元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
109 / 475
第六章 新教会のお披露目

204 深くお詫び申し上げます!!

しおりを挟む
眠っていた神官達は、甘いような、芳ばしいような香りに誘われるように、徐々に全員が覚醒していった。

「……お腹空いた……」

いつもは口にしないその言葉も、思わず出てきてしまうほど良い匂いが漂ってきている。

のそのそと起き上がると、周りの神官達と顔を見合わせる。そして、ここが教会ではないことを知って首を傾げた。

「ここ……どこだっけ……?」

彼らは、唐突に目の前に現れた神の使いである『賢獣』によって、助け出されたということを次第に思い出していった。

「あの、リウムさん……ここって……」

リウムは誰よりも早く、どうしてここに居るのかを思い出した。そして、立ち上がり、部屋の外へと向かう。扉は開いていた。

「外を見てきます」
「あ……私も行きます」

ついてくるのを感じながらも、リウムは振り返ることなく、そっと部屋の外へ顔を出した。すると、そこにコウヤを見つけたのだ。

コウヤも気づき、立ち上がって手招く。

立派な応接セットが揃っており、絨毯まで敷かれていた。そして、机の上には、先程からしていた匂いの元が大量に置かれている。

「リウムさんでしたよね?他の神官さん達も起きたならこちらへ来て食べませんか?」
「え、あ……はい」

ぐぅぅぅっと長めにお腹が鳴った。

リウムは部屋の中を振り返り、告げる。

「ここは安全のようです。動けるようなら行きましょう」
「あ、はい」
「良い匂い……行く」
「教会じゃないんなら、戒律とか……もう良いよね」
「早く行こう」

気が弱いのと、大人しいのと、色々吹っ切れたのと、真面目なのと、それぞれが揃って立ち上がり、部屋の外へ出てきた。

先に到着していたリウムは、テーブルの上にあるものを見てから、コウヤの側に座る者達へ視線を向ける。

「あの……そちらの方々は……」

コウヤの足下に座り込んでジュースを飲んでいるオスロリーリェのことは分かっている。コウヤの向かいに座っているニールも問題ない。だが、コウヤの両脇にぴったりと寄り添っている青年と少年は知らない。

「ああ、こちらが第二王子のシンリーム殿下です。そして、こちらが第一王子、ジルファス様のご子息のリルファム殿下になります」
「っ、で、殿下っ。失礼いたしました!」

スッと膝をついて頭を下げるリウム。後から出てきた神官達もしっかりと聞こえていたらしく、彼らもすぐに膝を折った。

これに慌ててシンリームが声をかける。

「あ、そんなっ。頭を上げて欲しいっ」
「ぼくもいやです……」

二人にそう言われても、神官達はどうすべきか分からなかった。

神官達の葛藤を見ながらも、コウヤはきちんとこの国の王族にも敬意を払える人たちで良かったと微笑ましく思っていた。

だから、続いた二人の言葉を誤魔化すタイミングを逸してしまう。

「コウヤ君といる私は、ただのコウヤ君の叔父だからねっ」
「ぼくはコウヤにいさまの、おとうととしてここにいます!」
「「「「「……え……」」」」」
「ん?」

思わず神官達が頭を上げる。誰もが誇らしげなシンリームとリルファムを見て、そこに嘘や冗談はないと確信する。神官として正しく人を見てきた彼らは、それらを見抜く才能を持っている。上の顔色も窺いながら、自分の身を必死で守ってきた彼らだからこそ、精度は高い。

そして、コウヤを見る目の端に映った文官、ニールが静かに目を伏せて頷いたのを捉え、真実だと確認する。

困ったような表情を浮かべたコウヤに彼らの視線が集まる時。それはやってきた。

《主さま。こちらでお手伝いできることはございませんか?》

それが『賢獣』であることは明白。その賢獣が『主さま』と呼んだ。リウムも、今になって気付いたのだ。賢獣が従っているのがコウヤであると。聖魔教教会についているのではないのだと。

それはコウヤが神に連なる者の証。

ここまで理解して、リウムはハッとした。妖精であるオスロリーリェが心から慕う様子も見せている。これで間違いなはずがないのだ。

「っ、魔工神様っ、いえ、聖魔神様であられるとはつゆ知らず、ご無礼をいたしましたこと、深くお詫び申し上げます!!」
「あ……」

一斉にリウムの後ろに並んでいた神官達も、揃って土下座していた。

「……また土下座……」

何度目の土下座だろうかと、少し遠い目をしてしまうコウヤだ。お陰で、こちらも否定するタイミングを逃してしまっていた。

************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。