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第六章 新教会のお披露目

202 現場の視察はできますよ

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ベニは魅力的な笑みを見せて、部屋に入ってきた。その瞳には楽しそうな色が見て取れる。

「聖魔教、大司教のベニですわ」

アビリス王と宰相はもちろんのこと。ジルファスさえも完全に見惚れているようだ。セイとはまた違う印象で、驚いたというのもあるのだろう。何より、とても魅力的な女性に見える。

そんな中、アルキスがベニへ尋ねた。彼はベニ達が三人揃った所を見ているため、切り替えが早かったのだ。

「孤児の受け入れの方は順調で?」
「半分はもう終わっておるよ。衰弱したのを優先しとるで、早いもんさね」

抵抗されることもなく攫っていくように連れていくので問題ないということだ。

「強制的になるで、あまり良いことではないがねえ。それでも、子どもの命と心を守るためには目を瞑ってもらうよ」
「それはもちろんだぜ。寧ろ、今までほとんど何もできなかったのが情けねえ……」

アルキスは冒険者として、城の外で暮らしてきた。孤児達を不憫に思いもした。だが、それを積極的にどうにかしようとはしてこなかった。どうにかするのは、その地に生きる民や領主の仕事と、勝手に割り切っていたのだ。

アルキスもまた、町の景色として認識してしまっていたということもある。どこへ行っても居るのが当たり前なのだから仕方がない。だからこそ、ベニ達が動いたことに驚き、感謝しながらも気まずい思いを感じているのだ。

「まあね。目に付いた者だけを助けるってのも難しいもんだよ。こういうものはいちを助けるだけでは罪悪感が増すからね。一人に手を差し伸べたなら、全部を助けねばいかんことになる。それは個人の思いだけでは無理だ」
「だから、国で対策するべきだってことだよな?」
「いいや。別に国がやらにゃならんわけではないよ。寧ろ、国だとやりたくない奴が出てくるし、文句の上手い者がいるだろう。そういうのが一人でも居ると時間がかかるもんだ。人助けするのに、時間がかかっていたらいけないよ。その人が死に瀕しておるのに、待ってろなんてこと無理だろう?」

今と思った時に動かねば意味のないことなのだから。

「そうなると、国では頼りにならん。もちろん、国が解決するのが一番良い。だから、他の誰か……やれる者達で間を繋ぐんよ」
「……そう……か。なら、早いとここっちも始めんとな」

アルキスがアビリス王に振るように目を向ける。アビリス王達はベニの話もきちんと聞いていたらしく、酷く感じ入ったような表情をしていた。

「もちろんだ。それまで、どうか子ども達をお願いいたします」
「構わんさね。孤児院は必ず必要になるからねえ。こっちはいつまででも受け皿になってやれるよ。コウヤが立派な孤児院を設計してくれたしねえ」
「ふふ。うん。明日中には孤児院部分ができると思うよ」

コウヤはこんなこともあろうかと、設計図を引きながら手順なども考慮し、出来る順番も計算していた。

ベニ達や屋台部隊の者達も十分に泊まれる場所を最初に造り、次に工事の賑やかさに釣られて出てくるだろう浮浪児達の受け入れ先だ。予想はしていた。

「本当にそんなに早く出来ると? 建築は今日から始まったと聞いたが?」

アビリス王が皆の思いを代弁した。疑問に思うのも無理はない。一つの建物が建つのに、小さくともひと月はかかるのが普通なのだから。今日中に出来るという居住区部分ならば、一般的にひと月半はかかるだろう。それを半日と少しで造ってしまうのだから、ドラム組はおかしい。

「そこはドラム組だからとしか言えませんね。ただ、棟梁や数人は別格ですが、他の大工達もほとんどが個別に棟梁として率いていけるだけの実力を持っています。その上に、空間魔法などの技術もあるので、一般的な一人前の大工の数倍の速さと効率で作業を進められますよ」
「……すまない。全く想像がつかない……」

あれっとなった。だが、凄いことは伝わったはずだ。

「あれは見ていても理解できないだろうよ。あっという間に終わらせてしまうからねえ。私らも最初は驚いたもんさ」

ユースールでも凄いことという認識はあっても、比較対象がないのでどこが凄いのか細かいところまでは知られていない。だが、既にドラム組に対して英雄に近い認識をしているため『なんか凄い!』だけで納得してしまっているのだ。

作業が早いだけでも、確かに凄いことなので、十分『凄い人達』との認識はできている。

「是非見てみたい」
「見せてやりたいが、難しいかねえ」

元気になったアビリス王は、やはりアルキスの兄であり、ミラルファの夫であり、ジルファスの父なのだろう。好奇心に満ちた瞳がこちらを向いていた。

「そうですねえ。明日以降なら、現場の視察はできますよ。工期にも余裕を持ってますし」
「大丈夫なのかい?」

ベニが驚いた表情をした。邪魔にならないかと思ったのだ。ドラム組のやる気を思えばそうだろう。だが、そこはプロだ。

「うん。施設の建設の場合は、二日目以降に視察も入るっていうのが常識になってるからね。今のユースールの領主館を建てる時に、きちんとそこは認識してもらったんだ」

ただし、ギルドの隣に建てたアレは、完全にお任せにした。他の誰もギルドの寮以外の施設が出来るとは知らなかったのだから。

「ならいいかねえ」

ベニも許可を出した。それを受けて、宰相が予定を立てる。

「急には無理でしょうし、明後日ではどうでしょうか」
「そうですね。では、そう伝えておきます」
「お願いします」

宰相の予定としても把握されたので、これで決定だ。

「状況説明もできたね? なら、あの国への対策でも話し合おうかねえ」
「神教国とですね……ですが、このようなことを……よろしいのでしょうか」

宰相は申し訳なさそうにベニを窺う。だが、ベニとしてはそのつもりで来ているのだ。構わない。

「気にせんでええよ。私は元々、あそこの出だでね。対策も立てやすいさ。ただし、勘違いしてはならんよ? 今回のは交渉ではなく、抗議だからね」
「そうですね……わかりました。よろしくお願いします」
「任せな。その間、坊は……」
「下に行って、保護した神官達の様子を見てくるよ。動けそうなら移動させるから」
「なら、そっちは頼むよ」

コウヤが席を立つと、ニールが進み出る。

「わたくしもお供いたします」
「いいの?」

ニールから宰相へと目を向けると、頷かれた。

「どうぞ、ニールをお連れください」
「はあ……わかりました。一緒に行きましょう」
「はい!」

笑顔だ。こんなにわかりやすくていいのだろうか。

「それじゃあ、レナルカ……」
「大丈夫よ。コウヤさんが帰るまでこちらで預かっておきます」

こちらも笑顔のミラルファが答える。ちょっと連れて行けそうにない。

「なら……お願いします」
「はい♪」

任せるしかなかった。

そして、ニールと部屋を出たのだが、そこでコウヤを待ち構えていたらしいシンリームとリルファムに出会ったのだ。

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二日空きます。
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