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第七章 ギルドと集団暴走
277 アイツは別名……
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半分の時間だと知らせる鐘が鳴る。拡声の魔法により、ギルド職員のフレイがそれを正確に伝える。
『四十分が経過! 後退する方は速やかに移動してください! 繰り返します。四十分が経過しました! 後退する方は速やかに移動してください!』
これを聞いたベルセンの冒険者達は動きを止めた。しかし、その迷いを感じ取り、少し前から彼らの前に出ているユースールの冒険者達は、振り向かずに怒鳴る。
「迷うな! 迷うんなら下がれ!」
「余裕がなくなってる証拠だ! 最後の最後で怪我するとか、悔しい思いをしたいのか?」
「急げ! 岩亀も出てきてんだ! まだやれるってんなら、外壁からの攻撃に回れ!」
大型の魔獣や魔物の放出が一時的に減っている。だが、これも長くは続かない。何より、これより前に向かってきた魔獣の処理が追いついていないのだ。この間に一気に減らす必要がある。
『聖魔教』の神官達が作り上げたセーフティエリアはすごいもので、結界とエリアハイヒールを組み合わせている。お陰で、本当に迷宮内のセーフティエリアのように、そこに入り込めば、魔獣や魔物に襲われることはなかった。
そんな場所に、ベルセンの冒険者達は出たり入ったりを繰り返して耐えてきた。それも、もう限界が近い。終わらない恐怖に、精神の方が弱ってきていたのだ。
彼らを気にしながら戦うのはユースールの冒険者達にも負担がかかる。
「……っ、わかりました」
「! ロインさん……っ」
「引くんだ……後方でも、やれることはある……」
「っ、はい……」
ベルセン組の代表であるロインが、そう口にすれば、悔しそうな顔さえも諦めに変わる。同じ拠点の冒険者達には、特別な絆があるのだ。本来ならば個を主張したがる冒険者達も、この状況下では判断を代表となる者に託してしまっている。
仕方がない状況とはいえ、それが本来の力を半減させていることに、ベルセン組は気付いていない。
ユースールの冒険者達は、それらのリスクも理解しながら、個を持って当たっている。
最初から、実力や集団暴走の知識だけでなく、精神のあり様も全く違うのだ。それに気付かなければ、彼らはただ虚しいだけで終わる。
だから、ユースールの冒険者達は声をかける。あくまでも前を見たまま告げる。それは、各フィールド、担当場所でそれぞれの言葉で語られた。
「ロイン。俺らは兵とは違う。どんな状況であっても、個人が埋没しちゃなんねえ。一パーティがなんで六人までなのか知ってるか?」
カキンっ、と魔獣の牙を弾きながら問いかけられたことに、ロインは顔をしかめる。
「そんなの、決まりだから……」
そう言いながらも、どうして決まっているのだろうかと疑問が湧く。今までそんなことを考えたことなどなかったのだ。
「役割がかぶらずに、個を主張できる最大数だからだ」
「個を……」
「魔獣だけに集中してても自分以外の五人の動きをそれぞれが見ずに感じることができたら、ようやく一人前のパーティだ。ここに護衛するやつが加わって把握できれば、それなりに自慢できる実績が作れる。そんで、こうした複数のパーティを把握できれば一流だ」
それを、ユースールの冒険者達の多くが修得している。
「どれだけ多くの仲間と戦っていても、常に個を信じて当たる。それが冒険者の戦いだ。だから、把握できる。だから、個人の力を発揮できる」
集合体ではなく、あくまでも一人一人を忘れない。それが冒険者だ。
「全部把握できるようになるとな……一緒に戦ってるやつの心が折れたことも、諦めたことも分かるんだよ」
「っ……」
聞いていたロイン達は絶句した。そして赤くなる。自分達の心まで、ユースールの冒険者の多くが感じていたと知れば、恥ずかしくて仕方がない。
「だから後方で、もう一度立て直してくれ。俺らを安心させてくれ。それが、お前らに出来る最大の援護だ」
「っ、はい!」
これらを聞いたベルセンの冒険者達は、誰もが悔しくて泣いていた。けれど、折れかけた、折れていた心が、これにより急速に修復されていく。
これ以上、情けない所は見せちゃいけない。そう奮い立つ。
「っ、これは逃げるんじゃない……っ、俺たちが出来る戦いの場所に向かうだけだっ」
任された場所へ。そして、いつか自分達もあそこに残れるようになろうと心に決める。
自分達はまだまだ半人前なのだから。
ベルセンの冒険者達が去った場所で、ユースールの冒険者達は、苦笑気味に笑っていた。
「おやっさん、さすが。俺らにはムリだわ」
「な~。コウヤってたま~に厳しいよな~」
「お前らみたいな同年のに言われればカチンと来るからな」
「やっぱし? そこの人選ってコウヤは外さんよな」
コウヤは、状況的に厳しいのも知りながら、それぞれの担当場所ごとで、これを伝える者を選んで頼み込んでいた。
中には煩いとウザいと、悪感情を向ける者もいるかもしれない。それでも、こんな機会はそうそうないのだからお願いしますと頭を下げていたのだ。
ベルセンの冒険者達の心を守るために。明日からも冒険者として生きられるように。
「本当……コウヤには頭が下がるぜ」
「俺ら、大事にされてるよな! そっち行ったぞ」
標的を変えられて、注意の言葉をかける。
「おうよ! コウヤはもう、息子っていうか、母ちゃんっていうか、妻?」
「妻って……そこまで行ったらお前。捕まるぞ。オラッ、次!」
倒し切ったぞと笑う。
「ってか、神官さんに聞かれたら終わるよ。でも分かる! あ、俺、一旦下がるわ」
「おう。任しとけ! コウヤはな~大人になったらさぞ美人になるだろうな!」
ちょっと想像しながらも、いい感じに肩の力が抜けたと駆け出す。
「あ~、それ、楽しみ。あっ、そっち頼むわ。けど、これは息子の成長? みたいな感覚だからチクんなよ!?」
「誰にだよ! 分かるけどな! 左抜けるぞ! 気を付けろよ? 聞かれるぞ」
「今どっちに対する『気を付けろ』だった!?」
そんな会話を、戦いながら続けるユースールの冒険者達。ベルセンの冒険者達を気遣いながらというのは、彼らにもキツかった。主に無駄口叩かずに戦うということが。
何よりも、コウヤがあれだけ心を砕いているベルセンの冒険者達を死なせるわけにはいかない。
ユースールの冒険者達は、誰もが絶対に死なないという強い意思の下で、今回集っている。コウヤの前で不様な姿は見せられないのだから。
「それにしても……っ、おっと!? はあ、コウヤの作戦はすごいな」
「俺、ちょっと覚悟してたんだけど。うわっ、ちょっ、しっかりトドメ刺せや!」
たまに怒号も飛ぶ。
「あ、悪い。まだちょい余裕あるからさ」
「Aランクって、もっと絶望するって聞いたんだけど? あ、数が戻ったな」
「中休憩終わりかあ。アレ、あの人の力もあるんじゃねえ?」
中間の緩みが終わった。同時に十分毎に聞こえる鐘が聞こえた。
「ああ。アルキス様! コウヤの知り合いとはなあ」
それぞれのフィールドに仕分けを行う手前。そこで、アルキスとテンキは少しでも数を減らすために動いていた。
「Aランクの中でも別格らしいな。今、Sランクに一番近いってさっ。うお!? デカイの来た!」
迷宮の名に恥じない大きさの蛇が現れた。
「うわ~、めっちゃ、毒持ってますって色~。テンキ教官とも仲良さそうだったよな」
毒々しい濃い紫と緑のマダラ模様は不気味だった。
「毒もあるが、溶解液にも気を付けろ。ってか、アルキス様、からかわれてなかったか?」
「うげぇ。えげつねえ溶かし方……土が溶けるって何? そういえば、実際にテンキ教官が敬意? とか示すのって、コウヤだけじゃん?」
ひょい、ひょいっと武器も溶解液に触れないように動き回る。
「王弟殿下もからかうテンキ教官の主人って、やっぱコウヤすげえわ! 首もらった!!」
「蛇が首切った所ですぐ死ぬかよ! 燃やしたらあ!! 俺はアルキス様より、ついて来たっていう宮廷魔法師に興味あるわ」
ふぃーっと額の汗を拭う魔法師。大蛇は呆気なく消えた。
そんな会話をしていると、すぐにまた十分経過の鐘が鳴る。
「おっ、もう後五分か。ここにいるのだけでもヤり切るぞ」
「当たり前だ!」
気合いを入れた彼らのフィールドの入り口に、新たな魔獣が顔を出した。
「うおっ! あれ! アレは! レアでゴールドなガマさんだ!!」
「マジかよ! やったー! 金運の神さまぁぁぁぁ」
金といえば金だ。光輝いてはいないが、金の巨大なガマガエル様である。デコボコとしたコブのようなものに、砂金が入っており、これはドロップとは別に手に入る物なのだ。
よって、冒険者達には金運の神さま扱いになっている。その出現率は0.03%だという。その上、毒持ちの多い迷宮にも関わらず、このカエル様は毒を持っていない。
しかし、その美味しさには罠がある。年長の冒険者は知っていた。
そのガマを見た途端、彼らは急いで他の魔獣を片付けに走った。
「バカやろう! 拝むんじゃねえ! お前ら知らんのか!」
「何を?」
「アイツは別名……『脱がせ屋』だ!」
「「「……え?」」」
「あっ!!」
「ひえっ!?」
ベロリと一人の青年が下から上へ舐められた。装備が、服がベタベタになると気付いた時には、それらが呆気なくズルリと上に持ち上がり、バンザイ状態で上の服が脱げていた。
「え……」
その舌が巻き戻って、パクリと装備ごと食べられるのを呆然と見送る。
クェップ
色っぽいため息を返されるまでを見て、固まっていた冒険者達は青ざめた。
「あ、俺の……装備……っ」
「バカやろう! さっさと逃げろ! アイツは……っ、きっちり上を脱がせた後に、下を脱がせに来るんだよぉぉぉ」
「っ、ぎゃぁぁぁぁっ」
「「「いやぁぁぁぁっ」」」
脱兎のごとく逃げ出した上半身裸の青年。しかし、そんな青年に、舌が再び伸ばされる。
「ひぃぃぃぃ」
「おらっ!」
「ぎゃぁっ」
年長の冒険者が、舌を何とか叩いたが、引っ掛かった青年の足から靴が持って行かれていた。
「いいか、お前ら! 上を脱がされたら、何がなんでもセーフティエリアに逃げろ! 死ぬ気で戦え!!」
グフっ
「「「っ、ひぃぃぃぃ!」」」
気持ちの悪い笑いをするソレに、半数以上が上半身を剥かれて涙した。それでも、最後の五分を、死ぬことなく戦い抜いたのだから、彼らの涙と奮闘は無駄ではないはずだ。
三つのフィールドに三体現れたガマを分けたアルキスは、その後『あ、やっぱダメだった?』とこぼして、コウヤに怒られることになる。
交代しようとフィールドを上から覗き込んだ神官達は、さめざめと泣く冒険者達のため、速攻でガマを倒したのは優しさより、同情が勝った結果だった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
『四十分が経過! 後退する方は速やかに移動してください! 繰り返します。四十分が経過しました! 後退する方は速やかに移動してください!』
これを聞いたベルセンの冒険者達は動きを止めた。しかし、その迷いを感じ取り、少し前から彼らの前に出ているユースールの冒険者達は、振り向かずに怒鳴る。
「迷うな! 迷うんなら下がれ!」
「余裕がなくなってる証拠だ! 最後の最後で怪我するとか、悔しい思いをしたいのか?」
「急げ! 岩亀も出てきてんだ! まだやれるってんなら、外壁からの攻撃に回れ!」
大型の魔獣や魔物の放出が一時的に減っている。だが、これも長くは続かない。何より、これより前に向かってきた魔獣の処理が追いついていないのだ。この間に一気に減らす必要がある。
『聖魔教』の神官達が作り上げたセーフティエリアはすごいもので、結界とエリアハイヒールを組み合わせている。お陰で、本当に迷宮内のセーフティエリアのように、そこに入り込めば、魔獣や魔物に襲われることはなかった。
そんな場所に、ベルセンの冒険者達は出たり入ったりを繰り返して耐えてきた。それも、もう限界が近い。終わらない恐怖に、精神の方が弱ってきていたのだ。
彼らを気にしながら戦うのはユースールの冒険者達にも負担がかかる。
「……っ、わかりました」
「! ロインさん……っ」
「引くんだ……後方でも、やれることはある……」
「っ、はい……」
ベルセン組の代表であるロインが、そう口にすれば、悔しそうな顔さえも諦めに変わる。同じ拠点の冒険者達には、特別な絆があるのだ。本来ならば個を主張したがる冒険者達も、この状況下では判断を代表となる者に託してしまっている。
仕方がない状況とはいえ、それが本来の力を半減させていることに、ベルセン組は気付いていない。
ユースールの冒険者達は、それらのリスクも理解しながら、個を持って当たっている。
最初から、実力や集団暴走の知識だけでなく、精神のあり様も全く違うのだ。それに気付かなければ、彼らはただ虚しいだけで終わる。
だから、ユースールの冒険者達は声をかける。あくまでも前を見たまま告げる。それは、各フィールド、担当場所でそれぞれの言葉で語られた。
「ロイン。俺らは兵とは違う。どんな状況であっても、個人が埋没しちゃなんねえ。一パーティがなんで六人までなのか知ってるか?」
カキンっ、と魔獣の牙を弾きながら問いかけられたことに、ロインは顔をしかめる。
「そんなの、決まりだから……」
そう言いながらも、どうして決まっているのだろうかと疑問が湧く。今までそんなことを考えたことなどなかったのだ。
「役割がかぶらずに、個を主張できる最大数だからだ」
「個を……」
「魔獣だけに集中してても自分以外の五人の動きをそれぞれが見ずに感じることができたら、ようやく一人前のパーティだ。ここに護衛するやつが加わって把握できれば、それなりに自慢できる実績が作れる。そんで、こうした複数のパーティを把握できれば一流だ」
それを、ユースールの冒険者達の多くが修得している。
「どれだけ多くの仲間と戦っていても、常に個を信じて当たる。それが冒険者の戦いだ。だから、把握できる。だから、個人の力を発揮できる」
集合体ではなく、あくまでも一人一人を忘れない。それが冒険者だ。
「全部把握できるようになるとな……一緒に戦ってるやつの心が折れたことも、諦めたことも分かるんだよ」
「っ……」
聞いていたロイン達は絶句した。そして赤くなる。自分達の心まで、ユースールの冒険者の多くが感じていたと知れば、恥ずかしくて仕方がない。
「だから後方で、もう一度立て直してくれ。俺らを安心させてくれ。それが、お前らに出来る最大の援護だ」
「っ、はい!」
これらを聞いたベルセンの冒険者達は、誰もが悔しくて泣いていた。けれど、折れかけた、折れていた心が、これにより急速に修復されていく。
これ以上、情けない所は見せちゃいけない。そう奮い立つ。
「っ、これは逃げるんじゃない……っ、俺たちが出来る戦いの場所に向かうだけだっ」
任された場所へ。そして、いつか自分達もあそこに残れるようになろうと心に決める。
自分達はまだまだ半人前なのだから。
ベルセンの冒険者達が去った場所で、ユースールの冒険者達は、苦笑気味に笑っていた。
「おやっさん、さすが。俺らにはムリだわ」
「な~。コウヤってたま~に厳しいよな~」
「お前らみたいな同年のに言われればカチンと来るからな」
「やっぱし? そこの人選ってコウヤは外さんよな」
コウヤは、状況的に厳しいのも知りながら、それぞれの担当場所ごとで、これを伝える者を選んで頼み込んでいた。
中には煩いとウザいと、悪感情を向ける者もいるかもしれない。それでも、こんな機会はそうそうないのだからお願いしますと頭を下げていたのだ。
ベルセンの冒険者達の心を守るために。明日からも冒険者として生きられるように。
「本当……コウヤには頭が下がるぜ」
「俺ら、大事にされてるよな! そっち行ったぞ」
標的を変えられて、注意の言葉をかける。
「おうよ! コウヤはもう、息子っていうか、母ちゃんっていうか、妻?」
「妻って……そこまで行ったらお前。捕まるぞ。オラッ、次!」
倒し切ったぞと笑う。
「ってか、神官さんに聞かれたら終わるよ。でも分かる! あ、俺、一旦下がるわ」
「おう。任しとけ! コウヤはな~大人になったらさぞ美人になるだろうな!」
ちょっと想像しながらも、いい感じに肩の力が抜けたと駆け出す。
「あ~、それ、楽しみ。あっ、そっち頼むわ。けど、これは息子の成長? みたいな感覚だからチクんなよ!?」
「誰にだよ! 分かるけどな! 左抜けるぞ! 気を付けろよ? 聞かれるぞ」
「今どっちに対する『気を付けろ』だった!?」
そんな会話を、戦いながら続けるユースールの冒険者達。ベルセンの冒険者達を気遣いながらというのは、彼らにもキツかった。主に無駄口叩かずに戦うということが。
何よりも、コウヤがあれだけ心を砕いているベルセンの冒険者達を死なせるわけにはいかない。
ユースールの冒険者達は、誰もが絶対に死なないという強い意思の下で、今回集っている。コウヤの前で不様な姿は見せられないのだから。
「それにしても……っ、おっと!? はあ、コウヤの作戦はすごいな」
「俺、ちょっと覚悟してたんだけど。うわっ、ちょっ、しっかりトドメ刺せや!」
たまに怒号も飛ぶ。
「あ、悪い。まだちょい余裕あるからさ」
「Aランクって、もっと絶望するって聞いたんだけど? あ、数が戻ったな」
「中休憩終わりかあ。アレ、あの人の力もあるんじゃねえ?」
中間の緩みが終わった。同時に十分毎に聞こえる鐘が聞こえた。
「ああ。アルキス様! コウヤの知り合いとはなあ」
それぞれのフィールドに仕分けを行う手前。そこで、アルキスとテンキは少しでも数を減らすために動いていた。
「Aランクの中でも別格らしいな。今、Sランクに一番近いってさっ。うお!? デカイの来た!」
迷宮の名に恥じない大きさの蛇が現れた。
「うわ~、めっちゃ、毒持ってますって色~。テンキ教官とも仲良さそうだったよな」
毒々しい濃い紫と緑のマダラ模様は不気味だった。
「毒もあるが、溶解液にも気を付けろ。ってか、アルキス様、からかわれてなかったか?」
「うげぇ。えげつねえ溶かし方……土が溶けるって何? そういえば、実際にテンキ教官が敬意? とか示すのって、コウヤだけじゃん?」
ひょい、ひょいっと武器も溶解液に触れないように動き回る。
「王弟殿下もからかうテンキ教官の主人って、やっぱコウヤすげえわ! 首もらった!!」
「蛇が首切った所ですぐ死ぬかよ! 燃やしたらあ!! 俺はアルキス様より、ついて来たっていう宮廷魔法師に興味あるわ」
ふぃーっと額の汗を拭う魔法師。大蛇は呆気なく消えた。
そんな会話をしていると、すぐにまた十分経過の鐘が鳴る。
「おっ、もう後五分か。ここにいるのだけでもヤり切るぞ」
「当たり前だ!」
気合いを入れた彼らのフィールドの入り口に、新たな魔獣が顔を出した。
「うおっ! あれ! アレは! レアでゴールドなガマさんだ!!」
「マジかよ! やったー! 金運の神さまぁぁぁぁ」
金といえば金だ。光輝いてはいないが、金の巨大なガマガエル様である。デコボコとしたコブのようなものに、砂金が入っており、これはドロップとは別に手に入る物なのだ。
よって、冒険者達には金運の神さま扱いになっている。その出現率は0.03%だという。その上、毒持ちの多い迷宮にも関わらず、このカエル様は毒を持っていない。
しかし、その美味しさには罠がある。年長の冒険者は知っていた。
そのガマを見た途端、彼らは急いで他の魔獣を片付けに走った。
「バカやろう! 拝むんじゃねえ! お前ら知らんのか!」
「何を?」
「アイツは別名……『脱がせ屋』だ!」
「「「……え?」」」
「あっ!!」
「ひえっ!?」
ベロリと一人の青年が下から上へ舐められた。装備が、服がベタベタになると気付いた時には、それらが呆気なくズルリと上に持ち上がり、バンザイ状態で上の服が脱げていた。
「え……」
その舌が巻き戻って、パクリと装備ごと食べられるのを呆然と見送る。
クェップ
色っぽいため息を返されるまでを見て、固まっていた冒険者達は青ざめた。
「あ、俺の……装備……っ」
「バカやろう! さっさと逃げろ! アイツは……っ、きっちり上を脱がせた後に、下を脱がせに来るんだよぉぉぉ」
「っ、ぎゃぁぁぁぁっ」
「「「いやぁぁぁぁっ」」」
脱兎のごとく逃げ出した上半身裸の青年。しかし、そんな青年に、舌が再び伸ばされる。
「ひぃぃぃぃ」
「おらっ!」
「ぎゃぁっ」
年長の冒険者が、舌を何とか叩いたが、引っ掛かった青年の足から靴が持って行かれていた。
「いいか、お前ら! 上を脱がされたら、何がなんでもセーフティエリアに逃げろ! 死ぬ気で戦え!!」
グフっ
「「「っ、ひぃぃぃぃ!」」」
気持ちの悪い笑いをするソレに、半数以上が上半身を剥かれて涙した。それでも、最後の五分を、死ぬことなく戦い抜いたのだから、彼らの涙と奮闘は無駄ではないはずだ。
三つのフィールドに三体現れたガマを分けたアルキスは、その後『あ、やっぱダメだった?』とこぼして、コウヤに怒られることになる。
交代しようとフィールドを上から覗き込んだ神官達は、さめざめと泣く冒険者達のため、速攻でガマを倒したのは優しさより、同情が勝った結果だった。
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