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第六章 新教会のお披露目
212 お前も貴族の出じゃねえ?
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ベルナディオ宰相が棟梁を見て目を丸くしている。それを確認しながらも、ギーツェルストは冷静に待ったをかける。
「もう少々お待ちください。あと八拍ほどで休憩になりますので」
速さを増していくリズムに気付き、大工達は徐々に手を止めていく。きっちり八拍後、音が止んだ。
「一時間! 休憩!」
「「「「「うっし!」」」」」
それぞれの大工が、今までの動きが幻であったかのように、至って普通な様子で休憩用の場所へ向かう。
すると、そこに六人の男女が大きなトレーに飲み物や食べ物を乗せてやって来る。
「お疲れ様です! 休憩、どうぞ!」
彼らは屋台部隊のメンバーだ。
「おおっ、甘味もあんじゃん!」
「腹減った~」
「なんだコレ! うまそう!」
「こういうのはアレだ!」
「「「「「コウヤだな!」」」」」
「はい! 直伝の新作です!」
「「「「「やっほーい!」」」」」
コウヤに気付いた大工は手を振って感謝を伝えてくる。近くに居るのが、明らかに王だと分かっていても、彼らは気にしない。寧ろ、レンスフィートを見て手を上げて挨拶していた。
彼らは誰もが一度は絶望し、ユースールへ流れ着いた者たちだ。この国に対して、世界に対して絶望した。これにより、王侯貴族に何の期待もできなくなっていたため、ユースールの者達以外には、誰もに同じ態度を見せる。未だに根に持っている者は多い。
「……きちんと挨拶もせず申し訳ない」
近付いてきて頭を下げたのは棟梁だ。それにアビリス王は笑って応えた。さすがに、一度は見捨てられて絶望したからとは思っていないが、作業中の真剣さを見れば職人らしいと思って許せる。
「構わない。邪魔をしているのはこちらだからな」
棟梁は頭をもう一度静かに下げた。顔を上げた棟梁に、アルキスが宰相と見比べながら尋ねた。
「そんで? 宰相、知り合いか?」
気になっていたらしい。
「え、ええ……私の一番下の弟の息子です……久し振りですねえ。まさかあなたが、あのドラム組の棟梁だとは……」
「……はい……」
「心配していたのですよ? 突然居なくなったと聞きました」
「……いえ……はい……」
会話にならないなとコウヤとレンスフィートは苦笑する。だが、ベルナディオ宰相もこんな棟梁のことは分かっているらしい。
「そういう所も相変わらずですね……アレはあなたが家出したと言っていましたが、あの子の事です。追い出したのでしょう。側から見ても、幼いあなたの才能に嫉妬していましたからね。ですが……そうですね。あなたは家を出て正解です。こんなに立派になって……」
「……叔父貴……」
ベルナディオ宰相は、少し涙ぐんでいた。本当に心配していたのだろう。そして、こうして棟梁になった甥であるシュヴィアを見て感動しているのだ。
「……そういえば、父親が元貴族って言ってたっけ……」
コウヤは以前聞いた話を思い出す。
棟梁の父親は、幼い頃にモノ作りに興味を持った。初恋の相手が大工の娘であったこともあり、早々に家を出ることを決めたという。五人兄弟の末っ子で、家を継げないと分かっていたためでもあるのだろう。
必死で腕を磨いて初恋の相手と結婚し、大工を継いだ棟梁の父親は、幼い頃から才能のあった棟梁に嫉妬したようだ。自分が必死になって身につけたことを、天性の才能でもって易々とやられてしまえば良い気はしないだろう。そうした仲違いもあり、棟梁は一人親元から離れたのだと聞いた。
その後、独立してやり始めたは良いが、大工への世間の風当たりに辟易し、悩みながらもユースールへと流れ着いたのだ。
「へえっ。宰相の甥っ子かあ。そりゃまた……なあ、ユースールってそんなんばっかか? 出奔してた侯爵の息子も居たし、お前も貴族の出じゃねえ?」
「っ……」
突然矛先を向けられたギーツェルストは、グッと奥歯を噛み締めた。
「……やはり……ギーツェルスト・バルソ?」
「っ……ニール、気付いてたっスか……」
ニールが頷いていた。そこでジルファスが詰め寄った。
「バルソ伯爵の!? き、君! 当主になってもらえないかい!? 上の息子達まで捕縛してしまったから、残ったのが十三歳の末っ子だけなんだっ」
「え……?」
ギーツェルストは絶句して口をポカンと開けたままコウヤに答えを求めた。
「えっと……ギーツさんなら、噂として聞いてません? 『霧の狼』の件で粛清があったって話……」
ギーツェルストは、ギルド職員であったこともあり、冒険者に知り合いが多い。そんな彼らから情報を聞き出すのも得意だ。そうして聞き出した盗賊達の情報が気にならなかったはずがない。
ギーツェルストがまだ貴族であった時に見知った者達が『霧の狼』のメンバーに居てもおかしくはないのだ。そこから粛清まできっちり調べているだろうと予想された。それは外れていなかったらしい。
「……あ、ああっ。なるほど! あれであのクソ親父共が捕まったと? うん、納得した!」
あいつらなら、ロクでもないことやってるわとか呟いて、何度も頷いていた。
「それで……当主になってくれるかい?」
ジルファスの問いかけに、ギーツェルストは少し考え込み、答えを出す。
「……その弟を教育したら問題ないですよね?」
「え? ん? ま、まあ、そうだね。でも、そんな、何年もかかったら困るけど……」
それなら、繋ぎでもいいから当主になって欲しいなとジルファスは呟く。
「いや、そんなにはかからないです! 一応会ってみて、話が通じればひと月くらいビシっとやればなんとかなるかと……因みに、どんな性格か分かります? 会ったことないんで」
生まれたのは知っていても、会わなかったらしい。兄弟とは母親が違うため、こういうことが起きる。これに答えたのはニールだ。
「伯爵にそっくりです」
「分かった。なら神官さんに迎えに行ってもらって、教会に二日も預ければ問題なくなるっスわ」
「教会……?」
ジルファスが首を傾げた。だが、それを気にすることなく、ギーツェルストはコウヤに目を向ける。
「コウヤ、頼めるっスか?」
「良いですよ。今日は儀式があるので、明日にも連れて来てもらいますね」
「よろしくっス。ってことで視察の続きをさせていただきます」
ギーツェルストは、またもきっちり切り替えた。表情もキリっとしている。ギャップがありすぎてジルファス達は驚いていたが気にしない。
コウヤも賛成すれば何の問題もない。
「そうですね。休憩時間も長くはないので」
「ここからは、棟梁も同行いたします。ご質問もどうぞ」
そうして、何事もなかったかのように視察は再開された。
棟梁にも休憩してもらおうと、三十分ほどで棟梁とは別れる。その際、ベルナディオ宰相は約束を取り付けていた。
「シュヴィ。近いうちにまた話をしましょう」
「……はい……では、失礼します」
その後、屋台部隊を一通り回って視察は終了となった。
しかし、アビリス王達が帰るとなった時。なぜかニールとアルキスが残ると言い出した。
「この後、ユースールに行くんだろ? 儀式の準備がどうの言ってたよな? 俺も行く。転移できんだろ?」
ネタは上がってるぜと、アルキスが詰め寄ってきた。
「私もお供いたします」
「う~ん……まあ、いいかな。ユースールに行っても、あまり案内できませんよ?」
「おうっ」
「構いません」
行く気満々だ。そこでシンリームがおずおずと歩み出た。
「それ、私もいいかな……」
「シン様もですか?」
「おお。いいぜ。お前ももうちょっと外に出んとな」
「あ、はいっ」
なぜかアルキスが許可を出していた。その後ろを見ると、アビリス王とジルファスと宰相も微笑ましげに頷いていた。行ってこいというように、とても暖かく見守っている。これは断れない。
「はあ……分かりました。では、夕食の時間までにはお城に送りますね」
「いや、泊まりで!」
「それはズルいですよ!」
アルキスの提案に、ジルファスが反対した。
「お前もコウヤん家に泊まったんだろ? なら良いじゃねえか。明日のこれくらいの時間に帰るわ」
「ベルナディオ様。明日の昼に戻ります」
「父上、その……泊まってきますね?」
「決定!?」
ジルファスを誰も相手にしていなかった。
「そんじゃ行くか」
そのまま押し切られ、コウヤは仕方なくアルキス達を連れてユースールに転移することになった。
コウヤがギルドの仕事をしたりしている間、アルキスとシンリームはレンスフィートに案内を任せ、ニールがそれに付き従った。
三人は存分にユースールを視察したのだ。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
●ここまでのは所は書籍化の関係で
流れが前後しています●
「もう少々お待ちください。あと八拍ほどで休憩になりますので」
速さを増していくリズムに気付き、大工達は徐々に手を止めていく。きっちり八拍後、音が止んだ。
「一時間! 休憩!」
「「「「「うっし!」」」」」
それぞれの大工が、今までの動きが幻であったかのように、至って普通な様子で休憩用の場所へ向かう。
すると、そこに六人の男女が大きなトレーに飲み物や食べ物を乗せてやって来る。
「お疲れ様です! 休憩、どうぞ!」
彼らは屋台部隊のメンバーだ。
「おおっ、甘味もあんじゃん!」
「腹減った~」
「なんだコレ! うまそう!」
「こういうのはアレだ!」
「「「「「コウヤだな!」」」」」
「はい! 直伝の新作です!」
「「「「「やっほーい!」」」」」
コウヤに気付いた大工は手を振って感謝を伝えてくる。近くに居るのが、明らかに王だと分かっていても、彼らは気にしない。寧ろ、レンスフィートを見て手を上げて挨拶していた。
彼らは誰もが一度は絶望し、ユースールへ流れ着いた者たちだ。この国に対して、世界に対して絶望した。これにより、王侯貴族に何の期待もできなくなっていたため、ユースールの者達以外には、誰もに同じ態度を見せる。未だに根に持っている者は多い。
「……きちんと挨拶もせず申し訳ない」
近付いてきて頭を下げたのは棟梁だ。それにアビリス王は笑って応えた。さすがに、一度は見捨てられて絶望したからとは思っていないが、作業中の真剣さを見れば職人らしいと思って許せる。
「構わない。邪魔をしているのはこちらだからな」
棟梁は頭をもう一度静かに下げた。顔を上げた棟梁に、アルキスが宰相と見比べながら尋ねた。
「そんで? 宰相、知り合いか?」
気になっていたらしい。
「え、ええ……私の一番下の弟の息子です……久し振りですねえ。まさかあなたが、あのドラム組の棟梁だとは……」
「……はい……」
「心配していたのですよ? 突然居なくなったと聞きました」
「……いえ……はい……」
会話にならないなとコウヤとレンスフィートは苦笑する。だが、ベルナディオ宰相もこんな棟梁のことは分かっているらしい。
「そういう所も相変わらずですね……アレはあなたが家出したと言っていましたが、あの子の事です。追い出したのでしょう。側から見ても、幼いあなたの才能に嫉妬していましたからね。ですが……そうですね。あなたは家を出て正解です。こんなに立派になって……」
「……叔父貴……」
ベルナディオ宰相は、少し涙ぐんでいた。本当に心配していたのだろう。そして、こうして棟梁になった甥であるシュヴィアを見て感動しているのだ。
「……そういえば、父親が元貴族って言ってたっけ……」
コウヤは以前聞いた話を思い出す。
棟梁の父親は、幼い頃にモノ作りに興味を持った。初恋の相手が大工の娘であったこともあり、早々に家を出ることを決めたという。五人兄弟の末っ子で、家を継げないと分かっていたためでもあるのだろう。
必死で腕を磨いて初恋の相手と結婚し、大工を継いだ棟梁の父親は、幼い頃から才能のあった棟梁に嫉妬したようだ。自分が必死になって身につけたことを、天性の才能でもって易々とやられてしまえば良い気はしないだろう。そうした仲違いもあり、棟梁は一人親元から離れたのだと聞いた。
その後、独立してやり始めたは良いが、大工への世間の風当たりに辟易し、悩みながらもユースールへと流れ着いたのだ。
「へえっ。宰相の甥っ子かあ。そりゃまた……なあ、ユースールってそんなんばっかか? 出奔してた侯爵の息子も居たし、お前も貴族の出じゃねえ?」
「っ……」
突然矛先を向けられたギーツェルストは、グッと奥歯を噛み締めた。
「……やはり……ギーツェルスト・バルソ?」
「っ……ニール、気付いてたっスか……」
ニールが頷いていた。そこでジルファスが詰め寄った。
「バルソ伯爵の!? き、君! 当主になってもらえないかい!? 上の息子達まで捕縛してしまったから、残ったのが十三歳の末っ子だけなんだっ」
「え……?」
ギーツェルストは絶句して口をポカンと開けたままコウヤに答えを求めた。
「えっと……ギーツさんなら、噂として聞いてません? 『霧の狼』の件で粛清があったって話……」
ギーツェルストは、ギルド職員であったこともあり、冒険者に知り合いが多い。そんな彼らから情報を聞き出すのも得意だ。そうして聞き出した盗賊達の情報が気にならなかったはずがない。
ギーツェルストがまだ貴族であった時に見知った者達が『霧の狼』のメンバーに居てもおかしくはないのだ。そこから粛清まできっちり調べているだろうと予想された。それは外れていなかったらしい。
「……あ、ああっ。なるほど! あれであのクソ親父共が捕まったと? うん、納得した!」
あいつらなら、ロクでもないことやってるわとか呟いて、何度も頷いていた。
「それで……当主になってくれるかい?」
ジルファスの問いかけに、ギーツェルストは少し考え込み、答えを出す。
「……その弟を教育したら問題ないですよね?」
「え? ん? ま、まあ、そうだね。でも、そんな、何年もかかったら困るけど……」
それなら、繋ぎでもいいから当主になって欲しいなとジルファスは呟く。
「いや、そんなにはかからないです! 一応会ってみて、話が通じればひと月くらいビシっとやればなんとかなるかと……因みに、どんな性格か分かります? 会ったことないんで」
生まれたのは知っていても、会わなかったらしい。兄弟とは母親が違うため、こういうことが起きる。これに答えたのはニールだ。
「伯爵にそっくりです」
「分かった。なら神官さんに迎えに行ってもらって、教会に二日も預ければ問題なくなるっスわ」
「教会……?」
ジルファスが首を傾げた。だが、それを気にすることなく、ギーツェルストはコウヤに目を向ける。
「コウヤ、頼めるっスか?」
「良いですよ。今日は儀式があるので、明日にも連れて来てもらいますね」
「よろしくっス。ってことで視察の続きをさせていただきます」
ギーツェルストは、またもきっちり切り替えた。表情もキリっとしている。ギャップがありすぎてジルファス達は驚いていたが気にしない。
コウヤも賛成すれば何の問題もない。
「そうですね。休憩時間も長くはないので」
「ここからは、棟梁も同行いたします。ご質問もどうぞ」
そうして、何事もなかったかのように視察は再開された。
棟梁にも休憩してもらおうと、三十分ほどで棟梁とは別れる。その際、ベルナディオ宰相は約束を取り付けていた。
「シュヴィ。近いうちにまた話をしましょう」
「……はい……では、失礼します」
その後、屋台部隊を一通り回って視察は終了となった。
しかし、アビリス王達が帰るとなった時。なぜかニールとアルキスが残ると言い出した。
「この後、ユースールに行くんだろ? 儀式の準備がどうの言ってたよな? 俺も行く。転移できんだろ?」
ネタは上がってるぜと、アルキスが詰め寄ってきた。
「私もお供いたします」
「う~ん……まあ、いいかな。ユースールに行っても、あまり案内できませんよ?」
「おうっ」
「構いません」
行く気満々だ。そこでシンリームがおずおずと歩み出た。
「それ、私もいいかな……」
「シン様もですか?」
「おお。いいぜ。お前ももうちょっと外に出んとな」
「あ、はいっ」
なぜかアルキスが許可を出していた。その後ろを見ると、アビリス王とジルファスと宰相も微笑ましげに頷いていた。行ってこいというように、とても暖かく見守っている。これは断れない。
「はあ……分かりました。では、夕食の時間までにはお城に送りますね」
「いや、泊まりで!」
「それはズルいですよ!」
アルキスの提案に、ジルファスが反対した。
「お前もコウヤん家に泊まったんだろ? なら良いじゃねえか。明日のこれくらいの時間に帰るわ」
「ベルナディオ様。明日の昼に戻ります」
「父上、その……泊まってきますね?」
「決定!?」
ジルファスを誰も相手にしていなかった。
「そんじゃ行くか」
そのまま押し切られ、コウヤは仕方なくアルキス達を連れてユースールに転移することになった。
コウヤがギルドの仕事をしたりしている間、アルキスとシンリームはレンスフィートに案内を任せ、ニールがそれに付き従った。
三人は存分にユースールを視察したのだ。
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