元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
107 / 476
第六章 新教会のお披露目

202 現場の視察はできますよ

しおりを挟む
ベニは魅力的な笑みを見せて、部屋に入ってきた。その瞳には楽しそうな色が見て取れる。

「聖魔教、大司教のベニですわ」

アビリス王と宰相はもちろんのこと。ジルファスさえも完全に見惚れているようだ。セイとはまた違う印象で、驚いたというのもあるのだろう。何より、とても魅力的な女性に見える。

そんな中、アルキスがベニへ尋ねた。彼はベニ達が三人揃った所を見ているため、切り替えが早かったのだ。

「孤児の受け入れの方は順調で?」
「半分はもう終わっておるよ。衰弱したのを優先しとるで、早いもんさね」

抵抗されることもなく攫っていくように連れていくので問題ないということだ。

「強制的になるで、あまり良いことではないがねえ。それでも、子どもの命と心を守るためには目を瞑ってもらうよ」
「それはもちろんだぜ。寧ろ、今までほとんど何もできなかったのが情けねえ……」

アルキスは冒険者として、城の外で暮らしてきた。孤児達を不憫に思いもした。だが、それを積極的にどうにかしようとはしてこなかった。どうにかするのは、その地に生きる民や領主の仕事と、勝手に割り切っていたのだ。

アルキスもまた、町の景色として認識してしまっていたということもある。どこへ行っても居るのが当たり前なのだから仕方がない。だからこそ、ベニ達が動いたことに驚き、感謝しながらも気まずい思いを感じているのだ。

「まあね。目に付いた者だけを助けるってのも難しいもんだよ。こういうものはいちを助けるだけでは罪悪感が増すからね。一人に手を差し伸べたなら、全部を助けねばいかんことになる。それは個人の思いだけでは無理だ」
「だから、国で対策するべきだってことだよな?」
「いいや。別に国がやらにゃならんわけではないよ。寧ろ、国だとやりたくない奴が出てくるし、文句の上手い者がいるだろう。そういうのが一人でも居ると時間がかかるもんだ。人助けするのに、時間がかかっていたらいけないよ。その人が死に瀕しておるのに、待ってろなんてこと無理だろう?」

今と思った時に動かねば意味のないことなのだから。

「そうなると、国では頼りにならん。もちろん、国が解決するのが一番良い。だから、他の誰か……やれる者達で間を繋ぐんよ」
「……そう……か。なら、早いとここっちも始めんとな」

アルキスがアビリス王に振るように目を向ける。アビリス王達はベニの話もきちんと聞いていたらしく、酷く感じ入ったような表情をしていた。

「もちろんだ。それまで、どうか子ども達をお願いいたします」
「構わんさね。孤児院は必ず必要になるからねえ。こっちはいつまででも受け皿になってやれるよ。コウヤが立派な孤児院を設計してくれたしねえ」
「ふふ。うん。明日中には孤児院部分ができると思うよ」

コウヤはこんなこともあろうかと、設計図を引きながら手順なども考慮し、出来る順番も計算していた。

ベニ達や屋台部隊の者達も十分に泊まれる場所を最初に造り、次に工事の賑やかさに釣られて出てくるだろう浮浪児達の受け入れ先だ。予想はしていた。

「本当にそんなに早く出来ると? 建築は今日から始まったと聞いたが?」

アビリス王が皆の思いを代弁した。疑問に思うのも無理はない。一つの建物が建つのに、小さくともひと月はかかるのが普通なのだから。今日中に出来るという居住区部分ならば、一般的にひと月半はかかるだろう。それを半日と少しで造ってしまうのだから、ドラム組はおかしい。

「そこはドラム組だからとしか言えませんね。ただ、棟梁や数人は別格ですが、他の大工達もほとんどが個別に棟梁として率いていけるだけの実力を持っています。その上に、空間魔法などの技術もあるので、一般的な一人前の大工の数倍の速さと効率で作業を進められますよ」
「……すまない。全く想像がつかない……」

あれっとなった。だが、凄いことは伝わったはずだ。

「あれは見ていても理解できないだろうよ。あっという間に終わらせてしまうからねえ。私らも最初は驚いたもんさ」

ユースールでも凄いことという認識はあっても、比較対象がないのでどこが凄いのか細かいところまでは知られていない。だが、既にドラム組に対して英雄に近い認識をしているため『なんか凄い!』だけで納得してしまっているのだ。

作業が早いだけでも、確かに凄いことなので、十分『凄い人達』との認識はできている。

「是非見てみたい」
「見せてやりたいが、難しいかねえ」

元気になったアビリス王は、やはりアルキスの兄であり、ミラルファの夫であり、ジルファスの父なのだろう。好奇心に満ちた瞳がこちらを向いていた。

「そうですねえ。明日以降なら、現場の視察はできますよ。工期にも余裕を持ってますし」
「大丈夫なのかい?」

ベニが驚いた表情をした。邪魔にならないかと思ったのだ。ドラム組のやる気を思えばそうだろう。だが、そこはプロだ。

「うん。施設の建設の場合は、二日目以降に視察も入るっていうのが常識になってるからね。今のユースールの領主館を建てる時に、きちんとそこは認識してもらったんだ」

ただし、ギルドの隣に建てたアレは、完全にお任せにした。他の誰もギルドの寮以外の施設が出来るとは知らなかったのだから。

「ならいいかねえ」

ベニも許可を出した。それを受けて、宰相が予定を立てる。

「急には無理でしょうし、明後日ではどうでしょうか」
「そうですね。では、そう伝えておきます」
「お願いします」

宰相の予定としても把握されたので、これで決定だ。

「状況説明もできたね? なら、あの国への対策でも話し合おうかねえ」
「神教国とですね……ですが、このようなことを……よろしいのでしょうか」

宰相は申し訳なさそうにベニを窺う。だが、ベニとしてはそのつもりで来ているのだ。構わない。

「気にせんでええよ。私は元々、あそこの出だでね。対策も立てやすいさ。ただし、勘違いしてはならんよ? 今回のは交渉ではなく、抗議だからね」
「そうですね……わかりました。よろしくお願いします」
「任せな。その間、坊は……」
「下に行って、保護した神官達の様子を見てくるよ。動けそうなら移動させるから」
「なら、そっちは頼むよ」

コウヤが席を立つと、ニールが進み出る。

「わたくしもお供いたします」
「いいの?」

ニールから宰相へと目を向けると、頷かれた。

「どうぞ、ニールをお連れください」
「はあ……わかりました。一緒に行きましょう」
「はい!」

笑顔だ。こんなにわかりやすくていいのだろうか。

「それじゃあ、レナルカ……」
「大丈夫よ。コウヤさんが帰るまでこちらで預かっておきます」

こちらも笑顔のミラルファが答える。ちょっと連れて行けそうにない。

「なら……お願いします」
「はい♪」

任せるしかなかった。

そして、ニールと部屋を出たのだが、そこでコウヤを待ち構えていたらしいシンリームとリルファムに出会ったのだ。

************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 2,781

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。