111 / 475
第六章 新教会のお披露目
206 相当な下衆だったようね
しおりを挟む
お腹も落ち着いたところで、神官達がここに来た後にあったことを話して聞かせた。
ベニの暴れ具合を聞いて目を輝かせ、コウヤが助けた者たちを知って涙を浮かべる。とても忙しない。情緒が不安定なのだろうかと心配になった。
ニールが補足するように、今後の国の対応についても話してくれる。
「司教達も捕らえられましたし、あれだけ証拠が揃っていますので、教会ごと一度国が接収する形を取りますが、管理は聖魔教の大司教ベニ様に任せることになるでしょう」
一応は国が押さえたことにし、それをベニに委譲する形だ。聖魔教が喧嘩を売ったという印象にならないよう、王達は考えてくれていた。
ベニとしてはどっちでも構わなかったのだが、国としては、今回の件で借りを作ったままにしないようにという判断だ。
「そうでしたか……それでは、十分休ませていただきましたので、協力できることがありましたら仰ってくだされば何でもいたします。ただ、我々は神教国にとって裏切り者です。ご迷惑になるようならば、切り捨ててくださって構いません」
本来、教会に入ったなら、まずそこから抜けることはしない。あくまでも、教会という組織ではなく、神に仕えているからだ。教会から抜けるということは、神を否定するということ。そう神官達は思い込まされてしまっている。
「切り捨てるはずないですよ」
コウヤが微笑めば、リウムは顔を歪めた。
「ですが、我々は……神に仕えるためにあの場に留まり続けていたのです。それを……これは神への裏切りでもありましょう……」
リウムはいつしか、頭を上げることをしなくなっていた。他の神官達もだ。
「日に日に治癒魔法の力も落ちていたように感じます。これは、我々が神の意に背いているということではないかと……何より、そんな我々をも労ってくださる魔工神様を邪神としていたのです……神に仕えていたと……神官と名乗ることさえおこがましい」
大袈裟だ。そして、とても落ち込んでいた。
「お聞きしたいのですが……魔工神様っ、いえ、聖魔神様は三神様にとって……」
「気にせず、コウヤと呼んでください。他の神とは家族みたいなものですね。俺がこの世界に帰ってこられたのも、三人のお陰です」
消滅していてもおかしくはなかったかつての魔工神の魂を、ゼストラーク達が異世界に渡した。そこで補強され、何とか形を保つことができるようになってから、再びこちらへ道を通した。
人としては脆弱だったが、それでも力溢れる異世界で過ごすことで、再生されたのだ。仮にも神の魂を異世界へやるということは、本来あり得ない。あちらと交渉するのも大変だっただろう。
あの世界は、他の異世界からの干渉を受けすぎており、管理する神々がかなりご立腹なのだ。そこを通したのだから、ゼストラーク達の苦労は相当なものだった。
帰って来るための道を作るのも簡単なことではない。だから、コウヤも道を通すために、無意識に力を使った。そのため、神として神界に戻ることが出来なくなったのだ。
戻ってきたコウヤの魂を、人として現世に送ることで、また弱ってしまった魂を留めた。それだけの労を惜しまないのだから、コウヤは愛されている。
「神であろうと、現世にこうして人の体を得ることは難しいのです。まず、母体が見つからないですから。たまたま、特別強い力を持った母がいた。そこで成立しましたが、母以外ならば生まれることも出来なかったでしょう。無為に母となるはずだった人を殺してしまうだけです」
弱っていても神だ。その命を宿すのは人の身に余る。これを可能とする個体を用意したのは、ゼストラーク達だ。加護を与え、成長を見守り、庇護者を選別する。そこまでしても、三神はコウヤを取り戻したかった。
「母には悪いことをしました。そこまでしてでも、俺を現世に……この世界に戻そうとしてくれたんです」
「っ……」
これだけで、コウヤが三神にとってかけがえのない存在だと分かる。
「っ、そんな方を悪く思われていれば、加護が消えてもおかしくはありませんね……」
深く納得を示すリウム達。だが、コウヤとしては、そう考えて欲しいわけではない。
「いいえ。あなた方が正しく力を使おうとしていたことは、エリィ姉っ……エリスリリア神も分かっていたはずです。確かに、加護は弱めていたようですが……人は見ていると思います。あなた方の加護が弱まったのは……っ」
そこで、儀式場の扉が勢いよく開いた。
オスロリーリェが反射的に、迎え出るように立ち上がる。
「あなた達の加護を弱めたのは、あなた達のためよ? あれ以上、酷使されないようにと思ったのだけれど……周りが思いの外、相当な下衆だったようね」
「エリィ姉……」
現れたのは、女神。
エリスリリアだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、二日空きます。
よろしくお願いします◎
ベニの暴れ具合を聞いて目を輝かせ、コウヤが助けた者たちを知って涙を浮かべる。とても忙しない。情緒が不安定なのだろうかと心配になった。
ニールが補足するように、今後の国の対応についても話してくれる。
「司教達も捕らえられましたし、あれだけ証拠が揃っていますので、教会ごと一度国が接収する形を取りますが、管理は聖魔教の大司教ベニ様に任せることになるでしょう」
一応は国が押さえたことにし、それをベニに委譲する形だ。聖魔教が喧嘩を売ったという印象にならないよう、王達は考えてくれていた。
ベニとしてはどっちでも構わなかったのだが、国としては、今回の件で借りを作ったままにしないようにという判断だ。
「そうでしたか……それでは、十分休ませていただきましたので、協力できることがありましたら仰ってくだされば何でもいたします。ただ、我々は神教国にとって裏切り者です。ご迷惑になるようならば、切り捨ててくださって構いません」
本来、教会に入ったなら、まずそこから抜けることはしない。あくまでも、教会という組織ではなく、神に仕えているからだ。教会から抜けるということは、神を否定するということ。そう神官達は思い込まされてしまっている。
「切り捨てるはずないですよ」
コウヤが微笑めば、リウムは顔を歪めた。
「ですが、我々は……神に仕えるためにあの場に留まり続けていたのです。それを……これは神への裏切りでもありましょう……」
リウムはいつしか、頭を上げることをしなくなっていた。他の神官達もだ。
「日に日に治癒魔法の力も落ちていたように感じます。これは、我々が神の意に背いているということではないかと……何より、そんな我々をも労ってくださる魔工神様を邪神としていたのです……神に仕えていたと……神官と名乗ることさえおこがましい」
大袈裟だ。そして、とても落ち込んでいた。
「お聞きしたいのですが……魔工神様っ、いえ、聖魔神様は三神様にとって……」
「気にせず、コウヤと呼んでください。他の神とは家族みたいなものですね。俺がこの世界に帰ってこられたのも、三人のお陰です」
消滅していてもおかしくはなかったかつての魔工神の魂を、ゼストラーク達が異世界に渡した。そこで補強され、何とか形を保つことができるようになってから、再びこちらへ道を通した。
人としては脆弱だったが、それでも力溢れる異世界で過ごすことで、再生されたのだ。仮にも神の魂を異世界へやるということは、本来あり得ない。あちらと交渉するのも大変だっただろう。
あの世界は、他の異世界からの干渉を受けすぎており、管理する神々がかなりご立腹なのだ。そこを通したのだから、ゼストラーク達の苦労は相当なものだった。
帰って来るための道を作るのも簡単なことではない。だから、コウヤも道を通すために、無意識に力を使った。そのため、神として神界に戻ることが出来なくなったのだ。
戻ってきたコウヤの魂を、人として現世に送ることで、また弱ってしまった魂を留めた。それだけの労を惜しまないのだから、コウヤは愛されている。
「神であろうと、現世にこうして人の体を得ることは難しいのです。まず、母体が見つからないですから。たまたま、特別強い力を持った母がいた。そこで成立しましたが、母以外ならば生まれることも出来なかったでしょう。無為に母となるはずだった人を殺してしまうだけです」
弱っていても神だ。その命を宿すのは人の身に余る。これを可能とする個体を用意したのは、ゼストラーク達だ。加護を与え、成長を見守り、庇護者を選別する。そこまでしても、三神はコウヤを取り戻したかった。
「母には悪いことをしました。そこまでしてでも、俺を現世に……この世界に戻そうとしてくれたんです」
「っ……」
これだけで、コウヤが三神にとってかけがえのない存在だと分かる。
「っ、そんな方を悪く思われていれば、加護が消えてもおかしくはありませんね……」
深く納得を示すリウム達。だが、コウヤとしては、そう考えて欲しいわけではない。
「いいえ。あなた方が正しく力を使おうとしていたことは、エリィ姉っ……エリスリリア神も分かっていたはずです。確かに、加護は弱めていたようですが……人は見ていると思います。あなた方の加護が弱まったのは……っ」
そこで、儀式場の扉が勢いよく開いた。
オスロリーリェが反射的に、迎え出るように立ち上がる。
「あなた達の加護を弱めたのは、あなた達のためよ? あれ以上、酷使されないようにと思ったのだけれど……周りが思いの外、相当な下衆だったようね」
「エリィ姉……」
現れたのは、女神。
エリスリリアだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、二日空きます。
よろしくお願いします◎
301
お気に入りに追加
11,119
あなたにおすすめの小説


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。