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第七章 ギルドと集団暴走

283 お疲れ様! 解散!

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ゼフィルの声に、誰もが静かに耳を傾けた。この場で、これからのことも話すのだと感じたのだろう。

「本来ならば、町を捨てなくてはならない規模の集団暴走スタンピードにも関わらず、外壁さえも被害なく終わるなど、奇跡だと言えます」

改めて考えると本当にすごいことなのだ。コウヤも外壁の一部が壊れるのは、想定内としていた。アルキスをはじめとした宮廷魔法師や近衛騎士たちが来たのは大きい。

「そして、今回のことで、このベルセンは生まれ変わることになります。ご存知の方も居るでしょう。不正や犯罪行為が明らかとなった神教会は追放。代わりにユースールで発祥しました聖魔教会が置かれます」

何人かが、小さくなった教会の方へ目を向ける。

「教会には孤児院も併設される予定で、建物も一新されます」

ドラム組が使える土地の範囲を選定してくれているはずなので、後はコウヤの図面待ちだ。間違いなくこのベルセンの人々は度肝を抜かれるだろう。その工期も含めて。

「こちらの教会の神官の方々の実力は、多くの方がご覧になり、感じられたと思います。何よりも、聖魔教会は現代で唯一、神に認められた教会です。今までの教会とは全くの別物だと思って接してください」

大袈裟に言っているが、冒険者たちだけでなく住民たちも真剣に聞いて頷いていた。本当に前の教会とは違うと理解したのだろう。町の中でも、病人の治療などしていたためだ。広場に住民が集まっていたのは、神官たちもやりやすかった。

スラムにも出向き、片っ端から浄化して清潔にし、けが人や病人を治療して回った。そして、無気力になっていた者や、反発した者は、物理的にオハナシをして働きに行かせたのだ。

「本来、集団暴走スタンピードは終わった後、復興費や治療費などでかなりの損害が出ます。しかし、今回は被害がほとんどなく、逆に多くの迷宮品が回収されました。これを使い、町の整備を優先的に進めるつもりです」

ランクの高い魔獣が大挙してやって来たため、ドロップした迷宮品もランクが高い。戦いの最中、踏みつけて破損したりと、本来はせっかくの迷宮品が台無しになることが多かった。

戦闘範囲も広くなるため、小休止の間にそれらを回収しきるということも本来は無理だ。冒険者全員で集団暴走スタンピードに当たるのが当たり前で、回収する余力など残らない。よって、被害額ばかり膨れ上がり、元が取れないと嘆くのが常だった。

しかし、コウヤは回収担当もしっかりと割り振り、更にはスラムの住民たちまで使って徹底的に回収させたことにより、今回はびっくりするほどの黒字。防衛も成功したため復興費に使う必要もない。

「まずはスラムです。長く何の対策も立たず、放置していましたことをお詫び致します。この度は、その中からも多くの方々が手を貸してくださったと聞いています。これに報いるためにも、そちらを一新いたします」

後ろの方でまとまっていたスラムの人々が不安そうな顔をしている。あの場所から追い出されたら死ぬしかないと思っている者が大半だ。変わると言われれば不安だろう。

「冒険者ギルドと教会に協力していただき、仕事を斡旋。スラムの場所を整地し、新たに住む場所を用意いたします。こちらは低価格での貸し出し、数人でまとめて暮らしていただいても構いません。試算の結果、一部屋月額銀貨五枚が最高額となる予定です」
「「「はあ!?」」」

それ、宿屋よか安いと多くの者が唖然とする。

「もちろん、条件などありますが、細かい方針や計画については後日、中央広場にて発表いたします。同時に相談窓口も設置しますので、どなたでもお気軽においでください」

役所に来いと言われると尻込みしてしまうだろうという配慮だ。これは、平民出のゼフィルだからこそ共感でき、実行することを決めた。

「多くの変化がありますが、受け入れていただきたい。町も良い方へ変われると確信しております。私からは以上です」

そう言ってから振り向いて、ゼフィルはコウヤに目礼した。

再びコウヤが前に立つ。

「では次に、ベルセン支部の冒険者ギルドマスターについてです。監査など、正式な任命があるまで、フレイさんが代理を努めます」
「フレイです。不正を黙認してきた者ではありますが、今後は正しく冒険者のためのギルドとなるべく、職員たちも指導していく所存。今一度、変わるための機会をいただきたい」

静かに、深く頭を下げるフレイに続いて、下に並んでいたギルド職員たちも頭を下げていた。

「……」

沈黙は肯定だ。冒険者たちの表情で分かる。そして、拍手が起きた。

「っ……」

職員たちは驚いて顔を上げる。そんな職員たちに多くの声が届いた。

「考え直してくれたならいいんだよ」
「俺らもあんたらをどこか見下してたんだろうな。だからいいさ」
「今回、めちゃくちゃ走り回ってたしな」
「戦うことだけ考えてられるのは楽だったよ」
「ありがとな。今回、あんたらのありがたみが分かったぜ」

それを聞いて、受付嬢たちは涙を流して抱き合う。他の職員たちも俯いていた。

けれど、フレイは少し悔しそうだ。彼は、ほとんどがコウヤやタリスのおかげなのだと理解している。だから、この言葉の全ては自分たちが正面から受け取るべきではないと思ったようだ。

「……っ」

そんなフレイが否定の言葉を口にする前にと、コウヤが小声で話かける。

「フレイさん。今回のあなた方の、冒険者のために、町のためにと走り回った時の思いは本物です。俺はあくまで、対策として助言しただけに過ぎません。きっと、次があったらあなた方は出来る。そうでしょう?」
「っ……はい……」

今ならば、迷うことなくできるとフレイも自信を持って言える。覚えていようと必死に周りを見ていた。だから、次はできる。

「今回の手順とか、まとめておくといいですよ。そうしたら、それはこのベルセン支部の宝になります。次がいつ起きるか分からない。けど、それを必ずいつか役に立つと信じて伝えていくのは、ここにいる職員の使命です」
「……っ、はい」

フレイはもう一度冒険者たちに頭を下げ、後ろへと下がった。

「では最後に、ユースール支部冒険者ギルドマスターよりお話があります」

タリスが前に出ると、冒険者たちは途端にキリリと背筋を伸ばした。あの『ヒャッホー』な戦いを見たからだろうか。

「みんな、お疲れ様。うん。いい顔をしてるね。とっても頑張った結果だ。君たちは見事、この町を守り抜いた。それはとっても誇っていいことだよ」

誇らしいと、少し上を向いてこちらを見る表情は輝いていた。それをタリスは満足げに見つめる。

「まあ、だからって若い子とかにやたらめったら『あの時は凄かったんだぞー』とか言っちゃダメだよ? 実感ないから、ウザがられて教訓にならないからね?」

笑いが起きた。

「はははっ。確かに、またかって顔されるんだよな~」
「オヤジはそういうこと言うもんだしなあ。けど、確かにウザい」
「うわあ、俺らもこれからそっち側か~」
「お、これでお前らも俺らの気持ちが分かるんだな。はははっ」

同じ戦場に立った者同士。年齢も熟練度も関係なく笑いあっている。タリスも何度も頷いた。

「うんうん。冒険者は、武勇を自慢してこそだよね。けど、大事な教訓になる話は、いざって時に取っておいて。自慢する回数は少なめに頼むよ。僕らは常に教訓を持ってる。それは、実感しなきゃ分からないかもしれない。けど、その実感する時に前情報があるのとないのとでは大違いだ。心構えも違う」

若い子が少し考えて小さく頷くのが見えた。無鉄砲な者が多いのが冒険者だ。だから、想像するというのがいまいち苦手だ。けれど、苦手だからと避けるのは良くないのだと、今回身に滲みて分かったはずだ。

「職員の子たちは、ウザがられてもそんな冒険者たちに伝えられるように考えてね。どうしても冒険者って、頭で想像したり考えたりするより先に動きたくなっちゃうから。そこを補ってやってほしいんだ」

後半は職員たちへ向けてだ。

「時には、癇癪かんしゃく持ちの子どもの相手をしているような気になるかもしれないけど、そこは根気強く頑張って♪ これも経験だからね」

冒険者たちはちょっと目をそらす。

「コウヤちゃんに言わせれば、それもまとめて業務の内だからね。嫌になったら他の人にも相談して、相手を変えてみたりするのも良いよ♪ 冒険者の子たちも、これを聞いて、ちょっとは気を遣ってくれるはずだから、この機会に慣れていってね♪」

これには職員たちが少し唖然とした後、クスクスと笑った。冒険者たちの大半は苦笑いしている。

「さて、問題はたくさんあったけど、君たちはここから変われる。これも神さまの采配ってやつかもね♪ けど、良い方へ変わろうとするなら、努力は必要だからね? 今回、あれだけの事が出来たんだから、その努力なんて軽いものだよ。お隣さん同士、助け合えることもあるだろうし、期待してるよ♪ では、お疲れ様! 解散!」
「「「おぉぉぉっ!!」」」

冒険者たちは、近くにいる者たちで挨拶を交わし合う。

「ユースールの方は、門の外に移動してください。順次乗船をお願いします。出発は三十分後です。時間は追ってお伝えいたします」

コウヤはそれだけ伝えると、拡声の魔法を解く。ふうと息をついたコウヤに、タリスが話かける。

「屋台部隊も全部回収してくの?」
「いえ。屋台部隊はこのまま置いていきます。三日後からドラム組が動くので」
「……相変わらず行動が早いね」
「最近、また棟梁たちのスキルが上がったらしくて、仕事したくて仕方がないみたいなんです」
「あの子らも大概だねえ……」

どうやら、ゼストラークが気に入ったらしく、加護も強くなったことで、まだまだ上をと貪欲に仕事を求めているのだ。

「ゼストパパがその内混ざりそうで怖いんですけどね」
「へえ…………ん!? ちょっ! 今なんかとんでもないこと聞いたっ」
「そうですねえ。本当、どうなるか心配です」
「ちょっ、それだけ? コウヤちゃん!?」

アレは本当に、いつの間にか混ざっていそうで怖いなと思うコウヤだ。衝撃で立ち止まってしまったタリスを気にせず、コウヤは足を進める。

階段の下では、宮廷魔法師たちと近衛騎士、アルキスが待ち構えていた。

「コウヤ。俺らもユースールな」
「そうくると思ってました。いいですよ。それに……ユースールにどうも、ジルファス様がリルファム殿下も連れて待っているみたいで」
「マジか。まあ、心配してたからな」
「心配?」
「コウヤのな。当たり前だろ。父親だぞ」
「あ、そうでした」
「まったく」

それに、目を丸くしたのは、宮廷魔法師たちだ。さすがに頭の回転が早い。

「っ、えぇぇぇっ!? こ、コウヤ師匠の父親!?」

これにユースールの冒険者たちが反応して振り向いていた。

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