元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
128 / 475
第七章 ギルドと集団暴走

233 神でも難しいの

しおりを挟む
気を付けていたのにおかしいなとコウヤは首を傾げていた。

「なんでバレちゃうかな? 姿も全然違うのに」

これに呆れ半分で答えたのはアルキスだ。さすがに冒険者として修羅場を掻い潜ってきただけはある。切り替えは早い。

「……いや、そういうところが、もうコウヤにしか見えねえし……」
「そうですか? もうちょっといつもよりも大人っぽい感じなんですけど」
「いや、中身はモロいつものコウヤだし」
「え?」

本気で大人っぽいつもりだったのだ。

そこで、エリスリリアとリクトルスがクスクスと笑っていることに気付く。

「エリィ姉? リクト兄?」
「ふふふっ、ごめんっ。多分、コウヤちゃんはちゃんとバレないように出来てたわよ。私達が誘導したの」
「へ?」

コウヤだとバレるように会話を選んでいたという。

「これ以上、コウヤ君に無理させたくなくてね。そうですよね? 父上」

リクトルスがゼストラークに振ると、静かに頷きが返ってきた。

「さすがにまだ神界に生身のまま入るのは良くなかった。分かっているだろう」
「……っ」

こちらもバレていないと思っていたのだ。だが、神界に入ってすぐに酷い頭痛がしていた。我慢できない程ではなかったし、前世ではよくあることだったので平気だと思おうとしたのだ。

しまったなと顔に出たのだろう。ルディエが顔をしかめて詰め寄ってきた。

「兄さん……無理しないって約束」
「……はい……」

ルディエに言われては、認めるしかなかった。コウヤにとっては可愛い弟との約束なのだから。

「けど……戻るとまた俺……三歳児……」
「「「何の心配もないわっ」」」
「……はい……」

ベニ達に物凄く歓迎されているようなので、コウヤは諦めて神気を解いた。コウルリーヤの体が光ったかと思うと、ふわりとその場にダブダブの服を引っ掛けた幼児が舞い降りたのだ。

髪色もコウルリーヤの色からコウヤの色に変わっているので、コウヤの子どもの姿だというのはすぐにわかる。

あまりの可愛らしさに、初めて見た王族達が飛び上がって驚くのは仕方のないことだろう。

「コウヤっ……くっ、これは可愛い過ぎるっ」

アビリス王が悶えた。

「マジかっ、なんちゅう危険なっ。よく誘拐されんかったなっ。あ、お姉さんらが居れば問題ないか……」

アルキスがベニ達を確認して勝手に納得して椅子にもう一度腰掛ける。だが、目はコウヤから離さなかった。

「コウヤがっ……コウヤがっ……神よ……コレは私に息子との時間を返していただけるということなのですか……」

ジルファスは混乱しているらしく、目の前にいる神ではなく、手を組んで上を見ている。呼びかける対象は目の前にいるのに気付かない。

「なんてことっ、なんてことっ……カトレアのせいでこんな可愛い孫との時間が失われていたなんてっ……帰ったら寝ずに働かせてやるわ……っ」

ミラルファの中で、カトレアへの憎悪が再燃したようだ。カタカタと手を震わせるほどなので相当だ。

「可愛いっ、可愛いよっ、あんなの反則だよっ。いつも普通に可愛いのに、それ以上とかダメでしょうっ」

シンリームは大興奮中だった。

ベルナディオとニールは、コウヤの姿を目に焼き付けようと静かに頑張っている。表情はとても真剣だ。きっと、国のことを話し合う会議の時よりも。

「えっと……リウムさん。きがえ着替えありますか?」
「はい。隣の部屋にご用意してございます。参りましょうか」
「うんっ」

そして、自然に抱っこをお願いする姿勢を取る。すると、そこここでおかしな声が響いた。

「ぐふっ」
「んぐっ」
「ふっ……」
「うっ」
「ふあっ!?」

何事かと驚いて振り返れば、リウムとルディエ以外が全員口元を押さえ、目を逸らして震えていた。エリスリリア達までもがだ。まるで見ていられないというように突っ伏す者までいた。

「ん?」
「兄さん。気にしなくていいから……着替えている内に落ち着くよ」
「っ、コウヤ様。参りましょう」
「うん……?」

不思議に思いながらも、リウムに抱っこされて着替えに向かった。続き間になった部屋なので、外に出ないのはよかった。外にいる騎士達への説明が面倒臭い。

戻ってくると、また同じ光景に出会う。

「ん?」
「大丈夫だから、兄さん……リウム、ゼストラーク様の膝の上に」
「承知しました」
「ん?」

そうして、リウムは失礼しますと言って、コウヤを椅子に座ったゼストラークの膝の上に下ろした。

「あれ? ここ?」

まさかのゼストラークの膝の上。びっくりだ。だが、これにより、誰も文句が言えなくなった。ベニ達も肩を落としている。

コウヤはゼストラークの顔を見上げる。

「ゼストパパ、おもくない?」
「っ、ああ。問題ない」
「そう? ならここがいい!」
「そ、そうか」

ふわりと笑って喜ぶコウヤを、思わずよしよしと頭を撫でるゼストラークは正常だ。

「あ~んっ、もうっ、コウヤちゃん可愛い!」
「可愛い過ぎますねっ」

ゼストラークの両脇にいるエリスリリアとリクトルスがコウヤの小さな手を握ったり、ほっぺをつついたりする。そうして二人に構われることで、コウヤも機嫌がいい。

「ふふっ。くすぐったいです」
「「かわい~い」」

珍しくリクトルスも興奮していた。

「ふっ。落ち着け、二人とも。話を始めるぞ」
「は~い」
「分かりました」

しっかり切り替えたリクトルスが、全員が見えるように今着いている長机の上にTの字に三つのスクリーンを出す。二つが少し横長で背合わせだ。一つはゼストラーク達三人が座る側に向いている。

そのスクリーンには今、大陸を上から見た地図が映し出されていた。大雑把な国境線と王都の位置が分かるだけのシンプルなものだ。やろうと思えば、映像としても出せるが、今回はそんな必要はない。そして、いくつかの国には赤いピンが立っていた。

「赤い印のある国では、王または王族の誰かが病で倒れております。原因も症状も同じです」
「っ、まさか……」

アビリス王が顔色を変えた。これに答えたのは、両肘を突いて顔を乗せてたエリスリリアだ。

「そのまさかよ。神教国と名乗ってる所が原因。それとな~く王都に居る司教達が『自分達なら治せるかも』なんて囁いて、恩を売るのよ。今は戦争しようっておバカな国もないから、他の国が自分達の力の有り難みを理解できていないって考えたみたいね」
「そんなっ……そんなことで……」

戦争が頻発していた頃は、神教国に味方になってもらおうと、多くの国がすり寄っていた。自分達を中心に世界が回っていたように感じていたのだろう。その頃を未だに忘れられないのだ。

映像が切り替わる。

一つの四角い箱が映し出された。真ん中に水晶がはまっている。そこには黒く濁った色が見えた。

「これがあの国が保有している魔導具です。全部で五つあるはずです」
「いつつも?」

コウヤは流石に驚いた。リクトルスは苦笑。ゼストラークを見上げれば鎮痛な面持ちだ。それで察する。怒りが湧いてきた。

「……だれ……だれがかんしょう干渉してるの……」
「まだ分からない……だが、コウヤが復元した情報を全て確認しても、これの情報はなかった。それでも、我々の管理に引っかからないということは……この世界のものではない。彼を見て確信した。異質な気配が残っている」

アビリス王を儀式の時に見た時、すでにチェックしていたらしい。そして、神界に戻った時に、検索をかけたのだ。

コウヤはじっとゼストラークを見つめる。嘘がないのは分かっている。確認しているのは、これにゼストラークが怒っているかどうか。

犯人の追及はするつもりらしい。許す気もなさそうだ。温厚なゼストラークがだ。

「……わかった。アレはとりあえずかいしゅう回収する」

その言葉で、サーナが動いた。部屋の外に向かう。何をするか分かったので、コウヤはテンキに声をかける。

「あ、テンキ、いっしょにいってくれる?」
《はい。呪い関係ならば私が適任でしょう。お任せください》

テンキならば封印も出来る。回収しようとする白夜部隊の者達の身を守れるだろう。あの薬で回復できたならば、テンキで対処可能なはずだ。

サーナとテンキが出て行く直前、ゼストラークが口を開いた。

「持ち運ぶことが困難ならば、壊してくれ。一つで構わない。これは五つ揃わなければ使えない構造のようだからな」
「承知いたしました」
《はっ!》

それからすぐに、白夜部隊の数人が神教国へ向かったのがわかった。

これで一先ずはどうにかできると、コウヤがほっと息を吐く。すると、皆の視線が集まっているのに気付いた。

「ん?」

どうかしたのかと首を傾げると、リクトルスが答える。

「コウヤ君がすごいことが改めて分かったんですよ」
「すごい?」
「だって、一言で人が自然に動くのよ? これ、神でも難しいの」
「どうして?」

考え込む。すると、ゼストラークが優しく頭を撫でた。

「お前が一番分かっているはずだ。過去に、お前の言葉に耳を傾けることをせずに、人々は歯向かってきた。神であっても、言葉で従わせることは簡単なことではない」
「……」

その通りだと思った。あの時、人々はコウルリーヤが神だと知っても刃を向けたのだから。

「だから凄いことだということだ。コウヤでなくては出来ないとこだな」

まるで我が子を誇るように細められた目。嬉しそうなゼストラーク表情を見て、コウヤも自信を持って笑顔で返事をした。

「うんっ! ふふっ」

これにまた、しばらく周りが再起不能になるのだが、最後まで原因が自分であることに気付かないコウヤだった。

************
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。

★一応新作のお知らせ
気分転換がてら勢いで書いた作品です。
今のところ毎日一話投稿中。

元気な女の子の物語です!

【エセ関西人(笑)ってなんやねん!? ~転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします~】
お暇潰しにどうぞ◎
しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。