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第七章 ギルドと集団暴走
269 大丈夫じゃないんじゃない!!
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コウヤは一人、避難場所から移動し、教会へ向かった。幸い教会は避難所からそれほど離れてはいないし、東門へ向かう道からも外れていなかった。
間違いなく白夜部隊が上手くやっているので、教会のことは心配ない。ただ、顔を見せに行くだけのつもりで来た。
なるべく早く東門へ行こうと走っていたのだが、その建物の全容を視界に入れた途端、呆れて足が止まりそうになった。
「うわ~……大きい……」
ここベルセンには立派な教会が建っており、ユースールに元あった教会よりも派手で大きかった。王都のそれに匹敵する大きさだ。コウヤは足を止めることなく、眉をひそめながらそれを眺める。
「増築したんだ……」
壁の色が統一していないなとそこを注視する。明らかに増築した感じだ。コウヤに言わせれば美しくない。下手な増築の仕方だった。
「これだけ弄ってるとなると、地下は……あ、やっぱりある……」
空間把握で地下を確認すると、今コウヤが立っている場所の下にも地下の空間が広がっていた。そして、どうにも嫌な予感がした。
「これはちょっと……杜撰過ぎる」
きゅっと、更に眉間にシワが寄る。教会の入り口まであと五十メートルほど。そこで立ち止まると、周りを見回した。
そんなコウヤに気付いた神官が出てきた。
「コウヤ様っ」
「あ、リウムさんも来てくれたんですね」
「はい」
教会の方は早々に白夜部隊が抑えており、ルディエによって聖堂は聖域となっている。これにより、ユースールとベルセン間で転移が可能となり、やって来た神官達が上手く回してくれていた。リウムも転移でやって来たというわけだ。
「それで、コウヤ様は何かお探しですか?」
「探しているというか……この辺の家って、使われてるのかなと。兵の方が居ればそれが分かるでしょうか」
「あ、場所の確保ですか?」
「それもあるんですけど……」
コウヤは教会へ目を向ける。しばらくして確信を得ると頷く。そこに丁度、ジザルスとルディエがやってきた。
ジザルスは、東門の方で負傷者の救出をしていたのだが、ユースールの冒険者達が来たことで、その役目は彼らに任せることができた。そこで、一旦こちらの様子の確認をとルディエと合流してやってきたのだ。
「どうしたの、兄さん」
ルディエの問いかけに、コウヤは考え込みながら応える。
「ん~。このままだと多分、聖堂しか残らないから中に居る人の避難場所をこの辺に作るべきかなって」
「……ごめん。意味が分からない」
ジザルスも首を捻りながら教会を見るが、分からなかったようだ。
コウヤもきちんと説明しないといけないなと、色々と考えていたことで散漫になっていた意識をまとめる。
「あのね。地下室を増築してるのに、しっかりと地盤を固められていないみたいなんだ。上の建物の増築の仕方も、すごく適当に見える。柱とか甘そう。だから……Aランクの集団暴走で出てくるような大型の魔獣が暴れたら……」
想像すると、クシャンと教会が崩れていくのが見えた。ルディエ達も気付いたらしい。
「崩れるの……?」
「うん」
「すぐにこの辺りで避難できそうな場所を探して参ります」
リウムがすかさず、視界の端に入った兵の元へ駆けていった。ルディエは地下の様子を感じ取り、ジザルスは考え込む。
「単純に地盤の強化をしても凌げませんか?」
「すごく難しい上に、相当魔力使うことになります。それに何より、増築した上の部分が脆いみたいです。爆風とかでも吹き飛びますよ?」
地響き一つで地下は崩れ、風圧で上は吹き飛ぶ。
「すぐに全員を外に出します」
「それがいいかな」
そうして、人を聖堂に集めるか外に出すということに決定し、コウヤは東門へ急いだ。
「マスター」
「あ、コウヤちゃん……あの子達、ちゃんと働けてるの?」
受付嬢達に任せてきたことが、タリスには信じられなかったらしい。コウヤはタリスの居る外壁の上への階段を上りながら確認する。
「はい。届いてきてますよね?」
タリスが頷きながらそちらを見る。
「うん。アレでしょ? なんか、一度目にしてはやたら多くない?」
外壁の下。そこでは、ギルドの職員達が忙しなく動き回っており、その中心には赤や黄色の箱が届けられていた。
「皆さんとても協力的で、お料理もしてくれるらしいです」
「……そうなった経緯を是非とも知りたいけど、今はいいや」
ニコニコと満足げに笑うコウヤを見て、タリスは何があったか気になったらしい。しかし、さすがに今それで盛り上がるわけにはいかないと自重していた。
タリスは少し先にある階段の一つを見る。そこでは、時折登ってきては、外で起きている戦闘を真剣に見つめる者たちがいた。
「あの子達に、見るように言ったんだって?」
誰を指しているのかを確認して、コウヤもそちらを見た。受付嬢の一人が恐々と今まさにその戦闘風景を見つめていた。
「ええ。あまりあって喜べることではありませんが、この集団暴走は良い機会でしょう? グラムさん達がいるなら、Bランクでもそれほど酷い戦いにはならないでしょうし」
「まあね。ベルセンの子達だけなら絶望するだけだったろうけど、今は大丈夫だと思ったから僕も許可したんだもの」
呆然と外壁の上から下を見下ろす。今はこの外壁の傍までは魔獣は到達していない。ユースールの冒険者が来るまでは、ここまで来ていたのが、なんとか押し戻していた。
その立役者達は今や適当に魔法を放ったり、弓を射たりしている。
「そういえば、あの子。コウヤちゃんが弓を薦めた子。なんて言ったっけ。ほら、解体屋さんによく修行しに行く」
「オルスさんですか?」
「そうそう。その子っ。このベルセンの出だってことで、凄いギルドの子達に驚かれてたよ。あの子、いつの間にあんなこと出来るようになったの?」
受付嬢達はかつてオルスを薬草採取くらいしか出来ないとバカにしていた。それを、事務作業をする職員達も覚えていたのだ。
オルスは戦い方を知らなかっただけ。彼は誰かに頼るということを知らなかった。それは生まれの問題。どうやら、貴族の庶子であったらしい。逃げるように母親とベルセンにやってきて、スラムの端に居ついたのが十の頃。
そして、十二の時にこの町の領主によって母親が連れて行かれたらしい。見ていた町の人々も、なぜ連れて行かれたのか分からず、残されたオルスも事情が分からなかった。
これにより、オルスは冒険者になっても、どこか周りに一線引かれていた。
そんなオルスが、いつの間にか居なくなったと気付いても、誰もがどこかでのたれ死んでいるだろうと哀れに思って諦めていたらしい。
そんなオルスが、ユースールの冒険者として降ってきたと気付いた時は、皆が目を丸くした。
このベルセンに居た時の弱々しい様子はなく、オルスは弓で圧倒したのだ。魔法師達にも負けない精度で沢山の魔獣を一発で仕留めていく様子は、もう別人だった。
「あんなこと……ああ。魔弓ですね」
「弓矢一つにつき四つ、魔法の矢が飛んでいってびっくりしたよ。それも全部命中してるし」
「まだ魔弓だけっていうのは難しいらしくて。練習中だそうです。本当にセンス良いですよねっ」
「……センス良いの一言で済ませられるレベルじゃないんだけど……うん。そうだね~……」
コウヤにとっては『凄いでしょ?』とオルスを称えられること。だが、タリスとしてはその能力を引き出したコウヤの方が凄いと思う。
「はあ……コウヤちゃんはまったく……相変わらずの無自覚さんなんだから……」
そうして、当たり前のように、無自覚なコウヤによって才能を開花させた人は多いんだろうなとタリスはため息を吐いた。
そして、それが起きたのは、それから数分としない内だった。
「ん? この魔力……グラムさん?」
「え? グラムちゃん?」
グラムは元々、それなりの魔力があった。だが、剣で戦うことが当たり前になっていた彼は、特に魔法を使うことが頭になかったようだ。
そこへ来て、コウヤが渡した聖剣がやらかしていた。
潜在的に眠っていた魔力を引き出し、魔法ではなく、斬撃という形でグラムが気軽に使えるようにしたのだ。これにより、魔力がしっかりと体を巡るようになり、ちょっと見ない内にグラムは、宮廷魔法師並みの魔力を手に入れていた。
「グラムちゃんって……魔法使えた?」
「あ~、その。多分聖剣のせいですけど……まさかグラムさん……本当に気付いていなかったんじゃ……」
冒険者は、一般庶民たちよりもステータス確認をする。なので、グラムもさすがに魔力量の変化に気付くだろうと思っていた。
「……いつもあまり使ってる感じがしないから、変だとは思ってたんですけど……」
「……ねえ、これ魔法師並みじゃない? っていうか、何する気なの!?」
「多分……魔力弾でしょうか。ほら、空挺降下する時に爆発してたアレです。緊急時用で、扱いには注意が必要なんで、支給しているのは審査を受けて威力や使う場所とかも理解したAランク以上の魔法師じゃない人だけなんですけど」
込めるべき魔力量は、魔法師でなければ中々分からないため、感覚で覚えてもらった。
「ただその……グラムさんに魔力量の自覚がないとなると……ちょっとマズイんですけど」
「うん、うん。コレ、ちょっとばかりのマズさじゃなさそうなんだけど!?」
「う~ん。大丈夫です。テンキも居ますし、先頭はゲルナおじさんとか、Aランクの方が多いですから、あえて使おうとしてるんでしょう。俺は信じます!」
彼らを信じなくてどうするとコウヤは胸を張った。
「そんな自信満々に!? 本当に大丈夫!?」
「大丈夫です。魔法師の皆さ~ん! 大きい爆発が来ますよ~! 結界の展開をお願いしま~す! あっ、強度強めで!」
「大丈夫じゃないんじゃない!!」
タリスのツッコミは気にしない。魔法師達も感じていたのだろう。素早く結界を展開した。コウヤは拡声の魔法で注意を促す。
「飛ばされないように~! 爆発まで五秒前~! 四、三、ニ、一っ」
刹那の無音。そして特大の爆発音と地響きがベルセンを襲った。
ドォォォォン!!
声を殺して身を守る者。悲鳴を上げて転がる者。外壁が無事で良かったとコウヤはそれらを見ながらほっとする。
「ここまで密度の高い魔力を込められるなんて、凄いなあ。後で整地するのが大変そうだけど」
「ちょっと! コウヤちゃん!! あんな爆発聞いてないよ!」
「俺もここまでの爆発は予想外です。提案したのゲルナおじさんかな? 後で注意しないと。ん?」
そこでコウヤはズズズっという音が後ろから聞こえたような気がして振り向く。
「どうしたの? コウヤちゃ……っ! うぇぇぇぇ!?」
タリスや他の近くに居たギルド職員や兵達が釣られて振り返る。
ズシャァァァァん!
建物が崩れ落ちた。
「あ~あ、やっぱり崩れちゃった」
「ちょっとコウヤちゃん!? あそこ!」
タリスが大きな声を出して指を差す。
「はい。教会なんですけど、ちょっと無理な増築してたみたいで、地盤とか問題があって。大丈夫です。避難は出来てましたっ」
「その自信が結果に結び付いてないからね!?」
これは大丈夫とは言わないとタリスが頭を抱えていた。だが、そんなことはコウヤは気にしていない。それよりもと背伸びをして片手を額の前で翳し、教会周りの状態を確認していた。
「土煙りも上に流せてるし、上手に崩れてるね。うん。人的被害はなし。周りの建物にも被害はない。さすがルー君達」
綺麗に教会だけ崩れただけで済んだようだと満足げに頷いた。
地盤もそうだが、見栄を張って外壁よりも建物を高くしていたのが悪い。爆風がモロに行った。
「これで土地も空きましたね~」
「……」
さすがのタリスも、もう何も言う気がなかった。力なく肩を落としながら振り向いた先にある戦場。最前線のその先には、大きな窪みが出来ていた。
「……ボクの知ってる集団暴走の戦い方じゃない気がする……」
時代の違いかなとか、もうボクも年だしとか呟きながら、遠い所を見るタリス。
そうして、一度目の集団暴走がようやく終わり、撤退してきたベルセンの冒険者とユースールの冒険者の表情の違いを見て、タリスは何とか持ち直した。
「うん。やっぱりユースールがおかしいんだよね! ボクの感覚の違いじゃない!」
元気になったタリスは、早速次の対策をと精力的に動き出したのだった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
間違いなく白夜部隊が上手くやっているので、教会のことは心配ない。ただ、顔を見せに行くだけのつもりで来た。
なるべく早く東門へ行こうと走っていたのだが、その建物の全容を視界に入れた途端、呆れて足が止まりそうになった。
「うわ~……大きい……」
ここベルセンには立派な教会が建っており、ユースールに元あった教会よりも派手で大きかった。王都のそれに匹敵する大きさだ。コウヤは足を止めることなく、眉をひそめながらそれを眺める。
「増築したんだ……」
壁の色が統一していないなとそこを注視する。明らかに増築した感じだ。コウヤに言わせれば美しくない。下手な増築の仕方だった。
「これだけ弄ってるとなると、地下は……あ、やっぱりある……」
空間把握で地下を確認すると、今コウヤが立っている場所の下にも地下の空間が広がっていた。そして、どうにも嫌な予感がした。
「これはちょっと……杜撰過ぎる」
きゅっと、更に眉間にシワが寄る。教会の入り口まであと五十メートルほど。そこで立ち止まると、周りを見回した。
そんなコウヤに気付いた神官が出てきた。
「コウヤ様っ」
「あ、リウムさんも来てくれたんですね」
「はい」
教会の方は早々に白夜部隊が抑えており、ルディエによって聖堂は聖域となっている。これにより、ユースールとベルセン間で転移が可能となり、やって来た神官達が上手く回してくれていた。リウムも転移でやって来たというわけだ。
「それで、コウヤ様は何かお探しですか?」
「探しているというか……この辺の家って、使われてるのかなと。兵の方が居ればそれが分かるでしょうか」
「あ、場所の確保ですか?」
「それもあるんですけど……」
コウヤは教会へ目を向ける。しばらくして確信を得ると頷く。そこに丁度、ジザルスとルディエがやってきた。
ジザルスは、東門の方で負傷者の救出をしていたのだが、ユースールの冒険者達が来たことで、その役目は彼らに任せることができた。そこで、一旦こちらの様子の確認をとルディエと合流してやってきたのだ。
「どうしたの、兄さん」
ルディエの問いかけに、コウヤは考え込みながら応える。
「ん~。このままだと多分、聖堂しか残らないから中に居る人の避難場所をこの辺に作るべきかなって」
「……ごめん。意味が分からない」
ジザルスも首を捻りながら教会を見るが、分からなかったようだ。
コウヤもきちんと説明しないといけないなと、色々と考えていたことで散漫になっていた意識をまとめる。
「あのね。地下室を増築してるのに、しっかりと地盤を固められていないみたいなんだ。上の建物の増築の仕方も、すごく適当に見える。柱とか甘そう。だから……Aランクの集団暴走で出てくるような大型の魔獣が暴れたら……」
想像すると、クシャンと教会が崩れていくのが見えた。ルディエ達も気付いたらしい。
「崩れるの……?」
「うん」
「すぐにこの辺りで避難できそうな場所を探して参ります」
リウムがすかさず、視界の端に入った兵の元へ駆けていった。ルディエは地下の様子を感じ取り、ジザルスは考え込む。
「単純に地盤の強化をしても凌げませんか?」
「すごく難しい上に、相当魔力使うことになります。それに何より、増築した上の部分が脆いみたいです。爆風とかでも吹き飛びますよ?」
地響き一つで地下は崩れ、風圧で上は吹き飛ぶ。
「すぐに全員を外に出します」
「それがいいかな」
そうして、人を聖堂に集めるか外に出すということに決定し、コウヤは東門へ急いだ。
「マスター」
「あ、コウヤちゃん……あの子達、ちゃんと働けてるの?」
受付嬢達に任せてきたことが、タリスには信じられなかったらしい。コウヤはタリスの居る外壁の上への階段を上りながら確認する。
「はい。届いてきてますよね?」
タリスが頷きながらそちらを見る。
「うん。アレでしょ? なんか、一度目にしてはやたら多くない?」
外壁の下。そこでは、ギルドの職員達が忙しなく動き回っており、その中心には赤や黄色の箱が届けられていた。
「皆さんとても協力的で、お料理もしてくれるらしいです」
「……そうなった経緯を是非とも知りたいけど、今はいいや」
ニコニコと満足げに笑うコウヤを見て、タリスは何があったか気になったらしい。しかし、さすがに今それで盛り上がるわけにはいかないと自重していた。
タリスは少し先にある階段の一つを見る。そこでは、時折登ってきては、外で起きている戦闘を真剣に見つめる者たちがいた。
「あの子達に、見るように言ったんだって?」
誰を指しているのかを確認して、コウヤもそちらを見た。受付嬢の一人が恐々と今まさにその戦闘風景を見つめていた。
「ええ。あまりあって喜べることではありませんが、この集団暴走は良い機会でしょう? グラムさん達がいるなら、Bランクでもそれほど酷い戦いにはならないでしょうし」
「まあね。ベルセンの子達だけなら絶望するだけだったろうけど、今は大丈夫だと思ったから僕も許可したんだもの」
呆然と外壁の上から下を見下ろす。今はこの外壁の傍までは魔獣は到達していない。ユースールの冒険者が来るまでは、ここまで来ていたのが、なんとか押し戻していた。
その立役者達は今や適当に魔法を放ったり、弓を射たりしている。
「そういえば、あの子。コウヤちゃんが弓を薦めた子。なんて言ったっけ。ほら、解体屋さんによく修行しに行く」
「オルスさんですか?」
「そうそう。その子っ。このベルセンの出だってことで、凄いギルドの子達に驚かれてたよ。あの子、いつの間にあんなこと出来るようになったの?」
受付嬢達はかつてオルスを薬草採取くらいしか出来ないとバカにしていた。それを、事務作業をする職員達も覚えていたのだ。
オルスは戦い方を知らなかっただけ。彼は誰かに頼るということを知らなかった。それは生まれの問題。どうやら、貴族の庶子であったらしい。逃げるように母親とベルセンにやってきて、スラムの端に居ついたのが十の頃。
そして、十二の時にこの町の領主によって母親が連れて行かれたらしい。見ていた町の人々も、なぜ連れて行かれたのか分からず、残されたオルスも事情が分からなかった。
これにより、オルスは冒険者になっても、どこか周りに一線引かれていた。
そんなオルスが、いつの間にか居なくなったと気付いても、誰もがどこかでのたれ死んでいるだろうと哀れに思って諦めていたらしい。
そんなオルスが、ユースールの冒険者として降ってきたと気付いた時は、皆が目を丸くした。
このベルセンに居た時の弱々しい様子はなく、オルスは弓で圧倒したのだ。魔法師達にも負けない精度で沢山の魔獣を一発で仕留めていく様子は、もう別人だった。
「あんなこと……ああ。魔弓ですね」
「弓矢一つにつき四つ、魔法の矢が飛んでいってびっくりしたよ。それも全部命中してるし」
「まだ魔弓だけっていうのは難しいらしくて。練習中だそうです。本当にセンス良いですよねっ」
「……センス良いの一言で済ませられるレベルじゃないんだけど……うん。そうだね~……」
コウヤにとっては『凄いでしょ?』とオルスを称えられること。だが、タリスとしてはその能力を引き出したコウヤの方が凄いと思う。
「はあ……コウヤちゃんはまったく……相変わらずの無自覚さんなんだから……」
そうして、当たり前のように、無自覚なコウヤによって才能を開花させた人は多いんだろうなとタリスはため息を吐いた。
そして、それが起きたのは、それから数分としない内だった。
「ん? この魔力……グラムさん?」
「え? グラムちゃん?」
グラムは元々、それなりの魔力があった。だが、剣で戦うことが当たり前になっていた彼は、特に魔法を使うことが頭になかったようだ。
そこへ来て、コウヤが渡した聖剣がやらかしていた。
潜在的に眠っていた魔力を引き出し、魔法ではなく、斬撃という形でグラムが気軽に使えるようにしたのだ。これにより、魔力がしっかりと体を巡るようになり、ちょっと見ない内にグラムは、宮廷魔法師並みの魔力を手に入れていた。
「グラムちゃんって……魔法使えた?」
「あ~、その。多分聖剣のせいですけど……まさかグラムさん……本当に気付いていなかったんじゃ……」
冒険者は、一般庶民たちよりもステータス確認をする。なので、グラムもさすがに魔力量の変化に気付くだろうと思っていた。
「……いつもあまり使ってる感じがしないから、変だとは思ってたんですけど……」
「……ねえ、これ魔法師並みじゃない? っていうか、何する気なの!?」
「多分……魔力弾でしょうか。ほら、空挺降下する時に爆発してたアレです。緊急時用で、扱いには注意が必要なんで、支給しているのは審査を受けて威力や使う場所とかも理解したAランク以上の魔法師じゃない人だけなんですけど」
込めるべき魔力量は、魔法師でなければ中々分からないため、感覚で覚えてもらった。
「ただその……グラムさんに魔力量の自覚がないとなると……ちょっとマズイんですけど」
「うん、うん。コレ、ちょっとばかりのマズさじゃなさそうなんだけど!?」
「う~ん。大丈夫です。テンキも居ますし、先頭はゲルナおじさんとか、Aランクの方が多いですから、あえて使おうとしてるんでしょう。俺は信じます!」
彼らを信じなくてどうするとコウヤは胸を張った。
「そんな自信満々に!? 本当に大丈夫!?」
「大丈夫です。魔法師の皆さ~ん! 大きい爆発が来ますよ~! 結界の展開をお願いしま~す! あっ、強度強めで!」
「大丈夫じゃないんじゃない!!」
タリスのツッコミは気にしない。魔法師達も感じていたのだろう。素早く結界を展開した。コウヤは拡声の魔法で注意を促す。
「飛ばされないように~! 爆発まで五秒前~! 四、三、ニ、一っ」
刹那の無音。そして特大の爆発音と地響きがベルセンを襲った。
ドォォォォン!!
声を殺して身を守る者。悲鳴を上げて転がる者。外壁が無事で良かったとコウヤはそれらを見ながらほっとする。
「ここまで密度の高い魔力を込められるなんて、凄いなあ。後で整地するのが大変そうだけど」
「ちょっと! コウヤちゃん!! あんな爆発聞いてないよ!」
「俺もここまでの爆発は予想外です。提案したのゲルナおじさんかな? 後で注意しないと。ん?」
そこでコウヤはズズズっという音が後ろから聞こえたような気がして振り向く。
「どうしたの? コウヤちゃ……っ! うぇぇぇぇ!?」
タリスや他の近くに居たギルド職員や兵達が釣られて振り返る。
ズシャァァァァん!
建物が崩れ落ちた。
「あ~あ、やっぱり崩れちゃった」
「ちょっとコウヤちゃん!? あそこ!」
タリスが大きな声を出して指を差す。
「はい。教会なんですけど、ちょっと無理な増築してたみたいで、地盤とか問題があって。大丈夫です。避難は出来てましたっ」
「その自信が結果に結び付いてないからね!?」
これは大丈夫とは言わないとタリスが頭を抱えていた。だが、そんなことはコウヤは気にしていない。それよりもと背伸びをして片手を額の前で翳し、教会周りの状態を確認していた。
「土煙りも上に流せてるし、上手に崩れてるね。うん。人的被害はなし。周りの建物にも被害はない。さすがルー君達」
綺麗に教会だけ崩れただけで済んだようだと満足げに頷いた。
地盤もそうだが、見栄を張って外壁よりも建物を高くしていたのが悪い。爆風がモロに行った。
「これで土地も空きましたね~」
「……」
さすがのタリスも、もう何も言う気がなかった。力なく肩を落としながら振り向いた先にある戦場。最前線のその先には、大きな窪みが出来ていた。
「……ボクの知ってる集団暴走の戦い方じゃない気がする……」
時代の違いかなとか、もうボクも年だしとか呟きながら、遠い所を見るタリス。
そうして、一度目の集団暴走がようやく終わり、撤退してきたベルセンの冒険者とユースールの冒険者の表情の違いを見て、タリスは何とか持ち直した。
「うん。やっぱりユースールがおかしいんだよね! ボクの感覚の違いじゃない!」
元気になったタリスは、早速次の対策をと精力的に動き出したのだった。
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三日空きます。
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