元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第七章 ギルドと集団暴走

224 ほら、立ってください

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どう考えても教師役までいかない……
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では本編どうぞ!

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マリーファルニェは嬉しそうにコウヤへ駆け寄る。今回は幼女モードではなくお姉さんモードだ。コウヤには笑顔が素敵なちょっと賑やかだった小学校の保健室の先生を思い出す。白衣を着ていたら完璧だ。

因みに、大混乱させたベニ達の大変身振りの住民達の納得には、このマリーファルニェの存在が大きかった。冒険者だけでなく多くの住民達は、マリーファルニェが幼女になったり大人の女性になったりと姿を変えることを昔から知っていたためだ。

妖精であることを知っている者は少ないが、そんな不思議な術もあるんだなと受け入れるのに抵抗はない。お陰でコウヤが小さくなっても、あっさり元に戻っても、そういう凄い魔法があるんだなと思うだけ。ユースールは本当に特殊だ。

「データ集まったんだね」
《そう! コウヤちゃんに頼まれてたからね! もう十分ってほど情報を集めたわよ。タリスちゃんの許可も取ったわ!》

冒険者のサポート窓口を頼む当初から、いつかお願いすると言っておいたこと。

「え~っと……『人生計画相談』って?」
「それなあに?」

冒険者達が不思議そうにマリーファルニェを見る。マリーファルニェは、コウヤの次に冒険者達からの絶大な信頼と支持を受けている。

《例えば~……どれだけ貯えれば妊娠、出産から子どもを養育するのに不自由ないか。今の時点で冒険者を辞めた場合、どういう暮らしを何年続けていけるか。結婚した場合、お互いのお金はどう分けてどこまでを共有するべきかとかね♪ まあ、主にお金に関するやつよ!》

このユースールだけでなく、王都にも時折出て行っていたマリーファルニェ。そこで人々の暮らし方などを確認し、データを取っていたのだ。

《冒険者って、貯金とか中々できないからね~♪ 将来をしっかり計画したらちょっとは真面目に貯金するでしょ?》
「するね」
「するわ」
「しそうだ……」

冒険者達ばどうしてもその日稼いだ分のほとんどをすぐに消費しがちだ。このユースールでは『貯える』というのを、コウヤが独自に推進し、かなり浸透してきたが、やはりまだ難しい。

《せっかくギルドカードでお金を持ち歩かなくてもいいんだもの。貯めて損はないでしょ! ってことで、たった今から開始よ! いつも通り予約制ね。時間厳守だから気を付けて☆ あ、レナルカちゃん預かるわね》
「うん。お願いするね」
《任せて♪》

マリーファルニェがレナルカを抱き上げた。

「だうー。りー、りー」
《は~い。マリーちゃんよ~。レナルカちゃんは頭が良いわね~。もう誰か分かるのね》

そう言って笑いながらレナルカを抱っこして部屋に戻っていくマリーファルニェを追うように、数人の冒険者がサポート窓口のある通路へ入っていった。

興味を持っている者は多いらしく、ギルド内の様子を窺っていると、マイルズが近付いてきた。

「コウヤさん。すごいこと考えますね」
「う~ん。お節介かもせれませんが、危険な仕事をしているんです。やっぱり老後のお金の事は考えてもらいたかったんですよ。特に、ここは上位の冒険者さんが多いので、余裕はあると思うんですが、引退した後とか考え難いですからね。それこそ、お金の使い方が分からない人っていると思うんですよ」
「あ~……その日暮らせれば良いって考え方ですもんね……でも、それは冒険者に限ったことじゃないですよ……私も……」

この世界の人達は、貯金して貯めるという習慣がない。日々の暮らしが厳しいということもあり、予想できない未来よりも、明日暮らせるかを考える。だから、歳をとってから無理に働いたりして寿命も縮んでしまうのだ。犯罪に走る者も多く、最期を獄中でということもあり、問題となっていた。

「マリーちゃん主導のこれがスタートです。それに、他の住民の方達用には領の方でレンス様が考えてますよ」

この話をレンスフィートにもしていたのだ。幸いなことに、このユースールでは、領のために働きたいという文官希望者が多い。そのため、人員は十分に確保できるのだ。一人一人の適性を見て仕事を割り振る余裕があり、これにより、このユースールの文官達の能力はとても高い。

よって、遊ばせておくのももったいないと、新しい役職や部署を増やす計画があるらしい。コウヤの話は確実にレンスフィートの興味を引いた。何より、領民のことを一番に考えるレンスフィートにとっては、彼らの老後の問題は頭の痛い悩みの一つだったのだ。

マリーファルニェの所で様子を見て、新しく専門の部署を設けるかどうかを決めるという。責任重大だ。

「えっ、そこまで大きな……でもそうですね。このユースールは他とはやっぱり違いますから。楽しみですっ」
「ふふ。マイルズさんが相談するならマリーちゃんで良いと思いますよ」
「あ、そっか」

これで永年ギルドでも問題となっていた『冒険者の老後のお金問題』はなんとかなりそうだ。

昼食を取り、本日のメイン。戦闘講習が始まった。

「では『雪の夜闇』のみなさん。戦闘講習をはじめます」
「よ、よろしく頼みます……」
「はい」

こう言っては失礼だが、十人中九人は盗賊顔と答えるだろう強面な五人のメンバー。年齢はバラバラ。聞いた話によると全員が孤児だそうだ。パーティ名の『雪の夜闇』は、たまたま雪の降る夜にパーティを組むと決めたからだと言う。

パーティ名は基本、ギルド登録の時に名前が他と被らないようにしなくてはならない。過去にあったパーティ名も全く同じでは登録できないようになっている。これは、この世界にある冒険者ギルドで管理しているものだ。

全く同じでなければ良いため、親世代に憧れてその名前の一部を引き継ぐということは可能だ。例えば彼らのパーティ名の中の『雪の夜』も過去に存在する名だ。だが、それに闇を付けることで違うパーティとして登録することができる。

もしもパーティのメンバーが変わる場合。最高六人の内、一年間在籍した者が四人以上いる場合は、そのままパーティ名を使うことができるが、メンバーの入れ替えが多い場合はパーティ名を変更しなくてはならない。

ただし、事故により死亡したことでメンバーが減り、補充する場合は、死亡届と死因の調査を経て、ギルドマスターの許可が出れば、一人になっていても、一年未満であってもそのままパーティ名を名乗ることは可能だ。

彼らは、どうやら後者だった。そうして、孤児達が入れ替わり立ち代わり、パーティを存続させているらしい。しかし、彼らの活動拠点がベルセンであることを考えると、ギルドマスターの許可も調査も甘くなっていそうだ。

そんな不審な点はいくつも出てくるが、彼らが真面目に講習を受けようとしているのは分かっている。このユースールに留まり、周りを見ることで、今までは不審に思えなかった自分たちのことをおかしいと少しでも思えるようになればと願う。

「今日は初回ですし、体力測定をしてから軽く体の動かし方などを見ていきますね」
「体力……測定? レベルを見ればいいんじゃないのか?」
「確かにレベルは判断基準になりますが、それがそのまま筋力として発揮されるわけではありません。同じレベルでも、魔法師と騎士では体の作りは違ってきます。レベルには内訳があると思ってください。総計が同じでも筋力に偏っているか、魔力に偏っているか、又は技術がということが起きるんです」
「あ……」

人はどうしてもレベルによる判断をしがちだ。レベルという、数字に囚われてしまうのは仕方のないこと。だが、同じレベルならば同じことができるというわけではないという、認識ができていないのだ。

「分かりましたか? 同じレベルの人でも、走る速さは変わってきます。なので、特にパーティ内では同じレベルだから大丈夫と過信することが何より危険なんです」
「……そう……か……だから……」

何か思い当たることがあったようだ。

「『パーティではお互いの欠点を補い合う』と言えば正解だと思われるでしょうが、そう簡単なことではありません。単純に魔法師と剣士といったように、役割についてのことではないんです。その欠点というのは、自分では分からないものが多い。それは小さなものかもしれないし、致命的なものかもしれない。先ずは自分を知ること。そして、パーティメンバーから見て感じる欠けた部分や良い部分を常に見つけようとすることが大事です」

端的に言えば『お互いを見ましょうね』ということ。個々の力が集まってパーティになるのだから、個々で力を発揮すればいいというのではない。誰のどこを補えばいいのか。誰に補ってもらえばいいのか。そういうパズルのピースのような関係が理想だ。

実際、本当に気心の知れた者と組んだとしても、お互いが感覚だけで補い合うというのは難しい。一つ言えば二つ三つ分かるというくらいならば文句はないが、誰もがそうであるわけではないのだから。

「それを理解し合って初めて、戦いの中で必要となってくる役目が見えてきます。自分よりも体力がないと知っていれば、危険な一面で自分が肩代わりする必要がどれだけあるのかを考えられます。正しく全員が生き残れる退き際を悟ることもできるでしょう」
「退き際……退き際か……そうだな……あいつらのこと、もっと知っていればもしかしたら……」

退き際を理解するのは冒険者にとって最も重要なことだ。逃げるための力も計算し、相手の隙を突くために必要な力も考えておかなくてはならない。難しいことだが、それでもパーティという複数でお互いを理解していれば生き残る確率はかなり上がってくる。

「だから先ず、体力測定です。よろしいですか?」
「はい!」
「お願いします!」

納得したことで、体力測定を始めた。

基本は地球での体力測定と同じ。ただ、本当に限界を知ってもらうため、かなり内容はキツイ。倒れて動けなくなるくらいでも不足だった。

「あ~、ほら、立ってください。まだいけます。倒れたら起き上がるのに力を使うでしょう? もったいない。その力を数値にきちんと反映しましょう!」
「ひっ……む、ムリ……っ」
「口が動く内は大丈夫です。ほら、死ぬ気でやってみてください。リーダーさんはまだ動いてますよ。本当に無理ですか?」
「っ……じゃない……っ、やれる!」
「でしょう? さあ、続けますよ」
「はいっ!!」

実はこのコウヤの初回の戦闘講習が特別キツイことは、ユースールの職員ならば知っている。だが、受けた冒険者も、知っている職員も絶対に他言しない。そのため、この戦闘講習を受ける人がいなくなるということもなかった。

職員達は後に出る結果を知って、あえて口を閉ざし、体験した冒険者達は弱音を吐くことを嫌うため、酒に酔っても口にはしない。そして、思い出になる頃、結果として出てくるため、後進を思い絶対に口にしなくなるのだ。

「ほら、足が止まってますよ! どうやって動かすんでしたか?」
「っ、はぃぃぃっ」

かつてコウヤのこの体力測定を体験した冒険者達は、最近になって口にすることがある。


『テンキ教官ってあの時のコウヤに似てる』


これにテンキは機嫌が良くなって、更に訓練が厳しくなるのだが、まだそれに気付ける冒険者はいない。

この時、異動して来てから今回初めてこれを見るように言われたマイルズ、フラン、セイラは、柱の陰から覗き見て硬直していた。

「こ、コウヤさんがコワイ……」
「うっ、うっ……」
「……イイ……」
「え?」
「ひっ」
「なんです?」

セイラだけはうっとりと見つめており、マイルズとフランが引いていた。しかし、実はここにエルテも来ており、同じようにコウヤを見てうっとりしていた。

「なんてっ……なんてステキ……っ」
「……コウヤちゃんより、君にびっくりだよ……」

面白そうだと、エルテの隣で覗き見ていたタリスが、エルテの恍惚とした顔を見上げて、本気で身震いしていたのには誰も気付かなかった。

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読んでくださりありがとうございます◎
次回、二日空きます。
よろしくお願いします◎
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