元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第七章 ギルドと集団暴走

271 何しに来たのさ

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ベルセンで集団暴走スタンピードが起きたということは、その日の内に王城にも報告が来ていた。

この報告を受けて執務室には、アビリス王とジルファス、アルキスが詰めていた。

「『大蛇の迷宮』はBランクだったな。ってことは、最後のはAランクの集団暴走スタンピードになるじゃねえか! 俺は行くぞ」

この時、時刻は夜の十一時過ぎ。二度目の集団暴走スタンピードが終わり、三度目がそろそろ始まるという頃だった。

冒険者ギルド同士の連絡網により、ベルセンにほど近い『大蛇の迷宮』にて集団暴走スタンピードの発生を確認したという連絡がこの国内に行き渡ったのは二度目が始まる直前だ。

何度起こり、その一度の集団暴走スタンピードにどれだけの時間がかかるか。小休止も含め、細かい時間の割り出しなど、全ての情報が揃った時点でそれぞれのギルドを置く領主や王に報告が行くようになっている。

どのみち、領兵や騎士が派遣されるわけではないので、この報告は急がれてはいない。対応するのはあくまで冒険者主体なのだから。

これは純粋に戦闘能力を判断した結果だ。魔獣との戦いに不慣れな兵や騎士では、冒険者との連携も難しく、無駄に被害が出るだけになる。

兵たちが派遣されるのは、全て終わった後の復興支援時と決まっていた。

遅ればせながら報告を受けて立ち上がったアルキス。ベルセンにユースールの冒険者が応援に駆け付けているということを知り、ジルファスも慌てて立ち上がる。

「わ、私も!」
「ダメに決まってんだろ。俺はAランクだから参加するのも自己責任で許されるが、お前は、冒険者としてならCだろ」
「Bランクです!」
「悪い……けど、Bランクでもダメだ。所属のギルドの応援要請無しで許されるのはAランク以上と決められてる」

Aランクの冒険者は、自己判断で集団暴走スタンピードなどの緊急時に参加することが認められている。それを、アルキスはきちんと把握していた。

「……でも、コウヤが……」
「何心配してんだよ……コウヤがどうこうなるわけねえじゃん……寧ろ、前線に立って指揮してても不思議じゃねえよ」
「だからです!」

心配なのもわかる。だが、行って足手まといになるのは目に見えていた。何よりも、ジルファスは次期国王なのだ。安易に危険な場所へ行くことは許されない。

アビリス王自身も可愛い孫が戦場に居るかもしれないと思うといてもたってもいられないが、王という立場は、それを許さない。

「落ち着け、ジルファス……心配なのは私も同じだ」
「父上……申し訳ありません……」

ジルファスはゆっくりと椅子に腰掛けた。それを確認して、アビリス王はアルキスへ目を向ける。

「アルキス。お前が行くのは止めん。だが……ベルセンまでは馬でも数日かかる距離だ。一体どうす……聖魔教の神官殿か……」
「おう。いくら非常事態でも、こっちに転移を使える神官様を残してねえなんてことはないはずだ。セイ司教も居る。ユースールからの移動も何か考えてくれるだろ」
「……丸投げではないか……」

完全に神官頼りだと、アビリス王は顔をしかめた。これに、アルキスはなぜか胸を張る。

「出来るやつにやってもらって何が悪い。こういうのは適材適所だろ」
「……はあ……」

その通りではあるが、納得し難いことでもある。

そんな中、近衛騎士の一人が手を上げた。

「あの~。私も行ってはいけませんでしょうか……」
「いや、国として騎士を出すわけには……」

アビリス王としては頷くことはできない。そうなれば、他の場所で集団暴走スタンピードが起きた時にも出さなくてはならなくなる。何より、冒険者ギルドは国の介入を嫌うだろう。

「いえ、その……明日は非番なんです。冒険者としてお世話になっているコウヤ様や聖魔教の神官様のお手伝いをするというのはいけませんでしょうか?」

これに続き、他にも手が上がる。

「あ、私も非番になるので行きます。ユースールに一度飛んで、応援要請に応えた形ならばBランクでも問題ないのではないかと」
「非常事態時の規約では確か……Bランク以下の者が勝手に戦場に出るのはいけませんが、途中参加でもきちんと参加をギルドの方に表明すれば良かったはずです」

彼らもコウヤに以前言われて、ギルドの規約を読み込んでいた。国の騎士という立場である彼らがいるのは、融通の利きにくい国という組織だ。そのため、こういった規約などの穴や見方を変えるやり方は得意だった。

「ま、まあ……生存確認の一環としての措置だしな……ってか、本気でお前ら行く気か!」
「「「はい!」」」

自信満々な応えが返ってきたことに、アルキスは目を丸くする。他の国では、騎士や兵が冒険者を兼任することことはほとんどない。これは冒険者を下に見ているからだ。先ず想定していないため、兼任してはならないという決まりはなく、非番時に彼らが冒険者として動くことに問題はなかった。特にこの国では、王族が率先して冒険者になるのだ。問題になりようはずがない。

「それに、アルキス様の護衛という名目も立ちますよねっ」
「建前が大事だとコウヤ様も仰ってました!」
「言いそうだ……コウヤなら笑顔で言う」

アルキスもその光景が容易に想像できてしまった。誠実、清廉な顔をして、コウヤは意外にも腹黒いとアルキスは認識していた。

「あ、同じく非番の魔法師たちも連れて行って良いですか?」
「おいおいっ。魔法師はダメだろ! ってか、冒険者登録もしてないんじゃ……」
「してますよ?」
「は?」

近衛騎士以外、初耳だ。魔法師たちは、近衛騎士たちが非番の時は冒険者として活動していると知り、すぐに自分たちもと登録を行なっていた。なにを隠そう、近衛騎士たちも付き合ったのだ。

その場で、エミールたち影騎士かげきしを従魔だ侍従だと揉めに揉めて収拾をつけるのに苦労したのは忘れたい記憶だ。それはもう、カオスだった。

「……なので、きっと後で暴走されます」
「あ~……それは厄介……」
「困るな……今のアレらに隠し通せるとも思えん……」

思わずアルキスだけでなく、アビリス王も頭を抱えた。魔法師たちは、コウヤへの弟子入りから変わった。

引きこもり体質で、話なんて通じない暗い奴らだったのだが、今や正反対。騎士たちの遥か後方から、それらを押し除けて前線に立つようになった。

「だが……あの魔法師たちが行くとなると……金の騎士もついてくるだろう? それでは、宮廷魔法師であると喧伝するようなもの……今やあれは、宮廷魔法師の象徴だぞ」

魔法師たちが表に出るようになって、町の巡回にもなぜか参加していた。体力作りの一貫らしい。お陰で、町の人々にとっても『宮廷魔法師と金の騎士』のセットは見慣れたものになりつつある。

余談だが、実は金の騎士たちが甲斐甲斐しく魔法師に世話を焼く様子に、民たちは彼らをカップルと思い込んでいる。一々仕草も可愛いと、金の騎士たちを新しく新設された『乙女騎士団』と呼んでいた。今までなかった新たな魔法師たちとの関係に期待し、応援しているらしい。

お陰でどこか近寄りがたいと思われていたエリート志向の宮廷魔法師たちの人気が一気に高まっている。

「非番だからといっても、ベルセンにだけ特別に魔法師を派遣したということにはならぬか?」

今までそんなことがなかったのだ。特別扱いだと主張する者も出てくるだろう。今後他の場所で集団暴走スタンピードが起きた場合、前例があるのだからと、派遣するのが当然と言われる可能性もある。

「確かに……けど、それは心配いらん気がするわ……」

アルキスが力なく笑い、頭を掻く様子を見て、アビリス王は首を傾げた。

「どういうことだ? 理由が……上手い建前があるとでも?」
「あ~、あるある。だってあいつらコウヤ見たら絶対に『師匠ぉぉぉ! お手伝いに参りましたぁぁぁ!』って突撃するし」
「……なるほど……」

想像すると納得できてしまう。金の鎧を着た騎士を引き連れた魔法師たちが、大声でコウヤを『師匠』と呼び突撃していくのだ。それが集団暴走スタンピードの最中であっても、周りの目と耳は集まってしまう。

この隠せない事実は、噂になるだろう。よって『国が宮廷魔法師を派遣した』ではなく『師匠のために魔法師たちが駆け付けた』となる。

『ベルセンのため』ではなく、彼らの『師匠のため』ということになるのだ。建前としては十分だろう。

さらに『非番でたまたまユースールに居合わせた』ということにすれば、個人の行動で済まされる。

アビリス王は上手くいきそうな状況に、思わず笑い出したくなった。だが、それは咳払いすることで治める。もう一つ問題があることに気付いたのだ。

「ん、んっ、だが、転移はどうする。緊急時だろうと、気軽に使えると知られるのは良くないだろう。お前たちが揃って教会に向かえば、夜だとて人目に付く」

特にあの金の騎士はダメだろう。淡い光も反射するのだから。

「それな……集団暴走スタンピードが終わった後の物資輸送とか、教会に頼ることになるってのも問題か……ただでさえ、色々頼っちまってるからな」
「ええ。これ以上は国の威信にも関わってきます。ユースールはともかく、あくまでも教会は教会。国のことに使うのは良くありません」

孤児やスラムの問題についても、本来ならば国が手を打ち、その過程で教会に頼むならば良い。だが現状、国はこの問題に手を出せてはいない。教会に頼り過ぎているのだ。丸投げしたようなものだった。

「教会の方が力があると見られるのも困るか……」

移動手段だけ取っても、教会に分がある。だが、あの転移はあくまでも神に認められた特別な神官だけが使えるもの。とはいえ、その力は脅威だ。瞬時に人や物を送り込めるのだから。

何より、他の国にそのことで聖魔教に目を付けられては神に顔向けできない。

そこへ、ニールとベルナディオ宰相がやってきた。

「お困りのようですね」
「うむ……」

アビリス王に話を聞いたベルナディオは何度か頷いた後、ニールを見た。それを受けてニールは静かに部屋を出て行く。

ベルナディオは考えをまとめる。

「今回は教会に頼りましょう。ただし、国としてではなく、あくまでもコウヤ様の知人、友人として頼めば良いのです」
「いや。だが、教会までの移動の問題は……」
「見られなければ良いのです。この王都の民に」
「いやいや。あの金の鎧はマジで目立つから」

アルキスは、どう道を選んだとしても、仮に馬車を使ったとしても、バレずにというのは難しいだろうと首を横に振った。

「外に出なければいいでしょう」
「出なければって……あっ!」

そこで、ニールが帰ってきた。オスロリーリェを連れて。

《……コウヤ様……の所に……転移させればいいの?》
「その手があった!」

地下の儀式場から直接転移すればいい。

「そうと決まれば、魔法師に伝えてきます!」
《出発は……深夜十二時で》
「「「Yes,sir!!」」」

近衛騎士が二人走り出て行く。一人は交代要員に連絡。一人は魔法師たちへの通達だ。

これにより、非番の近衛騎士三名。同じく非番の宮廷魔法師五組みが地下へ集まり、アルキスを加えて九人が、駆けつけた白夜部隊の者により転移する。

ただし、転移先は王都でもユースールでもない。そこは、ベルセンの聖堂だった場所。即席で布で覆われているが、周りはガレキの山だった。

「……なにここ……もう町までヤバいのか?」

アルキスの言葉に答えたのは、待ち構えていたルディエだった。

「まだ町にまで入り込まれてないよ。これは、ちょっと教会がモロかっただけ。で? 何しに来たのさ」
「「「冒険者として戦いに来ました!」」」
「「「師匠のお手伝いです!」」」
「「魔法の実験です!」」
「……いいけど、先ずはあのじいさん……マスターに許可取りなよ。東門」
「おうよ!」

そうして、意気揚々と一同は東門に向かったのだが、コウヤに驚かれたのは当然だった。そして、アルキスの予想通り『師匠ぉぉぉぉ!』という声がベルセンに響いたのだ。

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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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