、特に問題なく登録できていた。
「なら良いじゃない。神族で♪」
「っ、どこの世界に神様が職員をしているギルドがありますか!?」
「何事も初めてはあるものでしょう? あ、安心して。ゼストお父様はドラム組に所属したいそうだから、ギルドには来ないわ」
「どこに安心できる要素が!? ちょっ、棟梁さん!? 棟梁さんが白目むいてるよ!?」
なんだか大騒ぎになってしまった。
これは聞いて良い。これは流さなくてはダメと頭を使っている冒険者達は目を回していた。
「コウヤ兄さま……大人ってたいへんですね」
「……そうだね……」
リルファムにしみじみと言われたことが、一番コウヤには堪えたというのが本音だった。
*********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
「おひさしぶりでございます。エリスリリアさま」
「ふふ。こんにちは。弟くん。気にせず座って。一緒にお茶をしましょう」
「はい!」
その間、パックンがエリスリリア用に椅子を出している。
《どうぞ》
「あら、パックン。気が利くわね」
コウヤは紅茶を淹れていた。それを差し出しながら確認する。
「調整が済んだの?」
エリスリリアは紅茶のカップを口元に持って行きながら答えた。
「ええ。ようやくね♪」
神界と聖域となった教会の聖堂に通す道の調整。それが完了したらしい。ダンゴが嬉しそうにフワリと浮き上がり、エリスリリアの膝の上で丸まった。それをエリスリリアが愛おしげに撫でる。
「といっても、こっちを優先したから、王都の方はまだよ。それに、転移を使えば良いし、この主神殿だけにしようかって話になってるわ」
「確かに、それでも良いかもね」
「まあ、コウヤちゃんが王宮に住むとかなったら考えるけど」
「俺が王宮にって……」
目の前では、キラキラと期待するような目で見つめてくるリルファム。横を向けばその先には、未だに冒険者達に詰め寄られているジルファスが居るはずだ。
パクリとマドレーヌを含むエリスリリアへと顔を戻す。
「王子として王宮にってこと? 俺はユースールが好きだし、ギルド職員を辞める気もないよ?」
リルファムが残念そうな顔をしているが、これは変わらない。
「王都に遊びに行くとか、リル様達に会いに行くのは構わないんだけど」
「ふふふ。だそうよ。良かったわねえある意味、上手く半分こできるんじゃない?」
「ん?」
エリスリリアの目線を追うようにして見れば、ジルファスや冒険者達がこちらを見ていた。
「コウヤちゃんの意思は大事にしてもらわなくちゃね。でも、王子の肩書きも確かに必要なのよ。特に、神教国に弱みを握られてる国には有効だわ。庶子扱いになるから、無理に結婚を強要して来る場合の狙いもはっきりするしね♪」
母親が聖女ファムリアとはいえ、貴族家の血筋ではない。それに、正式に妃として迎えていない以上、コウヤは庶子だ。貴族の血筋重視の国はとても多く、本来ならば候補に上がらないはず。それでもとなれば、欲しいのは聖女ファムリアの力。
神教国の価値は既に低くなってきている。それでも、治癒魔法の使い手は居てもらわなくては困るのだ。そうなってしまった原因はコウルリーヤにもあった。
エリスリリアは困ったというように片頬に手を当てて、少し目を伏せる。
「こんなに治癒魔法に偏るのは想定外なのよ? 本当なら、薬学とバランスを取って、治癒魔法も他の魔法と同じような扱いになる予定だったのに……」
「エリィ姉……」
あくまでも予定ではあった。攻撃魔法と同じように、多くの者が使えるように広げるつもりだった。だが、治癒魔法は扱いが難しい魔法だ。相手に影響を与えるのだ。加減も手探り状態になる。教会に限っていたのは、確かな指導が出来る場所を確保するためだった。
世界中に広がり、国に縛られないというのも良かった。しかし、教会は道を間違えた。特別な力というのは、それほどまでに人々にとって魅力あるものだったのだ。
「……コウルリーヤが戻ってきたことで、薬学が広がるでしょう? そうしたら、神教国の神官達の加護を徐々にまた弱めるつもりなの。取り上げられないのは悔しいけど、小さな切り傷がやっとって所まで弱めるわ」
「……」
誰もが沈黙して、その意味を理解しようとした。そして、エリスリリアの存在を認識していく。
「……女神……さま」
目の前の存在が、エリスリリアだと認識した冒険者達は、ゆっくりと膝をつく。
「ふふふ。そんなこと不要よ。気にしないで。私や他の神も、このユースールは気に入っているの。コウヤちゃんや、ベニちゃん達がいるんだもの」
日の光の中で、美しく笑うエリスリリアは、女神という存在をありありと見せつけていた。
「一度はこの世界ごと見放そうと思ったわ。私たちの大切な家族を理不尽に殺されたのですもの。ゆるやかな衰退を……滅びをと願ったけれど……それでも見捨てきれなかったのは……コウルリーヤが人をずっと、最期まで信じていたから……」
「……」
エリスリリアは初めて、人に本音を語っている。コウヤにも打ち明けなかった想いだ。
「絶望の中でも希望を見出せる、あなた達の力を信じていたからよ。だから今回、早くここに来たかったの。集団暴走は間違いなく、あなた達にとって絶望となり得るもの。それをものともしなかった」
浮かべたのは、嬉しいと、見れば分かるような笑み。
「お疲れ様。よくやりましたね」
「っ……」
涙を流すのは当たり前のこと。この時、彼らは心から思った。自分たちが、確かにその困難を乗り越えたことを。何より、それが乗り越えられないものだと思ってもみなかったことを。
そこに、タリスが前に出てきて告げる。
「ありがとうございます。エリスリリア様。今後もご期待に沿えるかは分かりませんが、精一杯、正しいと思う生き方をいたしましょう」
必ずとその目は伝えてくる。それがコウヤにも嬉しかった。
「ええ。それでいいわ。常に考えて、周りの声を聞いて、時に過去を振り返る。そうしてあなた達が向かっていく未来を、私たちに見せてちょうだい」
「「「「「はい!!」」」」」
応えは思わず出たようだ。誰もが顔を上げる。そして、その目に映ったのは、同じように眩しいほど嬉しそうに笑うコウヤとエリスリリア。
エリスリリアの手はその時、コウヤの手を握っていた。その光景を見た瞬間、彼らは理解した。
コウヤがエリスリリアにとって大切な人なのだということ。敏い者はコウヤの笑みとコウルリーヤの笑みがダブって見えて納得する。そして、そのことはそっと胸に秘めた。
コウヤはコウヤなのだから。コウルリーヤだとしても、自分たちにはコウヤなのだから。
「ふふふ。少し脅してしまったけど、今のままのあなた達なら、何も気にすることはないわ。ね? コウヤちゃん」
「うん。今回だって終わった後、良い訓練になったって顔してたんだ。すごく頼もしいよね」
「さすがねっ。リクトが訓練に混ざりたいって言ってたわよ。あ、そうだったわ! えっと、タリスちゃんだったかしら。マスターさん。リクトもテンキちゃんみたいに教官として登録しておいてくれないかしら?」
とんでもないことを言い出した。タリスもその意味を理解して顔色を変える。
「……リクト……まさか、リクトルス神様を? 教官に? 神様を雇えませんが!?」
「あらいいじゃない。コウヤちゃんだっていいんだもの」
「コウヤちゃんはコウヤちゃんでしょう!」
「あら、間違えたわ。テンキちゃん達も良いならいいじゃない」
「ちょっと、エリィ姉……」
これはダメだと思った。タリスまでテンパっている。何気にコウヤが神様だと暴露している。大半の者が聞いてませんを実施中。大変申し訳ない。
「テンキちゃん達は眷属じゃなく、従魔として誤魔化せるからいいんですよ!」
ここでもダメ押し。テンキ達がただの従魔ではないことがバレた。とはいっても、既に初めからテンキ達がただの従魔だと思っている者は少ない。
「なら、リクトもコウヤちゃんの兄で通しちゃえばいいじゃない。ついでに私も雇ってもらおうかしら。マリーちゃんと同じ部署で♪ あら? マリーちゃんは何で登録してるの?」
「……知らないですよ」
前任の時の登録なので、タリスは知らない。やったのはコウヤだ。
「マリーちゃんは妖精族で普通に登録してるけど……?」
ギルドには種族の別はない。よって、妖精族は珍しいことだが、特に問題なく登録できていた。
「なら良いじゃない。神族で♪」
「っ、どこの世界に神様が職員をしているギルドがありますか!?」
「何事も初めてはあるものでしょう? あ、安心して。ゼストお父様はドラム組に所属したいそうだから、ギルドには来ないわ」
「どこに安心できる要素が!? ちょっ、棟梁さん!? 棟梁さんが白目むいてるよ!?」
なんだか大騒ぎになってしまった。
これは聞いて良い。これは流さなくてはダメと頭を使っている冒険者達は目を回していた。
「コウヤ兄さま……大人ってたいへんですね」
「……そうだね……」
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