元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第七章 ギルドと集団暴走

259 いい加減にしろ!!

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ジザルスは見た目からすると、穏やかで争い事とは無縁の好青年にしか思えない。だが、実際はその見た目を裏切る戦闘派だ。

因みにバイクに乗ればスピード狂の顔が覗く。『神官要請』を受けて数分で辿り着いたのはこのためだ。現在、白夜部隊でユースールとベルセン間をバイクで飛び、五分以内で到着できるのが数人居る。その内の二人がジザルスとリエラだ。

ジザルスは事務仕事もバリバリこなせるが、体を動かすのが何よりもストレス発散に良いと考える人種。Aランクの魔獣相手の討伐も、難しい場所にある薬草採取もスポーツ感覚でこなす人だ。

そんなジザルスがイラっとして威圧すればどうなるか。

「っ、ひっ!?」
「っ!?」
「ぃやっ……っ!」

普通に気絶者も出せる。だが、多少は加減をした。よって、足腰に力が入らない者が出たくらいで済んだようだ。

ジザルスはため息を吐いて落ち着いてから口を開いひらいた。

「我々のこの力は義務により振るうものではありません……正しくこちらが助けたいと思い、助けて欲しいと願う者。その関係で成り立つべき力です。他の技能と変わりません。勘違いなさらないように」
「っ、だ、だって……っ」

ここの受付嬢たちは、かなり高慢なようだ。それもそのはず、このベルセンでは、ユースールに冒険者達を持っていかれないよう、見た目を重視した採用になっているらしい。性格にも能力にも問題ありだ。

「なにより……こちらのギルドは、紹介料を教会からもらっているでしょう。関係の仕方もかなり問題のあることが多いようですし……」
「ど、どうゆうことだ……それ……」

これは冒険者達の声だ。どうやら、知らなかったらしい。だが、ジザルスは今そちらを説明する気はない。

「そんなギルドに、我々が関われば、間違いなく面倒なことになります。せめてユースールの冒険者ギルドに仲介していただかないと……あなた方のような、道理も何も理解できない者が多いのでは話になりません」
「そ、そんなこと……」

職員達が言い訳をしようとするが、ジザルスは構わず再び歩き出した。

「デントさん。今回、生き残れるかどうかは、あなた方の頑張り次第ですよ。しっかりと冒険者の方たちを納得させてください。ここの職員は当てになりません。まあ、領主の方からもあるでしょうから、上手くやってください。でなければ、ベルセンは今日で消えますよ」
「っ、はい。やってみせます」
「ええ。あなたの努力が神の目に留まりますように」
「ありがとうございます!」

真に神に認められた教会の神官が祈ってくれたのだ。ご利益がないわけがないと、デントは奮起した。

ジザルスの背中を見送り、デントはまずこの場にいる冒険者達へ訴える。

「氾濫したのはBランクの『大蛇の迷宮』です! 集団暴走スタンピードともなれば、Dランク以下は戦闘では役に立たない! けれど、このベルセンではCランク以下が九割だって聞いてる。最深層クラスの魔獣が何度も現れたら、この町……この領にいる冒険者を集めた所で守りきれない!」

最低でも放出回数は二回。

その前に異変を感じた魔獣達が起こす集団暴走スタンピードにさえ、このベルセンの総力では追いつかないかもしれない。

ソロが少ないのも実力的に不安な所だ。

「ちょっと! 何を弱気な事言ってるのよ!」
「そうよ! ちゃんと強い人たちも居るわ!」
「あんたが弱いだけでしょ! 万年Eランクが出しゃばるんじゃないわよ!」
「ここで偉そうに講釈たれる余裕があるなら、今すぐにさっきの神官を呼び戻しなさいよ! あんたにはそれくらいの価値しかないんだから」

受付嬢達は未だ震える足で立ち上がり、デントへ抗議する。感じたことのない恐怖を知り、彼女たちは平静を取り戻すために大声で告げた。

「っ、俺たちがどう思われてても構わない。けど、現実を見なきゃ、町の人たちが死ぬんだ! 意地ばっかり張って、ユースールに応援を頼まなきゃ大勢死ぬんだよ!」

デントは必死だった。ユースールで戦闘訓練を受けたことで、実際のBランクやAランクの人の強さを知った。テンキの訓練により、魔獣の強さも身にしみて理解した。実際に知ったことで、今回のことがどれだけ絶望的な状況かが、この場の誰よりもわかっていたのだ。

「ふざけないで! あんなインチキばかりな所に、誰が応援なんて頼むのよ! こんな奴の言うことなんて聞かなくていいわ! さっさと対策会議を始めてちょうだい」
「会議室を用意するわ。AランクとBランクを招集よ。マスターに伝えて」
「余計な時間がかかっちゃったわ。ちょっと、あんたは役に立たないんだから、せめて教会に伝えてきてちょうだい」
「くっ……」

デントは奥歯を噛み締めた。分かっていたことだった。ユースールの職員とは全く違う。今ならば分かる。

こいつらは口だけ達者な無能だと。

ユースールの冒険者達が言っていた。『受付に女しか居なかったらすぐに信用するな』これの意味が分かった。

デントは拳を握りしめた。ここでユースールに
『応援要請』を出さなければ、ベルセンは本当に終わる。ここから一番近い領内の冒険者ギルドはこのベルセンよりも規模が小さい。何より、ランクが低い者が多いと聞いている。呼んだ所で足手まといになるし、何よりも半日はかかる。

普通に考えたら、ユースールに頼んだ所で無駄だと思う。ベルセンの冒険者達は、ユースールまで片道三日掛かると思っているからだ。魔獣を避けながら進むために、それだけ掛かるのが常識だと。

しかし、彼らは思い違いをしている。ユースールで鍛えた冒険者ならば、ここベルセンまで半日と掛からない。身体強化もものにしているのが普通なのだ。グラム辺りならば、本気で走って一時間の距離になる。これをこのベルセンの者たちは知らないのだ。

「そもそも、ユースールに頼んだ所で、全部終わってからしか到着しないじゃない」
「領内で頼むのが無難よね~。そんなこともわからないなんて」
「所詮、学もない孤児には分かりっこないわ」
「っ……」

デントにとって孤児だとか、学がないとかは本当のこと。だから、それはどうでもいい。

「はっ、あんたたちこそバカだな。実際のユースールのことも知らないで……先に言っておく。あんたたちと教会の依頼で、俺たちがユースールのギルド支部に問題を起こしに行ったんだってこと、あっちには伝えたから。今回の応援要請も、きっちり頭下げながら頼まないと受けてもらえないだろうな」

嫌がらせをしに来たのだと、タリスにも告白していた。その時のタリスの目は怖かったというのが感想だ。あれは、背筋が凍るというのを実体験した瞬間だった。

「は? 何言ってんの? それ証明できるの?」
「ってか、それ言ったら達成したらDに上げてやるって約束も反故よね? 一生Eランクでいると良いわ。私たちの評価なしに、ランクは上がらないわよ」

そう。こいつらは、ランク査定にも口を出してきていた。ギルドの顔である彼女達には、ここのギルドマスターも弱いのだ。

デントはユースールとの違いに笑いがこみ上げてきた。こんな奴らに弱みを握られていたのかと思うと情けない。

「あははっ……どっちがインチキなんだか……お前らみたいな職員、査察が入ったら一発で捕まるさ。あんたたちは知らないんだ。ユースールのギルドの上層部は確かに腐ってたらしい。けど、俺たち冒険者を守るために、表の職員たちは必死でギルドやあの町を支えてたんだ」

これは、あのユースールで過ごす間に聞いた話。ベルセンが嫌うのは、同じような場所や環境なのに、ギルドの評価が高いから。明らかに評判の悪いギルドなのに、それを許して冒険者達が集っていたからだったのだと聞いた。

「上から睨まれても、あんた達みたいな表に出る人達が、冒険者の不利益を出さないように、必死でサポートしてたんだ。そんなことできるか? 裏で教会と繋がって、怪我をした俺らを売り渡して……その金で着飾って愛想を振り撒くだけの、あんた達にはできない!」
「っ、な、なんてこと言うのよ!」
「ってか、着飾って何が悪いのよ。あんた達のために綺麗にしてやってるんじゃない」
「そうよね。こんな男むさいところでさ。結婚相手が見つけられるかもって期待したこっちが損してるのに」

この言葉に、さすがの冒険者達も目が覚めた。

「お前ら……そんなこと考えながら仕事してたのか……」
「俺らが命懸けで仕事してるのに……それを……っ」
「ランクが高い奴だけヒイキしてると思ったのは気のせいじゃないみたいだな……」

誰もが分かっていたのだ。おかしいと。それでも誰も何も言わないから口にしなかっただけ。受付嬢達が媚びを売る高ランクの冒険者も何も言わないから。おかしいなどと口にすれば、彼らが敵に回ると思い込んで、考えないようにしていた。

採用しているギルドの上層部も、これを承知の上なんだろうと、納得するしかなかったのだ。ここを拠点とする冒険者の誰もが、弱みを握られていた。ギルドに睨まれれば、これ以上先に行くところはないのだと思ったからだ。彼らにとっての世界は、ベルセンまでしかなかった。

そこで声が響いた。

「いい加減にしろ!!」

それは、神官要請を出しに行ってくれたフレイという男性職員。そして、その後ろからは弱り顔のギルドマスターが続き、更には兵の姿があった。

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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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