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第七章 ギルドと集団暴走

246 さすが地域密着型……

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第三騎士団の三人は、老人を家まで送って行くという。教会前で別れ、その後彼らは実家関係を回って早速情報収集をするらしい。

老人には、食堂のサービスの一つである現物交換で食事の配達手続きをしてもらった。値段の設定を模索中ということもあり、一日に昼と夜の二食、二十日分の食事を配達する。勿論、適度な運動はした方が良いので、この教会で取ることも可能だと説明されていた。

薬がなくなった後、確認のための診察も無料で受けてもらえるように手も回した。コウヤは老人には特に気を回すのだ。

これからは、一般にもそれが可能なように提案しておいた。まだまだ試験的なものは多い。より良いものへ多くの実践を経て変更していくつもりだ。

冒険者ギルドには、タリスと近衛騎士の三人、パックン達を連れて向かう。その道すがらコウヤは思い出していた。

「そういえば、ビジェに登録してもらった時、受付の職員の方にすごく反応されたんです」
「反応って?」
「すっごく見られました」
「ふ~ん」

タリスは気のない返事をしながらも、可能性を考えていた。

「あれかな? ほら、ユースールのギルドの訴えがあったの、ここの王都支部なんだよ。それでコウヤちゃんのこととか知られてるかも」
「そうですか……冒険者の方達に訴えられるようなギルドの職員ですからね……変に覚えられちゃったんですかね」

印象悪いんだろうなとか、頼りない職員だと思って笑われたんだろうかと考えて少しコウヤは落ち込んだ。これでは、今回の件もきちんと話を聞いてくれないかもしれないと少し不安になる。

「……ねえ、コウヤちゃんって、自分への評価厳しくない?」

タリスがこそこそと後ろに続く近衛騎士やパックン達へ話す。

「コウヤ様はずっとユースールにおられるからでは? 比較対象がないのが問題なんですよ」

パックンの上で丸くなっているテンキが背中にダンゴを乗せた状態で頷く。

《そうですね。比較対象がない場合、増長して傲慢になるか、自信を持てずにひたすら研鑽を積み続けるかでしょうか。後者は良いように感じますが、普通の人ならば途中で心が折れやすいです。まあ、主様は後者ですが普通ではないので大丈夫だとは思いますけれど》

ふむふむと騎士達が頷く。

《主さまは向上心が強いでしゅから。きっと、比較して更に向上させることを考えるでしゅよ……》
《止められないね (。-_-。) 》

眷族達は分かっている。コウヤはとことん突き詰めるのが好きなのだ。仕事においては、効率重視。けれど無理なものではない。そこも拘るポイントだ。万人に受け入れられるように考えるのが好きなのだ。

一人の天才を育てるよりも、その他大勢が満足できる環境を育てるのがコウヤの理想。

これから行く冒険者ギルドを見て、果たしてコウヤは黙っていられるだろうかと一同は考える。

「……悪い印象ではないといいですね」
「まあ、多分心配要らないよ。ちょっと前に何人かのギルドマスターと荒事担当の子を連れて盗賊退治に出た時に、コウヤちゃんの実力が知れてるからね。その辺の情報とかも流れてるんじゃないかな」

職員、身内の情報だ。ギルドマスターから出ているのだから下も信じるだろう。特に年齢や容姿には驚いたはず。最初は馬鹿にしていたのだ。その驚きも相当なものだっただろう。きちんと正しく伝わっている可能性が高い。

タリスは思わずコウヤの背中を見ながらニヤニヤと笑った。

「マスター、悪い顔しておられますよ……」
「ん? あはは。ちょっと思い出しちゃって。コウヤちゃんの見た目に騙されて下に見てた奴らが、コウヤちゃんやボクに必死でついてくる時の顔ったらなかったよっ」
「うわあ……それ……」

近衛騎士達は想像するように視線を上に投げる。そして、同時に頷いた。

「「「見たかった」」」
「でっしょ?」

ニカっと笑ってからタリスは自慢げに鼻を鳴らしていた。

そこでふと近衛騎士の一人が思い出す。

「あ、そういえば、宰相の第三書記官主体でユースールへの視察計画がいよいよ決行するみたいですよ?」
「何その楽しそうな計画っ。お城の文官さん達はマゾなの? プライド高い子達だとポッキリ、ペッキリ折られるよ?」

大丈夫かと心配しながらも、どこか愉快そうに目を瞬かせるタリス。実際に起きたことがあるように聞こえた。

「すごく具体的ですね」
「どなたかがなったんですか?」
「聞いた話なんだけどね~。王都から左遷されて来た子が居たらしくて。まあ、色々と衝撃を受けて一年くらい自分探しの旅に出てたんだって。それで、立派な冒険者になって帰ってきたって聞いたよ」

最初誰も、冒険者になって帰ってきた元文官を認識しなかった。だが、コウヤだけが気付いた。気付いてお帰りなさいと言われたことに感動しながら、その元文官はユースールの領城へ無事戻った。今や戦える文官として重宝されている。毎年、武官が勧誘しているらしいが、やはり自分は文官だと言って異動しないという。

「……自分が見つかって良かったですね……」
「……すげえ……尊敬するわ……」
「文官? 武官? なんで冒険者? やっぱりユースールってすごいですねっ」

結論『ユースールってやっぱりすごい所!』これで決まりだ。

この話にコウヤが気付いて、少し振り返りながら笑った。

「セリネさんの話ですか?」
「そうそう。たまに冒険者になるセリネちゃんのことだよ」
「ふふ。あれで、一時ユースールで『自分探し』ブームが起きて、大変だったんですよ? 最終的に『長くても一年まで』ってレンス様が宣言しなかったら、自分が見つかるまで帰って来ない人が続出するところだったんですから」
「そ、そこまで……」

実際に、二年経っても戻って来ない者がいて、たまたま依頼先で見つけた冒険者が拾って帰って来たから良かったが、結構危ない状態の人も居たのだ。

コウヤの前世のような、比較的平和な世界ならば良いが、常に旅先で命を賭けることになる世界だ。自分探しも命がけだった。

「あははははっ。なにそのブーム! あっ、だからたまに旅に出る子の見送りが大袈裟な感じになるの?」

ユースールは情に篤い者が多い。だから、タリスもたまに見かける盛大な見送りの光景もその一つだと思っていた。だが、違うのだ。

「ええ。絶対に一度は一年で帰って来るようにって、念を押すんです。『見つからないのも人生だよ』って諭すのも忘れませんよ」
「そんなに自分探してどっか行っちゃうの?」
「ユースールで育った人たちって、結構頑丈な人が多いですから、長い旅でも耐えられちゃうんですよ。ギリギリまで頑張るから困りますよね」
「多分、そういう問題じゃないと思うよ?」

もう探さなくてもきちんと自分見つけてると思うというのは、タリスや近衛騎士達の感想だった。

「あ、ここが王都支部ですね」

辿り着いた冒険者ギルドは、昼時を過ぎた時間だが、夕方の帰還ラッシュの時間が始まる直前のようなそれなりの混み具合だった。

「この時間から混むんですね」
「違う違う。王都はね~、一日仕事で夕方に戻って来る子は稀なんだよ。日が沈む前まで外に居ると、門ですごく待たされるからね。午前からの仕事が今頃終わるの。それで昼ごはんに繰り出すわけ」
「なら、今はピークが過ぎた所ですか?」
「そうゆうこと」

そのため、この王都支部ではここから明日の朝まで、ものすごくまったりとした時間が流れるらしい。

「だから、ユースールは異常なの。朝から晩まで、ほとんどひっきりなしに冒険者が出入りするでしょ」
「ええ。夜しか活動しない魔獣の討伐とか、夜に採る必要がある薬草採取の依頼とかもありますからね」

そう言いながら、コウヤはクエストボードを確認する。

「……そういうの、ないですね。それにZ依頼が半分以上……この時間にこの量だと、塩漬けになりますよ……あっ、あれとか発行日が半年前……」
「ホントだ……ユースールだと最長でも二ヶ月だって聞いたけど、こういうのあるでしょ? 実際どうしてるの?」
「優先度を付けて管理してますし、ひと月経ったら、ギルドの方で改めて依頼として必要かの調査をするか、手に余るようなら冒険者に調査依頼を出すんです。その過程で何とかなればそれで良いですし、ダメならひと月以内に冒険者の方に受けてもらえるようにお願いします」

依頼としてギルドが処理した以上、そこまで手を尽くすのが正しい対応だと思うのだ。本来、塩漬け依頼など出してはいけない。

近衛騎士は初めて聞くその対応に驚いていた。塩漬け依頼があることの方が彼らとしては当たり前になっていたのだ。

「職員で調査するんですか?」
「手……足りませんよね?」
「まさか、全部コウヤ様が?」

その疑問はもっともだろう。だが、全てコウヤがやっているわけではない。

「俺が入ったばかりの頃はユースールでも、かなり塩漬け依頼がありました。なので、そこは俺が一つずつ確かめてたんですけど、それを聞いて、町の人たちが協力してくれるようになったんですよ」

情報を持っているのは、そこに住む住民達だ。塩漬け依頼のほとんどが町の中での雑用依頼。だからこそ、情報はすぐに集まった。

「冒険者を引退した年配の方々とか頼りになるんです。なので、今は塩漬けになりそうな依頼の受領前の調査をお任せしてます」
「ああっ、それが『親老会しんろうかい』? 募金箱の行き先だ」
「はい。最初は調査依頼で指名で雇おうとしたんですけど『こんなの仕事に入るか!』って嫌がられちゃって。なら、寄付金みたいな形にしたらと」

『親老会』とは、ユースール内の老人達が集まって出来た会だ。ユースールは最終的に流れ着いた者が多く、一人暮らしが大半だった。年代的にも多くなってきていたのだ。

コウヤがまだ職員になる前は、そんな老人達を心配して話相手になったりしていた。そこでコウヤを起点にして老人達の交流も出来始め、コウヤがユースールに住むようになる頃には、しっかりと連携も取れる形になっていた。

顔を見ない人が出ると、数人でその人の家を訪ねて、何かあれば兵やゲンさんに連絡する。そんな助け合いの形が出来たのだ。

お陰で、それまで何となく偏屈でとっつき難い存在だった老人達も、人生の先輩として若者達に声をかけるようになり、町は一気に明るくなった。

彼らは町の情報通。噂話が好きなのは老いても変わらないという女性達もおり、大変助かっている。

そんな彼らには半年に一度、町への貢献者としてレンスフィートから募金で集まったお金を渡してもらうことになったのだ。

「半年で結構貯まるんですよ。それで、お金の話にもなりますからね。団体としてきちんと代表を立ててもらったんです。中にはZ依頼を定期的に受けてくれる方も出てきて、すごく助かってますよ」
「……さすが地域密着型……ボク、まだまだ知らないことがあるって分かったよ……」

タリスは少し落ち込んだ。やはり、現場に出ないと分からないことは多いとの教訓を改めて実感したようだった。

近衛騎士達も頷く。これは良いと。

「「それ、王都でもできませんかっ……」」
「ん?」

振り向くと、職員数名がこちらを真っ直ぐに見ていた。近衛騎士の声とかぶったのは、近付いてきていたギルド職員の一人だったようだ。

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二日空きます。
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